歌を詠うようになって、これまで心のどこかでそう感じていたことを言葉として定着させ、表現することができるようになりました。
その得がたい収穫と喜びの一つが、通勤の途次の道端で日々出会う木々や草花、小鳥たちへの愛着と共感の気持ちを歌にできたことです。
職場の側にある小学校の植え込みのドウダンツツジの数株を、世話をされている方を除いて、ぼくほどに毎日毎日共感を持って眺めている人間は、おそらくいないでしょう。
その誰も知らない大事な想いをこうして歌に表現できることは、本当にうれしいことでした。
ここに歌われている木々や草花、動物たちの姿や表情は、ぼくの心の中だけで生きて死んでいったはずのものでした。
歌うことができてよかったと、心から思います。
050128
燃え盛る紅葉の後の枯れ姿 こんもりひつそり ドウダンツツジ
050131
風もなく潅木揺れてふと見れば二羽の目白が黄花ついばむ
050201
如月の到来告げる明け鴉オドロオドロに啼き叫びたり
050203
明けやらぬ空を切り裂きグァッグァッとカラス急かすな早出のわれを
050205
声高くヒヨドリ二羽が飛び立ってゆれる楠の葉朝日を浴びる
ツツジよりスズランのごと白き花ドウダン飾る季節なつかし
050208
雪柳・桃・沈丁花・姫林檎 花木うれしも ともに春待つ
道かどのハクモクレンは切られしか蕾ふくらみ春待つはずに
窓近く枝差し伸べる桜樹のつぼみ氷雨に打たれかじかむ
050209
つかの間に空気ぬるみてやはらかく雀楽しげわれも浮き立つ
群れ雀なにをついばむ黙々と 空き地枯れ草 朝の日溜まり
雀たちチチチチチチの大合唱 夕陽に浮かぶ高き梢で
アルミ箔咥えてカラス止まりをり梢の上で首を振り振る
050210
そういへば近ごろ聞かぬあのカラス バカアバカアと啼く胴間声
050212
遊歩道誘ひしままにうかうかと山に登りぬ四万温泉郷
登るほど陽射し景色は開けたり未踏の落ち葉踏む息荒く
水晶を採りしと謂はるる山頂に立てばをかしきなぜここに立つ
落ち葉雪踏みしめ下る森木立 野猿カモシカ幻像のごと
宿に着き水晶山に登りしと言へば笑はるよくぞ今頃
明けぬれば四万はしんしん雪の中 子連れ野猿らいかに過ごさむ
050218
雪柳かすかに芽吹き白き花まぶたに咲けり霞のごとく
050219
鈍色に街寒々と静まれり空き地に白く夜半の雪跡
050223
枝揺れて眼凝らせば紅の花に隠るる目白一羽二羽
忙しく梅の蜜吸ふつがいなれ二羽の目白よ春は近きか
楠の葉のさやぎきらめき目にすれば春一番の吹くも楽しく
楠さやぎそよぎざわめききらめきて春一番は吹き渡りけり
月まるく春一番の吹きし空おぼろのどかに浮かびをりけり
050225
両端に鉛結ふ糸夕空に放てばヤンマ絡まり落ちぬ
050228
点々と春告ぐ色は濃かりけり水路の端(はた)に福寿草見ゆ
雪原に矯められ刈られ身もだえし林檎樹立てりオブジェのごとく
モーツァルト静かに聴けば百舌啼きて冬惜しまむか如月去るも
050302
猫たちのごろ寝うたた寝するを真似 人も転がる床暖房に
飼いをりしうさぎは鼬(イタチ)に喰はれけり白き毛皮の骸(むくろ)残して
050303
面影の橋を過ぎれば神田川水音急に高く聞こゆる
050304
畦に撒く泥を探ればピチピチと小鮒掌(て)に撥ぬかいぼり(掻き掘り)懐かし
050305
逃げ走る飼ひ豚捕らふ途(みち)難く辛くも掴む螺旋の尻尾
050308
芽吹く見て真白薄紅あえかにも心の真中ハナミズキ咲く
050315
春やよひ神田川沿ひを遡る一瞬雪舞ふ中野弥生町
遡行して水細れども神田川魚影悠々カモ遊びをり
050319
道の端に可憐に咲きしイヌフグリ果実のせいでふふふの汚名
翌檜の孤独深むるウソといふ 待てば椎(マテバシイ)なる切なき表記
スダジイの頭陀椎なるを知ればなほむさ苦しくも頭陀爺と聞ゆ
ジャスミンの二階の窓をも埋め尽くし日光(ひかげ)失ふ人棲む家よ
三春なる滝のごとくに咲き激(ばし)る枝垂桜を目にして死なむ
愛されず憤怒の相で猛く伸ぶローズマリーの花は星のごと
050320
シャンツァイ(香菜)をンゴー、ンゴーと覚えしはハーノイなりき食うまき街
火炎樹よブーゲンビレアよ沖縄でベトナムで咲け熱帯の花
黄に染めよ菜の花畑雲南を ヤゴ喰ふわれに菜種油染むる
いつもとはちがふ裏道ふと思ひ曲がれば辛夷しんしんと咲く
何輪か狂ひ咲けれど木瓜の花ふたたび咲かむ真春の来れば
あをめるを見るたび想ふ琢木を今年も芽吹く柳やはらかに
050325
森閑と白木蓮の咲きわたる路地に佇み独り見上ぐる
刈り込まれ瀕死のごとき植え込みの連翹咲けり ああよく咲けり
その得がたい収穫と喜びの一つが、通勤の途次の道端で日々出会う木々や草花、小鳥たちへの愛着と共感の気持ちを歌にできたことです。
職場の側にある小学校の植え込みのドウダンツツジの数株を、世話をされている方を除いて、ぼくほどに毎日毎日共感を持って眺めている人間は、おそらくいないでしょう。
その誰も知らない大事な想いをこうして歌に表現できることは、本当にうれしいことでした。
ここに歌われている木々や草花、動物たちの姿や表情は、ぼくの心の中だけで生きて死んでいったはずのものでした。
歌うことができてよかったと、心から思います。
050128
燃え盛る紅葉の後の枯れ姿 こんもりひつそり ドウダンツツジ
050131
風もなく潅木揺れてふと見れば二羽の目白が黄花ついばむ
050201
如月の到来告げる明け鴉オドロオドロに啼き叫びたり
050203
明けやらぬ空を切り裂きグァッグァッとカラス急かすな早出のわれを
050205
声高くヒヨドリ二羽が飛び立ってゆれる楠の葉朝日を浴びる
ツツジよりスズランのごと白き花ドウダン飾る季節なつかし
050208
雪柳・桃・沈丁花・姫林檎 花木うれしも ともに春待つ
道かどのハクモクレンは切られしか蕾ふくらみ春待つはずに
窓近く枝差し伸べる桜樹のつぼみ氷雨に打たれかじかむ
050209
つかの間に空気ぬるみてやはらかく雀楽しげわれも浮き立つ
群れ雀なにをついばむ黙々と 空き地枯れ草 朝の日溜まり
雀たちチチチチチチの大合唱 夕陽に浮かぶ高き梢で
アルミ箔咥えてカラス止まりをり梢の上で首を振り振る
050210
そういへば近ごろ聞かぬあのカラス バカアバカアと啼く胴間声
050212
遊歩道誘ひしままにうかうかと山に登りぬ四万温泉郷
登るほど陽射し景色は開けたり未踏の落ち葉踏む息荒く
水晶を採りしと謂はるる山頂に立てばをかしきなぜここに立つ
落ち葉雪踏みしめ下る森木立 野猿カモシカ幻像のごと
宿に着き水晶山に登りしと言へば笑はるよくぞ今頃
明けぬれば四万はしんしん雪の中 子連れ野猿らいかに過ごさむ
050218
雪柳かすかに芽吹き白き花まぶたに咲けり霞のごとく
050219
鈍色に街寒々と静まれり空き地に白く夜半の雪跡
050223
枝揺れて眼凝らせば紅の花に隠るる目白一羽二羽
忙しく梅の蜜吸ふつがいなれ二羽の目白よ春は近きか
楠の葉のさやぎきらめき目にすれば春一番の吹くも楽しく
楠さやぎそよぎざわめききらめきて春一番は吹き渡りけり
月まるく春一番の吹きし空おぼろのどかに浮かびをりけり
050225
両端に鉛結ふ糸夕空に放てばヤンマ絡まり落ちぬ
050228
点々と春告ぐ色は濃かりけり水路の端(はた)に福寿草見ゆ
雪原に矯められ刈られ身もだえし林檎樹立てりオブジェのごとく
モーツァルト静かに聴けば百舌啼きて冬惜しまむか如月去るも
050302
猫たちのごろ寝うたた寝するを真似 人も転がる床暖房に
飼いをりしうさぎは鼬(イタチ)に喰はれけり白き毛皮の骸(むくろ)残して
050303
面影の橋を過ぎれば神田川水音急に高く聞こゆる
050304
畦に撒く泥を探ればピチピチと小鮒掌(て)に撥ぬかいぼり(掻き掘り)懐かし
050305
逃げ走る飼ひ豚捕らふ途(みち)難く辛くも掴む螺旋の尻尾
050308
芽吹く見て真白薄紅あえかにも心の真中ハナミズキ咲く
050315
春やよひ神田川沿ひを遡る一瞬雪舞ふ中野弥生町
遡行して水細れども神田川魚影悠々カモ遊びをり
050319
道の端に可憐に咲きしイヌフグリ果実のせいでふふふの汚名
翌檜の孤独深むるウソといふ 待てば椎(マテバシイ)なる切なき表記
スダジイの頭陀椎なるを知ればなほむさ苦しくも頭陀爺と聞ゆ
ジャスミンの二階の窓をも埋め尽くし日光(ひかげ)失ふ人棲む家よ
三春なる滝のごとくに咲き激(ばし)る枝垂桜を目にして死なむ
愛されず憤怒の相で猛く伸ぶローズマリーの花は星のごと
050320
シャンツァイ(香菜)をンゴー、ンゴーと覚えしはハーノイなりき食うまき街
火炎樹よブーゲンビレアよ沖縄でベトナムで咲け熱帯の花
黄に染めよ菜の花畑雲南を ヤゴ喰ふわれに菜種油染むる
いつもとはちがふ裏道ふと思ひ曲がれば辛夷しんしんと咲く
何輪か狂ひ咲けれど木瓜の花ふたたび咲かむ真春の来れば
あをめるを見るたび想ふ琢木を今年も芽吹く柳やはらかに
050325
森閑と白木蓮の咲きわたる路地に佇み独り見上ぐる
刈り込まれ瀕死のごとき植え込みの連翹咲けり ああよく咲けり