モウズイカの裏庭2

秋田在・リタイア老人の花と山歩きの記録です。

東北の高山に咲く謎のリンドウ

2022年01月17日 | 高山植物

(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。今回はその八編目です。)

晩夏から初秋にかけて、北東北の高山を歩くと、
登山道沿いの草地や湿地などで花の大きなリンドウがいっぱい咲いている。

下の写真は昨年、鳥海山で見た株だが、この素晴らしいリンドウ、
少し前(私にとっては10年前頃)までは名前がわからなかった。

当初は北国なのでエゾリンドウかと思ったが、花は茎頂(茎の先端)だけにしか付かないし
(エゾリンドウは茎頂の他に上部の葉腋にも付く)、背丈もあまり高くない(1mを超えない)。

手持ちの図鑑をあたったら、オヤマリンドウも花は茎頂だけにしか付いてないことがわかった。
絵合わせでこれかなと思ったが、誰もそうは呼ばなかった。
更に分布域を見ると、どうも自信が無くなる。

何故ならば、ある図鑑(後述のA)には、オヤマリンドウは「本州の東北~中部」、
また別の書(後述のB)には、本州の中部以北、後述のCには東北南部~中部とあった。

北東北ではこんなによく目立つリンドウなのに名前がわからないままでいた。
ところが10年前頃だったか、ひょんなことから「エゾオヤマリンドウ」の名前が浮上した。

2021/09/03 鳥海山賽の河原にて。



ここで愚痴めいた話を少し。

私自身が高山植物の同定で長年使っていた図鑑は次の三冊だ。
原色新日本高山植物図鑑(Ⅰ)(清水建美・著、保育社・発行)(Aとする)には、
エゾリンドウ、エゾオヤマリンドウともに掲載されていなかった。

著者は信州大学の教授だった。たぶん中部地方の高山植物で手いっぱいで、北東北の植物には関心がなかったのだろう。




山渓カラー名鑑 日本の高山植物(豊国秀夫・編、山と渓谷社・発行)(Bとする)
は個人的にはたいへん重宝していた書籍だった。

こちらには一応、両方とも載っていたものの、その生育地は、
エゾリンドウが北海道と福井県以北の山地帯~亜高山帯の草地や湿地周辺、
エゾオヤマリンドウが北海道(大雪山、夕張岳、羊蹄山など)と東北では岩手山などに分布とあり、
後者の特徴は「エゾリンドウの高山型で高さ13~30センチと小さい。花つきも悪く、茎の先にだけつく。」との記載。
くだんのリンドウは岩手山以外の北東北の高山にも極めて多く、背丈はもっと高く、花つきはけっして悪くない。

同じく山と渓谷社・発行の
山渓ハンディ図鑑8増補改訂新版 高山に咲く花(清水建美・編、門田裕一・改訂版監修)(Cとする)には、

エゾオヤマリンドウのみ掲載されており、分布は北海道とあった(清水先生が絡むと、この花の扱いは雑になるのか)。
ならば北東北の高山にうじゃうじゃ咲いている立派なリンドウはいったい何なのか。

ここ十年ほどは皆さん、エゾオヤマリンドウと呼んでいるようなので、私もあまり深く考えず、それに合わせていた。

最近購入した改訂新版・日本の野生植物(平凡社)(2018年発行の第2刷)(Dとする)によると、
エゾオヤマリンドウ Gentiana triflora var. japonica f. montana は、
北海道、本州(山形・宮城県以北)に産する。エゾリンドウの高山型で、茎は高さ20~30cm、
花が茎頂だけにつき、花冠はやや短い。外観はオヤマリンドウに似るが、生育環境が異なり、花冠裂片が平開する。
とあった。
やっとこの花が『岩手山以外の北東北にも有る』ことが正式に認知されたような気がした。
しかし多少、不満が残る。
1.「茎は高さ20~30cm」という点。
北東北の高山で実際に見かけるものは多くが40~60cmと高山植物としては比較的大柄である。

2.花が茎頂だけにつくものが圧倒的に多いが、場所によっては葉腋にも数段にわたって花をつけるタイプ、
いわゆるエゾリンドウ Gentiana triflora var. japonica と混生しているケースも有った
(個人的には三ツ石山、乳頭山、栗駒山秣岳などで遭遇)。


愚痴めいた前置きが長くなってしまった。
以降、北東北各所のエゾオヤマリンドウを列挙してみる。

エゾオヤマリンドウは秋田駒ヶ岳にも多いが、自らの撮った写真がイマイチだった。北隣の湯森山のもので代替。

2014/09/15 湯森山にて。



乳頭山では各所に湿原が点在し、一足早い草紅葉をバックにしたリンドウを愉しめた。

2019/09/17 乳頭山にて。



八幡沼で見た株は大きいのに花がとても貧弱だった。
たぶん廻りの湿原が高層湿原で栄養状態が良くないせいかなと思った。

2014/09/03 八幡平八幡沼にて。



三ツ石山は紅葉の素晴らしいお山。花は少ないが、リンドウは豊富だった。

2021/09/11 三ツ石山にて。バックは岩手山。                                                2021/09/11 三ツ石山にて。白花タイプ。
 



三ツ石湿原には葉腋にも花がつくタイプが数本混生していた。背丈も1m近く、
これは典型的なエゾリンドウだと思った。

2021/09/11 三ツ石山荘付近にて。 葉腋にも花がつくタイプ。                2014/09/06 森吉山にて。薄色のタイプ。
 



エゾオヤマリンドウは他の花との混生はあまり好まないようで、いつも単独シーンばかりだったが、

森吉山ではミヤマアキノキリンソウと仲良く?混生していた。

2014/09/06 森吉山にて。



焼石岳では標高900mの中沼から山頂直下まで連続的に分布していた。
草丈は湿原のものは1m近く、山頂直下のものでも30cm以上あった。

2020/09/16 焼石岳山頂直下にて。



栗駒山ではあまり多くなかった。秣岳では、葉腋にも花が付き、丈が高いタイプが混生していた。

2019/09/28 栗駒山秣岳にて。2019/09/28              栗駒山秣岳にて。葉腋にも花がつくタイプ。
 


エゾオヤマリンドウの分布南限は月山のようだ。

2016/08/20 月山にて。



次のリンドウは月山の南、朝日連峰稜線で見たもので、エゾオヤマリンドウにそっくりだが、別種だった。

オヤマリンドウ Gentiana makinoi だ。
Dには、花冠は2-3cmと小さく(エゾリンドウは3-4.5cm)、茎の頂部に付き、裂片は直立し、平開しないとあった。

2019/08/05 オヤマリンドウ。朝日連峰オツボ峰にて。




2019/08/05 オヤマリンドウ。朝日連峰オツボ峰にて。



トウヤクリンドウ Gentiana algida は中部山岳ではありふれた高山植物のようだが、東北では珍しい。

以前、何かの本に東北では尾瀬の燧岳と月山だけと書いてあったが、私自身は月山でしか見たことが無い。
月山では山頂台地の風衝地にパラパラと咲いていた。
世界的には北アジアから北米にかけて広く分布する種だと知った。

2016/07/23 トウヤクリンドウ。                                                                    月山にて。2014/08/02
 


2016/07/23 トウヤクリンドウ。月山にて。




ミヤマリンドウ Gentiana nipponica はあちこちの高山で見かけるが、生育場所は湿った場所が多い。

丈が低いので、背の低いイネ科やスゲ類の草地や登山道沿いの裸地を好むようだ。
開花時期は先のエゾオヤマリンドウより早く、
七月から咲き出すものもある。

2020/07/30 ミヤマリンドウ。鳥海山にて。



2016/08/11 ミヤマリンドウ。乳頭山にて。



タテヤマリンドウ Gentiana thunbergii var. minor
はハルリンドウ Gentiana thunbergii var. thunbergii の高山型変種とされる。

高山や亜高山帯の湿地で見られるが、東北ではそれほど多くない。
開花時期はミヤマリンドウよりも早く、六月から咲き出している。

2010/06/15 八幡平大場谷地にて。



2021/06/25 栗駒山にて。
 


以上。


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