藤堂は手早くグラスをかたづけた。明日、いやもう今日は早朝から東京に戻る予定だ。朝早くから千葉に洗わせるのは気の毒だ。長い事逃亡生活をしていたし、若いころは自炊していたから洗い物ぐらいは苦にならない。
きれいに洗ったグラスを布巾で拭く。わずかに布巾がひっかかる。見るとグラスの1つにわずかなひびが入っている。
「あぁ、あのときか」藤堂はつぶやく。
さっき辞去の挨拶をして立ち上がった星刻が一度足元を滑らせた。
丁度月が陰ったときだ。
そのときグラスがぶつかり合って、こつんとちいさな音を立てた。
無理にでも泊まらせるべきだったか?
藤堂は思う。だが、「洛陽に帰って、明日公式訪問で来ます」と言い切る青年将校に無理強いはできない。彼は実質的な中華の支配者だ。
「それに」藤堂はひび割れたグラスを紙に包みながらつぶやく。
星刻はスザクに似ている。身体能力もだが、不器用で意地を張るところが。
もしスザクがあの兄弟と出会わなければ、自分の弟子のままであれば、あの中華の青年のように育ったのではないか。
翌朝、わずかな手荷物を持った千葉は藤堂のお気に入りの切子のグラスが1個しかないのに気が付いた。
あの後、神虎の起動音が遠ざかった後、藤堂は客間で1人で眠った。
千葉には解っている。それは藤堂の優しさだと。明日からまた政府の仕事が始まる。
ゆっくり眠らせようとしてくれたのだと。
(でも、違う。それは)
以前ならその優しさは嬉しい。
だが、自分達はもう以前とは違う。自分は妻だ。式を挙げていなくても、妻だ。
妻だから自分だけが藤堂中佐の傍にいられる。
千葉自身はそう考えている。だが、藤堂はどうだろう。自信がない。
一緒にいる。それは四聖剣の頃も同じ。もちろん自分は今も四聖剣だ。中佐を守るのが自分の命の理由だ。だが、何よりも今の自分は藤堂の妻のはずだ。
(妻と思っているのは私だけですか。中佐)
藤堂は大きな荷物を運び終えると、まだ外に出てこない千葉を呼んだ。
「はい、すぐ参ります。総監」
迎えの車の運転手はひそかに扇から言い含められていて、この二人が新婚であることを知っていた。
しかし、その割には出てきた妻の表情がさえない。
(?)
内心(こりゃうまくいかなかったのかねぇ)と邪推したが、それを表面に見せることはなかった。
きれいに洗ったグラスを布巾で拭く。わずかに布巾がひっかかる。見るとグラスの1つにわずかなひびが入っている。
「あぁ、あのときか」藤堂はつぶやく。
さっき辞去の挨拶をして立ち上がった星刻が一度足元を滑らせた。
丁度月が陰ったときだ。
そのときグラスがぶつかり合って、こつんとちいさな音を立てた。
無理にでも泊まらせるべきだったか?
藤堂は思う。だが、「洛陽に帰って、明日公式訪問で来ます」と言い切る青年将校に無理強いはできない。彼は実質的な中華の支配者だ。
「それに」藤堂はひび割れたグラスを紙に包みながらつぶやく。
星刻はスザクに似ている。身体能力もだが、不器用で意地を張るところが。
もしスザクがあの兄弟と出会わなければ、自分の弟子のままであれば、あの中華の青年のように育ったのではないか。
翌朝、わずかな手荷物を持った千葉は藤堂のお気に入りの切子のグラスが1個しかないのに気が付いた。
あの後、神虎の起動音が遠ざかった後、藤堂は客間で1人で眠った。
千葉には解っている。それは藤堂の優しさだと。明日からまた政府の仕事が始まる。
ゆっくり眠らせようとしてくれたのだと。
(でも、違う。それは)
以前ならその優しさは嬉しい。
だが、自分達はもう以前とは違う。自分は妻だ。式を挙げていなくても、妻だ。
妻だから自分だけが藤堂中佐の傍にいられる。
千葉自身はそう考えている。だが、藤堂はどうだろう。自信がない。
一緒にいる。それは四聖剣の頃も同じ。もちろん自分は今も四聖剣だ。中佐を守るのが自分の命の理由だ。だが、何よりも今の自分は藤堂の妻のはずだ。
(妻と思っているのは私だけですか。中佐)
藤堂は大きな荷物を運び終えると、まだ外に出てこない千葉を呼んだ。
「はい、すぐ参ります。総監」
迎えの車の運転手はひそかに扇から言い含められていて、この二人が新婚であることを知っていた。
しかし、その割には出てきた妻の表情がさえない。
(?)
内心(こりゃうまくいかなかったのかねぇ)と邪推したが、それを表面に見せることはなかった。