消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

本山美彦 福井日記 48 酒と保険

2006-12-02 03:42:26 | 酒(福井日記)
 平成18年11月30日、金沢国税局が面白いデータを公表した。「北陸3県・酒類消費状況」がそれである。北陸3県は、全国平均に比べて高級清酒の製造比率がとてつもなく高い。国税局は、吟醸酒とか純米酒などを「特定銘柄酒」と呼び、これを高級清酒と位置づけている。この比率が北陸3県では63.7%もある。全国平均が32.5%だから、北陸では醸造された酒に占める高級酒の比率がいかに高いかが分かるであろう。

 それで納得できた。私などはとても高級酒など飲めない。というよりも毎日ビフテキを食べることなどできない。特に歳を取ってくるとビフテキよりもシャケのお茶漬けの方がはるかに美味い。福井は老人県である。コクというクセのある銘柄酒を毎日飲めるはずはない。これが福井のコンビニやスーパーでは地元酒よりも灘の酒の方が圧倒的多数、棚に並べられている理由なのだろう。私は福井に来て灘の酒の良さを初めて理解できた。灘の酒はクセがない。飽きのこない女房のような酒である。そうした比喩でいうと福井の名酒は楊貴妃であり、傾城の酒であるとの思いを強くする。平常心では飲めない。安い酒の方が長期的には飲みやすいものなのである。

 ちなみに、福井の焼酎消費量は全国最低ランクにある。第44位である。福井で2005年度に飲まれたアルコール類のうち、ビールが42%を占める。雑酒が27.8%である。雑酒というのは発泡酒などの酒を指す。清酒は11.6%、焼酎が7.2%である。  話はそれるが、県が世帯当たりの家計収入が全国一であることをご存じだろうか。全国の原発のほぼ3分の1も福井県にあるので、私は貧しいから福井県に原発が誘致されたものとばかり思っていた。しかし、それは明らかに間違いであった。福井の田畑、家屋、自家用車、どれをとっても豊かさを実感できる。男女ともに長寿県で全国第2位である。厳しい風土でこの長寿とは、生活の豊かさがもたらしたものだと思われる。家計収入の全国2位は富山県である。とすれば、豊かな県に恐ろしい原発が蝟集している理由は別のところにあることになる。

 日本生命保険協会が2005年度の死亡保険契約額ランキングを発表した。なんと、福井県は20年間連続全国第1位なのである。1世帯当たり3313万円もある。これも、とてつもなく高い数値である。全国平均は2095万円である。つまり福井は全国平均よりもじつに1000万円以上も死亡保険契約額が多い。高い家計収入と大家族の残存というのがその理由なのであろう。

 いよいよ冬の到来で、主要道路には凍結防止の水が道路の真ん中から噴き出されている。とてもじゃないが道路を歩けたものではない。そもそも福井県人には遵法速度の観念などまったくない。猛スピードで歩いている私の側を駆け抜ける。腹立たしく思うのは福井県は道路だけが立派で、歩道などほとんどないことである。自転車専用道路もないに等しい。自転車はおろか、歩くのでさえ危険である。なんと街頭もほとんどなく、私は大学から宿舎に帰る時には懐中電灯を携える。対抗から来る自動車のほとんどはライトをアップしていて、歩行者は前が見えなくなる。福井県人の交通マナーは全国で最悪であると私は断言する。道路のあちこちに「交通マナー全国一」とのステッカーがある。美しい町に「待ちを美しく」というスローガンがなく、路上駐車のない町には「違法駐車をしないでおこう」とのスローガンがないことを思い起こそう。「交通マナー日本一」のスローガンが福井では溢れているのである。

 猛スピードで走る自動車が雪解け用の道路の撒水を巻き上げ、歩いている私に容赦なく水しぶきを被せてすり抜ける。こんなことを繰り返していると、さしもの私もだんだん福井が嫌いになる。「福井県人はバスに乗れ」、「バスをもっと増やせ」、「電車を走らせろ」、「スピードのでないガタガタ道を造れ」、そもそも「老人を守れ」、と悪態をつきたくなる。自動車嫌いの私には福井の道路は地獄のような存在である。

 今日はいささか過激すぎたかな。たまりにたまった怒りが爆発してしまった。ご容赦。 道路以外は、私が福井の景観をこよなく愛していることだけは福井の方々にお伝えしたい。