テデスコのギター室内楽 - ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> テデスコのギター室内楽

 あまり多いとは言えないが、それでも最近ではテデスコのギター五重奏曲はCDでもいろいろ聴けるようになったし、時には生演奏で聴くことも不可能ではなくなった。(現に私も一昨年村治佳織さんの独奏でこの曲の生演奏を味わうことができた)これは恐らくテデスコの音楽が日本の一般音楽界に認められ始めたというよりも、むしろクラシック・ギターというものがそろそろ日本のクラシック音楽の世界で一人前扱いしてもらえるようになってきたのではないかというような気がする。
昔、私が学生だった1970年前後は、まだまだクラシックギターというものが他の楽器と比べ価値として一段低く見られており、ギターを含む室内楽などというものは、一部のものを除いて殆んどといって良いほど聴く機会もなければレコードも手に入れることができなかった。(もっともジュリアーニやボッケリーニ、またはパガニーニといった古典の作品の中には少しは聴けるものも存在したが)というよりもちょっと過激な発言になることをお許し願えれば、当時日本ではギターを含む室内楽なんというマイナーなものに付き合ってくれる殊勝な弦楽器奏者や管楽器奏者、またはピアニストなんぞはほとんどいなかったのではないかと思う。(そんなことをすればなんだか二軍落ちしたような気がしていたのではなかろうか)そんな中、テデスコのギター五重奏曲としては当時アリリオ・ディアスがソロを勤めたエンジェルのレコードが唯一存在したのみで、そのレコードを私は自宅でワクワクしながら聴いたのを今でもよく覚えている。(アリリオ・ディアスの演奏は当時なかなかの名演であった)ましてやその他のギターを含む室内楽作品、特に現代曲などはまったくもって皆無であり、私達はただ楽譜を眺めることはあっても実際の音にしたものにはまったくお目にかかれなかったというような状態が長く続いていた。
そのころのことを思うと、今では結構その類いのCDが発売されていて、それらをあれこれ聴き比べてみるという、ひところでは考えられないような贅沢な楽しみが可能な時代となっている。

そしてその中でも私の一番のお気に入りは、今回紹介するスイス在住のギタリスト(バーゼル音楽院教授とのこと)シュテファン・シュミットという10弦ギターを弾く演奏家のCD。(写真)内容を紹介すると
① ギターと弦楽のための五重奏曲作品143(全4楽章)
② ギターとフルートのためのソナチネ作品205(全3楽章)
③ ギターとピアノのためのファンタジア作品145(全2楽章)
④ フルート、コールアングレ(イングリッシュホルン)とギターのための牧歌(田園歌)(全4曲)の以上4曲。
これらの作品は多少珍しい部類には入ると思うが、今では他の演奏家のものもないわけではない。しかし今回紹介するこのCDが最もテデスコの世界を素直に表現しているようで、私の最も気に入っているものだ。むしろ私にとっては他の演奏にはほとんど満足できないが、唯一この演奏には充分納得がいくと言った方が当っているであろうか。

“五重奏曲”は最初の出だしからしてなかなか好感がもてる。通常はいきなり弦楽がけたたましくがなりたてて少し耳にこたえる演奏が多い中、このCDの演奏はそこのところが少し控えめですんなり入っていける。弦楽のメンバーが主張し過ぎずギターを引き立てている。そしてリズムというかスピード感がとても適切な感じが好ましい。またギターのシュテファン・シュミットは恐らくこのCDでも10弦ギターを用いているのだと思うが、その音がイエペスのように妙に重くならずいかにも軽やかで自然であり、その技術もたいそう優れたものを感じさせる。最終楽章の胸のすくような爽快感と盛り上りも素晴しく、聴いていてぞくぞくさせられるものがある。録音も秀逸だが5人の演奏が作品の真価を最上級で表現しており、数ある室内楽作品の中においてもこの曲が充分一流の部類に属する作品であることを教えてくれる。これほどの演奏ならば機会があればぜひ生でも聴いてみたいと思うし、弦楽四重奏団としても他のいろいろな曲を聴いてみたい気がする。
(チーム名はQUATUOR PARISII)

次に続く“フルートとギターのためのソナチネ”も、従来ありがちな「ただ二人で合わせただけ」といった安直さは微塵もない上、それぞれの楽器に充分な必然性が感じられ、芸術の域に高く達した内容となっている。その腕前はその次に続く“ギターとピアノのためのファンタジア”でも存分に発揮されており、この一見不釣合いな組み合わせの楽器のひびきからテデスコが表現しようとした幽玄の世界が感じられ、ただの「めったに演奏されない変わった曲」という範疇を超えてなかなか聞き応えのある作品であることを知らされる。また最後の“ギターとフルートとイングリッシュ・ホルンのための三重奏『牧歌』”では、その名の通り親しみ易い旋律が随所に見られとても楽しい。これこそめったに聴けない曲ではあるが一般にもっと演奏されてもよいのではないかと思う。

演奏しているギタリストのシュテファン・シュミットに関しては先にも述べたように、10弦ギターを演奏する他のギタリストによく見られるようなこれ見よがしなわざとらしさがなく、私にとっては最も好ましい演奏をしてくれる10弦ギタリストのように思える。こちらもぜひとも他の作品も聴いてみたいものと思っているが、インターネットで調べると過去に5・6枚のCDをリリースしており、バッハからモーリス・オアナまでなかなか渋いレパートリーを持っているようで期待している。ひょっとしたらリュートの中川さんなんかはバーゼル音楽院でお知り合いではなかったかという気もするので一度伺ってみようと思う。

とにかくこのCDでは弦楽やピアノ、そしてフルートといった他の楽器の演奏者が「仕方なくギターと合わせてやった」という安直さがまったくなく、立派な芸術作品を作り上げているところが大変好ましい。このような良質な演奏をしてくれれば、世の中にはもっともっと優れたギター作品が埋もれているのかも知れないという一種希望のようなものも見えてくるというものだ。それほど今回取り上げたCDは芸術の香り高いCDといえる。そしてギタリストの名技性ばかりがクローズアップされたコンサートでなく、小さなホールでよいので、このような質の高いそして品の良い音楽会というものがもっとあったらいいのにと思わずにはいられない。たとえばラゴスニックとペーターシュライアーによるシューベルト作曲「美しき水車屋の娘」のようなコンサートのように。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
re (中川祥治)
2008-02-16 14:39:41
この人、今は校長先生ですよ。
確かギターの先生が学校の要職についているって話はどっかで聞いたことがありました。彼に会って話したことはなかったですけど、学校での地位はオスカーよりはずっとエライ人ですよね。
 
 
 
びっくらこいた! (uchiuzou)
2008-02-23 08:34:09
なるほどなるほど。さすがえれぇもんだ。おらの目にくるいはなかっただなゃあ。
 
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