【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

値段のないチラシ

2011-07-10 18:08:28 | Weblog

 先日のヤマダ電機の折り込み広告、紙面を見ていて違和感があると思ったら、値段が入っていませんでした。「自信をもっておすすめする商品が安心価格! ※価格は売場係員にご相談ください。納得してお求めいただけます。」だそうです。で、それを裏返すと「他店オープンチラシをお持ちください!!」とでっかい字で。つまり、自店の値段を他店に決めさせよう、という戦略です。
 いや、「他店より安くする」はこれまでもやっていましたが、自店のチラシから数字を撤去したら、自店のチラシを他店に持って行かれて「これより安く」ができなくなる、ということなんですね。しかも数字を抜いたスペースに商品写真をたくさん詰め込める。
 さて、他店がこれにどう対抗するのか、一消費者としては楽しみです。(もし全店がそれをやったら、どうすりゃいいの? 全店を回って表示価格を調査したり全店で見積書を作らせる?)

【ただいま読書中】『シャーロック・ホームズとお食事を ──ベイカー街クックブック』ジュリア・カールスン・ローゼンブラット&フレドリック・H・ソネンシュミット 著、 粕谷宏紀・野呂有子 監修・監訳、 東京堂出版、2006年、3200円(税別)

 前置きの長い本です。「蘊蓄はいいから、さっさと“料理”を出せ」気の短い私は呟いてしまいました。シャーロック・ホームズが、事件の前にいろいろ依頼人の外見からわかったことをのべてたりすることをふまえての構成なのでしょうか。
 まずはベーカー街の朝食。私の記憶ではシャーロック・ホームズに詳しい料理名とか作り方の蘊蓄はあまり登場しません。朝食も、食べる時間についてはけっこう書かれていましたが、その内容は「卵」とか「ハム」程度だったはず。しかしここでは、著者の「シャーロック・ホームズ」の読み込みと想像力と19世紀という時代の知識と、「現実への配慮」(現在のスーパーマーケットで入手可能な食材を使用する)によって、立派なレシピが次々登場します。たとえばスクランブル・エッグはグリルで焼いたマッシュルームとハムが添えられています。グレープフルーツは生姜風味のグリル焼きになっています。(二つに切ってジンジャーパウダーを混ぜた砂糖や蜂蜜をかけて2~3分グリルで焼くのだそうです。なんだか美味しそう)
 「ホームズ」に牡蛎は登場しますが、海老は出ません。しかし当時の市場では牡蛎と同じくらい海老も大量に売られていたこと、そしてシャーロック・ホームズが悪漢ライダーを小海老にたとえたことから(「青いガーネット」だそうですが、そんな場面があったっけ?と私の記憶は戸惑っています)、著者はホームズたちは海老も食べたに違いない、とします。そこで登場するのが「車海老サラダ ライダー風」。1973年にアメリカ料理大学で開催されたシャーロック・ホームズ記念晩餐会のメニューに掲載された料理だそうです。シンプルですがたしかに美味しそうに見えます。
 ホームズのお気に入りのレストランは、ストランド街のシンプソン(当時から実在の店)です。そこのコック長から、ホームズが食べたかもしれない伝統的な料理「雄鶏のプディング ケント風」が紹介され、さらに著者はそれに少し手を加えた改良版のレシピも載せています。しかし、去勢雄鶏の胸肉って、どんな味なんでしょうねえ。
 「マトンのカレー煮」は本編に登場したことをかすかに覚えています。子供時代の環境では私はマトンを食べることができなかったので、どんな味だろう、と思うだけでしたけれど(現在は近所のインドカレーの店でマトンカレーを食べることができますが、ここではカレーはインド風なので、英国風のカレーはどんなのだろう、とやはり私は思っています)。
 「ヴァイオレット」という名前の女性が何人も登場することから出てくる料理は「菫のビール衣揚げ(Violet in Beer Batter)」。スミレの花をビール衣にくぐらせてからっと揚げたものです。春の料理ですねえ。そうそう「タンポポのサラダ」というものもありますが、こちらで使われるのは花ではなくて若葉です。
 シャーロキアンは「ホームズ」をいろいろな読み方をします、というか、いろいろな専門家がホームズに夢中になって自分の専門を生かして読解しようとするからいろいろな研究成果が生まれる、と言う方が正確でしょう。本書でその「専門領域」は「料理」です。さらに本書は、とかく世界的にはけなされている「英国料理そのもの」の復権も目指した書であるように私には見えます。いわゆる「美食」ではなくて、下宿屋のような「日常生活での食事」がとことん不味かったら、ホームズの推理の冴えも得られなかったのではないか、と主張したいのかな、と、美味そうなレシピの数々を見ながら私はぼんやり「推理」していました。