【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ン十年前の復習

2014-03-10 06:59:27 | Weblog

 先日、大学入試の時に解けなかった数学の問題のことをなぜか突発的に思い出しました。なんで今頃?とは思いますが、あれが解けなかったから不合格になったのかもしれないので、私の運命を変えたのかもしれない1問です。
 問題はこんな感じのものです。
「同じ大きさの正方形が二つ重なっている。一つは固定し、もう一つは回転させずにその平面上を移動させる。二つの正方形が重なっている部分の面積がもとの正方形の面積の1/2になるように移動させたとき、移動する正方形の中心点はどのような軌跡を描くか」
 しばらく考えて今頃になって思いついた解答は、「デカルト座標の(0,0)(1,0)(1,1)(0,1)に一つを固定。移動する正方形の右上の角の座標を(p,q)としたら「p×q=0.5」となる(pqとも0以上1以下)。それを満たすpとqは(1,0.5)と(0.5,1)を結ぶ曲線(中央は(ルート2分の1、ルート2分の1))になるからその座標からそれぞれ0.5を引けば中心の軌跡(の1/4)が描ける。あとは90度ずつ捻りながら残りの3つの角についてもそれぞれ同じ作業をしたらよい」です。
 繰り返しになりますが、ン十年も忘れていたことをなんで今頃思い出しますかねえ。それと、私が導き出した解答、正解かしら?

【ただいま読書中】『微生物ハンター、深海を行く』高井研 著、 イースト・プレス、2013年、1600円(税別)

 まずは「しんかい6500」が母船から“発進”できるかどうか著者がやきもきするシーンから。海面が荒れていたら、母船からクレーンでつり下げられた「しんかい6500」のワイヤーの脱着が危険なのです。だったら少し潜らせて、海面の荒れに無関係な海面下で作業をすれば良いのに、と素人は思います。おそらく海面でなければならない専門的な理由が何かあるのでしょうけれど。さて、目指すは海底で熱水が吹き出ているチムニー。ターゲットは、そこに生息する超好熱菌です。
 「よーい……テッ!」と威勢良く号令をかける艇長。深海底で白いスケーリーフットを見つけて「勝った!」と踊る著者。なんとも元気で愉快な現場の雰囲気です。著者が本書で伝えたいのは「研究の楽しさ、喜び、熱い思い、そして感動」だそうですが、本書は本当に楽しそうに書かれています。著者だけではなくて、“熱い研究者”が次々と登場し、さらにその熱い志を次の世代に伝えていく情景も描かれます。
 著者が研究する深海熱水は、生命誕生の場の有力候補地です。著者は、50度以下になったら「寒い」と“冬眠”してしまう超好熱菌を研究したら、生命起源の謎(原始地球が冷えていった過程に「生命」が適応していったメカニズム)が解明できるのではないか、と非常に若いときに思いつきます。ここで本書は著者の学生時代に戻ります。さて、研究のテーマが定まれば、あとはどこで誰と一緒に仕事をするか、です。ここでの著者の地球全体を股にかけての動きは実に見事です。ただ、お釈迦様の手のひらの上の孫悟空のように、JANSTECの“手のひら”の上での動きのようにも見えますが。
 ともかく著者は「地球微生物学者」と名乗るようになります。そしてそこで本書の活字は、青いインクから黒いインクに切り替えられます。
 深海の古細菌(アーキア)は、熱水という「環境」に依存するのではないか、というテーマを著者は掴みます。しかしそのためには、微生物学と地球環境学が手を結ぶ必要があります。そのための学際的な「アーキアン・パーク計画」が立ち上がりますが、それを妨害したのが科学技術庁でした。やれやれ、“いつも”のお役所仕事と縄張り根性の発露です。日本のお役人って、どうして「日本を駄目にすること」にはいつもこんなに“有能”なんだろう、と思うことが多々あります。
 それでも著者は突破し続けます。こんど知りたいのは「40億年前の地球の海底には、現在の地球よりも超マフィック岩が豊富にあったかどうか」。読んでてわけわかんないでしょ? 私もわかりません。でもこの言説が成立するかどうかで、著者の考える「生命の起源」仮説が成立するかどうかが大きく左右されるのです。さらに著者は「40~38億年前の深海熱水」の再現をもくろみます(どうやら、強アルカリ性の白っぽい熱水だったようです)。JAMSTECの「第1回分野横断研究アウォード」に応募するための研究提案書を書くときに著者の脳裏に浮かぶのは「生命の起源を解き明かしたいと思います」と指導教官に熱く語った21歳の時の自分の言葉です。30歳過ぎても、著者は「青春」のまっただ中を生きています。そして、重要な言葉が登場します。

》分野横断とか分野融合というのは、知識や情報の共有や融合だけを意味するのではない。それぞれの研究者の情熱や想いをナマナマしく互いに重ね合わせることが重要なんだと思う。

 様々な才能が集まり、あるいは外野から応援をしてくれ、著者たちのプロジェクトはある程度の形となっていきます。そこでさらに新しいテーマ「アストロバイオロジー」が登場します。地球にこだわらない「生命現象の一般性」の研究で、地球外生命の研究もその中に含まれます。そして、本当に(土星の衛星の)エンケラドゥスでの地球外生命探査のクチがかかってきます。
 「科学は人類の役に立つものだ」「科学は人類を害するものだ」という二つの論点から離れて、3つめの論点から科学を見ることはできないか?は朝永振一郎のことばですが(先日読書した『鏡の中の物理学』)、本書でも私はそのことを意識していました。原始地球での生命発生について研究して何の“得”があるか、と言われたら返事に困ります。しかし、そういった研究を捨ててただ金儲けのための技術開発だけやっていたらいい、と言われたら、そちらには「それは科学ではない」と明確に反対表明をしたくなります。それにしても、科学にしか興味が無い人間は金儲けに熱中する人間の生き方には口を挟まないのに、その逆に、金儲けに熱中する人間は科学に熱中する人間の生き方に口を挟みたがる、というのは、不思議ですね。