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<あれも聴きたい、これも聴きたい> カルロス・ボネル
この5月、東京でリサイタルを開いたカルロス・ボネルのレコードを始めて聴いたのは、今からもう30年近く以前。「アランフェス協奏曲」と「ある貴神のための幻想曲」が裏表のLPだった。そしてそのすぐ後に発売になったのが今回紹介する「椿姫」幻想曲と題したLP。前回のアランフェスがどうもピンとこない演奏だったので、「あまり期待はできないな」とは思いながらも購入してみたが、あにはからんや、これがなかなかのいい演奏をしているので驚いた。前回のアランフェスでは申し訳ないがちょっとテクニックが不足しているところを露呈してしまい、どうもオーケストとうまくかみ合っていない感が終始つきまとう。多少リズム感に難ありなのも否めない。もっともテクニックが不足するとリズムもへったくれもあったもんじゃなくて、スケールにしても突入した時のスピードというか音と音との間隔がずっと維持できず、ところどころまばらになって、モタモタしてしまう。どうもこの人はスケール的な動きがあまり得意じゃないみたいで、そのようなパッセージへくると大概左手のスラーを多用して右指の動きを省略する傾向があるようだ。しかしテクニックがいまいちの人に限って、「せめて音楽的な表現の方で何とかしなくちゃ」と考える傾向にあるのか、今回のこのLPでは充分その目的を達成しているようだ。
収録されている作品を上げると、
① チャピー/ムーア風のセレナーデ
② アルベニス/アストゥリアス
③ パガニーニ/ロマンチェとアンダンティーノ・ヴァリアート(大ソナタの2・3楽章)
④ ヴィラ=ローボス/練習曲 第11番
⑤ バルベルデ/カーネーション
⑥ リョベート/スケルツォ・ワルツ
⑦ ヴィラ=ローボス/前奏曲1番・2番
⑧ タルレガ/ヴェルディの「椿姫」の主題による序奏と幻想曲
⑨ ショパン/前奏曲、Op.28 No.7
⑩ ヴァイス/シャコンヌ
以上の11曲だが、見ればお分かりの通りあまり技巧的に難易度の高い曲は入っていない。ところどころ(先ほど言ったスケール的な動きのところなどで)危うく破綻を来たす一歩手前のところも見られるが、それでも音楽としては充分楽しめるものがある。先回紹介した「軽くて薄い」テクニックだけのE・Fとは大違い。1楽章が収められていないのが気になるが、パガニーニも聴き応え充分だ。リョベートのスケルツォ・ワルツもナクソスからリョベートばっかりのCDを出しているロレンツォ・ミケーリほどのシャープさはないが、なかなかいい演奏だ。タルレガにいたっては、ヴェルディのオペラの華やかな雰囲気がとても良く出ていて名演だ。そして何よりもその楽器、多分「フレータ」だと思うが、なんともシャープないい音が聴けるのが大収穫。このカルロス・ボネルは名古屋出身のギタリスト掛布雅弥さんの師であることは現代ギター誌の5月号にも紹介されているが、ぜひともこのようないい演奏のLPはCDでも復刻してもらいたいものだ。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)
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