【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

神戸

2010-06-15 18:54:58 | Weblog
この前久しぶりに神戸に行きました。残念ながら遊びではなくて日帰りの出張ですが。
思い起こせば、大震災の年の3月末だったか4月はじめだったかな、東海道線がやっと途中まで復旧したときに訪れています。道は片付けられて歩くのに不自由はしませんでしたが、傾いたビルはまだそのままで、あたりでは工事の大きな音が響き渡り、空気はほこりまみれで、多くの人はマスクをつけて歩いていましたっけ。
98年にオフで三ノ宮に集合したときには、久しぶりで会えた面々との会話の楽しさにあの時の悲しさは忘れていましたっけ。だけど、心のどこかで何か引っかかっていたのかな、ずっと「神戸に行きたい」とは思わないでいました。好きな街なのに。今回はもちろん震災の跡は全然見えません。ただし心の奥に、何かうずくものは感じます。
広島の街を評して「ビルが巨大な墓標に見える」と言った人がいます。神戸の街ではそこまで大げさに言う必要はないでしょうが、それでもやはりいろいろなものが埋もれているのではないか、とヨソ者がいらない感想を持って帰ってきました。

【ただいま読書中】『ゴースト・ドラム ──北の魔法の物語』スーザン・プライス 著、 金原瑞人 訳、 福武書店、1991年、1359円(税別)

昔々、ギドン皇帝に支配された北の国。冬至の日に娘を生んだ奴隷女のところに、三百年の寿命を持つ魔女がやってきます。このままだとこの赤ん坊は奴隷になるだけ。しかし自分に渡せば、魔法を教えてやり、さらに将来皇帝の息子に愛されることになるだろう、と。奴隷女は疑いためらい、結局赤ん坊を渡してしまいます。赤ん坊はチンギスと名付けられ(自分で名乗り)魔法ですくすくと育ち、順調にいけば世界で最高の魔女になるだろうと目されます。
偉大にして慈悲深いギドン皇帝は、自分の一族をほぼすべて殺しましたが、妹のマーガレッタだけはうっかり殺し残していました。表面上マーガレッタは皇帝を敬愛していますが、その心の奥底には皇帝とその跡継ぎに対する殺意がどろどろと。そして皇子のサファは、塔のてっぺんの悲しみでくさった部屋に皇帝によって幽閉されていました。皇位を脅かさないように。マーガレッタは皇子も殺そうとします。
サファの助けを求める声を聞き、チンギスは城に乗り込みます。ニワトリの脚が生えた家でとっとこと。皇帝が死に、宮殿では殺戮の嵐が吹き荒れます。サファが逃げ出せたのは僥倖でした。
チンギスはサファを弟子にします。しかし彼はできの悪い弟子でした。生まれてから塔の部屋しか知らず教育も訓練もしつけも受けずに来たので、見るもの聞くもの知るものすべてが驚異で何も覚えられないのです。ただ、チンギスはそういったサファの心の中の“驚きの歌”に耳を傾け、偉大な魔法使いとは別のものの見方を学びます。
逃げ出したサファを殺し損ねたことを執念深く覚えているマーガレッタ。自分より偉大な魔法使いになりそうな(あるいはもうなっているであろう)チンギスに対する嫉妬に燃える魔法使いクズマ。この二人が手を組みます。チンギスとサファを殺そうと。邪悪な魔法使いと邪悪な人間が組めば、それは最強(最凶)のペアです。奸計と暴力でチンギスは殺され、サファはまた塔のてっぺんに幽閉されます。マーガレットは安心して女帝となります。しかし……
ここで私の注意は、この物語の語り手である「猫」に向きます。君は、誰?と。

お子ちゃまは読まない方がよい「人のダークな面がたっぷり」の“ファンタジー”です。だけど、私には面白かった。スーザン・プライスがますます好きになりました。
ふっとこんな言葉も思い出しました。「もし悪がなかったら、どうやって自分のしていることが善だといえるんだね?」(『ファンタージエン 秘密の図書館』ラルフ・イーザウ)