【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

読んで字の如し〈扌ー17〉「推」

2014-03-04 06:51:25 | Weblog

「推進」……推して進む
「推して知るべし」……説明をサボる態度
「一推し」……1回だけ推す
「推薦」……薦めてよいと推察する
「推定」……推察だけで決定する
「推測航法」……頭がよいほど現在位置が正確になる
「壁越し推量」……安楽椅子探偵の得意技
「本格推理小説」……本格的な理論を推定する小さな説
「推論」……こちらも理論を推定するが小説にはならない

【ただいま読書中】『国家(下) ──正義について』プラトン 著、 藤沢令夫 訳、 岩波書店(ワイド版岩波文庫205)、2002年、1400円(税別)

 プラトンが「ソクラテス」に展開させている議論を読んでいて面白いのは、ことばに「ホンネとタテマエの一致」が見えることです。たとえば「医者」は「患者に健康をプレゼントする者」と定義されますが、ではそれに失敗したら「失敗した医者」ではなくて「医者と呼ぶに値しない者」と本書ではなります。こういうやり方で議論をしたら、言葉の定義を一度したらそこから結論は自動的に導き出されることになります。ここを見ていて私が思うのが「日本の言霊思想」です。あちらも「言葉」と「事柄」が一致するのですが、古代ギリシアでもそれに似た「言葉と事柄が一致しているべきである」という「言語による現実認識」をしていた、ということなのでしょうか。
 ともあれ「哲学者」とはいかなる者か、の「定義」が行われます。ついで哲学者が(他者よりも遙かに優れているがゆえに)少数派であることの指摘も。ここで使われるのは「言霊」ではなくて「イデア」です。
 そして「プラトンの洞窟」が登場します。洞窟の中に縛られて洞窟の奥の壁だけを見ることを強制されている人は、背後のたき火と自分の間を通過するもろもろのものの「影」だけを見ることになります。ここで「もろもろのもの」がイデア、「影」が「私たちが見ていると思い込んでいる世界の“姿”」です。……ところで、プラトンは明確に述べませんが、「たき火の光」は、何?
 ここで私は『紫色のクオリア』に登場した「クオリア」をめぐる議論で使われた思考実験「白黒の部屋の中のメアリー」を思い出します。「白黒の部屋に閉じ込められ、白黒の本だけ読んで、『色彩』についてあらゆる事を学んだ少女メアリーが、その部屋から解放されて『色のある世界』に出たときに何を認識するか」。そのとき「色彩についての知識」はどのように「メアリー」に作用するか。
 これって「洞窟」から解放されて外の世界で「影ではない実体の世界」を目撃した人が何を「見る」のか、の問題提起と共通点がありません?
 プラトンは「世界がそのまま見えないこと」の原因を「人の外部のイデア」に求めました。しかし、もう一つ「人の内部のクオリア」に求めるやり方もあるのではないか、なんてことを私は思いながら本書の頁をめくります(やっぱり私には「唯識」の影響が強いのかなあ)。
 「ソクラテス」は容赦なく議論を進めます。「国制」は「優秀者支配制」「名誉支配制」「寡頭制」「民主制」「僭主独裁制」に分けられ、それぞれにふさわしい支配者や国民がいます。そしてそれぞれの「国制」と「支配者」「国民」について詳細な検討が行われ、「ソクラテス」が軍配を上げるのは、これは有名ですね、「哲人王」です。ただ、この哲人育成プログラムは、非常に過酷なものです。体育・数学(代数と幾何学)・天文学……厳しい教育を受けて最高の成績をたたき出し、さらに人間として最高の「徳」を備える必要があります。そして、その対比として徹底的にやっつけられるのが「僭主独裁制」です。「ソクラテス」はまるで「徳のない支配者による独裁」に何かうらみでもあるかのようにやっつけます。しかし、清廉潔白で無私の支配者……ある種の“理想像”ですが、これって「神の代理人」のことなのかな(プラトンはなかなか簡単に「神」という言葉を使いませんが)。そしてそういった「哲人王」によって支配される「国」にふさわしい「国民」は、一体どんな資質を要求されるのでしょう? ちょっとコワイ気がします。凡人俗人には住む資格がないと言われそうで。
 それにしても「民主制」から「僭主独裁制」が生まれる、というのは、ワイマールからナチス、の予言ですか?
 「対話篇」だったはずですが、下巻ではほとんど「ソクラテス」のひとり舞台です。相手は相づちを打つくらいしか能が無くなります。ただ「ソクラテス」も、考察を深めていくと困ってしまいます。「正義の最終的な根拠はなにか」が提示しにくいのですから。デカルトが「疑って疑っていったら、最後に残ったのは『我思う』だった」のと同じような過程で、「ソクラテス」は最終的に「正義のよりどころは魂の不変性」になってしまいました。う~む、できたら「この世」に根拠を見つけて欲しかったなあ。