消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

本山美彦 福井日記 49 酒と脳

2006-12-05 03:58:34 | 酒(福井日記)
 現在日本には痴呆性老人が80万人もいる。65歳以上の老人の5~6%の比率で痴呆老人が出ている。35年後には痴呆性老人は320万人になるという。恐ろしい数値である。いつまでも現役で物を書きたい。しかし、このまま酒を続けると痴呆になるのではないか。老齢者共通の怯えである。老人性の2大痴呆は「脳血管性痴呆」と「アルツハイマー型痴呆」である。前者は痴呆の半分、後者も約3分の1の比率である。この2大痴呆で83%に達する。


 血管性障害による「脳血管性痴呆」は重度の物忘れを進行させながら、運動障害を起こさないので夜間徘徊を繰り返す。家族に迷惑をかける大変な痴呆である。アルツハイマーはまだ原因が解明されていない。


 専門家によれば、記憶を司るホルモンはパソプレッシンと呼ばれている。このホルモンが過剰に分解されれば記憶障害が出るという。そして、このホルモンを分解するのはプロリルエンドペプチターゼという酵素らしい。この酵素が異常に活躍すると記憶を司るホルモンの過剰分解が起こり、記憶を消してしまう。この酵素の過剰活発化を制御できれば痴呆から逃れられる。この酵素の働きを抑え込む物質が「ペプチド」である。なんとこの「ペプチド」を日本酒が含んでいるという。


 日本酒を醸造するのに用いられる酵母にも老人性痴呆症や鬱病、不眠症に効くとされる物質「S-アデルノシルメチオニン」が含まれている。血管を若々しく維持する効能も日本酒には含まれている。


 ただし、毎晩お猪口1杯程度の酒が効能をもつだけであり、泥酔は害。分かってはいるのだけれど。


 酒に強いのは肝臓が強いからであるというのは嘘。遺伝的なものが最大の要因であるが、長年の飲酒によって脳細胞がアルコールに対して鈍感になっただけのことである。


 酒を飲んで機嫌良くなったという記憶がアルコール依存に導く。本当は二日酔いで塗炭の苦しみにもだえながら(ちなみにドイツ語で二日酔いは『猫の病』である)、人間とはいい加減なもので、少ししかなかった快感の記憶のみが定着し、苦しかったことは都合よく忘れる。いきおい、酒のボトルを見ただけで飲みたくなるのである。


 ただし、ストレスが万病の元であるという仮説からすれば酒でストレスを一時にせよ忘れることができれば体は健康を回復するのかも知れない。
 酒の強い人を上戸、弱い人を下戸と呼ぶいきさつについてはこの福井日記の初期の頃に紹介しているので、読者諸氏は捜していただきたいが、今日は、上戸用の酒の肴と下戸用の酒の肴の区別を多くの方々がご存知ないと思うので、紹介しておきたい。


 上戸はともすれば飲み過ぎる。急性アルコール中毒や肝臓障害の予防が上戸用の肴である。アセトアルデヒドを中和させると悪酔いを防げる。この作用を含硫アミノ酸がもつ。これには卵と牡蛎が最高。フルクトースという糖分もアルコールを速やかに消失させる。したがって果物とくに柿がよい。
 下戸用の肴は、胃腸の中のアルコール濃度を下げ、胃壁でのアルコールの吸収を妨げるものがいい。チーズ・フライ・天麩羅が最適である。つまり高脂肪食品である。


 この高脂肪食品を上戸が肴にすれば、逆に脂肪が肝臓に付着し、ギラギラした肝臓になってしまうので、駄目である。


 脂肪の分解を促進させてしまえば糖尿病になる。脂肪の分解を遅らせることに成功すれば糖尿病の発生を予防できる。日本酒にはこの働きがある。


 そして、体を酸性にしてしまえば人間の健康は損なわれる。酸性体質の人は血液の循環が悪いからである。軽い運動が酸性体質を変えてくれる。酒は一挙に血液循環を促進させるのである。ただし、これも何グラム・レベルの話。やはり飲まないにこしたことはない。

本山美彦 福井日記 48 酒と保険

2006-12-02 03:42:26 | 酒(福井日記)
 平成18年11月30日、金沢国税局が面白いデータを公表した。「北陸3県・酒類消費状況」がそれである。北陸3県は、全国平均に比べて高級清酒の製造比率がとてつもなく高い。国税局は、吟醸酒とか純米酒などを「特定銘柄酒」と呼び、これを高級清酒と位置づけている。この比率が北陸3県では63.7%もある。全国平均が32.5%だから、北陸では醸造された酒に占める高級酒の比率がいかに高いかが分かるであろう。

 それで納得できた。私などはとても高級酒など飲めない。というよりも毎日ビフテキを食べることなどできない。特に歳を取ってくるとビフテキよりもシャケのお茶漬けの方がはるかに美味い。福井は老人県である。コクというクセのある銘柄酒を毎日飲めるはずはない。これが福井のコンビニやスーパーでは地元酒よりも灘の酒の方が圧倒的多数、棚に並べられている理由なのだろう。私は福井に来て灘の酒の良さを初めて理解できた。灘の酒はクセがない。飽きのこない女房のような酒である。そうした比喩でいうと福井の名酒は楊貴妃であり、傾城の酒であるとの思いを強くする。平常心では飲めない。安い酒の方が長期的には飲みやすいものなのである。

 ちなみに、福井の焼酎消費量は全国最低ランクにある。第44位である。福井で2005年度に飲まれたアルコール類のうち、ビールが42%を占める。雑酒が27.8%である。雑酒というのは発泡酒などの酒を指す。清酒は11.6%、焼酎が7.2%である。  話はそれるが、県が世帯当たりの家計収入が全国一であることをご存じだろうか。全国の原発のほぼ3分の1も福井県にあるので、私は貧しいから福井県に原発が誘致されたものとばかり思っていた。しかし、それは明らかに間違いであった。福井の田畑、家屋、自家用車、どれをとっても豊かさを実感できる。男女ともに長寿県で全国第2位である。厳しい風土でこの長寿とは、生活の豊かさがもたらしたものだと思われる。家計収入の全国2位は富山県である。とすれば、豊かな県に恐ろしい原発が蝟集している理由は別のところにあることになる。

 日本生命保険協会が2005年度の死亡保険契約額ランキングを発表した。なんと、福井県は20年間連続全国第1位なのである。1世帯当たり3313万円もある。これも、とてつもなく高い数値である。全国平均は2095万円である。つまり福井は全国平均よりもじつに1000万円以上も死亡保険契約額が多い。高い家計収入と大家族の残存というのがその理由なのであろう。

 いよいよ冬の到来で、主要道路には凍結防止の水が道路の真ん中から噴き出されている。とてもじゃないが道路を歩けたものではない。そもそも福井県人には遵法速度の観念などまったくない。猛スピードで歩いている私の側を駆け抜ける。腹立たしく思うのは福井県は道路だけが立派で、歩道などほとんどないことである。自転車専用道路もないに等しい。自転車はおろか、歩くのでさえ危険である。なんと街頭もほとんどなく、私は大学から宿舎に帰る時には懐中電灯を携える。対抗から来る自動車のほとんどはライトをアップしていて、歩行者は前が見えなくなる。福井県人の交通マナーは全国で最悪であると私は断言する。道路のあちこちに「交通マナー全国一」とのステッカーがある。美しい町に「待ちを美しく」というスローガンがなく、路上駐車のない町には「違法駐車をしないでおこう」とのスローガンがないことを思い起こそう。「交通マナー日本一」のスローガンが福井では溢れているのである。

 猛スピードで走る自動車が雪解け用の道路の撒水を巻き上げ、歩いている私に容赦なく水しぶきを被せてすり抜ける。こんなことを繰り返していると、さしもの私もだんだん福井が嫌いになる。「福井県人はバスに乗れ」、「バスをもっと増やせ」、「電車を走らせろ」、「スピードのでないガタガタ道を造れ」、そもそも「老人を守れ」、と悪態をつきたくなる。自動車嫌いの私には福井の道路は地獄のような存在である。

 今日はいささか過激すぎたかな。たまりにたまった怒りが爆発してしまった。ご容赦。 道路以外は、私が福井の景観をこよなく愛していることだけは福井の方々にお伝えしたい。

本山美彦 福井日記 47 酒と心臓

2006-12-01 00:39:36 | 酒(福井日記)

 1981年英国のマーモットの調査報告によれば、酒を飲む人の方がまったく飲まない人よりも死亡率が低いという。禁酒家と大量飲酒家よりも少量(酒4勺から1.5強)飲酒家の方が長寿であった。これは「アルコールと死亡率のU字曲線」と呼ばれている。

 

 大酒飲みはガンになる確率が高く、禁酒家は心臓病になる確率が高い。後者はフレンチ・パラドックスと呼ばれている。酒は善玉コレステロールを増やし、血管に付着する悪玉コレステロールを掃除してくれる。また酒は血を固まりにくくさせる。血小板の機能を抑制するのである。したがって、突然の禁酒は生命の危険を伴う。禁酒によってそれまで抑制されていた血小板の機能が一挙に増幅するからである。禁酒後2週間は要注意である。

 

 そもそも血栓を人は悪くいいすぎる。血栓を作る凝固因子は止血効果をもつ。血管の修復が終わった後、固まった血液を溶かすのが線溶因子、このバランスが大事。歳を取るとこの溶血機能が衰える。したがって酒で血栓溶解酵素を活性化させなければならない。日本種1合飲んだ後1時間で酒を飲む前よりも1.7倍溶血酵素が活発になる。心筋梗塞や脳梗塞は月曜日の朝に起きやすい。出勤が嫌だからである。それを予防するためにも日曜日の晩には酒を飲むとよい。

 

 ただし、私はまったく素人。ものの本にそう書いてあった。一合だけなら飲まないほうがましである私は実は酒の健康への効能など認めてはいない。でも酒を上手にコントロールしている人は確かに経験的に見て大きな人物である。