雪の朝ぼくは突然歌いたくなった

2005年1月26日。雪の朝、突然歌いたくなった。「題詠マラソン」に参加。3月6日に完走。六十路の未知の旅が始まった…。

髭彦閑話38 「至福の京都晩秋―紅葉・古伊万里・松園・アボリジニ絵画」②

2010-12-26 14:35:23 | 髭彦閑話

髭彦閑話37 「至福の京都晩秋―紅葉・古伊万里・松園・アボリジニ絵画…」①に続く)

その後、永観堂から哲学の道を経て安楽寺法然院を回り、白川通りに下って黒谷の真如堂に上った。
昨年、Nさんと二人で初めて訪れ、境内の紅葉の独特で繊細な美しさに感動して夕方と翌日の朝に2度も行ったところだ。
実は今年もまさに同じ展開になったのだが、それほどに真如堂の紅葉は素晴らしかった。
翌朝また来ることにして、テレビで紹介されていた隣の金戒光明寺の広大な境内を抜け、丸太町通りを歩き、鴨川を渡って寺町通りの骨董街をめざした。
東京にも青山の骨董通りがあるが、歴史と文化の臭いはない。
初めて訪れた古都の骨董街にはさすがにそれがあって、心地よい。
すでに古伊万里の染付けを買っていたので、あれこれの店をほぼ覗くだけだったものの、実に楽しくて時の経つのをつい忘れた。
気がつけば日はとっぷりと暮れ、6時を回ってしまっていた。
その夜の夕食は、吾妹の長男Yくんから強く薦められた祇園三条駅近くにあるという、大衆的居酒屋「伏見」で取ることにしていた。
5時開店ですぐに満員になってしまうという、超人気の店らしい。
慌ててまた鴨川を渡り、「伏見」に向った。

京阪三条駅を過ぎると、なぜか風景に見覚えがあるような気がする。
何だろうと思っていると、すぐ右手前方に何と4年前の暮れにアメリカのダグ一家を連れて泊った「いろは旅館」が見えてきたではないか!
えっと思って二人で思わず、「そういえば旅館の隣りに居酒屋があったよね!あれが「伏見」だったの!?」と叫んでしまった。
まさにそうだった。
「いろは旅館」の向こう隣りに2軒続いていた居酒屋の2軒目が、めざす「伏見」だったのだ。
思いがけないその偶然に驚きながら店の前に立つと、逆から来た客がすばやく先を越して戸を開け、「8人だけど入れる?」と聞くではないか。
しまったと思ったが、中から「8人はムリ!」という返事が聞える。
すかさず僕が顔を突っ込んで「二人は?」と聞くと、OKが出た。
よかった。
喜んで中に入ると、とうてい10坪もないと思われる狭い店内はコの字型のカウンター席だけで満席だった。
とてつもなく威勢のいいオカミが、手際よく仕切って先客を詰めさせ、あっと言う間に二人分の席をつくってくれた。
2、30人ほどの客がギューギューに肩を寄せ合って楽しそうに飲んでいる、その仲間入りをありがたくさせてもらった。
ビールとつまみを頼んで僕たちも飲み始めた。
気がつくと、右隣りの角席に上品な老夫婦らしき外国人がいる。
他の客は全員日本人で、ほとんどが地元の常連という感じだ。
聞いてみると、オーストラリア人だという。
ニコニコしながら、刺身や野菜の天ぷらなどをつまみ、二人で肩を寄せ合って飲んでいる。
吾妹と英語でのやり取りが始まると、彼らがメルボルンに住む画家夫婦で、夫は何と79歳だということがわかってきた。
とてもそんな高齢には見えない。
旅行が大好きで、ベトナムをはじめアジア諸国を旅してきて、今回初めて日本に来たのだそうだ。
東京はゴチャゴチャしていてあまり気に入らなかったとかで、気に入った京都をベースに8泊もして、金沢や四国などにも足を伸ばし、何と僕たちもまだ行きたくて行けていない直島にも行っていた。
「伏見」は、京都に2年住んで陶芸をやっていたオーストラリアの友人にぜひ行けと薦められて来たが、とても面白いと言う。
刺身も平気で食べていたが、よく見るとワサビも醤油もつけないで食べている。
妻の方が「おいしいけど、半分は何を食べているかはわからない」と言って、笑った。
そのうちに夫の方がくれた名刺には、Bill Fergusonという名前に“Artist & Traveller”という肩書が付けてあって、おかしかった。
彼らが帰る段になって勘定を頼むと、オカミがパパパッと計算して2900円!と叫んで見せた数字に、夫が思わず“Oh very cheap!”と叫んだ。
そして、昼には祇園で素晴らしいランチを食べたが一人前5000円だったと言って、満足気に笑った。
オーストラリアに来るならぜひ寄りなさいと言いつつ、彼らは先に帰っていった。

東京に帰ってからインターネットで調べてみると、夫のBill Fergusonさんはオーストラリアの有名な画家で、何とアボリジニに関する文化人類学と内陸中央部の風景を素材にした抽象絵画を描いていることがわかった。
僕たちが京都の街で偶然「アボリジニ絵画展」に遭遇して感動したちょうどその夜の、何という偶然だったのだろう!
旅はこれだから面白い。


(続く)



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2 コメント

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アボリジニ (mmiizzz)
2010-12-30 01:07:19
エミリー・ウングワレーが好きで、アボリジニにもとても興味があるので、
さっそくBill Fergusonさんのサイトを拝見させていただきました!
いつかオーストラリアにも行ってみたいです。
京都の展覧会は常設なんでしょうか?
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観峰美術館の… (髭彦)
2010-12-30 10:38:19
アボリジニ絵画展は、2月6日までです。
絵画は観峰美術館の収集した所蔵品で、2002年に同じ展覧会をやったそうですから、またいずれはやるだろうとは思います。
2年前のウングワレー展を見逃したのは、後悔されます。
Bill Fergusonさんの絵は、オーストラリアの大地とアボリジニの美意識・世界観を基にしたクレー、といった感じに見えませんか。
オーストラリアに住んでいるニュージーランド人の友人に誘われているので、僕たちもぜひ行ってみたいと思ってはいるのですが…。
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