消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(254) 新しい金融秩序への期待(199) 倫理なき金融経済(1)

2009-12-22 07:54:43 | 野崎日記(新しい世界秩序)

 アメリカでは、サマーズが国家経済会議のトップに就任しました。サマーズはゴールドマン・サックスで1時間1500万円の講演料を40回以上続けています。アメリカの金融危機ではゴールドマン・サックスがいちばんの問題会社なのに、金融を取り締まる総責任者がそこから多額の報酬を得ているところに、非常に恐ろしいものを感じます。連邦準備銀行こそが監査の対象となるべきだ、という議論も出てきました。
オバマ大統領は、国家経済会議に対抗するような形で経済回復諮問会議をつくっています。サマーズやガイトナーなど規制緩和を推し進めてきた人たちを入閣させておいて、市場を規制しなければならないと言っている人たちには別の組織をつくるという点に、オバマの経済政策のダッチロールが現れています。

  ウォール街というと、ほとんどはゴールドマン・サックスです。アメリカの金融政策はゴールドマン・サックスに牛耳られていると言っても過言ではありません。財務長官が二代続けてゴールドマン・サックスから出ています。結局、アメリカでは業界関連の大臣は業界から出すのです。すべてが順調に行っているときなら良いけれど、業界のお灸をすえなければならないときに、果たしてそれで良いのか、となります。

   世界を騒がせている金融危機は、一言で言って貸し手責任の不在ということです。日本の銀行の場合は貸した相手が焦げ付いてはたいへんなので、貸すことに大きな責任を持って、貸し先の企業を立て直します。アメリカ的なモデルはこれを否定しました。正しいのは直接金融だということで、貸した場合にそれを証券化して、転売した瞬間に貸し手責任はなくなります。金融工学を駆使して世界に売りまくる。貸し手責任が不在で、証券化した後に誰に責任があるのか分からないという状態が一般化してしまったことに問題があります。本来なら、怪しげな金融商品を作った責任者、そういう商品を売った人たちを逮捕しなければなりません。立派な金融犯罪です。しかし、張本人は誰一人逮捕されていません。ゴールドマン・サックスは自らのいろいろな金融商品を持っていますが、時価会計で完全に凍結しています。それで黒字になったというけれども、こんな粉飾決算が平気で通っていく現在のウォール街の堕落ぶりは目を覆うばかりです。

  3兆ドルを超すものすごく多くの公的資金が注がれています。歴史上これだけ「大きな国家」はありませんでした。「小さな国家」を主張していた人たちが「大きな国家」にぶらさがっています。この結果、空前のハイパーインフレーションになると思います。火が着きそうなのが国際大豆相場で、ガソリン価格もおかしい。投機資金が復活して、それがさまざまな資源に向かいます。

  アメリカ国債の半分近くを中国と日本が持っています。中国がものすごい勢いで米国債を買っています。そのためにオバマ政権は中国のいいなりです。

  少なくとも金融が自由化される前は、アメリカの銀行の倒産はほとんどありませんでした。1933年のグラス・スティーガル法により、銀行・証券・保険を同時には経営できなくなりました。この3つをいっしょにしていたために1929年の金融恐慌が起きたので、これらの垣根をきちんと分けたわけです。ところが、1999年にこのグラス・スティーガル法が廃止され、シティバンク、トラベラーズ、ソロモンブラザースが統合されてシティグループになったのです。

  ルービンは財務長官を辞めてすぐにシティグループの代表取締役会長に就任し、シティグループの救済資金をオバマからせしめます。このようなことがいつまでも続いているときに、果たしてアメリカ当局が金融機関を取り締まるのが可能なのかという絶望感が、世界を支配していくだろうと思います。もうアメリカと心中するのは嫌だという国がたくさん増えてくるでしょう。人脈から見てあまりに露骨な金融業界と政府との馴れ合いを、オバマ政権は果たして切開できるのか疑問です。

  マーケットウォッチという組織は、もっとも警戒すべき実務家の1位にルービンを挙げています。ビジネス界で倫理のない10人の中にサマーズ、グリーンスパンなども入っています。実はデリバティブがアメリカ経済のみならず世界経済を破壊するということを、先物市場のブルックスレー・ボーンという人が言ったことがありました。市場の規制の必要性を説いたのですが、そのときにグリーンスパン、ルービン、サマーズがウォール街の主な人たちを自分の執務室に呼んで、ボーンを威嚇しました。規制案は結局、撤回されました。

  1929年の大恐慌では、銀行と証券と保険が入り組んで、お互いに足を引っ張り合ったから金融恐慌が起きました。それで枠をつくって、アメリカも60年間安定してきました。それを再び1929年に戻してしまった瞬間にこんなことになってしまったのだから、何をしなければならないかは明らかなのです。この明らかなことに、アメリカの現政権は何一つ手を打てていません。

  ブルッキング研究所というシンクタンクが2006年4月にハミルトン・プロジェクトを立ち上げます。このこけら落としのときに、2番目にルービンが演説するのですが、最初の演説をオバマ氏がしてこのプロジェクトを絶賛します。まだ上院議員1期目です。それも1期目の2年で辞めている。ルービンは専門家だから、ウォール街がいずれひっくり返ることは分かっています。そのときに市場規制論者が出てきては困るので、時間をかけてオバマを説得したのではないかと思います。ルービンはクリントン政権のときにも、クリントンのNAFTA反対論を翻意させています。今回またもオバマに規制強化を言わせないために工作したのです。

  建国の父のアレクサンダー・ハミルトンはフェデラリスト、連邦主義者です。中央政府がもっとも強力で、州政府は力を落とさなければならない。中央政府が作る銀行に権力を持たせて州法銀行は廃止していく。これに対して、トーマス・ジェファーソンは共和主義者のリパブリカンで、州が大事で北部の金融はむしろ取り締まれという主張でした。この対立がアメリカ建国以来ずっとあったのです。リパブリカンは民主党、フェデラリストは共和党の流れです。民主党つまりリパブリカンの政権の中に、フェデラリストのハミルトンを持ってきたところにルービンの狙いがあります。連邦準備銀行の権限強化という方向を目指しているのだろうと思います。

  ミッシングマーケットという謎のような言葉があります。ミッシングリングから取ってきています。類人猿から人間が進化したといってもあまりに格差があるから、類人猿と人間との間に何かがあるはずだが、それはまだ見つかっていない。それがミッシングリングです。宗教国家アメリカではミッシングリングという言葉はタブーです。タブーであるミッシングリングにあやかったミッシングマーケットとは何か。たとえば環境問題はマーケットと合わないと言われているけれども、環境とマーケットを合わせるためには、排出量の取引を新しく作ったら良いではないか。こういう新しいマーケットを作れば、市場原理を守ることができる。市場原理の理想と現実のギャップを埋めるために、国家が作りだすマーケットがある。これがミッシングマーケットになっていきます。

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