080501
萌え咲けるあらたないのち装ひて桜の花のちりにけるかも
紅を帯びかれんに咲けるさくらをば豆と呼ばむか富士とよばむか
宙に浮くオブジェ光りて銀の天球映すこの世を吾を
(宙=そら、銀=しろがね)
暮れ方の花のいろこそ妖しけれ赤紫にツツジ咲き満ち
狂ほしきことにもあらむ新緑に池面を染めて木々の盛るは
080503
六十路ゆく旅のけはしき憲法のいのち守らむ戦憎めば
*
色のなほ深まりけりな雨にぬれオホムラサキの花は咲き満つ
080504
北欧のふるさと偲び友建てし住ひ溶けこむ笠間の丘に
橙のいろ際立ちてツツジ咲く笠間の里に芽吹きあふるる
080505
魂奪ふ出会ひのあればまた訪ひぬ笠間、益子を器もとめて
ひと目にてわれらが魂を焼きしめぬ佐藤和美の陶土なす皿は
(陶土=つち)
精妙な白磁・黒磁の魂うばふ大江憲一岐阜より来る
*
山あひに棚田光りて農民の機械あやつり早苗植えゆく
蜂吸へば蜜甘からむ芥子菜の黄に咲く花も菜の花と知る
黄の花をふりさけ見れば笠間なる低き山にぞ湧きし雲かも
080506
めざむればガガガガガガと蛙鳴き笠間の朝に緑あふるる
ホーフケキョ、ケキョケキョケキョとウグイスの青鳴き聞けばほほのゆるみぬ
080508
ホウの葉を空に仰げば青あをとしわの染みゆく脳にあれよ
(脳=なづき)
吹く風に若葉そよげば木洩れ陽のゆらめくごとに緑照らしぬ
*
丈高く繁る山ウド切りさきて食めばほろほろあをき味しぬ
080509
百合の木のわれ待つ花ぞ葉隠れて恥らふごとに咲き初めにける
080510
光琳の花にさきがけ紫のいろ深々とアヤメ咲きけり
080511
一片の通達をもて教員の挙手、採決を石原都政禁じ来れり
現役の校長ひとり行政に職場の自由守り抗ふ
意にそまぬ意見を述ぶる権利をば認めぬかぎり人心乱る
異論をば異端とみなし流しける血潮を思へ左右を問はず
中国に北朝鮮にさ迷はむ亡霊いまだスターリンとふ
*
紅白に芍薬咲けば繚乱と辺りはなやぐ独りわれゐて
(紅白=べにしろ)
マリアの名冠るアザミの凛としてあをき棘もち咲き立ちにけり
忍冬の花なほ朱に鮮らけきはつなつ近きみどり背にして
080512
ほの暗き池面に映る新緑を黄に染め照らしアヤメ咲きゐぬ
080513
光琳の群れ咲く花を偲ぶれどいま一茎のカキツバタ愛づ
(一茎=ひとくき)
080515
母逝きし命日となり犬養の事件忘るる五・一五に
*
朱に紅にバラの色濃くわが胸に咲く日々かつてありしを思ふ
(紅に=あかに)
鬱蒼と繁る木の間に青あをとモミジ光りぬ木洩れ陽照らし
080516
一輪の宙を仰ぎて陽に祈る水面に白く睡蓮咲きて
(宙=そら)
080517
朴の木の梢に白く咲く花の盛りのすでに過ぎしを惜しむ
水の辺に緑の萌えて一輪の紫匂ふ花菖蒲咲く
080518
猛き名の花にしあれど静もりて葉群に浮かび山法師咲く
(葉群=はむら)
暮れ方に紫つよき花群の色妖しくもわれに迫りき
(花群=はなむら)
草かげの岩を褥に野良猫の眠る眠りのつらくもあらむ
(褥=しとね)
080519
種運ぶうすくれなゐの羽浮かべ青葉モミジのはなやぎにけり
080520
陽に浮かぶ銀杏の若葉あをめるをひとりしみじみ仰ぐ幸知る
080522
虫捕りて花を守らむナデシコのくれなゐかなし萌ゆる緑に
茫々と夢見るごとにシモツケの花咲き初めて風にゆれをり
080523
杜ふかくキリン模様に樹皮脱ぎて花梨の木々は夏を待ちゐぬ
黄も深きセンダイハギに勝るとも劣らず咲きぬ花紫に
080525
雨にぬれわが魂うばふそれとなき木々草々の緑深めて
080527
深山にはかく秘めやかにアジサイの八重にぞ咲かむむらさき薄く
ケガ癒えし脚を使ひてひさびさに走れば大地われにやさしく
080529
人影の途絶へし庭園に紫陽花の色の深きよそぼ降る雨に
(庭園=にわ)
080530
ほの暗き木の間隠れの池の端にサツキの紅くみどり彩る
080531
降る雨にしとどに濡れし巨樹の根に小笹のいのち青く目に染む
木製のベンチの美しく雨にぬれ静かに憩ふ訪ふひともなく
(美しく=はしく)
降りやまぬ雨を恵みに青光る苔むす根をばわれは知りたる