雪の朝ぼくは突然歌いたくなった

2005年1月26日。雪の朝、突然歌いたくなった。「題詠マラソン」に参加。3月6日に完走。六十路の未知の旅が始まった…。

050429 題詠マラソンから

2005-04-29 13:14:25 | 題詠マラソン2005から
【 13568】016:たそがれ 葉桜と風と一緒にたそがれて歩道橋から世界見下ろす(嶋本ユーキ)

 葉桜と風と一緒にたそがれて。
 一瞬にして情景が浮かぶ季節感あふれた表現です。
 そして立っているのは歩道橋。葉桜がそばにあるのですからそれほど大きく高い歩道橋ではないでしょう。にもかかわらず、見下ろすのは「世界」。
 おそらく風と一緒にたそがれている作者の孤独は、そこから見えるすべてから自分が隔絶されたものと感じさせ、それが「世界」という表現になったのだと思います。

【13565】 013:焦 焦る心押さえきれずに若者の路肩に消ゆる花を散らして(草野由起子)

 ハイキングの山道でしょうか。それとも公園の散歩道でしょうか。
 焦る心を押さえきれずに若者が近道を求めて路肩に足を踏み入れ、消えていきます。しかし、そこには若者の視線には決して入ることのない可憐な花たちがひっそりと咲いているのです。
 イヌフグリかスミレか、無残に踏みにじられた小さきものたちへの想い。と同時に、そうせざるをえない若さというものへの苦さを含んだ共感。その両方を詠みこむ作者のやさしい心とまなざしを感じました。

【13560】 031:盗 盗人は花の彼方に去りました煙草の匂い口に残して(宵月冴音)

 盗人は花の彼方に去りました。物語りを感じさせるたくみな表現ですね。
 盗人は花盗人であり、花は作者自身、あるいはその心でしょうか。
 その盗人が花の彼方に去ったというのですから、どうやら花咲く春の季節に作者の心を盗んだまま男はどこかに行ってしまったようです。残ったのは最後の口づけの煙草の匂いだけ。


【13558】 028:母 給食をむさぼるタクの母親は昨夜も今朝も戻って来ない(林 ゆみ)

 林ゆみさんは小学校にお勤めなんですね。
 少年はたぶん小学校1年生。母一人子一人の家庭の子どもでしょうか。母親は夜の勤めかなにかで、子どもを放置して帰らない。少年の唯一のまともな食事は学校の給食。それをむさぼるように食べているのを、作者は胸を締めつけられるような想いで見ているのです。
 歌われているのは、小説やドラマの虚構の世界ではなく現し世のつらいできごとです。

【13532】 017:陸 白鳩が羽搏く朝のうらがわの翳りへ沈む大陸もある(岩崎一恵)

 カムチャツカの若者が
 きりんの夢をみているとき
 メキシコの娘は
 朝もやの中でバスを待っている

 谷川俊太郎の「朝のリレー」という詩を思い出しました。この歌はむしろ「夜のリレー」という趣ですが。
 白鳩・羽搏く・朝・うらがわ・翳り・沈む・大陸といった言葉が、壮大なイメージを地球的規模でかきたててくれます。
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050428 日々歌う

2005-04-29 09:57:33 | 日々歌ふ
瞬時にぞ抉り抉らる深き傷痕(きず)百余のいのち奪いしものよ

一瞬に軌道は狂いあてどなき無限軌道に数多旅立つ

現し世は老樹も芽吹く季節(とき)なれど若樹の逝きし萌ゆるまもなく
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050427 日々歌う

2005-04-27 21:51:55 | 日々歌ふ
流れ行くチベット読経ジンガロの人馬一体回る舞台よ

馬回れ人も鵞鳥も渾然と回れよ回れジンガロの夢

                  *

ヒューイット弾くバッハ聴き友は言ふほんとによかつたプロにならずに

グールドも嫉妬に狂ふおそらくはヒューイット弾くゴールドベルクに

鍵盤に手首あたかも枝垂れ舞ふヒューイットはバッハとなりて

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050427 題詠マラソンから

2005-04-27 19:12:07 | 題詠マラソン2005から
【13401】043:馬 夕闇にそこだけ白く馬酔木咲く線路の脇で「またね」を思う(今岡悦子)

 夕闇にそこだけ白く馬酔木咲く。おそらく今と遠い春の宵の情景がダブっているのでしょう。線路の脇で思った「またね」は、遠い春の宵にそこで交わされた「またね」。相手は同性の友だちだったのでしょうか、それとも…。

【13381】034:背中 さりげなく流しに立てばほぐれくるその声背中を耳にして聞く(前野真左子)

 夫婦喧嘩か親子喧嘩かはわかりません。あるいは夫か子どもかが一方的に怒り狂って怒鳴ったのかもしれません。それをさりげなくかわして流しに立って洗いものでもしていると、しだいに怒鳴り声がほぐれてくる。まだ許してやるものかと背を向けたまま背中を耳にして聞くうちに、しだいに作者の心もほぐれてくる。そうした家族のあいだの微妙な心の動きが、たくみに歌われています。
 
【13375】068:四 楷書的四つ角の街に出社して草書的三つ角の場所に戻る毎日(望月暢孝)

 整然と区画整理されたビル街の職場と、昔の農道をそのままにしたような新興住宅街の住まいとの往復の毎日。そのペーソスを、楷書的四つ角の街と草書的三つ角の場所の往復と表現することで生まれるユーモア。いやあ見事です。

【13324】 025:泳 女学校時代にならひし横泳ぎプールにひとり披露するひと(近藤かすみ)

 スポーツクラブなどのプールで、他のみながクロールや平泳ぎで泳ぐ中、年配の女性がひとり日本泳法の横泳ぎ(のし)で悠々と面を上げて泳いでいる姿が目に浮かびます。
 軍国主義の時代には早さよりも生き残りの術として学校で日本泳法が教えられました。1950年代まではそれが続いていたのかもしれません。ぼくも中1の海の家で横泳ぎ(のし)と平のしを叩き込まれました。1956年のことです。
 子どもとプールに行ったときに、ぼくもひとり横泳ぎで泳いだことがあります。あれもこの歌のように見えていたのでしょうね。
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050426 日々歌う

2005-04-27 00:06:21 | 日々歌ふ
腹も出(いで)髪も疎らになりにしか美男におわす四十路の君は

道すがら何ゆえかくもこの人のこの面つきをなせしと思う

顔面に不平不満を貼りつけて辺りねめつく老いる人あり

われしらず険しき顔で歩きおり知る人もなき見知らぬ街を

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050425 題詠マラソンから

2005-04-25 23:52:34 | 題詠マラソン2005から
【13321】 050:変 今ごろは実のひとつくらい成してるか私の愛した唐変木は(飛永京)

 飛永京さんて女性だったんですね。うかつでした。あんまりさっそうとした歌いぶりに、つい同性と思い込んでいました。ジェンダー・バイアスそのもの。反省します。
 この歌もさっそうとしています。が、どう見ても女性の歌です。唐変木は、身勝手などうしようもない男でしかありえませんからね。で、私の愛した唐変木も木のはしくれなら今ごろは実のひとつくらい成してるか、というわけです。身につまされる勁い歌ですねえ。
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050425 日々歌う

2005-04-25 23:03:53 | 日々歌ふ
ひょんひょんとぺんぺん草のくさむらに花菱草が背を伸ばしけり
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050424 題詠マラソンから

2005-04-24 14:17:22 | 題詠マラソン2005から
【13188】025:泳 迷わないもう戻らないスクランブル交差点を泳ぎ切ったら(林 ゆみ)

 スクランブル交差点を泳ぎ切ったら。渡り切ったらではなく、泳ぎ切ったらがいいですね。渋谷駅前の若者で埋め尽くされたスクランブル交差点などは、たしかに泳ぎ切ったらという感じです。なにかにきっぱりと決別する決意、あるいは潔さが象徴されて伝わってきます。

【13182】004:淡 受話器ごし箇条書きにて淡々と語られてゆく会えない理由(屋良健一郎)

 たぶん恋人からの別れの切ない電話なのでしょう。あえて箇条書きを読むように告げられる別れの理由。互いに淡々とふるまうなかに押し込められた一つの恋の喪われ行く寂しさが、静かに伝わってきます。

【13174】017:陸 魚(うお)にあらず鳥にもあらず陸上に生れし獣として子は走る(青山みのり)

 子は作者の子とも思えますが、連作から見て作者が顧問をしている運動部の生徒なのでしょう。バレー部かなにかは判然としませんが、敏捷に大地を蹴って走る子の姿はまさに、魚にあらず鳥にもあらず陸上に生れし獣として見えたのです。躍動感と生命感にあふれたすばらしい歌ですねえ。

【13172 】015:友 勝つために無二のボールを奪いあう敵という名の友もありけり(青山みのり)

 無二のは、ボールと友にかかっているのでしょうか。勝つために無二のボールを奪いあう敵だからこそ、正々堂々全力を尽くして戦い終わった後には無二の友にもなりうる。それがアマチュアスポーツのすばらしさかもしれません。敵という名の友もありけり。見事な表現です。

【13161】 003:つぼみ(再投稿) かたくなにつぼみでゐたる桜かなあまたのあかりがゆるる川べり(篠田 美也)

 桜祭りと称してしばしば俗悪なピンクの提灯が張りめぐらされ、せっかくの桜を台無しにして腹が立ちます。しかし、この川べりにあまたのあかりがゆるる光景はちがいます。提灯ならば白の無地の提灯でしょう。裸電球かもしれません。桜の開花が予想より遅れ、夜桜見物の準備は万端整っているのに、肝心の桜のほうはかたくなにつぼみのまま。でも川べりにあまたのあかりがゆるる光景は、桜が咲き乱れるのを待つ静かな美しさに満ちているのです。

【13144】 003:つぼみ つぼみには咲(ひら)く気配のほの紅くともる夕べのひとときがある(資延英樹 )

 つぼみを歌ってこれはまた素晴らしい表現に出会いました。ほの紅くというのですから、おそらくは桜でしょう。咲く寸前の夕暮れ。咲(ひら)く気配のほの紅くともる夕べのひととき。なんと美しくやさしい、そして繊細な表現でしょうか。ひとときがある、の結句も見事です。素晴らしい歌をありがとうございました。
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050423 題詠マラソンから

2005-04-23 15:26:18 | 題詠マラソン2005から
[12560] 019:アラビア でん、としたアラビア半島人々の強くはかない想いを受けとむ(如月初香)

 でん、としたアラビア半島。悠久の歴史をふまえればなるほどの表現で、新鮮です。
 自国の独裁者につ次いで他国の侵略者に蹂躙されている人々の、強くはかない想い。僕たちははたしてそれをどれだけ受けとめているでしょうか。

[12554] 076:リズム 声上ぐることも忘れつ おそろしき未知のリズムのうねりに呑まれ(寺川育世 )

 女性ならではの性愛の歌と思われます。未知のうねりに呑まれいく、喜びを超えた不安と恐れ。性の深淵を覗かせるような歌です。

[12543] 003:つぼみ 撫で撫でて硬きつぼみよまるまると花の一生(ひとよ)を畳みてあれば(キタダヒロヒコ)

 「 撫で撫でて」と「まるまると」が「硬きつぼみ」をいとおしむ気持ちを嫌味なく表現しています。しかも、「硬きつぼみ」は「まるまると花の一生(ひとよ)を畳みてあれば」だというのです。すばらしい表現ですねえ。ぼくも「硬きつぼみ」をいとおしんできましたが、こんな表現は思いもつきませんでした。
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050422 日々歌う

2005-04-23 00:26:29 | 日々歌ふ
海隔つ彼の国人が犬の木(ドッグウッド)と呼ぶ木は咲けるああ花水木
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