金属中毒

心体お金の健康を中心に。
あなたはあなたの専門家、私は私の専門家。

母に訊く

2009-03-14 17:31:15 | コードギアス
ラクシャータはインドのある藩王国から黒の騎士団に派遣されていた。目的は研究である。ゼロ・レクイエム後、国際機体として唯一稼動している神虎の整備のため、洛陽と宝来島を拠点としている。といっても今はバイオ関係の研究がメインになっている。ラクシャータにとっては不愉快だが、同僚としてロイドがいる。
そんなラクシャータのもとへ人目を避けるように、星刻が現れた。
「胸が苦しい?」
「あぁ、急に息苦しくなった」
「ふーん、神虎から送られているデータでは大きな変化はないけどねぇ」
「ひどい動機があって多少発熱もあった。痛みは無かったが」
ゼロ・レクイエムの直後、極秘で肝臓を中心とした臓器の移植を受けた。提供者が誰であったかは星刻自身にさえ知らされていない。移植は成功した。驚くほど適合率が高かったおかげで、免疫抑制剤の量も比較的少なく抑えられている。
だが完治には程遠く、しばしばラクシャータの治療と調整を受けている。

星刻が自分からやってくるのは初めてのことだ。よほど不安だったのだろう。
ラクシャータはデータをセシルに任せて星刻を診た。特に緊急性のある異常は無い。多少貧血が出ているが予測の範囲である。
「何か、変わったことはなかったのぉ?」
いつものキセルをもてあそびながら、火はついていないが、ラクシャータは何気なく問う。星刻の行動はほぼ把握している。多少無理をしているようだが、急にどうこうということは無いはずだ。

「いや、日本を経由して帰った後、いつも通り、天子様にご入浴していただいて」
「ご入浴・・・入浴って裸で」
「服を着て風呂に入るのか?」
「あんたさー、天子ちゃんと一緒に入ってるのぉ」
「馬鹿なことを言うな。そのような不敬なまねができるか!」
(ふーん、つまり本当はやりたいんだ)
からかってやろうと思ったが、丁度セシルがさっき頼んだデータを持って入ってきた。
にっこり笑うセシルに星刻はいくらかひきっった笑みを返す。先日検査用の食事をセシルに作ってもらったのだが・・・。以来星刻はさりげなく彼女を避けている。
「女官を下がらせた後だったから、ご入浴をお手伝い申しあげただけだ。動悸があったのはそのときだ」
この時点でラクシャータは話の流れが読めた気がした。
つまりこの男は好きな女を裸にして風呂に入れて、全身くまなく磨きたてた、もちろんさわりたい放題で。それを素でいつもの通りと言っているわけだ。
「湯あたりしたのが悪かったのか少し気分が悪くなった」
内心の苛立ちが感じられる声で星刻は言う。
まぁそうだろう。たった一人の守りたい彼女の前で弱さを見せてしまったのだから。要するに星刻は、好きな女の子の前ではいい格好がしたい男の子なのだ。
(20を越してもかわいい男はたまにいるけど、まさかこいつがねぇ)
「天子様があのいたいけなお手でのどをさすってくださった」
これが他の男相手なら「ごちそうさま」と言いたくなるような言葉が続く。
もちろん星刻本人にはのろけている自覚は無い。
ふーんつまりとラクシャータは思う。
好きな女の子が裸で目の前に来て、あのちょっと丸っこい発音で「しんくー、だいじょうぶ」とか言ってくれたわけだ。
(それじゃあ、脈も上がるし体温も上がるわよぉ)
もともと貧血がある状態でそうなれば息苦しくもなるだろう。
ここでラクシャータは重要な質問をした。
「あんたそのとき立った?」
「いや、めまいがあったから膝をついていたが」
ラクシャータはふきだした。
なんて、面白い男の子だろう。
「違うわよう。ものが立ったか、つまり感じたかってこと」
「たった、感じた?何のことだ。な、何を言うか。私はそのような不埒な考えなど天子様に対して持ったことは一度も無い」
星刻の手が反射的に腰の剣を探す。しかし、そこに剣は無い。
「いっやー、スザク君にランスロットだけど、彼もそうだねぇ。取り上げててよかったぁ」
たぶんきちがいに刃物と言いたいらしい。
くねくねした言葉。同様にくねくねとつかみ所のない男ロイドが、いつの間にか部屋に入って面白そうに聞いていた。
ぎんと硬質な音が聞こえるほど強い視線で星刻がロイドを射抜く。
「ありゃまぁ、怖い怖い退散だー」
くねくねしたままロイドは逃げていく。
(ほんとに飽きない男、かわいかったり、強かったり)
中華を一人で支える忠臣やら、世界一有能な男やら、この青年に与えられた形容詞は多い。でも彼女の事に関してだけは優秀さもどこへやら、単なる純情ぼうやになる。
(あきないわねぇ。こいつも)
ゼロがいなくなって、ラクシャータの目に世界はずいぶん色あせて見えた。だが、まだまだ、楽しいおもちゃがここにいる。
それに解らない事があるとき一番に自分に聞きに来るのがかわいい。
「ラクシャータどうなのだ。私はまだ天子様のために動けるのか?」
額の皺を深くして、星刻は訊く。もし手遅れなら1日でも早く後継者を育てなければならない。
「ふふん」
ラクシャータはキセルで星刻の頭をコンコンと叩く。
「甘えるんじゃないわよぉ。私の可愛い神虎のたった一人の男をそう簡単に楽にさせるもんか」
つまりは絶対に助けてやるという事だ。
「だからぁ、答えなさいよぉ。彼女の写真で何回ぬいたぁ」
絶句して真っ赤になる星刻。どうやら移植手術後も生殖機能は正常に働いているらしい。

古い技術

2009-03-14 11:50:20 | コードギアス
ナイトメアは最新の技術を駆使して造られている。だが、以外に古い技術も多用されている。その1つが溶接である。あのロイドが村の鍛冶屋に弟子入りして小型溶接を学んだなどちょっと信じられないエピソードが残っている。
実際数十種類の添加剤を加えて造られる金属繊維は今日でさえも手打ち打法で作られている。職人はハンマーで叩いた金属の音でミクロン以下の気泡の存在を捕らえる。
ガニメデ以降のナイトメアはすべてこの金属繊維を伝達方式にしている。皮肉な事だがこの技術は日本人それも京都の貴金属職人の手で生み出されている。
ブリタニアに協力した職人の名はゼロ・レクイエム後50年の今日でさえ明らかにされていない。

仲良く風邪をひく理由2

2009-03-14 05:22:42 | コードギアス
『永続調和の契りをかわす』
今より少し高い星刻の声を思い出し、天子の心はキュンと音を立てる。

天子はあの約束の日に思い出させる星空に、心を和ませた。一方の星刻は蓮花湯の名の由来を思い出していた。
楊貴妃が玄宗皇帝に与えられたのが蓮花湯だった。さほど意識せずに星刻はその1節を謡う。
「回眸一笑百媚生 六宮粉黛無顏色
春寒賜浴華清池 温泉水滑洗凝脂」
瞳をめぐらせて微笑めば百の媚態が生まれる。これには後宮の美女の化粧顔も色あせて見える。
春まだ寒いころ、華清池の温泉を賜った。温泉の水は滑らかに白い肌を洗う。

それほど大きな声でないが星刻の声はよく通る。それには天子がいつも意識して彼の声を聞いていることも大いに関係している。
「雲鬢花顏金歩搖 芙蓉帳暖度春宵」
やわらかな髪、花のような顔、歩みにつれて金のかんざしが揺れる。芙蓉模様のとばりは暖かく、春の宵を過ごす。
あれ、と天子は思う。1行抜けてる。たしか、
(侍兒扶起嬌無力 始是新承恩澤時
侍女が助け起こすとなよやかで力ない。こうして晴れて皇帝の寵愛を受けたのであった。
こういう文があったのに。星刻わすれちゃったのかな?)
十分温まったところで星刻は天子を湯から抱き上げる。
ほぐした柔らかな海綿で玉体を洗う。
天子は自分で身体を洗った事が無い。いつも女官か宦官がきれいにしくれる。
それに疑問を持ったことすらない。
本来なら、女官でも宦官でもない星刻が玉体に触れるなどありえない事だが、小さい頃の続きで誰も気にしない。
ふとすべるように動いていた海綿の動きが止まった。
天子のまだ小さな胸のふくらみ。
そこで止まった。
海綿が床に落ちた。星刻の手は無意識にのどに触れている。
ダモクレス戦で『生きろ』ギアス全開のスザクとやりあったときの傷。星刻本人の自覚よりも傷は深く、治療が遅れたこともあり後遺症が残った。疲れると声が出にくくなる。そして精神面にも傷が残った。体調が悪くなると無意識にのどに触れる。
「しんくー痛いの」
天子の小さい手が星刻ののどに触れる。
当然天子は星刻の目の前にいる。全裸で。
思わず星刻は目を閉じた。白い肌と小さな胸のふくらみがもろに見えてしまった。
しかも目を閉じても焼きついたかのように消えない。
「て、天子様、どうか女官を呼んで御召し変えを」
かすれかける声でようやく星刻はそう言った。
「だってしんくー、シンクーは」
女官では軍人である星刻の身体を支える事はできない。
世間知らずな天子ではあるが、いくつもの戦場を目の当たりに見て、その程度は判断できる。
誰に助けてもらえばいいか、信頼できる人は誰か?天子の中ですぐ答えが出る。
香凛。
さいわい、携帯電話の使い方は覚えている。香凛の番号は星刻の携帯に入っていた。
香凛が飛んでくるまで15分。天子はずっと星刻ののどをさすっていた。
結果、せっかく温まった天子の身体はまた冷え切った。
翌日、2人仲良く風邪を引き込んでいた。