「でも、絵本を見ると、大阪環状線の一つの駅の写真に淀川が写っているわよ」と
言って絵本を開いて見せると、◎くんは、「本当だ、淀川だ!」と言い、
川を作るための青い布地を出してあげると大喜びしていました。
◎くんは、路線図や地図や写真と、自分の作っているものが対になっているのが
うれしくてたまらないようでした。
ところが、まぐろのおもちゃでふざけていた当の★くんは、写真を見せても
ピンとこない様子でした。
想像をするのが難しい子に、イラストや写真を見せると、想像しながらしていく活動が
しやすくなるのですが、
イラストや写真の情報と現実の物事をつながりにくい段階にある子もいるのです。
紙に印刷された情報に関心が薄い子もいます。
そんな場合、視覚的な支援や言葉をそえるだけでは足りません。
それならどうすればいいのかというと、
わたしは、これまで困り感のある子たちと接する中で何度かうまくいった方法を
解決の糸口にするようにしています。
★くんの話から少し脱線するのですが、
解決の糸口にしている方法をいくつか紹介させていただきますね。
一つ目は、「その子発のアイデア追うときに、それまでわからなかったことと
関連づける」ということです。
相手の話を理解したり状況を読むのがとても苦手な子も、
自分が閃いたアイデアを追いかけていくのなら、
それまで全く理解していないように見えたことでも
わかるようになることはよくあるのです。
また、その子のアイデアから出発して、理解したもろもろのことを、
繰り返し具体的な言葉で伝えていると、
ほかの場面でも、応用がきくようになってきます。
見たところ、理解する力が弱いようでも、実際は、相手と同じものに
注意を向ける力や自分が関心がないものに注意を持続させる力に
問題があって、理解力そのものはかなり高い子も多いのです。
たとえば、ジオラマ作りが始まってから、自分が何をしているのかわからない様子で、
その場と全然関係のない突拍子もない発言を繰り返していた☆くんですが、
こんな自分発のアイデアから、意味を理解した上で活動に参加するようになりました。
リーダー役を命じられている◎くんが、「大阪環状線はぐるっと丸くなってるから、
線路をつないでいくよ」とみんなに声をかけると、☆くんが、
「湖西線がいい。湖西線」と言いました。
「☆くん、湖西線がいいの?それなら、ちょうどそこにブロックの清水寺があるから、
そっちが京都ってことにしようか?
大阪駅から京都方面に向かう線路をつなごう」と言って線路を加えてから、
「湖西線、いい考えね。湖西線も作ったら、ジオラマ作りが面白くなるよね。
ほら、この丸いところが大阪環状線。ここが大阪駅。そこから京都に向かう線路。
今は、それぞれの駅にある動物園とか川とかビルを作っているのよ」と言うと、
それまではこちらが話をはじめたとたんうろうろするか、
自分が思いついたことを話していた☆くんが、
わたしが手で触れて説明する物を見ながら、最後まで話を聞いていました。
「☆くんはどんなものが作ってみたい?作るのに必要なものを探してくる?」と
たずねると、☆くんは小物入れがら小さいサイズのロボットをいくつか出してきました。
「☆くん、ロボットは、電車のジオラマ作りと関係がないんじゃない?
先生は最初に、ジオラマ作りに関係があるものは、出して使ってもいいけれど、
全く関係のないおもちゃで勝手に遊んではダメ。
関係がないおもちゃを触った人は、それがジオラマに関係するものになるように
先生とよく話しあいながら考えたり、作ったりして、責任を取ってもらいます!って
言ったよね。
☆くん、ロボットは電車のジオラマ作りと関係ない。
先生と話しあいするよ!」と言ってから、「ロボットを売っているお店を作ったり、
ロボット博物館を作ったりしたら、駅の近くにある施設になるよ。どうする?
ほかの方法を考えてもいいよ」と付け加えました。
すると、☆くんは了解して、建物と飾り棚を作ってロボットを飾っていました。
それが博物館の展示の仕方そっくりにあんまり上手にできていたので
びっくりしてしまいました。
その後、☆くんは2階と屋根をつけて、とても立派な博物館を完成させました。
↓ (内部が展示場になっています)
二つ目は、「見たり聞いたりしてから、それをアウトプットするまでに
かなり時間がかかる子がいる(10分近く時間差がある子もいる)。
教えてすぐに反応がない場合も、しばらくするとそれをしている姿を見たら、
時間のずれを考慮した上で、関わるようにする」ことです。
三つ目は、「その子の表情が輝いているときや
好奇心を抱いたとき、集中して何かしているとき、理解できたときなどを
それがどんなものでも覚えておいて、
本人が自分の長所に気づく言葉として繰り返し伝えて、
関わりや学習の場で活かす」ことです。
たとえ、その時は、困った行動でしかないものでも、
子どもがうれしそうにすることやしつこくやりたがることは、
子どもの成長に役立たせることができます。
「持っている能力をきちんと発揮することができない子との関わり 4」の三つ目
「その子の表情が輝いているときや
好奇心を抱いたとき、集中して何かしているとき、理解できたときなどを
それがどんなものでも覚えておいて、本人が自分の長所に気づく言葉として
繰り返し伝えて、関わりや学習の場で活かす」について、
もう少し詳しく書かせていただきますね。
積んだものを乱暴に崩したり、ふざけて物を振り回したりするときは、
うれしそうに笑い転げるものの、腰を落ち着けて活動することがなかった★くんに、
わたしは、「ブロックの爆弾、作りたい?あとで作り方を教えてあげるわ」と
告げました。
ほかの子らも口ぐちに、「ぼくも作りたい」「教えて!」と言いました。
ブロックの爆弾というのは、デュプロブロックにゴムを引っかけて、
びっくり箱の仕掛けのようなものを作ることで、作る際、しっかりこちらの手本を
見て集中して作業しないと、上手く作れないものです。
パンッとはじける瞬間が面白いので、強い刺激を求めて作業を嫌がる子たちも、
熱心にいくつも作ろうとするブロック作品の一つです。
それが、算数の学習の時間がきてしまったので「あとで……」と言ってから、
なかなか教える時間が取れずにいました。
すると、★くんは、ほかの子らが忘れた後も、「ブロック爆弾は?」と言い続けて
いました。(勉強が終わってから、帰り際に作ることになりました)
こんな出来事も、「みんなが忘れてもずっと覚えていて、記憶力がいいね」とか、
「記憶しておくのが得意だね」といった言葉にして★くんに伝えてから、
次から学習をする際に、
「前に、こんなこと~あったね。先生も他のお友だちもみんな忘れても、★くんは
ブロック爆弾は?って聞いてたよね。ずっと覚えていて、記憶力がいいね」
と前置きするといいのかもしれません。
それと同時に、問題文をいっしょに読みながら記憶力クイズをしたり、
記憶する力を利用して問題が解けたという体験をさせるのもいいな、と考えています。
★くんは、「勉強する」という状況や「紙に印刷された文字」を見たとたん、
即座に、「できない」「わからない」という強く拒絶をしていましたから。
気持ちや注意を学習に向けるには、
自分の得意な能力を使ってそれに取り組めるような言葉を覚えておくといいです。
★くんでしたら、「ぼくは記憶するのが得意だから、やり方を教えてもらって
覚えておいたら、きっとできる。こういう問題を解くときはどうするんだったかな?」
といった取り組もうという気持ちを作る言葉とか、
「筆算の仕方は、数字を書いて、それから下にも数字を書いて、
ちゃんと1の位と1の位がそろってるかなぁって見て、横の線~!」のように、
問題を解く時に唱える言葉などを教えていくといいのかもしれません。
また、投げ出したい思いをとどまらせるため、自分で自分を励ます言葉を
繰り返し、かけるのも大切なのかも。
この日、『カタンの開拓者』というカードゲームをしているとき、
★くんは記憶力だけでなく、情報処理能力がとても高い一面があるし、
言葉の理解力もあることがわかりました。
初めてするゲームなのに、交換の概念をすぐに理解してスムーズにゲームを
していましたし、「普通は、何もしなくても2枚のカードがもらえるところ、
騎士のカードを持っている人は、騎士のカード1枚につき、1枚多くカードをもらう
ことができるのよ。★くんは騎士のカードを2枚持っているでしょ。
わたしから何枚カードをもらうことができるの?」
とたずねると、悩むことなく「4枚」と答えていましたから。
そうした★くんの様子は、勉強中、「わからないわからない」と言い張って
問題を見ようともしないし、話を聞こうともしない姿や
遊びの場で、ほかの子らの行動から自分が何をしたらいいのかわからなくて、
ふざけ続ける姿からは、想像もつかないものでした。
ある状況下なら、自分の力を発揮しやすのでしょうし、
状況によっては、混乱と不安に捉われてしまうのでしょう。
★くんにとって大事な支援は、それらの二つの状況をつなぐ橋渡しをして、
混乱しやすい場面でも、
「自分の力が出せる場面でできていることなら、ちゃんとできる」という
自信をつけていってあげることでしょう。
それには、自分の行動を統制するのに役立つ言葉を
かけていくことが大事だと思っています。