雪の朝ぼくは突然歌いたくなった

2005年1月26日。雪の朝、突然歌いたくなった。「題詠マラソン」に参加。3月6日に完走。六十路の未知の旅が始まった…。

日々歌う 2007 その4(10月~12月)

2007-12-27 10:17:02 | 日々歌ふ2007

071001 
 フィヨルドに長き影さす満月のムンク好みて描けるごとに
 冬長きノルゲに生きて夏の夜に八十路の女は手袋編みぬ
 (女=ひと)
071002 
 ジャガイモの収穫待ちて青々と葉の繁りをりノルゲの夏に
071004 
 ひと過ごす短き夏を湧き消ゆる白雲の下フィヨルドの辺で
                 *
 鳴く虫の数多にあらむ杜の端の吾が耳聾す蝉声のごと
 カラタチの実にしぞあらむ街の端に見ゆれど知らず花の咲けるを
 夏猛き今年にあれば十月に入りてなほ咲く彼岸の花の
071006 
 黄に浮かぶのどかな円きカラタチの実をば守れる棘の鋭く
071008
 ―<山中湖にて>
 赤き実を数多実らせ名も知らぬ山の木々告ぐ秋来にけりと
 やむなしの思ひもあれど翅刻む文字のあはれよアサギマダラよ
071009 
 夕さりてやうやう影を見せ給ふ富士は富士なりおぼろにあれど
 背を低め秋野をゆけば星のごと小さき花のそちこちに咲く
071010 
 初秋の富士の裾野に季節狂ふ向日葵あまた咲き初めにけり
 (初秋=はつあき、季節=とき)
071011 
 ケーナ吹くペルーの民の二人ゐて上野の山にコンドル飛びぬ
071012 
 夕空を仰げば高く覆ひける羊の雲の群なすごとに
071013 
 ―<「世界的建築家」の急逝を聞きて>
 瀬をはやみ何にせかるる黒川の涸れてはすゑにあはぬとぞおもふ
                 *
 嘴で渦をつくりつ小魚をねらふコサギの眼荒ぶる
 暮れなづむ空の黄金に染まりゆき鴉の憩ふ群を離れて
071014 
 久々に二日続けて六キロを走れば思ふ人生の秋を
 (人生=ひとよ)
071015 
 けふもまた三日つづけて六キロの秋の六十路をひた走りけり
 六十の坂を過ぎなほ鍛錬をまじめに為せば足腰応ふ
071017 
 冷え来る秋の六十路を走りなばわが老躯より汗の滴る
071018 
 木洩れ陽に浮かぶ奇怪な大蜘蛛のわが脳内に入りて蠢く
071019 
 先駆けて赤く染まりぬ一枝の櫨のハゼなる燃ゆるがごとく
071020 
 吾を抜き若き女性の軽々と走りさりゆく秋の夕べに
 赤き実の想ひを超えてたわわなる去年に見初めしピラカンサスは
 (去年=こぞ)
071021 
 うつすらと紅さす薔薇の七重八重匂へる花に誰を想はむ
 鮮血のしたたたる色に薔薇咲けば彼方に浮かぶビルの霞みて
071027 
 原爆の廃墟に休むアオサギを仰ぎて想ふ人世の愚をば
 斜め射す夕陽に染まり原爆の廃墟の美しく見ゆる悲しも
 (美しく=はしく)
 鶴となり天駆けゆかむ秋空にサダコは立ちぬ高く手を挙げ
071028 
 川原にてドームを撮れば被爆者の語りかけくるその日のことを
 奢る果て滅びし者ら宮島の海に建てたる朱の鳥居よ
 (朱の=あけの)
 宮島の潮ひく海にコサギ来ぬ鳥居の影の朱を踏みつつ
 (朱=あけ)
071029
 <阿佐ヶ谷ジャズストリート2007 土井啓輔・谷川賢作デュオ 於:みや野>
 尺八とピアノのデュオの火花散る嵐の夜の小暗き部屋に
071030 
 喧騒の清水寺の一角に黒き金具の朱の色に映ゆ
071031 
 無縁なる世界にあれどベンガラの色なつかしき一力茶屋の
 (一力=いちりき)
071101
 白砂に十五の岩のただ浮かび生れし宇宙のしんと静もる
 (生れし=あれし)
 金閣を産みし男の倣岸な内面今に木像伝ふ
 銀閣と呼ばるる寺に金閣の虚飾のかけらなきぞ床しき
071102 
 ユリノキの形親しき葉を染むる黄の色教ふ秋の深きを
071103 
 一日行く甲斐路の空の晴れ渡り紅葉も人もあまた溢るる
071104 
 ひとつづつちひさき珠に雅なる紫にほふ晩秋の陽に
 (晩秋=おそあき)
 血のごとき櫨の紅葉を心待つ人生の秋の深まりゆけば
 (人生=ひとよ)
                 *
 秋深みものみな覆ふ霧立ちぬいざ生きめやも見沼の里に
                 *
 密室で大連立を謀る果て党首辞めむと小沢ザワザワ
071106 
 赤々と一茎のバラ秋の陽に光りて咲くを忘れがたかり
071107 
 山陰の暗き紅葉を惜しみ見ぬ照る陽に燃ゆる朱を想ひて
 (山陰=やまかげ、朱=あけ)
071108 
 木洩れ陽のわづかに照らす櫨の葉の綾なす影ぞかなしかりける
071109 
 主なき蜘蛛の巣揺るる虹色に生きんがための戦終はりて
 陽射しなき暗き木の間に吾ぞ知る大蜘蛛浮かび餌喰らひしを
071110 
 桜枝のしだるる先に浮かぶ葉のいのちの際を彩りあらむ
071111 
 フラッシュに暗き木陰で珠光るあまた小さきムラサキシキブの
 吉保が夢の跡なる庭園に錦繍ゆらぐ池面を見るも
                  *
 コサギ舞ふ吾の写真に<羽衣>の舞台を見しと姉の言ひ来る
071112 
 一枝の朱の葉なれど季節めぐる定めを色にこめてぞ深き
 (季節=とき)
071113 
 どこまでも空晴れ渡りユリノキの黄葉を仰ぐ幸せのある
 (黄葉=もみぢ)
071115 
 メキシコの空もかくやか丈高く木立ダリアの乱れ咲きゐて
 もみじ葉の赤く混じりて野牡丹の紫深くいまだ咲きけり
071116 
 秋の陽の芭蕉のあをき葉脈を浮かべ照らしぬ独り仰げば
071119 
 長瀞の闇を彩る紅葉の狭間に高く月の浮かびて
071120 
 秩父路の民家に光る干し柿のあまたに想ふ幼き日々を
071121
 急峻な山間を背に一体の地蔵の座して秋ぞ深まる
 (山間=やまあひ)
071122 
 猛禽もかくやの眼純白の冬毛まとひてコサギのなせる
071124
 ―<山中湖にて>
 惜しげなく一糸まとはぬ裸身をば見するがごとき富士を仰ぎぬ
 ジグザグの人跡残し富士山の頂しろく雪を冠りつ
071125 
 稜線の彼方に富士の霞み立ち秋陽に光る雲の迫りぬ
 頂で出会ひし人の山路をばマウンテンバイクで登り来つ
 富士を背に吾妹の立つをわれ撮れば風吹く尾根に秋陽注ぎぬ
 忍野なる俗化はげしき八海の喧騒こえて富士は暮れゆく
 (忍野=おしの)
071126 
 山中の湖を覆ひし朝霧の晴れゆく様に寒さ忘るる
 (湖=うみ)
 吊るされしトウモロコシの懐かしき色合ひ浮かぶ人の頭上に
071127 
 朝霧の晴れゆく湖にワカサギの釣り舟浮かぶ色鮮やかに
 (湖=うみ)
071128
 削りゆく武甲の山にセメントの工場上ぐる煙たなびき
071129 
 晩秋の山路下れば名も知らぬ可憐に赤き実の浮かび見ゆ
071130 
 柿の実のたわわにみのる秩父路の空は青かり雲は白かり
 赤き実の燃ゆるがごとく秩父路を照らして待てりいのちつなぐを
071201 
 鬱蒼と繁る木立の奥深く山茶花しろくほの浮かびけり
 捨てがたき色にぞ浮かぶ一枝の紅葉光りぬ冬の陽ざしに
071202 
 ナンキンの名をば冠りしハゼの葉の色づき浮かぶ日の本の地に
 山茶花の花弁のごとき大輪の異国の椿白く咲けるも
 この星の行く末思ふ冬さりてハゼの紅葉のかくも赤きに
071204 
 傾きし夕陽に映えて金色にゆるる池面をカルガモのゆく
 陽に向ひ銀杏の大樹の崖の端を黄に染めゆける葉群かなしも
071205 
 目覚むれば父逝きたりと母伝ふ われ六歳の今朝にしありき
071206 
 欅散るレンガの路に朝光のものみな照らす影の長かり
 (朝光=あさかげ)
                 *
 黄に染まる銀杏の大樹に背を向けてひた思ひけりロダンの<人>は
 プレートに笑ふ子どもら教師らのカレー市民の悲劇知らずば
071207 
 訪ふごとに数の勝りてユリカモメ冬を告げをり不忍池に
071208 
 彼我の民彼我の大地を血に染めし戦を想ふ愚か愚かと
                 *
 ひときはに鮮やかなりし駅前の桜紅葉のつひに散りける
 色紙で束ぬる香のくゆりゆく人のはかなき願ひをのせて
071209 
 陽に浮かぶ銀杏黄葉の重なりて枝垂れつ描く斑模様を
 (黄葉=もみぢ)
071210 
 虫棲みてふくらむといふイスの木の実をば手に取りヒヨンと吹かばや
071211 
 餌を求め巨鯉の上ぐる口元のぬめりに満ちて恐きものあり
071213 
 散り落ちるケヤキ葉濡らしひさびさの夜来の雨の地に溜まりける
 街灯を覆ひし笠の銀に光りてをりぬ雨の朝に
 (銀=しろがね、朝=あした)
071214 
 兄貴風吹かすを好むひと逝きてはや十一年の経ちにけるかも
 石垣の海に遊びつ兄逝きぬ母を追ふごと五十路半ばで
 兄貴風吹くこと絶えし年月をわれ生き老ひて六十路旅ゆく
                 *
 木枯らしに落ち葉の舞へば物影の朝日に濃きぞただにうれしき
071215 
 彼方なる高層ビルの沈みゆく天空遥か飛行機雲見ゆ
071216 
 寝につく前のひととき鴉らの姿やすらぐ高き梢に
 (寝に=いねに)
071217
 暮れ方の光る池面に羽づくろふ鴨の描きぬゆるる枝影
071218 
 何の木の隠れてゐるや戯れる案山子のごとに冬囲ひ立つ
 山茶花の樹影ゆらめき板壁に木洩るる冬の陽ざしぬくもる
 木登りに代はる遊具に少年の登るを見ればわれもうれしき
 人気なき閉園間際の庭園に池面を染むる夕雲を見つ
071219 
 暮れなづむ空に浮かびて三角の影美しき冬囲ひ立つ
 半月を仰げば白く輝きぬ大樹の幹の黒き狭間に
 夜更けてぞ窓辺に低く半月の黄も鮮やかに浮かびをりける
071220 
 不忍の池面を赤く蓮の葉の枯れてぞなほも埋め尽くしける
 イイギリのたわわな実り蒼天にあふれ浮かびて冬を彩る
 キャンパスの銀杏黄葉の辛ふじて残る一本撮る人ありて
 (一本=ひともと)
 かつてなき建物見ゆるキャンパスにわれ立ち想ふ変はらぬ我を
 夕陽浴び太き幹をば黄に染めて身もだふごとの百日紅見ゆ
071221 
 葉脈も虫喰ふ跡もかなしかり柏紅葉の夕陽に映えて
071222 
 残り陽に暗き朱色の照り映えて老鴉の名持つ豆柿なりぬ
071223 
 夕月の白くかかればユリノキの枯れ花かなし高き梢に
071224 
 吹き荒るる風に残り葉さらはれし欅の幹を朝陽染めゐつ
071225 
 ねがはくは桑港入り江に朝死なんその天地に陽の昇るころ
 (天地=あめつち)
071228 
 押しつまる暮れの一夜を四万峡に訪へば癒さる古き湯宿に
 (一夜=ひとよ、四万=しま)
071229 
 古きよき和室の意匠そこここに残して床し四万の湯宿は
 清流を渡る廊下に点る灯に来し方想ふ古き湯宿の
 鮮やかな欄干の朱も趣きをいやましにけり古き湯宿の
 奥四万の湖は光りて薄雪の峰みね映し静もりにけり
 (湖=うみ)
 人工の湖辺に冬の厳しくも住む人あらむダムを見張りて
 薄雪の水晶山に登らむと路をたどれば熊の出づると
 赤々と古きポストの塗られ立つ小泉政治の墓標のごとに
            *
 走りなば股間の節の痛むゆゑやむなく変ふる超速歩行に
0712030
 四万谷に隠るる歌碑の凡庸な歌をば記す茂吉の詠むと
 沁み出づる温泉ゆゑか石組みのすきまに生へし冬のさ緑
 (生へし=おへし)
 巧まざるアートかなしも山肌を無残に削り雪降る跡の
 暮坂の峠に立ちて寂しさの終てなむ国を牧水見しか
                 *
 時ならぬ風雨の晴れて陽のさせば冬の夕べの空は青かり
 冬陽さす染井の墓地の桜樹の苔むす幹はあをく光れり
071231
 行く年の夕べのあなた雪の舞ふ富士の浮かびて赤く陽に燃ゆ



コメント (4)
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日々歌う 2007 その3(7月~9月)

2007-12-26 15:29:48 | 日々歌ふ2007

070701 
 美しき日本といひて戦世のかつて想はむわが総理らの
 戦世の美化はなしたし米国と仲良くしたし悩ましきかな
 わが国に戦強ひたる米国といひつつ尾をばふるぞかなしき
 彼の戦肯ふ大和の魂極みふるあめりかに袖をぬらさむ
 (肯ふ=うべなふ)
 原爆で戦止むゆえやむなしと言ふも言つたりわが防相の
070702 
 何処よりわれら来りていづくへぞ去らむとせるか改め思ふ
070705 
 無窮花と彼の国びとの言ひ来る木槿の白く咲き初めにけり
 (無窮花=ムグンファ)
070706 
 人の世の真実告げて真昼間にカラスが啼くよアホウアホウと
 丈高く束の間咲けばむらさきの色ほのかなりアガパンサスは
 花訪へば向島なる公園のそぼふる雨に静もりにけり
070707 
 丈伸びし教へ子の背にその旨を告げれば子らは笑みてふり向く
 わが髭を触りに来る<悪童>らテストの前のまじなひと言ふ
 中三の数学すらも解きえぬと知りてぞ思ふ過ぎ去る時を
070708 
 ―<NHK「新日曜美術館」で角偉三郎のすでに亡きことを知りて>
 知らざりきああ知らざりき彼の器創りし偉人のすでに亡きをば
 (偉人=ひと)
 わが持てる角の遺せし椀などを洗ひ拭ひてしみじみ見つむ
 (角=かど)

070708「角偉三郎はもういない」(詩)

 今日の「新日曜美術館」はなんだろう。
 テレビをつけた。

 角偉三郎だった。

 「漆に生涯を捧げた」。
 ナレーションの過去形が、気になった。
 まさか、と思う。
 驚く。
 角偉三郎はすでにこの世を去っていた。
 2年も前に。
 まだ65歳だった。

 なんということだ。
 知らなかった。
 うかつだった。

 食い入るように、番組を観た。
 喪失感が襲う。

 手元にある偉三郎の漆の器を探す。
 朱塗大口椀。
 朱塗片口。
 朱盃二つ。
 飾り棚や食器棚から出した。
 丁寧に洗い、布巾で拭う。

 食卓に並べた。
 じっと見つめる。
 手にとってみる。
 その色、形、手触り。
 なんという懐かしさ。

 ああ、この偉三郎が死んだ。
 死んでいた。
 知らなかった。
 うかつだった。

 さびしい。

 角偉三郎がもういない。
 角偉三郎はもういない。

 さびしい。

070709 
 ―<茨木のり子『歳月』(花神社)に寄す>
 亡夫恋ふる三十年を秘めをりて詩人は逝きぬ<歳月>遺し
 (亡夫=つま)
070710
 夕光に浮かぶ蓮の花眠る眠りをひともいつか眠らむ
 (夕光=ゆうかげ、蓮=はちす)
070711 
 色強きヤブカンザウの八重咲けばもの狂ほしき画家の目となる
070714 
 人の世の汚れも知らで咲き濡るる木槿の花は白く光りて
070715 
 二階屋を月十万で借り住まふ異国の女に夕餉招かる
 (女=ひと)
 戦後建つ安き普請の家なれど楽しみ住まふ異国の女は
 飛び交ひし英語の会話半分もわからぬ吾も夕餉楽しむ
 見せくるる印に<祚麗瑠>と刻まれしソの字はハハハ践祚の祚なり
 (祚麗瑠=ソレル)
                    *
 ひと知るや真夏を前にもみじ葉の色深まりぬ季の狂ひて
 (季=とき)
070716
 ―<不忍池にて> 
 梅雨晴れの朝に訪へばほの紅き蓮の花はほころびにけり
 (朝=あした、蓮=はちす)
 一匹のトンボの姿なつかしく飛ぶな飛ぶなとレンズを向ける
 蜜求め花から花へ飛ぶ蝶の青き筋追ふ遠き日々より
070717 
 餌を狙ひコサギは白く池の面の深き緑に染まず立ちけり
 コンクリの醜き塔は夏空に束の間美しく聳え立ちけり
                *
 台風も地震も明日のわが身とて貫く想ひなきぞかなしく
070719 
 アメリカの殺めし民の血の色もかくやと恐るデイゴの花に
 草の葉にしばしを憩ふ緋の色のトンボが夢の色をば想ふ
070720 
 不意打ちに蜩高く鳴きて知る夏は夏にて悲しみあるを
 (蜩=ヒグラシ)
 梅雨明けを待つや待たずやアルプスのユリ咲き初めて紅薄く
 梅雨明けも待たずに咲ける萩見てぞ可憐にあれど誰よろこばむ
070721 
 利便をば求め求めてこの国にケータイあふれコンビニあふれ
 その昔立ち読みなせる街角のムサシヤ消えてマックとなれば
 生き残る街の本屋に立ち寄れど空しく眺む文庫・雑誌を
 岩波の書籍そろへし動坂の創文堂もつひに矢の尽く
 <イワナミ>の持ちし語感の消え去りて戦恐れぬ人の殖えゆく
                *
 山百合の気品を伝へ咲き匂ふハイブリッドの花華麗なる
 ほの暗き梅雨の木陰にヤブミョウガ首を伸ばして白く咲きける
 木洩れ陽がタマアジサイの群落を一瞬照らし消えさりゆきぬ
 (一瞬=ひととき)
 幼子の駆けくる庭園にあらざれど幼子ありて独り駆けくる
 (庭園=には)
070722 
 夏陽射し束の間照らす池の端で行く末思ふ蚊に喰はれつつ
                *
 ―<アメリカ映画「フリーダム・ライターズ」を観て>
 定年を控へ吾なほ共感す映画<フリーダム・ライターズ>に
 天職に近きにあるか教職のわれ生徒らを疎むことなく
070723 
 本の上に本がみづから乗るごとく山なす本のわが周りに
070724 
 地に落ちし末期の一葉照らしける木洩れ陽強く梅雨終るごと
 (一葉=ひとは)
 茂る葉を洩れ射す夏の太陽に応えて立てる楠を仰ぎぬ
 久々の陽射しに羽の乾きしや川鵜の岩に立ちて啼きをり
070725 
 水鳥の丸ごと魚呑み込むを見るたび思ふ味はひあるやと
 餓えをりし幼き吾のガツガツともの喰ふ姿父は恐れぬ
 もの喰ふ哀しき癖を幼子に刻みて戦いまも絶えざる
 (喰ふ=くらふ)
                *
 生ひ茂る木立の向かう光浴びもみじの緑夏を告げをり
070726 
 建物の一部でさへも写したき街並み稀な美しこの国
 (美し=うまし)
070727
 何党の宣伝カーぞ狂ひたる絶叫のみを残して去るは
 吉凶のいづれに出でむ大敗のアナウンス効果選挙迫りて
                *
 店前の床に置かれし沈金の小皿に惹かれ自転車降りぬ
 沈金の古き塗り皿七客のわれを呼ぶ値は二千円なる
 よく見れば吾を呼びける壷ありて益子・小鹿田か一期一会の
070729 
 光速と音速の差で雷の遠近知れと亡父は教へき
 (亡父=ちち)
 稲光走れば数を雷の鳴るまで数ふ六十路過ぎれど
 天地をどよもす雷雨去りゆけば槿の清く八重咲きにけり
 (天地=あめつち)
 期待こめわが一票を投じけりこの国覆ふ暗雲去れと
070730 
 小泉の尻馬に乗る独善の安倍政権を民見放せり
 これ以上力を安倍に与へなば危険と知りて民は離れぬ
 やうやくに民は気づきぬ現代の笛吹き男連れ行く先を
 米国と巨大企業の利益のみ図る政治に民は怒れり
 おごりなば民の怒りは汝にも向くを忘るな民主よ民主
                *
 激動の一夜の陰に巨人死す彼の小田実早すぎる死を
070731 
 夏の陽を待ちつ咲きなむ紅の愁ひも美しく芙蓉の花の
 (美しく=はしく)
 ジリジリと鳴く声押さへ風邪ひくやミンミン蝉の鼻詰まり鳴く
 ひと夏の夢にしあらむ吾が前を花から花へクロアゲハ翔ぶ
 わがために吾妹はぐくむデュランタの花咲き初めぬベランダ飾り
 色深き紫匂ふ野牡丹の花咲く頃になりにけるかも
 教へ子が発行人なるメルマガの届き驚くネット古書店から
070801 
 血の色に束の間空を染めゆきてこの星暮るるけふの一日を
 (一日=ひとひ)
 三代目有象無象の国政を仕切るほころび日々に新し
070802 
 うつすらと青みを浮かべ静もるる李朝の壷の丸み愛しき
 (丸み=まろみ)
 梅雨明けの強き陽ざしに野牡丹の色まさりにけりぬ いざ生きめやも
 夏雲のビルの谷間にムクムクと巨人のごとく湧き立ちにけり
 カラス舞ふ夏雲白き庭園に吾独りをり暇人なれば
070803 
 クマゼミもナガサキアゲハもヒョウモンもいつしか棲みぬこの東京に
 (ヒョウモン=豹紋)
 ヒョウ柄の南の蝶飛びじわじわと迫るアジアの夏、東京に
 燕の子らは束の間許されて巣籠り太るただに親待ち
 (燕=つばくろ)
070804 
 代々木なる杜の端紅く点々とサルスベリ咲く枝もたわわに
070805 
 ―<「アンリ・カルティエ=ブレッソン 知られざる全貌」展(国立近代美術館)を観て>
 真実の顕れ出づる一瞬を捕らへ写せり彼のブレッソンは
 モノクロの写真ならでは表せぬ真実ありてブレッソン撮る
                *
 森道に標識浮かび自転車と散歩の人の交差告げをり
 名も知らぬちひさき花のくれなゐに咲くを写しぬ身をばかがめて
070806 
 ユリノキの樹影ゆらめく陽の強き朝にありてヒロシマ思ふ
 (朝=あした)
070807 
 白咲きの美しくはあれど百日紅たわわに咲けよ夏くれなゐに
 (美しく=はしく)
 ヒナたちの口開け騒ぐ一瞬に親鳥去りぬツバメ返しに
070808 
 虫追ひしヤンマのあはれ小魚を狙ふコサギの餌食となりて
 望遠で交尾なせるを撮りて知るアブがいのちもかけがへなきを
070809 
 禊萩の花も咲きけむナガサキを劫火の焼きしあの夏の日に
 (禊萩=ミソハギ)
 二発もの原爆使ふ彼の国の罪をば問はむわが罪認め
                 *
 いま一度ツバメ児見むと訪ひしかばすでに跡なく巣立ちにしけむ
070810 
 ―<池袋・笹周で一夜ブログ仲間と飲める>
 野性味のあふるる鴨も酌み交はす酒、言の葉も一夜うましも
 (一夜=ひとよ)
070815 
 夏空の蒼に染まりて浮かび立つ富士は不二なり影淡けれど
 富士の野に蜜吸ふ蝶を追ふわれの虫取り網をカメラに替へて
 山中の至るところに丈高くハナウド咲きて夏の盛りぬ
 炎天の山道ゆけばたまさかにオニユリ咲きて風にゆれをり
                 *
 戦世に生れし吾らを呼ぶことばなきまま過ぎぬ六十二年
 (生れし=あれし)
 改憲の歯止め生れしや参院の与党惨敗クーキ変はりて
070817 
 世直しの鬨の声をばかつて聞く秩父の寺の野仏訪ぬ
070818 
 一茎のキバナコスモス育みしいのち伝へむ蜜吸ふ蜂の
070819 
 <認知症><熱中症>と誰名づく言の葉の妙微塵もなくに
                 *
 ノルウェイの初旅控へ体力を増さむと走る猛暑去らねど
 五キロほど走れば汗のしたたりて総身濡らしぬ毒素もろとも
 懸垂も腕立て伏せも走る前続け来れば回数増しぬ
070820 
 グリーグとムンクに加へガルバレク生れし国へと明日旅立たむ
070831 
 フィヨルドを背に懐かしき人集ひ昼餉を食みぬノルゲの夏に
070901 
 フィヨルドの祖父母の家を別荘に転じて友ら夏に憩へり
 目覚むれば親子漂ふ白鳥の姿目に染むフィヨルドの辺に
 島多きフィヨルドめぐりノルウェイの友らボートで吾ら連れゆく
070902 
 フィヨルドの冷たき海に老若の人ら戯れ夏を惜しみぬ
 一日に一度はフィヨルドで泳がずば何の夏かと八十路の女言ふ
 (フィヨルド=うみ、女=ひと)
070903 
 ノルウェイの森に昇れる満月の色の深きにこころ満たさる
070904
 窓の辺にこころ憎くも花飾る壁板赤きノルゲの家は
070905 
 やうやくに夏陽の照らすノルウェイの大空仰ぐ広き農地で
070906 
 田園の教会美しくドライブの吾ら誘ふ蒼空を背に
 (美しく=はしく)
 伝統のサーモン漁に誘はる宵闇遅きノルゲの川に
070907 
 晩夏のノルゲの野辺に沈みゆく夕陽惜しまむ旅の終はりに
 (晩夏=おそなつ)
070909 
 雨多きベルゲンの街高きより眺むる能ふ一日の旅で
 (一日=ひとひ)
 ベルゲンで学ぶトゥナ言ふ二度目だとフロイエン山に登り来るは
 吾らまた東京タワーに昇りしは一、二度のみと笑ひ合ひたり
 幼子を父の世話なす姿をばしばしば見かくノルゲの街は
 裏手より古き家並みに分け入れば迷路のごときブリッゲンなる
070910 
 シュリンプのランチ頼めば塩茹での甘エビのみが数多あふるる
 餌を求め近寄り来るベルゲンのスズメおほらか心体も
070911 
 旧道をつづらおりにぞ辿り見る蒼空の下スタルハイムを
 絶景と言ふほかはなし蒼空にスタルハイムは映えわたりけり
                 *
 ソグネなるフィヨルド深く内陸のここにきはまむ吾らの前で
 フィヨルドの内陸深く人住みて古き家並みの色鮮らけき
070.912
 河なせる氷の削りかく蒼き海を導く時を思ひぬ
 フィヨルドの断崖を背にわづかなる岸辺のあれば人の暮らしぬ
070913 
 フィヨルドの両岸迫る蒼天に一筋白き飛行機雲の
                 *
 観光のおとぎの街にぞ見えしかど朝に訪へばひと暮らしをり
 (朝=あした)
                 *
 集落の消え去る野辺にヴァイキング遺す異形の教会訪ぬ
 自らの神々惜しむこころをば異形に籠めむスターヴ教会
 (教会=ヒルケ)
 なにとなく東洋寺院の気配あり屋根の形に木組の壁に
070914 
 名前なきバス停ありてノルウェイの人見ぬ野辺に吾ら待ちける
                 *
 倣岸な政治家ありきその孫のひ弱き者を誰ぞ選びぬ
 国粋と親米の間を取りきれず溺れゆかむか安倍晋三は
070916 
 ベルゲンへ向ふ車窓に雪残る荒地見ゆれば人のなほ住む
070917 
 高地より一気に下る鉄道の駅で仰ぎぬヒョースの滝を
 下り立てば轟音飛沫注ぎ降るフロム鉄道ヒョースの滝は
 (飛沫=しぶき)
070918 
 塵芥覆ひつくれる夢島を休日訪ぬ生徒率ゐて
 (塵芥=ちりあくた)
 生徒らの競技を見つつ周平の『清左衛門残日録』読む
 夢島に九月の陽射し降り注ぎ一日で肌は夏に戻りぬ
                 *
 夕されど数多の人ら遅き陽を求めて憩ふ広き芝地に
 人影の残り陽惜しみ去りゆかずオスロ市街の昏き芝生に
070919 
 文字通り独創をもてヴィーゲラン裸像で描く人生すべてを
 (人生=ひとよ)
070920 
 こころ病みノルゲに生きて描きけむムンクのかくも人生(ひとよ)を深く
 (人生=ひとよ)
070921
 オスロなる労働者街に夕餉をば求めて飲みぬノルゲ・ビールを
070922 
 会ふことの三度はなきを知り惜しむ八十路五十路の女ふたりは
 (三度=みたび、女=をみな)
                 *
 ―<ジュゼッペ・トルナトーレ監督『題名のない子守唄』を観て>
 イタリアの映画に酔ひて日比谷なる泡盛うまき居酒屋を再々訪ふ
 (再々訪ふ=とふ)
070923 
 アトリエの谷中路地裏古民家で墨絵描きぬ米人<時夢>は
 (時夢=ジム。米人の墨絵画家Jim Hathawayの雅号)
070924 
 窓の端にコスモス咲けばフィヨルドを望む海辺の朝日まぶしき
                 *
 自らのアートを超える落書きを子どもら描くと時夢(ジム)は笑へり
070925 
 此岸をば彼岸に変へて赤々と夕べに華の炎ゆるを見たり
 (此岸=しがん)
070926 
 フィヨルドの海面光れる窓辺にて朝餉を待ちつ生活思へり
 (海面=うなも、生活=くらし)
                 *
 不気味なる花と恐れし吾なれどいつしか好む彼岸の花を
070927 
 コスモスの花咲き初むるフィヨルドの空を仰げば青く涯てなき
 メヒコなる高原に生れ奪はれしコスモスの咲くノルゲの丘に
 (生れ=あれ)
 フィヨルドの海の辺近く白鳥の泳ぎ寄り来ぬ子らを残して
070929 
 子らの待つ沖へ去りゆく白鳥の背の白かりきフィヨルドに映え
                  *
 会津への旅の土産にひとり娘の呉るる酒をば惜しみ飲みけり
 (ひとり娘=ひとりご)
 十四、五度一日に下がり虫鳴ける都の夜半の秋ぞ深めく



コメント (3)
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日々歌う 2007 その2(4月~6月)

2007-12-26 08:52:56 | 日々歌ふ2007

070404 
 どれほどの血潮を吸ひてクメールの大地のかくも赤く染まるや
 クメールの樹々花々の美しくして人のくらしの芽吹きかなしも
 穏やかなガイドに問へば彼もまたポルポトに父虐殺さるると
 職問はば小学校の教師たりポルポト殺めしガイドの父は
 産業のシェムリアップに観光を除きてなくも息吹くくらしの
070405 
 戦乱と忘却の渕ゆクメールの数多の遺跡蘇りける
070406 
 虚ろなる巨像を仰ぎ忠誠を日々強ひらるるくらしを想ふ
 離陸時に不安のよぎりまぶた閉づ落ちなば落ちむすでに術なく
                  *
 歌詠みと英語教師のビミョーなる日々を生きをり大松達知の
 (大松達知=おおまつ・たつはる、「コスモス」所属歌人)
 チェロの音のかくも深きか趙静の奏くカザルスの<鳥の歌>はも
 (趙静=チョウ・チン)
 若死にの夫の写真を亡き母にひとは問ひける息子なるやと
 (夫=つま)
070408 
 ツバメ翔ぶ空のなつかし六年ぶり<ホーおじさん>の像の彼方に
 (六年=むとせ)
                  *
 産経のまづき<正論>読む後の紅茶はうまし<スリランカ>産の
 <卒塔婆>の意味を知らずば木片の墓場に林立つをわれ恐れけり
 (林立つ=たつ)
 泰淳の最高峰はとひと問はば即座に挙げむ『富士』の名前を
070409 
 満天星のわれを待つごと咲き初めし花の白きにこころ明るむ
 (満天星=どうだん)
 いつしかに新芽の萌えて若やげるハナミズキ見ゆ桜も散れば
 ゆつくりと七キロ余りを走りなば総身の毒素汗に流さる
 春よ春一夜の雨に芽吹きけむ萌黄のかなし欅・銀杏の
 (一夜=ひとよ)
                  *
 <征露>をば<正露>に変へて丸薬を売りつづくるを誰ぞ怪しむ
 戦世の末に生れたる吾にして空襲想ふサイレンの音に
070410 
 四十路過ぎわれ恋初めしユリノキの六十路の春になほ恋しかる
 血を厭ふ吾にしあれど咲く花の血潮の色を厭ふにあらず
070412 
 癩王の遺跡のありしクメールの木陰に物乞ふをとめ病みをり
                  *
 足腰は鍛へをれども国老ひて待つ山坂の険しさ増せば
 列島に富士の裾野ゆ筒音の広がりゆかむ九条改へて
 閑居して不善は為せど退屈を覚ゆることの絶えて久しき
 戦世に向ふきざしを知りてなほ安部・石原を人の選びしや
070413 
 冬ざれの銀杏に生れし鈴なりのみどり児わらふ梢を揺らし
 石をもて追はるるごときかなしみの啄木早世けど消ゆることなし
 (早世けど=ゆけど)
 一夜をばブログ仲間と愉悦しみぬ神楽坂なる蕎楽亭で
 (愉悦しみぬ=たのしみぬ、蕎楽亭=きょうらくてい)
 布製のガムテープをば切り裂きて一本残る繊維のあはれ
 (一本=ひともと)
070414 
 旅すればアジアの街の夜暗く愚かにぞ知る夜の暗きを
                  *
 五十路をも踏み能はずに漱石の残せる<こころ>今に古びず
 一本のボタン桜の咲く下で知るや知らずや子らは遊べり
 (一本=ひともと)
 辛夷散る戸山の原に白妙のハナミズキ咲く時を惜しみて
070415 
 ―<富士霊園を義父の墓参に訪ひて見し「文学者の墓」なる碑に寄せて>
 宮柊二・宮英子とて黒と朱の文字の並びぬ富士の裾野に
 牧羊子・開高健に並び見る道子の刻字すでに黒かり
 別姓の刻字の赤き夫婦あり鹿野政直・堀場清子の
070417 
 さ緑のかくもやさしく深まれば許しにけりな冷たき雨を
 夜の森はわが故郷なりき匂ひ咲く桜の並木くぐる日の来よ
 (夜の森=よのもり)
 質問に限りてひとの語尾上ぐる習ひ棄てゆくオジン・オバンも
 命をば奪ひ奪はれ滅びける過去のありしも幻ならむ
070418 
 太平の海を隔てて凶弾のゆゑなく絶ちぬいのち数多を
 学生を逃がして教授撃たれたるホロコーストを生き延びしひと
070419 
 清楚なるホテル待ちをり惨劇の血潮に赤きクメールの地に
                  *
 戦世の末にし吾の生れたるを父母いかに祝ひ給ひき
 福は内鬼は外なる伝統のしぶとくあらむ列島社会に
 静やかに群れ咲くシャガのわれの目に入らざる春の長くありたり
 コデマリの咲けるがごとき恋人をわれ求めざり花は愛づれど
070421 
 ネパールの古都のパタンよ路地裏よ煉瓦の粗き人のつましき
 足熱きわれ憎みをり旅先の要らざる堅きベッドメイクを
                  *
 どれほどの季節巡れど陽水の今に変はらぬ<心模様>の
 変貌の速度も規模も加速度をなほ増しゆかむ話しことばの
 吹き荒るる青き嵐に繁る葉のざわめき狂ふ楠の大樹の
070422 
 ボストンの海を染めたる紅は茶の色なれど血の色に似て
 (紅=くれなゐ)
 あてもなき旅にしあればわが六十路歩み求めむ終の住処を
 朋来たりわれも一品アジ捌きもてなす夜の酒の美味かり
 咲き初むるオホムラサキの浮かびけり小暗き道に灯を点すごと
070423 
 バタヒタと迫りし音をいぶかれば吾抜きゆける孫のごときの
070424 
 市場フェチ国家フェチをば隠さざる男を長にわれら戴く
 (男=をのこ、長=をさ)
070425 
 ―<六本木・国立新美術館にて>
 水滴の創りし模様のモネよりも印象深くわれを打ちたり
070426 
 道の端にオホムラサキのしんとして咲き濡るる色深きに惑ふ
 小雨降る丘を登ればつる草の繁りて咲きぬむらさきの花
 咲き浮かぶ花ニラ白く木洩れ陽に樹陰の狭間星落つるごと
070428 
 ―<チェロの巨匠ロストロポービッチ逝く>
 圧政に屈せざるをもカザルスに倣ふ巨匠の八十路に斃る
 ベルリンの壁に抗してチェロ奏ける巨匠の姿われは忘れじ
070430 
 妙高を映し静もる黒姫の高原隠す小さき池の
 妙高と黒姫仰ぐ名も知れぬ沼のほとりに水芭蕉咲く
 春遅き野尻の森にカラマツの高く芽吹けば空のあをかり
070501 
 見はるかす雪の残れる妙高の姿の美しくおほきかりけり
070502 
 フキノタウ採りつ下ればゲレンデの枯れ草脚にやさしかりける
                 *
 大小の手まりのごとに咲く花の家路に白く風にゆれをり
070503 
 政府をば縛りて民のしあはせを図るためにぞ憲法のある
 いつしかぞ小沢一郎のまだしもに見ゆる世にとはなりにけるかも
                 *
 おほらかな黒姫山の寝姿にC.W.ニコルの巨体を想ふ
 地震のごと轟く音と飛沫あげ百名滝の滝は落ち来る
 (地震=なゐ、飛沫=しぶき)
070504 
 古利根の川流れゐし牛島を藤花求め訪ひ初めにけり
 (古利根=ふるとね)
 古利根の川辺に近く子ら植えし花鮮やかに咲き乱れをり
070505 
 名も知らでその花咲くを知らざりし過去の悔やまる紫蘭の花よ
 (過去=とき)
 鰹なく目鯛を求めふと思ひタタキになせば舌のとろける
070506 
 鈍色の空を背負ひて窓辺にぞ楠の花咲く欅葉繁る
 (鈍色=にびいろ)
 連休を疎むこころの芽生へしと職退く女の記すを読みぬ
 (女=ひと)
 連休の終るを惜しむ心根も消えさりゆかむ二年後に
 (二年=ふたとせ)
070507 
 咲き初むるユリノキ仰ぎ花求む一年ぶりの逢瀬のごとに
 (一年=ひととせ)
070508 
 ―<キース・ジャレット・トリオ ジャパン・ツアー 2007>を聴きて
 ケルンの音耳にこだます復活のキース・ジャレットのピアノを聴けば
 前回の歌を忘るる演奏の悪夢晴らせりキース・ジャレットの
070510 
 静もりて咲く花ばなのかなしかり向島なる百花の園に
070511 
 言問の橋をくぐりて人気なき川端ゆけば驟雨の上がりぬ
 (驟雨=あめ)
 驟雨止み<ウンコビル>とぞひとびとの呼びゐるオブジェ川辺に光る
070512 
 練兵の夢跡知るや皮膚色の違ふ人らの集ふ代々木に
 (違ふ=たがふ)
070513 
 ―<旧古河庭園にて>
 民の血を吸ひし者らの夢跡に薔薇の色濃く咲き乱れをり
 薔薇はバラ血の色のみにあらずして秘めやかに咲き清らに咲けり
 橙の薔薇のひときはかなしかりドヌーブの名をかぶりて咲けば
                 *
 亡き父の面影浮かぶアラバマの映画の原の物語読む
 (原=もと)
 原作を読みてなほ知るアラバマの映画描ける世界かなしも
070514 
 咲く薔薇のはなやかなればひと知れず和の色にほふ都忘れの
070515 
 不忍の池ゆ冬鳥すでに去り水面に蓮のひと茎萌え見ゆ
                 *
 ことさらに何をするでもなかりせどけふの日逝ける亡き母想ふ
070516 
 やはらかに夕陽に浮かぶ池の端のゆるる柳に心のゆるる
070517 
 ほの暗き水辺に咲ける黄菖蒲の盛りを過ぎて観る人なくも
070518 
 初夏に萩の名持てる紫の色秘めやかな花ぞ咲きける
 (初夏=はつなつ)
070519 
 紫の色濃くあれど花群に既視感ありて光琳の名出づ
070520 
 築山の小道明るみ敷石の三角四角玉形浮かぶ
070521 
 垂直の護岸を覆ふ緑あり芭蕉偲びて川面を染めむ
070522 
 木漏れ来る夕陽に明き奉納の酒樽積まれわれを誘ひぬ
070524 
 <ひとつ>をば<hititu>と友の打ちしなむ<ホト>表はす文字<日>に続けり
 (文字=じ)
 夕陽浴び点字ブロックに影させば障害持たぬわれにもやさし
070525 
 雨にぬれ常行く舗道の朝光に石組み美しくわれを待ちをり
 (朝光=あさかげ、美しく=はしく)
 東北の訛りなつかしわが腕ゆ血をば抜かむと針さす女の
 (女=ひと)
070526 
 雨去りて空の光ればいのちあるものみな挙げむ声なき歓声を
 (歓声=こゑ)
                 *
 歌人たる英語教師のテストをば監督しつつわれは歌詠む 
 最後まで自力でやれよとわれ言へば一瞬おきて生徒らは笑へり
 (生徒=こ)
 さもあらむ生徒らの記せり黒板に<夏休みまであと46日>と
                 *
 竹橋にミューズおはせば初夏の光と緑オブジェに宿る
 戦世に仆れし君のまがふなく天才なるを知る 靉光よ!
 (靉光=あいみつ)
 誰ぞ知る露草白く群れ咲くを都の真中われを除きて
 初夏の落ち葉の色の見事なる泰山木の秋を知らざり
 われ知らずカルメン想ふ黄昏の木立の中の花くれなゐに
070527 
 黄昏の木立を行けばくれなゐの花穂の浮かびぬ一本の木に
 (一本=ひともと)
 おほらかな朴の葉群を愛しみて残り陽照ればみどり目に染む
 堀水にさざ波立ちてビル影の見る間に砕けゆるる黄金に
 開発に取り残さるる一隅に色のかなしく信号灯る
070528 
 吹く風に池面の波の綾なせる光と影の一期一会を
 木洩れ陽の樹影を踏みて小道行く異国の人の青きシャツ見ゆ
070529 
 欅樹の太き幹にぞ木洩れ陽のモミジの葉影映しけるかな
 悪しき名の白き花こそかなしけれ夕陽に祈り捧ぐるごとの
 黄葉する楠の葉落ちし小道行く黒き葉影と木洩れ陽踏みて
070530 
 杜奥に彼岸のごとくもみじ葉のあをく光れば音の消えさる
 大楠のみどり覆ひし空仰ぎ大きくおほきく息を吸ひたり
 あをあをと池面を染めて初夏の一日暮れゆくもみじ萌えなば
070531 
 期せずして出会ひし像のまなざしはいづくを見むかホセ・リサールの
 口元を強く結びてリサールの今しも言はむ <ノリ・メ・タンヘレ!>
 (ノリ・メ・タンヘレ=Noli Me Tangere=我に触れるな)
 はつ恋のひとに遭ふごとわが胸の高まり鳴りぬヒメシャラ咲きて
070601 
 アオサギの緑に染まり獲物をば狙ふ姿にやすらぎ覚ゆ
070602 
 ほぼ花の終はる池面は睡蓮の青葉青葉に埋もれてありぬ
 ザリガニを獲りて数へむ児の知るやサツキの紅と池面に映るを
 新緑の坂を競ひて駆けゆける児らのをりたりうれしかりけり
070603 
 去りがてにふりさけみれば空を背にユリノキ高くわれを見送る
 億年を生きぬき来たる化石樹のいのちの繁り高く仰ぎぬ
 (億年=おくとせ)
 たわわなる枇杷のみのれど誰ぞ見むわれ懐かしく独り仰ぎぬ
 菖蒲田にあまたの花の咲き描く白むらさきの心模様を
070604 
 道の端の陰に日向に紫陽花の日ごと増しゆく色のかなしき
070605 
 蓮の葉のあをく光りて水面埋めわれを迎へぬ不忍池は
 冬鳥の去りて静まる池の面をカルガモゆらし一日暮れゆく
 (一日=ひとひ)
070606 
 木洩れ陽にしろく浮かびて舞ふがごとヤマボウシ咲くあをき葉群に
 渋き美を防御の門のそこここに残して滅ぶ徳川の世は
070607 
 溢れゆくモンテヴェルディの多声部の楽に包まる心も身をも
 法悦のむべなりしをば知りにけるモンテヴェルディの楽に満たされ
   目白バ・ロック音楽祭2007
   ラ・ヴェネシアーナ&ガッティ&リクレアツィオン・ダルカディア もうひとつの「ヴェネツィアの晩課」
   東京カテドラル聖マリア大聖堂にて
                 *
 さやぐ葉にはや夏光の照り映えて萌黄に染まる楠の一本
 (夏光=なつかげ、一本=ひともと)
070608  
 ―<自由学園明日館にて>
 柱廊にけふの夕べの陽の差せばもと子・ライトの夢の浮かびて
                 *
 警報のクヮンクヮンと鳴りガウガウと電車過ぎゆく黄の影残し
070609 
 雷雨待つつかの間明くシーボルトゆかりの花のシチダンカ咲く
070610 
 芝あをき彼方に浮かぶくれなゐのサツキいざなふ小道うねりて
 いかづちの雨の去りゆき心待つ紫陽花訪へばなほ鮮らけき
070611 
 <水槽>の文字青あをとオレンジの蓋は浮かべぬ一日の無事に
 (一日=ひとひ)
 笹の葉の緑とどめし露吸ひて静もる蝶の名は知らずとも
                 *
 義理と言ひ正義・理性にあらずして道説き来るわれらの父祖は
070612 
 ペダル踏む主人を待たむ自転車のオレンジ色に車体を焦がしつつ
 (主人=あるじ、車体=み)
070613 
 マンションの入り口護る狛犬のシルクロードを経めぐる末に
 ライオンの獅子にシーサー、狛犬に変ずる旅を今し想はむ
                 *
 われを見て瞬時に席を譲り立つ韓国女性に不意を衝かるる
070614 
 夕光の朱き鳥居に木洩れ射しゆらめきをりぬ樹影燃やしつ
 (夕光=ゆうかげ)
070615 
 一目見てわかりましたと教へ子の三十年ぶりに声をかけ呉る
0706016 
 梅雨入りの空晴れわたるこの国の暗雲すでに深くもあれば
 人工の渚にあれど癒すものあらばいのちのさまざま集ふ
070617 
 陽は沈み空は血塗られ虹橋の静かに浮かび渚暮れゆく
                 *
 鴎外のゆかりの坂こそかなしけれ民家にゆるるデュランタの花
 愛求め伸びゆく茎の切なくてアガパンサスの蕾ふくらみ
070618 
 道へだて鴎外旧居にむかひ咲く青葉がくれの彼の花白し
070619 
 小魚をたくみに獲りて満ちたるるコサギの染まず憩ふ緑に
 生ひ茂る蓮の葉群はあをき血を湛へて花の咲くを待たなむ
 公園のベンチに独り後手をつきて動かぬ若きをみなの
070620 
 公園の緑を背にしてドラム打つ肌黒きひと楽をたのしむ
070621
 歓声の夕陽に響き代々木なる緑の園に子らは走りぬ
                 *
 菖蒲田の消えてはまたも現れぬ水元訪ひて花を惜しめば
 コアジサシ空舞ふ水の豊かなる公園ありて花菖蒲咲く
                 *
 谷中・根津・千駄木つづめ谷根千と名づけし女に街で行き交ふ
 (女=ひと)
070622 
 武蔵野にキスゲ群れ咲く地のあればはるかな尾瀬のさらになつかし
 梅雨厭ひ生き越しあれど梅雨来ずに夏に至るを誰ぞよろこぶ
070623 
 ―<町田市立国際版画美術館「菊池伶司とその時代」展を訪ねて>
 また一人われの知らざる夭折の異才のありて銅版刻む
 忽然と現れ去りて二十二の菊池伶司はいのち刻みぬ
 ジンジンと照る陽騒げど町田なる菊池伶司の画業しづもる
                    *
 オール5の通知表をばもらふごと吾妹に伝ふ健診結果を
 六十を過ぎて酒量の減らざれど肝臓検査の値減りゆく
070624 
 特攻を強ひられ今も大和なる巨艦の沈むわたつみ深く
 沖縄の礎刻めり特攻に沈む大和の兵士らの名を
 (礎=いしじ)
                    *
 梅雨いづこノウゼンカヅラの咲き乱るいつはり青き空に焦がれて
 日陰こそ柘榴の花はかなしけれ朱のしづかに緑穿ちて
 (朱=あけ)
 打ちはなすコンクリート壁の見事なる民家のありてしばし見ほるる
                    *
 われを待ち木立の陰に白く咲く一本高きアガパンサスは
 (一本=ひともと)
070625 
 落ちゆけばコンクリートの路地待てるノウゼンカヅラの花の骸を
 (骸=むくろ)
070627 
 亡き母の教へたまひし鉄扇の紫深き花ぞ咲きける
 叢を朱に彩る秘めやかな姿目に入る花の名知れば
070628 
 日光の霧降る山を黄に染めむ十日の後にキスゲの花は
070630 
 四十路をも知らずに逝ける父憶ふ子らの旅して六十路半ばを
 地に落ちし花の骸の雨に濡れ束の間憩ふ終はりの時を


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日々歌う 2007 その1(1月~3月)

2007-12-26 00:22:12 | 日々歌ふ2007

今年も元旦からほぼ一年、心に響いた森羅万象(生きとし生けるもの)を日々歌ってきました。
12月25日現在で総計679首になっており、一覧にしてみるとそれなりに感慨深いものがあります。
拙いものですが、どなたかお読みくださる方があれば幸いです。

                           *

070101
 ふかきよりあらはれきゆるおもひをばきざみとどめむ みそひともじに
070102
  けがれなきコサギの姿池の端に白く見ゆればこころをどりぬ
070104
 冬ざれの京都のかしこひとびとのくらしを飾る美に絶ゆるなく
 (京都=みやこ)
 金閣の水面に映る姿にぞわづかにわれらこころ惹かるる
070108
 <トンカツ>と<タマゴヤキ>をば少年のよろこび食みて<ニホン>を愛す
 (少年=グレアム)
 兄食むアイスクリームを弟は食むあたはずか アレルギーゆゑ
 (兄=フォレスト、弟=グレアム)
 ドーナッツにミルク使ふを告げらるる少年母にすがりて泣きぬ
 (少年=グレアム、母=ジャネット)
 豆乳のドーナッツをば手に入れし少年われにひとつ分け呉る
 (少年=グレアム)
 難病と日々にたたかふ十一の少年かなし別れがたかり
 (少年=グレアム)
070109
 スズカケの裸形を飾るまろき実の青空高く風にゆられぬ
 陽を浴びて薄くれなゐに輝ける蕾ちひさき沈丁花見ゆ
070110
 ―<知られざる夭折の歌人・田部君子に寄せて>
 百円で売られしなかに玉のごと田部君子詠む歌集はありぬ
 わが生れし同じふるさとおなじ年 田部君子逝く二十七歳で
 をみなゆゑ味はふ不幸といくさ世が歌人のうたといのち奪ひぬ
 姪ふたり亡母の慕ひし叔母の歌ひろひ集めて歌集の編まる
 (亡母=はは)
070111
 見上ぐればなくもがなの電線の雲間の青き空を区切りて
070112
 駆け込みのエッシャー展を一人娘と人垣越しに観てなほ打たる
 (一人娘=ひとりご)
 イタリアを切り取る構図すでにしてエッシャーならではだまし絵以前に
 コンピュータなき時代にぞエッシャーの想像力はCG越えて
070113
 枝払う梢に群れるムクドリを空に仰げば数の増しゆく
070114
 天空に湧き立つ雲の涯もなく広がりゆきて落陽に映ゆ
070115 
 やをら来て教へ子問ひぬなぜ吾の教師になりしか楽しかりしやと
070116
 裸木の梢にのびる枝々の春をし待たむ空を仰ぎて
070117 
 走る間に氷雨降り初めたじろげど身体しだいに火照り勝りぬ
070118
 樹々の間に高層ビルの尖塔を浮かべにけりな御苑を訪へば
070119 
 北国の食に賑はふ隅訪ひてうまき地ビール独り立ち飲む
 色深き蝦夷の大地の恵みなるビールうましも麦芽つまみに
070120
 真鶴に愉楽求めてけふ行かむ弘美ワールド脳裏にあれど
070121
 三人の姉妹家族の打ちそろひ一夜を遊ぶ真鶴の湯に
 真鶴に画業展げし大家の絵あまたのあればこころ満たさる
 幕山ははつかに梅のほころびてひと山花の盛るを想ふ
070122 
 夕光に巨樹一本の浮かび立つわれも立たむか小樹にあれど
 (夕光=ゆうかげ、一本=ひともと)
070123
 見上ぐれば梢も昏き夕空にムクドリならむ影の躍りて
070124
 夕月の白く浮かべる冬空の高きを仰ぎしばし佇む
 束の間に空は茜に染まりゆき楠の大樹の影を彩る
070125 
 冬陽もれかそけき影に白映えぬ八重の牡丹の囲ひに咲けば
070126 
 湧き来る歌の心に導かれ二歳旅す未知の六十路を
 (二歳=ふたとせ)
 突忽に歌の目ざめのわが裡に訪ひ来し朝雪は降りけり
 日々歌ふ森羅万象なべてみな新たな貌をわれに見せくる
 奥深く抗ふものの棲むならむ歌に目ざむるわが心根の
 いづくへぞ歌の旅路の向かひゆくわれは知らずも二歳経ちて
                  *
 懐かしき百日紅をば巨木にと変へゆく歳月のわれに長かり
 (歳月=とき)
 冬ざれに幹梢見ゆ竜のごとかの百日紅巨木となりて
070127 
 ―<『上田義彦のマニエリスム博物誌展』に寄せて>
 標本にいのち与へて写真家の上田義彦腕冴えわたる
 写真家の桐島カレンの夫と知りこころの隅のかすかに揺るる
 (夫=つま)
070128
 ―<ダムの沈めしものを想ひて>
 裸木はダムの沈めしいのちらの墓標にあらむ湖中に立つ
 (湖中=うみなか)
                   *
 ―<文革・巴金・ヒロシマを想ひて>
 文革を耐へ抜き生きしその巴金のヒロシマ知りてなしたることの
 (巴金=ひと)
 過ぎ去りし惨禍の記憶とどめむと巴金つくりぬ文革博物館を
 図書館で随想録を見つけ読む巴金の語る文革の悪を
                   *
 一輪の白き椿を夕光の染めゆく色にこころ温もる
070130 
 大義なき戦を拒む日系の中尉を裁く日週余に迫る
 六割を越す民人の先頭にいまや立ちたるワタダ中尉の
 偉大なるソロー、トウェイン、キングらの伝統継ぎてワタダ中尉は
070131
 恐竜も見上げしならむ真直ぐなる樹影を仰ぐメタセコイアの
070201 
 明けやらぬ窓辺に月の沈みゆく闇を静かに独り照らしつ
070202 
 遅ればせに石母田正の名著読み滅ぶ平家の知盛想ふ
 吾ら再た見るべきほどのこと見つと言ふ日の来ぬを願ひて生くる
 この地球に見るべきほどのこと見つと言ふ人絶ゆる日々の来ざれど
 (地球=ほし)
                   *
 午後の陽に洋館浮かぶ古河の庭園独り訪ふ日もあれば
070204 
 職退かば肩書なきに戸惑ふと記してありぬ共済ニュースに
 肩書を求めず吾は生き来る戸惑ひなきや職を退けども
 思ひきり別の生き方してみたし二年後に職をし退かば
 (二年=ふたとせ)
 教師をば職に選びて悔ひなくも<元>の肩書さらに望まじ
 わが年齢の余命均せば二十年短くあらむ長くもあらむ
 (年齢=とし)
 四十路から六十路の旅の長さをばいかに旅せむ八十路に向けて
                   *
 うつせみの花にしあるやくれなゐも淡き牡丹のたをやかに咲く
 叫びつつ鴉ら舞へる蒼空を茜に染めて陽の沈みゆく
070205 
 ほの暗き木立につむる枯葉をば終の褥に椿の眠る
070206 
 如月に入りしばかりぞ沈丁の花の一輪ほころびけるも
070207 
 紫陽花の裸枝の尖はや芽吹く萌黄の色のかなしかりけり
 (裸枝=はだかえ)
070208 
 口そろへ幼児のごと空仰ぎ春を告げをり福寿の花の
 咲き匂ふ梅のかたへに人知れずふくらみけりな木瓜の蕾の
 やはらかき陽射しに咲けるくれなゐの椿目に見ゆ羞らふごとに
070209 
 暖冬に惑ひて咲くや幾輪のツツジの淡き色のかなしも
 花なくも葉も落ちはてどユリノキの幹と梢をわれは仰がむ
070210 
 ―<六十三回目の誕生日に>
 三年往く六十路の旅の道の辺に泉のありて歌の湧きくる
 (三年=みとせ)
                   *
 一人にて公民権のたたかひの道拓きたりローザ・パークスは
 今ぞまたローザ・パークスの勇気持つ日系中尉の戦拒めり
 WatadaをばRosa Parksに擬する声つひに上がりぬ米国サイトに
070211 
 枯葉分け青く可憐に咲く花を求むるこころ春を待たなむ
 屋上に張る網越しの遥かなる茜の空に富士は浮かびぬ
070212 
 目ざむれば窓辺に真青な空浮かびただそのみにし心温もる
 八角の甘き匂ひの充ちゆきて独り厨で煮豚つくれば
070214 
 先生と呼びうる人の賀状なく案じをりせば訃報届きぬ
 ご子息に電話で問へば吾の名を亡きひと繁く口にしありと
 隠岐に生れ隠岐騒動の実相に迫りて逝きぬ八十路のひとは
 (生れ=あれ)
 年齢重ね好奇のこころ失はぬそのひとの名は<新>といひき
 (年齢=とし、新=あらた)
                   *
 ひさびさの雨にしあれば懐かしく如月半ば雪も知らずに
070216 
 つかの間に薄雲染めて暮れなづむ空の美しきを誰かなしまむ
                   *
 ―<野に咲ける福寿草に>
 枯れ野分け春の息吹を大地より伝ふる花の黄も鮮らけき
 (鮮らけき=あざらけき)
070217 
 万代飛びて氷川の台へ降り立つを知れば棲家を一夜訪ひける
 (万代=もづ)
 万代家てふ名店ありてわぎもことかつて通ひぬ北池袋に
 (万代家=もづや)
 店閉じし噂は聞けど行く末を知らざるままに惜しみをりけり
 よき店を友見つけしと誘ひくる聞けば驚く万代家てふ名に
 酒肴器もうましひつそりと氷川台なる万代の新家は
 (新家=にひや)
070218 
 蒼空に権威の塔をわれ仰ぐ楠の葉陰の姿に惑ひ
070219 
 鴎外の坂道行けば黄梅の花枝垂れ咲きつぼみ紅さす
070220
 敷きつむる梅の花弁の暮れ方に紅濃くも甘く香りぬ
070221 
 雪も見で怪しき冬の去りゆかむ如月に咲く春の花々
 少年の悪戯ならば楽しかれ雪なき冬に春花咲くも
 (少年=エルニーニョ)
070222 
 盛り終へ寒の桜のなほ美しくたわわに咲ける如月にして
070223 
 洗練の極みにあらむ人技に魂を奪はるシルク・デュ・ソレイユの
070224 
 めづらかに寒風吹けば早咲きの白き辛夷の初花揺るる
 吹き荒るる寒風折りし楠が枝を拾ひて活けぬ壷屋徳利に
070225 
 はや咲きぬ辛夷の白く如月に吾妹生るる日祝ふがごとく
070226 
 陽のまさに沈まんとして朱に染む都の空にビル影昏き
 (染む=しむ)
070227 
 ―<中国映画『孔雀』を一夜渋谷に観て>
 <覇王別姫><紅いコーリャン><鬼が来た!>撮る人つひに映画作れば
 六十路越す幸にしあるや千円で映画を常に観ること能ふ
070228 
 如月の去りゆく空の晴れ渡りユリノキ立ちて芽吹き待たなむ
070301
 始むれば半ば終らむ隣国のことわざもいふ<シージャギパニダ>と
070302 
 サトザクラ<安行寒緋>の咲き満てば花蜜求めヒヨドリ群るる
070303
 空晴るるただそれのみで身も心も晴れゆく脳われは持ちたり
 (脳=なづき)
070304 
 美しき屋根連なる旧き麗江の街並み浮かぶ眼閉じれば
 (美しき=はしき)
 限りある一生にあれど限りなき想ひの生まれ消え去りゆかむ
  (一生=ひとよ)
 愛さるるしあはせよりももとめこしわれなきほどに愛することを
 使はれの身にしはあれど魂曲ぐることなく子らと歩み了らむ
                    *
 ―<国立近代美術館で「柳宗理-生活のなかのデザイン-」展を最終日に観て>
 用の美を唱へし父を受け継ぎてデザインさすが柳宗理の
 (柳宗理=やなぎそうり)
 スプーンもフォークもナイフも心地よき形つくれり柳宗理は
                    *
 雪降らぬ冬の終るを待つごとに道の端に咲く雪の柳の
070305 
 いかばかり種蒔く仕事なし得たる教職退(の)く日近づき想ふ
 仕事をば厭ふわけにはあらざれど時に指折り週末待ちぬ
070306 
 握る手を握り返しぬ丈高きをみなにあればおほきく熱く
070307 
 すきまなく埋めつくしゆく美意識のいづくより来むイスラムびとの
 人麻呂も家持・旅人・赤人も親しく覚ゆ歌詠み初めて
070308 
 スポーツの祭典なれど金・政治・戦ゆがめぬ五輪の歴史
 手の熱き吾妹の足の冷たくてわが足をもて時に温む
 料理をば一緒になせるをのことて吾妹の母のわれを褒め呉る
070309 
 常なれば春待つこころ育みし木枯らし吹くを冬に覚えず
 包丁の切れ味のみにあらざらむ玉ねぎ刻み涙も出ぬは
 (出=いで)
                   *
 定年の同僚送る一夜明け独り遊びぬ彫刻の森に
 陽の洩れて真青の空に啄木の呼びしがごとき雲の浮かびぬ
 サンファルのサンファルたる装ひで逞しき像立つ黒き女性の
 (サンファル=ニキ・ド・サンファル)
070310 
 十万といふ人びとの一晩で焼き殺さるる責めを誰負ふ
                   *
 腰重く酸味渋味のほのかなる深き色香に酔ひたきものを
 終の日にわが裡深くいかほどの男文化の残れるものか
 (終=つひ)
 声若く深きアルトで流れゆく<東京メトロ>の語感好めり
                   *
 底秘むるかすかな黄味も静やかに木蓮の花白く咲き満つ
070311 
 <争>ふは無論にあれど<合>ふもまた遠ざかりけり われは競はず
 ひようおんのきがうにすぎぬみそひとのもじにこめゆくうたのこころを
070314
 誰想ふわが母生れしけふの日をなほ生きをれば九十八の
 (生れし=あれし)
070315 
 南北のバランス崩すそもそもの暴虐呼ばる大航海と
070316 
 空に舞ふはかなきものを初雪と知るぞかなしき弥生半ばに
 はるかなる太古の海に生(あ)れ逝きしいのちの化して石油となるも
 読みえぬは地図のみにしもあらざらむ辿る六十路に見えぬ行方の
 わが母の教へ給ひし戯れ歌は<つらんとんてん玉子の行列>
070317 
 カモ去りて柳あをめる不忍の池の辺白くユリカモメ見ゆ
070318
 国家フェチ君が代フェチの跋扈する白昼悪夢の世とはなりつる
070319 
 一枝のソメイヨシノの先駆けて咲く花ゆるる白く川面に
 飼ひ猫の爪立てのぼるカーテンを開くれば空に月輝きぬ
070320 
 女への性犯罪を<いたづら>と表し来たるわれら男は
 (女=をみな、男=をのこ)
 突忽(とつこつ)に歌めくもののわが裡に噴き出でし朝雪はふりけり
 (突忽=とつこつ)
 つぎつぎと豪雨のごとにニュースをば降らせて忘るわが報道の
 誰想ふ太陽もまたいのち終へ宇宙の塵に還るを ひとは
 気配りも過ぎれば欝に冒されむ漱石もいふとかくこの世は
 ひとことに昭和とくくれぬ歴史をばくくりて逝きしをのこありける
 いつかまた蛇口ひねらば湯の出づるくらしの終る日の来たらむか
 片思ひに似たる思ひを巧みにぞ操る者ら民を治むる
 忘却の深き穴にぞ埋められし幾千万のいのちを想ふ
                  *
 咲き満つる辛夷の花の白くして大樹は浮かぶ蒼きみ空に
070322 
 ―<NHKスペシャル・ラストメッセージ第6集・この子らを世の光に>を観て
 えらきかな重き障りのある子らを世の光にと糸賀一雄の
                  *
 海図なき航路をたどり生き来せばいづくに到るわが行く末の
 ためいきも涙も合はぬわが酒の独り静かに飲む夜もあれど
 浮かびくることばの響きかなしかり娘と訪ひしプルグックサの
 (プルグックサ=仏国寺)
 君知るやトマトの朱に秘めらるる<新大陸>に流れし血潮を
 (朱=あけ)
 八階の階段上り下りして一年過ぎぬ山に行けずも
 (下り=くだり、一年=ひととせ)
 よくもまあ言ひも言つたり<日の出る><没する>国の天子なんぞと
 自家製の毛糸で母は編み呉れき物なきころにわがセーターを
 顕れし竹島=独島の密約のシナリオ知らで民諍ひき
 (独島=トクト、諍ひ=いさかひ)
 生徒らの鉄仮面とぞ綽名せる授業で笑まぬ教師をりたり
                  *
 待ちわぶる春のやうやう来たりなば木々花々の色のかなしき
070323
 <オランダに着きました>とふ一行のメールの届く別れし生徒から
 (生徒=こ)
 ふるさとの訛りなつかし<フラガール>そを聴きゆくにあらざるなれど
 空間も時間もなにもなき無から宇宙は生れていのちを生みぬ
 (生れて=あれて)
 なひ交ざるかすかな不安とあこがれと職退く後のくらし想ひて
070324 
 警察と軍を爪牙に民をして戦慄せしめよと誰ぞ言ひたる
 運転のへたな電車の教へ呉る世に慣性の法則あるを
 学生に労働者まで運動ゆ遠ざかりけるスポーツ除き
070325
 彼の国のタオルの厚く密なるを知るや知らずやこの国人の
 吸ふほかに読まねばならぬ近頃のこの国覆ふ空気の重く
 百八の鐘の意を知りDoug笑ふワガボンナウハサラニオホシと
 (Doug=ダグ)
 誇るならハングルも知れ隣人のひらがなと似てなほ優れし文字を
 うましキス食まむと遠く羽田訪ふ思ひ出ありぬわれらが恋の
 論吉や輪吉・輸吉と書けるごと諭吉の正体生徒らは知らずも
 (生徒=こ)
 強酒で文字そのままに乾杯する慣らひは継がずわが列島の
 (強酒=こはざけ)
 必死なる車夫らのくらし託されて英語と化せり浜の千鳥は
 みちのくの春はおそしと聞きしかど咲き初むる梅雪覆ふとは
070326 
 父亡くすわれらに母はせめてもとピアノに代る古オルガン与へき
 あふさかは大阪ならずこれやこの知るも知らぬもわがオハコたる


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戯れる

2005-04-01 22:04:04 | 日々歌ふ2007
 ユーモアとは対象との距離の取り方にある。そう思います。
 どんなにつらくても、どんなに幸せでも、対象と微妙な距離を取りつづけることのできる強靭でしなやかな精神が、ユーモアなのではないでしょうか。たとえ、それが自分自身のことであっても。
 ぼくもそんなユーモアを持ちたいと思いながら、現実には若者を寒がらせるオヤジギャグを乱発して顰蹙をかっています。
 歌を詠み始めても、その性癖はやっぱりどうしても出てきます。でも、少しはそこから脱したものもあると信じ、戯れ歌風のものを載せました。
 おイヤな方は素通りをお勧めします。


050128

かけている老眼鏡を捜すわれ やれ老いたりと笑う若者


050201

歌なんざぁ詠むこと知らぬ老人も突然めざめ狂い咲くなり


050208

ソウルにて覚えし味のイヌ鍋を喰らう醍醐味友・子に教え


050216

明けやらぬ大地揺れるを知りつつもなお眠りたき朝ぼらけかな
                                謎髭朝臣

筑波嶺のみねさえ揺らす地震かな電車止まりて不通となりぬる
                               

050217

大久保ゆうち出で歩く馬場・目白・袋(ぶくろ)・大塚・巣鴨・駒込


050219

バスキアよ便座に座るその度にキミの絵見やる失礼許せ

積み上げて積み上げ重ねわが机 無秩序・秩序 人生と似て

酒喰らい畳せり上ぐ天回る 遥かに遠き日々とはなりぬ

日本人だからビールを二本飲む そんな屁理屈言いし日もあり

酒飲みの友らはおかし健診の迫り来たれば禁酒節制

飛良泉(ひらいずみ)・明鏡止水・緑川、七福神におお神亀(しんかめ)よ

「吸っていい?」聞かれやむなく「いいですよ」 答えて続け「でも吐かないで」


050303

これなくて何の人生あるものと想う液体いつまで飲めん

あれやこれ蛇も蛙もレッテルを貼るも貼らるもならずもの国家

店の名は名探偵と聞こえたり牛タン食わす名舌亭よ


050304

どうちがうパズルとクイズそんなことどうでもいいかそうでもないか


050305

弁慶の泣きぼくろには笑ったな ド演歌世界苦手なわれは

普遍なる体毛繁く髪薄き総量規制の法則ありや


050306

麻酔解け尿瓶に尿せんとせば激痛尻から押し寄す地獄

肥(こえ)良きか丸々太るキャベツには紙の小片こびりつきおり

飲むや飲む飲んでくだ巻きひっくり返る 昔はいたな煩(うるさ)き御仁が

暖取るの手段なくして股火鉢 為したる温(ぬく)さ尻覚えおり


050321

「もったいない」「もったいをつける」わかるねえ でもわからない「もったい」ってなに?


050323

日常とロマンのあいだめざすのさ 男の料理早く脱して

ズシズドン はだかもはだか豊満で ふといよ腿も ボテロのおんなは

葉っぱがねポットの中で踊るんだ九五度で紅茶いれると

函館の朝市こそは恋しけれ昼の定食紅鮭の味

結界を勝手に剥いだ腿肉を煮豚にしては喰らってるなあ

豚ギムチほうれん草のナムルなんぞなに気に食べる冬ソナ時代

わが庵の八角匂ふむせるごと電子レンジで煮豚作れば

紅茶はミルクティーでコーヒーはカフェオレかいな わかんないねえ


050324

ラーメンは20円だった タンメンは30円で味わう贅沢

ラピュタももののけ姫もいいけどさ 乗りたかったよトトロの猫バス

はてははかせかこいずみか なりたくないしなれないもんね


050325

ミルクティー・牛乳紅茶・テオレって 言の葉っぱが浮いては沈み

ひとはひと行かなば行けよ万博にディズニーランド六本木ヒルズに

バンコック・グエンアイコック・ホーチミン・フエ・ホイアンよ、おおハーノイよ

なつかしやハーノイよ
街中食堂
自転車・シクロ
5人乗りバイク
プップー自動車の
洪水迸る
魚雷、
じゃあなかった
雷魚

フォーガー喰らいし
おお
ハーノイよ
河内よ

妖気妃は老若問わず愚美人もあたしゃ苦手さあっちもヤだろ

金かけず手間ヒマかけてうまいもの喰いたい一心胃袋二つ


050326

ネーブルを剥けばチクリと親指が 鯵を捌きて小骨刺したり

中トロにスズキ・カンパチ・ヤリイカよ アジ・ミル貝に も一度中トロ

一カンは一個か二個か諍いし つれあいは言うクルクル寿司と

ツヤと張り海苔のいのちと信ずれば巻き物食わず回転寿司で

胃袋のたくましきかな朝夕に和洋中亜を食して飽きず

壁塗りと口紅黒き韓国の化粧も終わる チェ・ジウの出でて

酒に酔ひ運転手を蹴るといふキャスター語る歴史の臭さ

ニュース聞き突然流る不快感 アナウンサーの鼻詰まり声


050327

アメリカはジャンクフードの多かれどパンのうまさはわれの比でなし

都ではとんと見かけぬズルズルのソックス少女絶滅せしや

冬去ればなべの楽しみ惜しまるるそれに倍するよろこび待たん

髭生やしスーツ・ネクタイ纏わずばわが生業(なりわい)の怪しげならん

吾が面は朴全・熊襲の間にて縄文・弥生入り混じる末

吹き溜まる日本列島四方からわれら純粋雑種民族


050328

つかまえて歌の畑でつかまえて悶う心を、ねえ、つかまえて

ベトナムと讃岐の混じるうどん食む 都にのんびり春雨の降る

魂きはるいのちの連鎖おしなべて海賊・蝦夷も万世一系

東京は根津の里にぞ九鬼水軍名乗りしうまき居酒屋ありき


050329

食前に食中食後酒飲みてなお倒れざるアル中疑惑

水村に綾なす美苗(みなえ)明暗をこえてぞ語る太郎を眠らせ


050330

のみでなく、なしでもなく生きたいの。そんなのないの? パンだよー、パン!

爆弾を抱えているのはテロリストだけではないぞ 梶井も歌人も

あれほどにグロでグチャリの牡蠣食うをうれしと思うわれとはなりぬ


050331

電脳の三千世界に兎屋持ちて初の朝餉の心浮き立つ

パラソルはビーチにあるもの日傘とは母のさすもの 語感なつかし

破壊さる価格の陰に見えぬもの回る寿司食い目を逸らしたり

四時間もグツグツ煮込む牛肉にキビナゴ干物 これぞ日本よ 


050401

習ったよ金先生にスーバック(水瓜) ハングンマル(韓国語)の欠片は残り

トマト見てニンジン食べて浮かびくる穴あきレンコン筋張るフキよ

伸びていく上へ上へと伸びていく香港の街はニョキニョキと

ビー玉とメンコはよくてベーゴマはだめという母騙す日々あり


050528

これからの世のなか問えば答えあり男女共同(三角)社会と

論吉に輸吉倫吉福澤の隠れ兄弟あまたおりける

人間は考える足であるとぞ喝破せる含蓄深き答えもありき
コメント (2)
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