雪の朝ぼくは突然歌いたくなった

2005年1月26日。雪の朝、突然歌いたくなった。「題詠マラソン」に参加。3月6日に完走。六十路の未知の旅が始まった…。

日々歌ふ1012(57首)

2010-12-31 17:14:00 | 日々歌ふ2010

101201
 紅葉を愛でし心の今になほ古都に満ちみち吾ら浸たしぬ
 黒谷は真如が御堂の錦繍に魂の震へり朝な夕なに
101202
 祇園なる白川沿ひに「琢磨」とふ割烹ありて美味し夕餉の
 「伏見」とふ破天荒なる居酒屋に満たさりけりな古都三条で
101204
 ―<「李政美コンサートin大田vol.3 ~そのままで大丈夫~」(12/3、大田区民プラザ小ホール)を聴きて>
 ステージに現はるる女(ひと)の堂々と丈高くして声量あふる
 澄み切りし声に勁さを李政美(イ・ヂョンミ)の加へをりけり久々聴けば
 カセットで金敏基(キム・ミンギ)をば李政美の四半世紀前歌ふを聴きぬ
 南葛を済州(チェジュ)と同じき故郷と李政美歌ふ白衣纏ひて
 万感の思ひこめけむ自らの歌詞で歌ひし臨津江(イムジンガン)に
 在日の歴史背負へどそれを超えアリラン歌ひイマジン歌ふ
101205
 ―<六十年前の十二月五日未明に三十六歳で逝きし父を想ひて>
 六歳のけふの未明に父逝きて暦の還る時流れけり
 汝が親の年齢(とし)にぞ吾のなりにける汝三十路の末子にあれば
 焼け残る借家の二階で父逝くは戦終はりてわづか五年か
 彼の年に隣国襲ふ戦争の今にふたたび始まらむとす
 百歳や九十五歳で父逝くと報せる葉書日々に届きぬ
 もし父の長く生きなば吾もまた喪中葉書を今し書くらむ
                   *
 狂乱の喧騒ひとつ離(か)れゆけば川面きらめき紅葉光りぬ
 一日に百人ほどしか入れ呉れぬ寺の静もり庭の静もる
101206
 業平が寺の紅葉も住職の袈裟も色濃く朱に染まりけり
101207
 黄昏の京を流るる清流を独り楽しむ四条河原で
101208
 終戦の日付は知れど開戦のそれを知らざり若き世代は
101210
 ―<京の町で「上村松園展」と「アボリジニ絵画展」に遭遇して>
 松園とアボリジニーの絵画をも狩りて至福の京の晩秋
101212
 ―<「ケルティック・クリスマス2010」 (12/11、すみだトリフォニーホール )を聴きて>
 墨田なるホールに在るを忘れけり時空を越えしケルトの楽に
 ジャンル超え音楽しみて集ひ来ぬ六十路前後の男女六人
101214
 パソコンに向へばすぐに愛猫も世界知らむとタワーに昇る
 愛猫の座る姿になるほどと納得しけり猫背といふを
101215
 欅樹の黄金に光る残り葉の風に揺るるもかなしかりけり
 飯桐の赤くも赤く稔る実の蒼空埋めぬたわわたわわに
101216
 この夏の酷熱吉と出でにける紅葉惜しみつ冬を迎へむ
101217
 採る者も盗む児も失せ美しく柿の熟れゐぬ空に虚しく
 留まるも渡るもともに群れ泳ぎ水辺に冬の来りけるかも
101218
 妻編めるリースかなしも吾(あ)拾ひしヘクソカヅラとイヒギリの実の
101220 
 鳥影の黒く浮かびし池の面(も)を黄金に染めて冬陽落ちゆく
101221
 川中の宵闇に立ち荒川の大橋望みもの思ひけり
                   *
 年の瀬の迫る感じの年々に失せてゆきけり良くも悪くも
101222
 くれなゐの日々に深まり吾摘みし野の瓜光る玉のごとくに
101223
 紅葉狩る古都の街にて古伊万里の湯呑に出会ひ求め来りぬ
101224
 離宮をば日々に巨影の呑みこまむ高層ビルのぐるり囲めば
101225
 陽だまりに<かほり>の花を置き観れば何ごとならむと猫のより来る
101226
 ―<「N響アワー」(12/26)で、第16回ショパン・コンクールで優勝したユリアンナ・アヴデーエワの演奏を聴きて>
 一音を聴きて震へぬ吾が魂のショパン弾きけるアヴデーエワに
 目も耳も釘づけとなりショパン弾くアヴデーエワに魂を奪はる
 指揮為せるデュトワと息を合はせ弾き見事なりけりアヴデーエワの
 天才だ大物だとて興奮し名をば留めぬアヴデーエワの
101227 
 愛猫の幸せなるや吾になどつかず離れず寄り添ひ生きて
101228
 ―<閉館の決まった恵比寿ガーデンシネマで、ウディ・アレンの「人生万歳!」を観て>
 本人の現れざるもよかりけり「人生万歳!」ウディ・アレンの
 アメリカの無知と俗とを自虐してをかしかなしきウディ・アレンの
 思ひ出のガーデンシネマの消えゆくは悲しからずや三越残り
                   *
 ゆるゆると料理の腕も上がりゐむ日々に何かと厨に立てば
 吾妹書くレシピも見ずにわれ作るミートソースのパスタうましも
101229
 束の間の夢にありけむ繁栄の<無縁><弧族>の記事のあふれて
 卒業の間近な暮れを職いまだ決まらず送る学生あまた
 氷河期を超えていづこに向ふらむ未来を摘みてこの列島の
 夢・希望死語となりゆく列島を余所に政治の混迷深む
101230
 西風よ嶺の高きにヒマラヤを避けて恵むや吾らに慈雨を
 熱々の田舎蕎麦をばすすり食み年の瀬渡る幸のありたり
101231
 愛猫の粗相で暮るる年の瀬よバカったレオよおしっこたレオよ
 前庭に餅つく声の響きけりマンションなれど人つながりて


コメント

日々歌ふ1011(37首)

2010-12-20 14:26:37 | 日々歌ふ2010

101102
 ―<チョコレートコスモスの花にフリーダ・カーロを想ふ>
 原産がメキシコと聞きフリーダのおもざし浮かぶチョコレートコスモスに
 フリーダの暗き情熱メヒコより伝へて咲くやチョコレートコスモスの
101103
 ―<米国中間選挙での民主党敗北の報を聞きて>
 海隔て改革掲げ為さざれば彼我の「民主」の疎まれゆきぬ
101104
 ―<「アンドリュー・ワイエス展─オルソン・ハウスの物語」(埼玉県立近代美術館)を観て>
 期待せしワイエス展に裏切らる展示の過半習作の占め
101105
 人住まぬ小島めぐりて日中の戦為さむか愚かおろかに
101106
 吾が庵に拾ひ来りし野の秋のつましくあれど暮らし彩る
101109
 ―<庄司紗矢香&ジャンルカ・カシオーリ デュオ・リサイタル(11/8、サントリー・ホール)を聴きて>
 一音で魅せられけりなチョン・キョンファ、庄司紗矢香に時空を超えて
 十代の庄司紗矢香の一音に魂をつかまれ十年経ちぬ
 凡百の音をば超えてヴァイオリンの響き変はらず庄司紗矢香の
 カシオーリとデュオ組むゆゑかヴァイオリンに優美さ増しぬ庄司紗矢香は
 限りなく優美に演ずカシオーリと紗矢香のデュオはベートーベンを
 前回の火花散りけるデュオをまた聴きたくあれど紗矢香・ゴランの
 菓子折りと障子のデュオだと戯れぬ共に満たさる友らと飲みつ
                    *
 古民家をマリーゴールド、サルビアの赤黄に飾る秋を見つけり
 コスモスを愛せる父は逝きにけりはるかな冬に吾らを遺し
101110
 ―<山中湖を見下ろす明神山に登りて>
 湖(うみ)隔て不二の高嶺の絶景を独り占めけり茫の山で
 茫々とススキ光りし山の路を独り下りぬ富士を見やりつ
101111
 秋の陽の富士の高嶺に一瞬(ひととき)をダイアのごとに光り落ちゆく
101112
 人生の初冬に生きて現世(うつしよ)の秋を惜しまむなほしみじみと
101113 
 落日の余韻も深き富士仰ぎ独りめぐれば湖(うみ)の静もる
101114
 人の生(よ)の季節のめぐり残さるる冬を愛しみいとしみ生きむ
101119
 ―<「河村尚子ピアノリサイタル」(11/17、東京オペラシティ・コンサートホール )を聴きて>
 非凡なるピアノの才を平凡な名にぞ秘めける河村尚(ひさ)子は
 衒ふ奇もこれみよがしも何もなく音楽のみをピアノで奏づ
 冴えわたる超絶技巧の指をもて奏でし楽に魂をつかまる
 三十に満たぬ女性の大いなる楽才知れば一夜寿ぐ
101120
 季(とき)狂ひ哀れあはれよ冬近き池のほとりにカキツバタ咲く
101121 
 鷺の舞ひ鴎の翔びぬ晩秋の暮れゆく空を独り仰げば
101122
 光る湖(うみ)色づく木々の残る影迫る落日消ゆる鳥影
101123
 ―<一夜、高校時代の親しき友人ら四人のわが家に来りて>
 つきあひも半世紀をば越えにける友ら来りて一夜集ひぬ
 虚栄なき友らにあれば夜更けまで清飲懇話時を忘るる
 名にし負ふ純米銘酒のうまかりき友持ち呉れし会津坂下(ばんげ)の
                    *
 空高く凧と見紛ふ猛禽の風操りて動かざりけり
101124
 鴨来り川面池面に泳ぎゐていつしか冬の近きづきにけり
                    *
 ―<北朝鮮による延坪島(ヨンピョンド)砲撃に、改め思ふ>
 極むれば右も左も変はらずに行きつき了る独裁国家に
101125 
 空高く風操りて動かざる凧見紛ひぬトビかノスリと
101126
 名も知らぬ草の紅葉もあればこそかなしかりけれ秋野をゆくは
 超然と浅き瀬に立ち白鷺の獲物ねらひぬ人世近くで


コメント

日々歌ふ1010(50首)

2010-12-20 12:19:10 | 日々歌ふ2010

101001 
 ほの暗き大樹の下に静もりて彼岸の花は白咲きにけり
101002
 白萩の紅さして咲く花に人世の秋の汚れ忘るる
101003
 白秋も過ぎにしけると思ひつつ独り仰ぎぬカラタチの実を
 藪枯らす貧乏葛(かづら)に花咲きて虫喜ぶを見るぞうれしき
101004
 両岸の境を示し立つごとにくれなゐ深く曼珠沙華咲く
101005 日々歌ふ
 ―<「ヨハネス・モーザー チェロリサイタル」(10/5、東京文化会館小ホール)を聴きて>
 期待をばはるかに超えてモーザーのチェロに酔ひ痴る一夜(ひとよ)上野で
 伴奏のピアノの冴えにモーザーのチェロは歌ひに歌ふ深き歌をば
 モーザーの独り奏でぬバッハをば吾が愛する曲を深くやさしく
 音色もリズムもなにもこれぞデュオ ヨハネス・モーザー、高橋礼恵(のりえ)は
 ブリテンでベートーヴェンで火花散るデュオは極みぬ ああブラームスで
                     *
 秋薔薇の咲くを待ちゐる庭園に名残りの紅き彼岸花見ゆ
101007
 コサギ為す巧みな漁に見惚れけり喰らひし側に己を置きて
 丈高き泡立つ花の葦原を侵し咲き初む秋空の下
101009
 ―<獄中にある非暴力主義者・劉暁波氏のノーベル平和賞受賞を聴きて>
 劉よ劉!未だ知らずや暁の波の静かに寄する音をば
 大陸をいづれ洗はむ暁の静かな波は大波となり
 ガンジーのキングの道を大陸で歩む人こそ劉暁波なれ
                     *
 酷熱の夏たりしかばかくも濃き色に咲くらむ金木犀も
 秘めやかな花の秋野に咲きゐるを知らず生きけり愚かに吾は
101014
 高原の彩り深き秋もとめ経めぐりけりな五十路六十路を
101015
 ―<七百メートルの地底からチリの鉱山労働者三十三人全員が無事生還するを目にして>
 この星の裏側深く伸びゆきて奇跡なしたりアースツリーは
 地の底に閉じ込められし男らの次々還る一人残らず
 その声の魂に響けり久々に鉱山労働者万歳!の
 奪ふより救くることに共感すいのちをめぐり世界の民は
101017
 大利根の源生るる森訪へば黄葉(モミヂ)あふれぬブナの繁りて
101018
 ―<「スタッフ・ベンダ・ビリリ」のライブ・コンサート(10/17、三鷹市公会堂)を聴きて>
 極貧の路上に生れしアフリカの楽の響けり一夜(ひとよ)三鷹に
 貧しさもポリオも勝てず豊かなるベンダ・ビリリの歌とリズムに
 映画観てライブを聴きてアフリカの貧しき民の豊かさを知る
 アフリカよベンダ・ビリリよ豊かなる大地よ楽よ実り多かれ
101022
 ―<東北の秘湯「峩々温泉」を訪ねて>
 連なれる蔵王の嶺の麓なる峩々の出湯に紅葉いまだし
 人ふまぬ落ち葉の深き山路踏む峩々の出湯の裏山登り
 踏む足に積もる落ち葉のやはらかき山路辿りぬ吾妹と吾と
 ひこ生えの紅葉の美(は)しく誘ひぬ落ち葉敷きつむ山路の際に
 時をりに雲間の見えて明るみぬブナの繁れる峩々の深山路
 忽然と開く山路の絶景に思ひ惜しみぬ紅葉盛れと
101024
 期待せし紅葉の遅き山中にくれなゐ点す葛(かづら)もみぢの
101025
 呼ばれたき人たちにのみ先生と呼ばれたきもの呼ぶときもまた
 先生と言はるるほうも言ふほうもどちらも馬鹿であること多し
101026
 秋バラの美(は)しく咲きゐる古河の庭園(には)にて思ふ足尾の民を
101027
 とりどりにマリア・カラスを初恋をアンネを偲び秋バラの咲く
101028
 荒川の堤を埋めて咲き満てる千万本の秋桜(コスモス)惜しむ
101029
 ―<若き落語家・古今亭駒次に出会ひ落語に目覚めて>
 初めての寄席で聴きけり抱腹の「鉄道戦国絵巻」を
 二つ目の若き駒次の新作に笑ひ転げて落語に目覚む
 切れのよき所作・話芸も鮮やかに駒次演じぬ「禁酒番屋」を
 志ん生の孫弟子なれば二つ目の駒次の末を見届けゆかむ
101030
 野の瓜を摘みて飾れば日とともに秋色まさり心染めゆく
                     *
 十月に秋の気配の乏しかる今年の秋はたまさかなるや
 秋失せて夏から冬の直来す四季を誇りしわが列島に
 この国に秋の失せなば収穫も芸術、読書なべて失せなむ
 十月に大陸寒気と台風の呉越同舟列島襲ふ
 時ならぬ寒気に思ふこの国に冬来りなば春近きかと


コメント

日々歌ふ1009(48首)

2010-12-19 14:38:24 | 日々歌ふ2010

100901 
 アプレ・モワ・ル・デリュージュとふ罪深き言の葉浮かぶ震災の日に
                   *
 亡き祖母の煎じくれける野の草がかくも可憐な花咲かすとは
 薄幸の祖母は俳句を詠みゐたりかな女を師とししげ女の名にて
100902 
 埼玉屋と新潟屋とを教へ子とはしごしたりき夏よ終れと
100903 
 ―<「ハンス・コパー展―20世紀陶芸の革新」(汐留ミュージアム)を観て>
リーに次ぐコパーの峰の高かりきフォルム、磁肌の魂を奪ひて
                   *
 去り行かぬ酷暑の陽にぞ紫の秋色光る式部の珠の
100904 
 ―<「ハンス・コパー展―20世紀陶芸の革新」(汐留ミュージアム)を観て>②
 迫害を逃れ異郷で異才をば育て咲かせぬリーとコパーは
 現代と古代の垣も超えゆけりコパーの磁器は謐(しづ)かに立ちて
                   *
 権萃(ゴンズイ)の実の熟して赤けれど鳥らも飛ばず酷暑の昼に
 経済も政治もなにもうそ寒きこの列島ゆ熱波の去らず
                   *
 ジョギングで汗を流せば塩焼きの小鯛のうまし独り夕餉も
100905
 雑草(あらぐさ)に白く可憐な花咲きて名をば知り初む六十路半ばで
 人知るや狐の孫の丈低き草にぞ化けて身近に咲くを
100906
 七重八重花は終れど山吹の実の黒々となるぞうれしき
                   *
 ―<NHK「ファミリーヒストリー」第3回「高橋惠子」を観て>
 会釈をばつひ為したれどさもあらむ関根惠子のいぶかしみけり
100908
 やうやうに酷暑途切れど朝より雨風荒れて窓開けやらず
                   *
 ラクロスに若さ注ぎて濁りなき笑みをば笑みぬわが姪たちの
100909
 新しきスポーツなれどラクロスの若きこころをとらえつつあり
100910
 酷熱の終はり近きを知らせけりヤブミヨウガの実にアキアカネゐて
100911
 ―<9回目の9・11の日に>
 暴力の連鎖断たむの気概持つ政治家出でよこの列島に
                   *
 蓼薫る野辺にぞ秋の近づかむ陽射しの未だ夏にしあれど
100912
 吹く風の秋の気配を運び来てエアコン要らぬ夜とはなりぬ
 江戸人(びと)の好みしボラの刺身をば今夜も食みぬカルパッチョにして
100913
 地を覆ふ荒れ地瓜にぞつつましく咲く花あれど瓜は生らずと
100914
 変革の期待のすでに喪はる民主の党首菅に決まれど
                   *
 生繁る猛き葉群に遅咲きし葛の花にぞ酷暑を思ふ
 手造りし舌にとろける〆鯖を夕餉に食めば秋の来にける
100915 
 蓮の葉の覆ふ池面に一輪の花くれなゐに咲き残りけり
100916
 空仰ぐレインリリーの花群の白き気品に眼奪はる
100917
 クマゼミもツマグロヒョウモンも北上をじわり続けむこの列島は
100918
 ―<ハインリヒ・シュッツ「白鳥の歌」[遺作](合唱:ハインリヒ・シュッツ合唱団、指揮:淡野弓子、東京カテドラル聖マリア大聖堂、9/17を聴きて)
 魂ゆすり魂を洗ひて聖堂にシュッツの歌は響き溢れぬ
 戦乱の三十年を生き延びしシュッツの歌よ白鳥の歌よ
 大シュッツ在りしゆゑにぞ大バッハ生(あ)れたるならむその幸思ふ
                   *
 江戸前の海の汚れて忘らるる鯔(ボラ)の美味をば知るぞうれしき
100920
 不気味とてかつて厭ひし花咲けり此岸(しがん)を赤く彼岸に染めて
100922
 ―<大阪地検特捜主任検事の証拠フロッピー改竄事件の露見して>
 絶対になればなるほど腐りゆく権力なりき特捜もまた
 巨悪撃つ特捜神話崩れ去る検事自ら巨悪を為して
 検察のトップはいづこ次席のみ記者会見に現はれにける
                   *
 天上で咲くやは知らぬ辺りをば異界と化して曼珠沙華咲く
 昼もなほ小暗き杜に底紅の木槿の白く八重咲きに咲く
100923
 酷熱の夏の去りゆき秋訪ふを知りて咲くらむ名もなき花らは
100924
 暴虐の酷夏にとどめ刺すごとく秋風秋雨の荒れにぞ荒れし
 胸底の深き淵にぞ眠りゐる思ひの時に疼き目覚むる
                   *
 ―<「田中一村 新たなる全貌」展(千葉市美術館)を観て>
 一村のかく一村となりたるか思ひ溢るる眼も胸も
100925
 日中の共に滅びよ人住まぬ小島争ひ戦交へて
100928
 見るたびに丈伸びゆきて驚きぬビルの狭間のスカイツリーは
100929
 老いてなほこころ躍りぬくれなゐの彼岸の花に揚羽の舞へば
100930 
 宵闇の迫るを知るや咲き浮かぶ彼岸の花はくれなゐに燃え


コメント

日々歌ふ1008(42首・俳句1句)

2010-12-19 14:36:16 | 日々歌ふ2010

100801
 俳聖の跡をたどれば月山に雪は残れり夏にしあれど
                *
 雪消えし富士の高嶺に緑見ゆ赤紫の肌に混ざりて
 富士近き山路に咲けるとりどりの花と遊びて時忘れけり
100802 
 花を愛で行きつ戻りつ月山の山路たどりぬカメラを友に
100803
 山荘のテラスで遅き朝餉とる吾らをつつむ静かな時の
100806 
 ―<六五年目のヒロシマの日に>
 世界一忍耐強き人びとと被爆者呼びぬ秋葉市長は
 核のなき世界生(あ)るるを誰よりも待ちてしあらむ被爆者たちの
100807 
 マンションの谷間に遠く見はるかすスカイツリーの日々に伸びゆく
100808
 月山の嶺を下れば群れ咲けり黄苑(キオン)・風露のせせらぎのごと
                *
 泥酔し電車に轢かれて死ぬ死をば姻戚遠きをのこ死にたり
 他人事と思へぬ節のぜつたいになきとは言へずもの思ひけり
100809 
 亡き父のふるさと壱岐に行かばやと改め思ふナガサキの日に
100811
 月山を無事登り終へ満ちたりてリフトに憩ふ古き友らも
                *
 西欧の魔手を逃れて近隣のアジアに吾ら魔手伸ばしけり
 始めしは西欧なれどそれを真似われらも喰ふアジアの人を
 土地・人と富と文化を荒ぶりて盗みしつけを今さらに知る
100812 
 周平の遊びし川を見し山を訪ねゆきけりみちのく深く
100817
 雄大な富士を仰ぎつ高原の生物(いのち)を愛でて山路さすらふ
100818
 虫もまた生きとし生けるいのちゆゑ近しく見ればかなしかりけり
100819
 ほの暗き山路をゆけば草なかに一本(ひともと)紅くナデシコの舞ふ
100820
 吾がために咲くにはあらぬ花なれどしばし許せよ片し思ひを
                 *
 五月雨を集めて早き川なれば難所のさぞやと偲ばれにけり
100822
 ―<韓国併合百年の日に>
 イギリスをアイルランドが抜くごとく吾ら抜かれむいづれ静かに
 台湾を韓国を旅し思ひけりよくぞ奪ひぬかく広き地を
 台湾と朝鮮盗む戦をば欺き来る自衛のためと
 隣国を呑み込む年に縊(くび)られし秋水思ふ緑亭思ふ
 啄木が墨で消したる半島の北に生きゐる民を忘れじ
                 *
 虫食ひの青葉に描く絵模様はルオーかミロか目を凝らし見ぬ
100823
 半世紀バッハのチェロを聴きつづけけふもまた聴くいまだ飽かずに
100824 
 六十の半ばを過ぎて日々走るくらしをかつて思はざりけり
 老ひてなほ鍛ふる余地のあるを知る死も衰へも不可避にあれど
100825
 夏山やただ一葉の散り紅葉
100826
 眼裏にアゲハの舞ひて兄追ひし幼き夏の日々の思はる
100827
 ―<闇将軍の民主党代表選出馬の報を聞きて>
 水腐る小沢の荒れて狂ひ舞ふ鳩の羽音に菅(スゲ)も波打つ
 はやばやと民が主(あるじ)の看板の剥がれ落ちゆく音のさびしき
                 *
 野の瓜の蕾を水に浮かべ待つ白く妖しく花咲く夜を
100828
 灼熱の地と化しける列島に色いや勝る色濃き花の
100829 
 盟友と呼びうる朋ら吾にあり一夜来りて清飲懇話す
                 *
 浮草の緑の褥(しとね)に眠りけりノウゼンカヅラの朱(あけ)の骸(むくろ)は
100830
 身をかがめ顔をば寄せてガガイモのヘクソカヅラの花愛しまむ
 会へぬかとあきらめをりし夏花の朱く咲きゐぬ草むら深く
 声あらば名誉毀損を訴へむヘクソカヅラもハキダメギクも
100831
 夏に咲く水仙ありて惑ひける花咲く紅のやさしき色に


コメント

日々歌ふ1007(32首・俳句1句)

2010-09-19 22:05:48 | 日々歌ふ2010

100701 
 人生に第二にはあれどビールには第二のなくて第三のある
100704
 なぜならむヤブカンザウの花見れば胸底ゆ湧く眠る思ひの
 時空超え飛び来たりけむ玉虫のふいに止まりぬ吾が眼前に
                  *
 友の母手打ちし蕎麦のほのかなる香り甘さに昼餉満ち足る
100705 
 翅黒く肌あを光る細き身の静かに憩ふ繁る水辺に
 青き葉をつかの間白く粧ふと知りてかなしき半夏生見ゆ
100706
 かぜふけどなゆれそゆれそネジバナよマクロのレンズにとらふるまでは
 ひたぶるにシロツメクサの蜜を吸ふちひさき蝶の赤き夏翅
100707
 戦世の末期に生(あ)れし吾もまた虱飼ひけり坊主頭に
 鉄砲や槍より稗をわれ好む雀につづく雑草(あらぐさ)の名に
100708
 見沼野にヤブカンザウの咲き群れて妖しく招く真昼間われを
100709 
 ザリガニを食する習ひありしかば餓鬼の日々にぞ喰らひしものを
 野の花に白蝶とまり蜜吸ふを息止め撮りぬ身をばかがめて
100710
 ほの暗き木陰にゆれて紅白の花水引の咲き初めにけり
 原産ははるか南アにあるといふ朱の花高く野辺に咲き燃ゆ
100711
 雨蛙蓮(はちす)の花で雲見かな
                  *
 雑草(あらぐさ)を手折れば穂にぞ止りゐぬちひさき虫の未知の姿で
                  *
 千載に一遇ならむ政権の交代無にし民主カン敗
100712 
 秘めやかに葦の根本に虎の尾の白く咲きけり踏む者もなく
                  *
 国民は己に似合ふ政府しか持てぬと苦く誰ぞ言ひける
100714
 家と屋の微妙なちがひこの国の政治に極む悲しからずや
100715
 梅雨明けの近きを告げて朱に咲かむ姫檜扇の水仙の花
100716
 玉虫の五色妖しく飛び来り幼き日々に吾を連れゆく
100718
 はや里に下りて来るかアキアカネ梅雨明け近き見沼の里に
100719
 虫取りの網にし代ふるカメラもて野にぞ遊ばむ老ひてふたたび
 指先を回す代はりに顔隠しマクロレンズでトンボを狙ふ
 われもまた蓼食ふ虫か野の蓼の花のみ愛でて茎は食はねど
100720
 夕顔も待宵草もしのばれぬ紅の花持つ夕化粧の名に
100721
 東京の十六傑で教へ子の球児が夏は燃え尽きにけり
100722
 ―<「熱中症」といふネーミングに違和感を覚えつつ>
 「熱中」に濡れ衣着せて列島の猛暑酷暑に連日うだる
100723
 逃げ場なき夏陽の猛く熱風の日陰に入れど吹きわたりけり
100724 
 珍らかな巨大な花の咲くといふニュースに吾も躍らされけり


コメント

日々歌ふ1006(33首・川柳2句)

2010-09-16 17:11:20 | 日々歌ふ2010

100601
 夏草の早くも猛き川土手にやさしかりけりアカツメクサは
 赤黒く桑の実熟れて生りをれば思はず知らずもぎて口にす
100602
 食めるときその花をこそ思はざれジヤガイモに咲くかそけき花を
 どこまでも白く清らな花ならむ今年も咲きし梅花空木は
                *
 情けなやああ情けなや民主党
 罪深しああ罪深し民主党
100603
 ―<陶芸家「大江憲一展」5/29~6/5(浅草橋・ルーサイトギャラリー)>に寄せて
 猪(シシ)の出る山間深く陶房を若き奇才の移し構へぬ
 頼みゐし白磁の皿の八寸に作家込めけむ軽み気品を
 絶品の醤油注しにぞ織部まで加へにけりな大江憲一は
100604
 ―<鳩山から菅へ首相の代る。茶番にあらずや>
 「聞く耳をもたぬ」の主語が国民とのたまひ去りし首相ありけり
 理想にも空しきものとパワフルな二つがあるを首相知らざる
 依存から自主への理想空しかり武力を基に語るかぎりは
 列島を武力によらず守る道求めぬかぎり平和来らず
 ガンジーやキングのごとき政治家の出でよせめても湛山ほどの
100606 
 ―<「第46回六無月東京喜多(北)マラソン大会」10キロに参加して>
 炎天の荒川土手をひた走る老若男女あまたにまじり
 晴天は炎天となり川土手を走る吾らをいたぶりにけり
 酔狂と言はば酔狂炎天の川土手走る老若あまた
 酔狂のひとりとなりて十キロの六十路走れば汗にまみるる
100608
 昼顔をマクロで撮ればオキーフやドヌーブの面(おも)ふいによぎりぬ
100609
 梅雨入りも間近にあらむ紫陽花の咲き濡れにけり夜来の雨に
100611 
 梅雨入りの迫る晴れ間に花求め友と旅せむちひさな旅を
100613 
 pension(年金)で暮らしつ吾はcasa(家)とふmansion(豪邸)に棲む不思議の国で
 年金の重さ軽さを思ひつつ六十路を旅す友とふたりで
100616
 夕立の上がるを待ちて走りけり高温多湿日本の夏を
 全身に滴る汗も心地よく老ひて楽しむ夏には夏を
100619 
 ―<「ルーシー・リー展」(国立新美術館)を観て>
 いつしかにルーシー・リーのブレイクすうれしひやうなかなしひやうな
100620
 暮れなづむ秩父の里にしらじらと静もり広し蕎麦の畑は
100621
 膝抱きてなにを思ふや天(そら)仰ぎ羅漢のおはす山路の角に
100622
 田植え済む棚田の光り産卵を蜻蛉終へけむ畔(くろ)に翅(は)を止め
100625 
 幼き日網もて追ひしキアゲハを老ひてなほ追ふカメラのレンズで
100226 日々歌ふ
 ―<「伊藤若冲 アナザーワールド」展(千葉市美術館)を観て>
 天才の画業をつひに実物で確かめ得たり彼の若冲の
100628 
 からつゆの強き陽ざしに鮮(あざ)らけく雑草(あらぐさ)咲きぬ花くれなゐに
100629 
 秘めやかに白く清らに咲く花を誰ぞ名づけしヤエドクダミと
 非正規の花にはあれど美しく桔梗草咲く植物園に
100630 
 虹のごと合歓の花咲き胡蝶舞ふ真昼間あそぶ幸のありけり


コメント (2)

日々歌ふ1005(25首・俳句2句)

2010-09-16 16:53:00 | 日々歌ふ2010

100502 
 ―<四十数年前に吾妹の留学せしカリフォルニアから、ホストシスターのリンとアールの夫婦が来日して>②
 高山を白川郷を五箇山を経めぐり旅す米人連れて
 豪雪の辺境ゆゑぞ合掌の民家残れる越中・飛騨に
 墨染めに美(は)しく濡れけり高山の古き家並みはそぼ降る雨に
100503
 大戦の遺産を超えて九条の世界遺産となる日夢見む
100505 
 水渡る風に吹かれつ不忍の池畔走れば吾(あ)が年齢(とし)忘る
100506 
 わが姓の目良(めら)の一字は米や布、妻や女に替へうるもよし
100509
 奥飛騨の秘湯の宿の窓辺にぞ見ゆるはずなる槍岳求む
100511 
 ―<ポン・ジュノ監督「母なる証明」を観て>
 奉俊昊(ポン・ジュノ)は怪物(クウェムル)ならぬ傑物(コルムル)と「母なる証明」観てぞ知りたる
 韓国の「黒澤」といふ評価知りさもありなむと胸のときめく
                 *
 四方より北アルプスの嶺迫る奇跡のごとに雪雲晴れて
                 *
 白鷺やあをめる蓮の若葉浮く
100514
 遠出する朝の早きめざめかな
100517
 朝霧の束の間立ちて静もれり富士の裾野に五月の湖(うみ)は
100520
 国粋の狭きこころは持たざれど魂奪はるる富士を仰がば
100522
 高原の五月は遅き春にして枯れ草やぶり花の咲き初む
100524 
 秘めやかな朱き花こそかなしけれ山道行けばクサボケの咲き
100525
 あでやかに吾ら祝ひて蕾より芍薬咲きぬ一夜二夜で
100526
 純白の花の次第に紅さしてくれなゐ極むハコネウツギは
 名を知れば芹葉飛燕の花咲きて吾を招きぬ草むら低く
100527 
 特攻の無残な死をば誰よりも強ひられ死にき上原良司は
 特攻の野蛮な死をば誰よりも強ひられ死にき朝鮮学徒は
                 *
 軽やかに悲しみ秘めて咲き歌ふモーツァルトとふ一重のバラは
100528 
 不意打ちの敗血症に友の逝く抗癌治療の徒(あだ)となりてや
 リンパ腫の転移の悪き報せかと携帯聞けば友逝きけると
100530
 いつ死ぬかわからぬ齢になりたるを吾らに告げて友は逝きけり
                 *
 ―<「石田徹也―出版記念展及び五周忌展」(銀座・ギャラリーQ)を観て>
 地の底のカナリアのごと息絶えし画家にぞあらむ石田徹也は
100531
 麦秋の近きを思ふ青あをとビールの麦の穂波ゆれゐて


コメント

日々歌ふ1004(38首)

2010-09-12 17:01:13 | 日々歌ふ2010

100401
 めぐり来る春をよろこび咲く花の名を知りてこそうれしかりけれ
100403 
 ―<三十年来絶えて久しき腰痛の発症に>
 寝返りも咳のひとつもままならぬ一夜の明けて腰痛深む
 臥せしままわがバイブルの『辺境の食卓』読みてこころ野に寄す
 (『辺境の食卓』=太田愛人著、中公文庫版、1981年)
100405
 たかが腰されど腰とて二日ほど横臥強ひられものをば思ふ
 存在を気づく場所なき身体こそ健康なれと更め知りぬ
 腰元を去れど痛みを忘るまい未だ旅路の残りしあれば
                *
 風強み柳のあをく吹かれゐる見沼の春もかなしかりけり
100406 
 まぶしきは青きみ空にさみどりの芽吹くいのちのなほに浮かびて
100409
 ―<青天下、満開の桜と菜の花を権現堂堤に訪ひて>
 晴れ渡る菜花の海に満開の桜の浮かぶ春のありけり
100411
 ―<井上ひさしの突然の訃報を哀しみて>
 小田の逝き加藤の逝きて残さるる巨人のひとりまたしても逝く
 (小田=小田実、加藤=加藤周一)
 三日後の「夢の裂け目」が追悼の舞台となるを予期せざりしも
100412
 荒ぶりし古き川辺に時流れ菜花咲き満つ春もうららに
 少年の何を思ふか菜花咲く川辺の遠く独り立ちゐて
100413
 自転車を菜花のなかに乗り棄てて河原に遊ぶ暮らしうらやむ
 樹々草の春をよろこび薄紅に黄に紫に咲き満ちをりぬ
 彼の崋山描きし石戸の蒲桜今に伝へてなほ咲きにけり
 一本(ひともと)の巨木となりて江戸の世に盛る桜のさきたまに咲く
100414 
 落陽の近きがゆゑか色まさる桜満ち咲く堤ありけり
 さきたまに幻境ありて百年の樹齢重ねし桜枝垂るる
100415
 千本を越ゆる桜の咲き満てば晴れ間出でざる空うらみけり
 水面には花の筏の流れゆく川辺にあをくアイリスの咲く100416 日々歌ふ
100416
 定年後聴く音楽のいつしかにモーツァルト以前バロックに偏す
 時空超えバッハ、テレマン、コレルリら吾(あ)が身の裡の襞に沁みいる
 後輩のよくぞ呉れけるヴィヴァルディの全集CD四十枚も
 なによりも器楽の曲をわれ好む。次いでミサ曲、信仰ぬきで。
 シュッツよしゼレンカもよし聴くほどに時空信仰すべてを超えて
 人間でありさへすれば通じ合ふ深き響きに吾は満たさる
100418
 ―<義父の墓参で富士霊園を訪ねし折、文学者の共同墓に立ち寄る>
 今回も黒き柊二を守るごと英子の文字の朱々と見ゆ
 別姓を貫き生きむ赤文字の鹿野政直と堀場清子は
100419
 散りてなほ水面に美(は)しき花びらの風に移ろひ人をいざなふ
 つつましく面を伏せれどたわわにぞにほひにけりな八重の桜は
100422
 巨樹もまた春をよろこび空高くいのち新たに芽吹きをりけり
 燃ゆるごと朱に染まりて咲く花を近寄り見ればツツジと知るも
 早咲きの花の骸はむらさきにやすらぎ眠る草を枕に
100423
 ―<四十数年前に吾妹の留学せしカリフォルニアから、ホストシスターのリンとアールの夫婦が来日して>①
 アメリカゆ親しき夫婦訪ひ来り我が家に泊る十日の日々を
 留学で芽生えしきづな時を越え吾妹育てぬホストファミリーと
 サチとリン、一年(ひととせ)ともに十代を睦みあひけり姉妹のごとく
 数年に一度は海を越え合ひて三十路四十路の五十路に至る
 リンたちの住むと思へばアメリカを吾らなしえずひとからげには


コメント

日々歌ふ1003(64首)

2010-09-08 16:22:35 | 日々歌ふ2010

100301
 本文もろくに書けねど「あとがき」をせめて書かばや残る頁に
 山茱萸(サンシュユ)の花に谺す幸薄き祖母の唱ひし稗搗節(ひえつきぶし)の
100302 
 ―<隣国が独立を祝ふ日に、朝鮮伝来といふ木瓜の清らに咲くを見て>
 春されば木瓜の清らに咲き匂ふ故国奪ひしこの国でなほ
                  *
 微かなる歯ぎしりなれど吾よりもごまめ勝れり田作りも為し
 音高き歯ぎしりすれどごまめにも吾は劣りぬ田作りもせで
 絶対の絶対になき絶対を生きぬくほかに道のあらむや
 指先に指紋のあれば声帯に声紋ありて人はひとなり
100303
 ―<曽祖父半谷清寿(はんがい・せいじゆ)が植え初めし染井吉野の名所となるみちのくの故郷を思ひて>
 夜(よ)の森の花の下にて春死なむそのふるさとの望月のころ
                  *
 雲南ゆはるか来りし黄梅のしだれ咲き初め空に浮かびぬ
 世界から第二が消えて第一に第三現る格差拡がり
 ソムリエやシェフの流行れど若者は第二外語にフラ語選ばず
                  *
 ―<ピレシュとデュメイの名デュエットを懐かしみて>
 ピアノ弾くピレシュの時にヴァイオリンのデュメイを見上げ微笑みにけり
100304
 ―<『二十億光年の孤独』の詩人に捧ぐ>
 宇宙的孤独を糧に谷川の詩人となりて今に涸れざる
                  *
 晴々と最後の花を自足気に咲かせをりけり寒の桜は
100305
 千秋に一日(ひとひ)悶ゆる恋知らで若者あまた生きてをるらし
 上野をばウイノと訛る放送の耳になつかし常磐線の
 その辺の水たまりにもアメンボの泳ぎをりけり雨の上がれば
 よろこびて蜜吸ふ鳥の早咲きの桜に遊ぶ春は来にけり
 雑花(あらばな)の低くちひさく野に咲けばわが心辺に春風の立つ
100306 
 なにもかも加齢のゆゑと言はれては我等ご機嫌麗しからず
 人知るや重量挙げの選手らの指の光るをマニキュア為して
 食ふもよし吹かせるもよしなべて世は泡うたかたに満ちてしあれば
 人生を夢まぼろしとは思はねど旅とし思ふこころ強まる
                  *
 ―<自由民権運動の高まりにフランス革命前夜を見し岩倉具視の建白「府県会中止意見書」(明治十五年)を思ひて>
 寸鉄を帯びざる民を恐怖にて戦慄させよと岩倉言ひき
100307
 カルガモの陸(おか)に上がれば鮮やかな朱塗りの脚の見えにけるかも
 アメリカゆ吹き荒れ来る烈風に深手負ひたりこの列島は
 寅さんの「全部持ってけ!ドロボー!」のせりふ浮かびぬバナナ安きに
100308
 若き日ゆ胸底深く眠りゐてふいに目覚めぬ恥ずべき記憶の
 赤腹も白腹もゐて黒腹はをらぬのをかし鳥の世界に
 人波に飲まれにけりな渋谷なるスクランブルの交差点にて
100309
 春弥生やらずの雪が舞ふ中を吾走りたり酔狂なれば
 人訪はぬ土手にちひさき紫の花の咲き群れ吾を呼び呉る
 本歌取る業とはつまり骨を換へ胎(こぶくろ)奪ふことにしあるか
 極小とゼロとを常はイコールとみなし生くれば時につまづく
 福多き島にしあるかみちのくのわが故郷の県の名前は
                  *
 ―<「学問のすすめ」で喝破せし強国による侵略批判を、福沢諭吉の果たして一貫せしやを疑ひて>
 腕力で非道はたらく力士にぞ侵略国を諭吉喩へぬ
100310 
 重慶よドレスデンよと東京のわれら思はむ三月十日に
                  *
 草萌えて不法投棄のゴミさへも美しく見ゆオブジェのごとに
 カモメらよ恐れずに飛べこれまでに吾飛ぶ鳥を落とすことなし
100311
 荒ぶりし川の静もり金色にゆらめき流る吾をいざなひ
 春野辺ゆ摘みて来りし芥子菜を炒め食みけり夕餉豊かに
100312
 道の辺がイヌノフグリの咲く青で埋めつくさるる春のありたり
 今さらに変ふる能はぬ名にし負ふ道の辺青きイヌノフグリよ
100313
 魚獲りて丸呑みなせる青鷺の眼鋭き春もありたり
 モニターとキーボードとの間にぞ愛猫眠る吾がパソコンの
100315
 路地裏のちひさき空も青々とハクモクレンの咲くをよろこぶ
 一本(ひともと)の高き辛夷に咲くを待つあまたの蕾今や遅しと
100316
 光る陽をイヌノフグリの首伸ばし求め咲きゐる春に出会ひぬ
100317
 餌をねらふ眼鋭き白鷺の瀬をば歩みて水面ゆらめく
100318 
 目を凝らし心静めて見渡せば春の息吹に辺り満ちゐぬ
100320
 ―<没後400年 特別展「長谷川等伯」(東京国立博物館)を観て>
 松林の一図のなくば等伯が天与の才も空しく思はむ
100322
 予期もせで川の堤を埋めつくす菜花に出会ひ吾を忘れぬ
100323
 菜花摘む子らの遊びて川土手に春は来にけり色鮮やかに
 菜花咲く入間の土手を銀輪で駆くる人らの絶ゆることなし
100325
 さきたまの民家の庭に一本(ひともと)の辛夷の高くたかく咲きゐぬ
100326
 ほんのりと紅さす花の清楚なる大樹となれど辛夷の花は
100328
 肌寒き春にしあれど陽の降りて枝垂桜は咲き満ちにけり
 足下にシャガの咲き初め花びらにこの世のけがれ未だあらずも
100330
 定番の染井吉野に先んじて味はひ深く咲く花のあり
100331
―<定年退職から丸一年経つ日に>
 野に遊び地を走りして苦き世の六十路を行けば春はめぐりぬ
 草と木と人と交はる贅沢の待ちてをりけり年金暮らしに
 野にあれば飽きることなき吾が性(さが)を秘めて生きけむ六十余年
 河原辺に芥子菜摘みてほろ苦き春を味はふ幸もありたり
 道の辺のわづかな土に根を張りて暮らすいのちに吾も続かむ


コメント