ジャンボ・ジェット(ボーイング747)が就航したのは1970年。そういえばこの前ボーイングの最新鋭機787が日本の空を飛んでいましたね。これで797が飛んでしまったら、次の番号はどうするんでしょう。707に戻して頭にNでもつけます? それとも4桁にして「ボーイング7117」……どちらもなんだか語呂が悪いなあ。
【ただいま読書中】『ジャンボ・ジェットを操縦する ──B747-400の離陸から着陸まで』岡地司朗 著、 講談社(ブルーバックス B-1276)、1999年、860円(税別)
機長の生活は不規則です。ある機長の11日間のスケジュールが載せられていますが、実働時間(出社時刻~退社時刻)の短さに比較して拘束時間が異様に長いこと、そして出社時刻がひどく変動することが目立ちます。国際線の日程なんか、たとえば成田ーロサンゼルスは二泊四日でとんぼ返りです。機内で寝られる旅行者でもきついのに、往復ともお仕事でしょ。これはしんどいや(本書が書かれた時代には、欧米では、たとえば成田まで操縦してやって来た機長はその飛行機の帰り便に“乗客”として乗り込むようになっていたそうです。つまり成田での宿泊費の節約。日本もいまではそうなっているかもしれません)。
出勤前に入浴し下着を取り替えることから「仕事」は始まります。独自のチェックリストで忘れ物がないかどうかをチェック。出勤をすると副機長とブリーフィング(飛行ルートの打ち合わせ)です。天候やジェット・ストリームなどから飛行経路を決定しますが、ジャンボの場合飛行時間が1分延びると200リットルの燃料を余分に消費します。ですから、経路や巡航高度の決定は慎重を要します。
飛行機は整備士が飛行前点検を行なっていますが、パイロットも飛行前点検をします。飛行機そのものとその回り(たとえばエンジン前方に吸い込まれやすいものが落ちていないか、など)についての点検です。また書類がすべて揃っているかどうかの点検もあります。この「書類」が意外に多いのです。備品や器機のチェックもありますが、操縦席のライト・計器・スイッチ類は、747-400では365もあるそうです。それで驚いてはいけません。デジタル化でCRT表示にするようになってここまで“減った”のであって、747-300ではなんと「971」だったそうな。スイッチの場所を覚えるだけで私のメモリーはパンクするでしょうね。
地上をタキシングして、さて、テイクオフ。飛行機が上昇する前に、機長の心拍数は急上昇します。「危険な11分間(離陸の3分間と着陸の8分間に全飛行機事故の68%が集中している)」が始まったのです。
飛行機は空中で三次元の運動としますが、それは「ローリング」「ピッチング」「ヨーイング」に分類されます。これは船と同じですね。で、それぞれを、補助翼・昇降舵・方向舵でコントロールするのが操縦士の仕事となります。特殊な空間認識能力と三次元感覚が必要そうですね。私には無理です(断言)。二次元世界での車の運転でさえときどき持てあましてしまうのですから。
燃料消費にも気を使う必要があります。新型ジャンボの燃料タンクは、主翼、胴体、水平尾翼内にありますが、どのタンクから使うかで翼の曲げモーメントが変わり結果として揚力に変化が出るのです。
食事やトイレの話も興味深いのですが、私が特に興味を引かれたのはエアコンのところです。1万mの高度では、気温はマイナス50度、気圧は地上の1/4以下です。そこでジェット・エンジンに使われる高圧空気(最高230度)をまず冷却し、適温(25度)にしてから機内に導入します。ただ、からからに乾燥した空気なので、水分補給などで客は自衛する必要があります(本書ではお肌の保護のためにはお化粧を、とありました)。気圧は地上2400m相当に調節されます。これ以上気圧を低くすると酸素吸入が必要となり、これ以上気圧を高くすると機体の強度に影響が出るからです。そうそう、ジャンボがマッハ0.85で飛ぶと、機体にぶつかった空気が断熱圧縮されることで機体表面の温度は30度上昇するそうです。燃料はあまり冷えるとジェリー状になってパイプ内で詰まってしまいますが、ジャンボがしっかり飛んでいたら主翼のタンクは大丈夫、ということです。(ついでですが、マッハ3で飛んだら、機体表面温度は450度になるそうです)
そしてランディング。またまた機長の(そして乗客も)心拍数は急上昇します。考えてみたら、飛行機の着陸とはコントロールされた失速による降下なのですから、恐ろしいことを日常的にやっているものです。ライト兄弟は、自分たちがやったことが、こんな「日常」をもたらすことになるなんて、予想していたのでしょうか。