若きホセ・ルイス・ゴンザレス - ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> 若きホセ・ルイス・ゴンザレス

 ホセ・ルイス・ゴンザレスのレコードは何枚かあるが、私が一番気に入っているのがこの写真のレコード。
彼は事情があって70年代に暫くの間ギター界から遠ざかっていたことがあったが、復帰してから後来日し、その際日本で何枚かのレコードも録音し発売になった。しかしそれらを聴いても、どうもあまり気に入らない。なんか師であるところのセゴヴィアに瓜二つのような感じがして、正直言って何度も聴こうという気がしなかったところへ来て、ある時輸入レコード店で見つけたのがこの写真のレコードだ。
 録音は劣悪とまではいかないがかなり悪い。オデッセイというCBS系のレーベルであるが、恐らくはずっと以前に録音されたテープを再編集して廉価版として発売されたものではないかという気がする。(輸入盤としても当時異例に安かった)
 収録されている曲は、A面がまずポンセの「6つの前奏曲」(12の前奏曲の内6曲)。同じくポンセの「主題と変奏と終曲」、そしてテデスコの「セゴヴィアの名によるトナディーリア」。最後がノルウェーの作曲家リバエクの「ギターのための音の絵」から2番と3番。B面には最初にターレガの「6つの前奏曲」(A面と意識的に対比させたかったのかもしれない)。次がタンスマンの「マズルカ」。ヴィラ=ローボスの「ショーロス第1番」、そしてバリオスの「古きメダル」で締めくくられている。

 ホセ・ルイスの演奏で一番大きな特徴は、楽器はホセ・ラミレスであるが、そのラミレスの性能をフルに発揮した、それ以上のものを必要と感じさせないほどの美音である。そしてお得意のスペインものを弾く時などは、その美音を縦横に駆使して誰よりもスペイン情緒一杯に歌わせることができる。彼の演奏は、どのレコードを聴いても超絶技巧といったものを必要とする曲はないかのように見えるが、実はその一つひとつの曲が信じがたいほどレガートに音が繋がり(そこが実は超絶技巧なのであるが)、歌心は正に溢れんばかりである。ややもすると最近の若いギタリスト達のようなクールな演奏では決してないので、少しばかり甘ったるいと感じる方もおられるかもしれないが、それでも彼の演奏を聴いていると「あぁギターを聴いている」という感じがして、ほっと故郷に帰った時のような安心感を覚えることがある。(ちなみに、過去私が生で聴いたギタリストの中で、最も美しい音と感じたのは、同じスペインのホセ・トーマスであったが、今回のホセ・ルイス・ゴンザレスもそのホセトーマスに負けず劣らずの美音の持ち主である)

 写真のレコードは、そんな彼のかなり若い頃の演奏のようであるが、やはり録音の年月日や場所などまったく記されていないので、はっきりとは申し上げられないのが残念。だが録音状態からすると、やはりそんなに新しいものではなさそうだ。しかしここには先ほど言った復帰後のホセ・ルイスとはちょっと違った彼の演奏が聴かれ、かえってなかなか新鮮に聴くことができる。
とにかく一切余計なことはやっていない。おそらく彼の教えを乞うたレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサの影響がまだ色濃く残っている時ではないかと勝手に想像しているが、とにかくたいそう生真面目に弾いている。しかしそこがまたかれの非凡なところで、ただ教えられるがままに弾いているのではないことが、その演奏の端々にわずかではあるが感じられて、私としてはこのレコードにみるホセ・ルイスの演奏は大変気に入っている。
既に亡くなってしまったので、もう一度生を、という訳には行かないのが残念であるが、このレコードに聴かれるような(日本盤できく彼の演奏とはまったく違った演奏)ホセ・ルイス・ゴンザレスをいつでも聴ける幸せを、この夏、また少しばかり味わうことができたような気がする。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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