081201
白無垢の鷺の静かに浮かびゐぬ午後の光に人世拒みて
晩秋の陽のやさしくて民憩ふ御苑とふ名の都心の庭園に
(庭園=には)
081202
真青なる空に銀杏の色深き葉群の光り人世照らしぬ
081203
ユリノキの巨木連なり天空に紅葉なほ燃ゆ残り火のごと
081204
あたたかき陽ざしにうかぶ朱の色のうれしき冬の初めなりけり
081205
―<三十六歳で逝きし父の五十八回目の命日に>
父よりも二十八歳年上になりて迎へる父の命日
寒き日の寒き朝に父逝けばわれら泣きたり炬燵に入りて
何悔やみなにをば願ひ父逝きし戦終はりてわづか五年で
亡き父がわが子の世代といつしかになりつる時をわれら生きたり
亡き父の祖父母の世代となるほどにせめて生きむかわれらしぶとく
*
欅にも実の生ることをヒヨドリの教へくれけり冬の朝に
081206
―<加藤周一の死を悼みて>
恐れゐしこの日来たりて天空ゆつひに墜ちたり知の巨星の
時空をもジャンルも超えてものごとを巨人の深く解き飽かざりき
若き日に『日本文学史序説』を読みて知りたり巨人の知をば
肉声を聴きしは一度のみなれどその書を求め学びきたりぬ
ぽつかりと知の天空に穴あくを誰ぞ埋めむ巨人亡き後
ミネルヴァの梟のごと夕陽に飛び立つ人の永久に立たざる
(夕陽=せきやう)
081207
三℃まで冷え込む朝の幸ならむ紅葉の光る朱に染まりて
081208 日々歌ふ
―<67回目の日米開戦の日に>
誰ぞ知る何ゆゑ互ひに殺しあふ戦なせしや今となりては
海を越え数百万を殺しあふ理由など民にあるはずもなく
(理由=わけ)
ヒロシマを真珠湾をば忘るるな日米互ひに立場入れ替へ
*
赤に黄にもみぢ彩る蒼空の異界を仰ぐ首も折れよと
081209
赤に黄にもみぢ盛りしめくるめく異界に遊び現し世忘る
(現し世=うつしよ)
081210
見上ぐれば虚空に紅く人型のもみぢ踊りて季の移ろふ
(季=とき)
081211
都路に銀杏の散る葉還るべき寸土のなきぞあはれなりける
081212
杜奥に陽ざしとぼしくもみぢ葉の紅はるか黄にとどまるも
081213
残されし黄葉光るを惜しみけり欅、銀杏の高き梢に
(黄葉=もみぢ)
081214
降る雨の冷たくあれど散り落ちし紅葉を洗ふ悼むがごとに
081215
降らば降れ晴れなば晴れよ天地の よろこび生きむ草木のごとに
(天地=あめつち)
081216
生徒らのレポート読みて半徹夜なしける吾の業の深きよ
081217
木洩れ陽のわづかにさせば杜奥に名残りの紅葉光り誘ふ
冬枯れの辛夷の枝は人知れず花芽にあふれ空を覆ひぬ
081218
冬の陽の沈む束の間ひと知るや鉄路を染めて空の燃ゆるを
081221
大陸の楓の紅く列島に掉尾をかざるもみぢの季の
081223
葉の落ちしユリノキ仰ぎ行く年を想ふころとはなりにけるかも