【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

紙越しのキッス

2016-12-27 06:56:15 | Weblog

 電車の中などでマスクをした人が目立つ季節になりました。ところで、紙マスクをした二人がそのまま唇、というか、マスクを合わせたら、それは間接キッスになるのでしょうか?

【ただいま読書中】『依存症の科学 ──いちばん身近な心の病』岡本卓・和田秀樹 著、 化学同人、2016年、1400円(税別)

 日本にうつ病の患者は600万人いると推定されています(その内医者にかかっているのは100万人)。認知症は800万人。依存症は……2000万人。
 アメリカの精神科では統一した診断基準(DSM)を使っています。1994年に改訂された「DSMーⅣ」では、「物質依存(アルコールや麻薬の依存)」と「行為依存(ギャンブルなど)」は別のカテゴリーに分類されていましたが、脳科学の進歩で、どちらの「依存」も「報酬系が異常に興奮する」という共通点がわかり、2013年に改訂された「DSMーⅤ」からはまとめて「物質関連障害および嗜癖性障害群」というカテゴリーで扱われることになりました。
 依存は「意志を破壊する障害」です。人間の脳の「報酬系」は「快楽中枢」を含んでいますが、その部分が異常に興奮すると「普通の人間の意志」など簡単に圧殺されてしまうのです。だから「依存症の患者」に向かって「意志が弱い」と非難するのは無意味です。それは「病状」をそのまま指摘しているだけ。さらに「意志を強く持てば克服できる」というのは、たとえば「根性で癌を克服しろ」とか「根性で肺炎を自力で治せ」と要求するのに等しいでしょう。「病気の治療」に必要なのは「意志」や「根性」ではなくて「正しい治療行為」のはずなんですけどね。
 「依存症患者」は「なにか」に依存しています。ところが日本の経済は「依存症」に「依存」しています。何かにはまった(つまりは依存した)人を相手の商売が、一番儲かりますから。さらにマスコミは「依存症産業」に「依存」しています。依存症産業(たとえば、タバコ、酒、公営ギャンブル、パチンコなど)の広告はマスコミに満ちあふれています(いました)。しかし依存症産業に対するネガティブな指摘(依存症の危険性とか、WHOがアルコールの広告規制を打ち出していること)にはなるべく触れないようにしています(実際にニュースで「WHOがアルコールの広告規制」とか「韓国・台湾でパチンコが禁止された」といったものがきちんと報道されていましたっけ?)。
 依存症患者には「共依存(家族も巻き込まれている)」とか「否認(自分は依存症なんかじゃない、やめようと思えばすぐにやめられる、と強く主張する)」といった共通点があります。
 ちょっと枝葉の話題ですが、医療用マリファナも本書では扱われています。アメリカでは小児てんかんに有効、とのことで医療用マリファナの使用が認められているのですが、もしTPPが成立したら、日本でも導入することになるのでしょうか? ところでマリファナには「吐き気、倦怠感、気分変調、自殺願望、頭痛」などの「副作用」があります。またfMRIでは脳の楔前部と前頭葉皮質との機能連関が減弱することがわかり、MRIでは脳の海馬と扁桃体の容積が減少することもわかりました。つまりマリファナは「脳の構造と機能を作り替える」わけです。「害がない」という主張をネットでよく見ますが、本当?
 依存症の治療は、古典的な自助グループ(アルコールだったら「AA(アルコホーリクス・アノニマス)」、ギャンブルは「GA(ギャンブラーズ・アノニマス」、薬物依存には「NA(ナルコティクス・アノニマス)」)がありますし、最近は認知行動療法、マインドフルネス認知療法、メンタル・コントラスティング法なども行われています。だけど一番大事なのは「それ」から完全に遠ざかること。だけどテレビの画面には、魅力的な「それ」がコマーシャルでがんがん流され、ワイドショーで芸能人の覚醒剤中毒者が再犯で捕まったらコメンテーターは「意志が弱い」と非難することで言外に「意志が強いあなたは大丈夫」というメッセージを発しています。依存症治療のきちんとした医療機関は日本にはまだまだ揃っていません。こんな状態でカジノを解禁して、日本の将来は大丈夫?

関連する漫画:
失踪日記 ──「全部実話です(笑)」吾妻』吾妻ひでお 作、イースト・プレス、2005年、1140円(税別)
アル中病棟 ──失踪日記2』吾妻ひでお 作、イースト・プレス、2013年、1300円(税別)



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