消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(127) 新しい金融秩序への期待(127) 恐慌(13)

-0001-11-30 00:00:00 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

(20) たとえば、トヨタの期間従業員とは、組み立てラインに従事する三~六か月限定の従業員のことである。トヨタの期間従業員の給料は、日給月給制といわれ、勤務日数によって受け取る月給が異なる。トヨタの期間従業員の日給(基本給)は二回目九五〇〇円、三回目九八〇〇円と経験者のほうが優遇される仕組みもできている。その他、残業手当は三五%増し、休日手当ては四五%増しである(http://toyota.43727.info/)。

(21) 派遣とは、事業主(派遣元という)が自分が雇用する労働者を自分のために労働させるのではなく、他の事業主(派遣先という)に派遣して派遣先の指揮命令を受けて派遣先のために労働させることをいう。この雇用形態の労働者のことを一般に派遣社員といい、雇用関係は派遣元と派遣社員の間に存在するが、指揮命令関係は派遣先と派遣社員の間に存在するのが特徴である。労働者保護の観点から派遣できる業種、派遣期間の上限、派遣を業として行うための許認可制度など様々な規定が労働者派遣法により定められている。俗に人材派遣と呼ばれることがある。

 雇用形態について、通常は雇用するために契約を結ぶ場合、雇用者と労働者の二面的契約関係となるが、労働者派遣法によって認められた形態では「派遣元(派遣会社=実際の雇用者)と労働者(派遣労働者)」、「派遣先と労働者」、「派遣元と派遣先」という三面的契約関係となる。

 また、賃金の流れは、派遣元は労働者を雇用し賃金を支払い、労働者は派遣先の指揮監督を受け労務を提供し、派遣先は派遣元に派遣費用を支払う仕組みとなっている。

 労働者派遣法ができる以前は、このような雇用形態を「間接雇用」として職業安定法により禁止していた(労働者の労働契約に関して業として仲介をして利益を得ることの禁止)。

 派遣可能な業種や職種は、拡大している。当初はコンピュータ(IT=情報技術)関係職種のように、専門性が強く、かつ一時的に人材が必要となる一三の業種に限られていたが、次第に対象範囲が拡大し、一九九九年の改正により禁止業種以外は派遣が可能になった。

 業界ごとの動向を見ると、販売関係や一般業務の分野では、大手銀行や製造業、電気通信事業者などの主要企業が人材派遣会社を設立し、親会社へ人材派遣を行い業務をこなすケースがみられるようになった。製造業などでは業務請負として、一定の業務ごと派遣会社から人材を派遣してもらう場合も多い。

 日雇い派遣については、派遣元企業あるいは派遣先企業での違法行為が相次いで発覚したため、〇九年を目途に日雇い派遣事業を原則禁止する方向で厚生労働省が検討している。

 派遣期間は原則一年。延長は最長三年まで可能だが、労働者の代表(過半数により組織される労働組合、または過半数により選任された代表者)の意見を聴取する義務がある。 なお、派遣労働者・派遣事業者の交代の有無にかかわらず、期間は同一業務について通算される。 期間を越えて同一の業務を継続する場合、派遣労働者を直接雇用しなければならない。

 派遣社員の賃金(交通費、福利厚生費等を含む)は、派遣先が支払う費用の約六~七割となる。なかにはグッドウィル(〇八年七月末に廃業)のデータ装備費のように、派遣企業が様々な名目で派遣社員から賃金を徴収しているケースがあった。

 日本で初めて、現在の形での人材派遣業を採用したのは航空機業界である。

 一九八六年七月一日、労働者派遣法施行。 一九九九年十二月一日、労働者派遣法改正(派遣業種の拡大)。 二〇〇四年三月一日、労働者派遣法改正(物の製造業務の派遣解禁、紹介予定派遣の法制化など)。二〇〇六年三月一日、労働者派遣法改正(派遣受入期間の延長、派遣労働者の衛生や労働保険等への配慮)。

 一九八六年の労働者派遣法施行以前は、江戸時代以降におこなわれていた労働者派遣の劣悪な労働環境が深刻な問題となっていたため、職業安定法により間接雇用が禁止されていた。この環境が、派遣法によって破壊されたのである。

 派遣社員への給与は、固定費としてではなく変動費として計上することが可能となった。また、企業が派遣元へ支払う金銭は消費税法上「課税仕入れ」となる。その結果、国などに納める消費税等を安く済ませることができる。

 派遣に関する問題例は数多く発生している。

 「フルキャスト」は法律で禁止されている警備業務の派遣をおこなったとして〇七年一~三月にかけて家宅捜索と行政処分を受けてた。さらに、禁止されている港湾業務における荷役の労働者派遣をおこなったことにより、事業停止命令を受けた。
 グッドウィルは「データ装備費」と称して一回の労働につき二〇〇円を給料から天引きする形で派遣者から徴収していた。グッドウィルは「データ装備費」は派遣先での破損や事故の際の保険料や、備品調達のために使う金としていたが、実際にはこれら徴収された金を利益の一部として計上していた。また、禁止されている二重派遣により、これもまた禁止されている港湾業務における荷役の労働者派遣がおこなわれていた。

 アイラインは、キヤノン宇都宮工場で偽装請負をおこなっており、偽装請負に対し労働局が指導をおこなった(Wikipediaより)。

 「偽装請負」というのは、ある企業が、業務の一部を下請け企業などに委託するという契約(請負契約)という形をとりながら、その実態は、派遣である違法行為のことである。労働の指揮系統は、労働者うぃ派遣した企業にあるのではなく、受け入れた企業にある。違法行為にもかかわらず、各業界d、慢性的に繰り返されている。〇四年度に労働局が実施した調査で発覚した事例では、偽装請負を繰り返すことで6重にも企業を介して技術者が派遣されていたものもあった。

 たとえば、ソフト開発業界は慢性的に人材不足であり、派遣会社一社だけでは顧客の求める人材を揃えることができない。好不況の波に対応するために自社では余剰な人材を抱えたくないということもある。偽装請負はそうした問題を解決する格好の手段として業界に蔓延し、業界全体がこれを容認するというか表面化しないよう包み隠してきた。

 厚生労働省の東京労働局が〇四年度に実施した調査で、業務請負関係事業所一四一社に対し個別調査・確認をおこなった結果、一〇八の事業所に偽装請負等是正指導をおこなった(http://www.roudoukyoku.go.jp/news/2005/20050531-haken/20050531-haken.html)。

 派遣契約と請負契約との大きな違いは「完成責任の有無」と「指揮命令の所在」である。派遣には、完成責任はない。請負にはある。派遣契約には派遣先企業は指揮命令できるが、請負では発注企業に指揮命令はできない。

 正規の請負契約であれば、請け負った開発案件を納期までに完成させる責任を負う代わりに、発注元の企業からいちいち指図されることはない。しかし、偽装請負(実態は派遣)で働く労働者は、発注企業の社員からあれこれ指示を受けて働き、しかも開発が遅れたら、徹夜で間に合わせなければならない。請負契約をしながら、その契約で従事する労働者が、顧客先に常駐し、顧客先の指揮命令を受ければ、その行為は派遣と見なされ、職業安定法第四四条で禁止された労働者供給事業に当たり違法となる。この法律では、労働者の供給元の会社だけでなく、供給を受けた会社も処罰の対象になり、最悪で一年以下の懲役または一〇〇万円以下の罰金となる。派遣法では二重派遣が禁止されており、派遣されてきた労働者をさらに別の会社に派遣することはできない(http://it.nikkei.co.jp/business/column/ochi_comp.aspx?n=MMIT03000012062006)。

 自社の偽装請負が国会でも問題になった御手洗冨士夫・キヤノン会長(日本経団連会長)が、経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で、請負では製造業者が労働者に指揮・命令できないという現行法の規定について、「請負法制に無理がありすぎる」「これをぜひもう一度見直してほしい」と発言していたことが〇六年一〇月一八日に公表された議事録で判明した。

 請負は、製造会社が一年以上継続して使っても、派遣のように直接雇用を申し入れる義務がなく、労働安全衛生の責任も負わずにすむ。しかし、製造業者は請負労働者に指揮・命令できない。

 労働者派遣法についても御手洗会長は、「三年たったら正社員にしろと硬直的にすると、たちまち日本のコストは硬直的になってしまう」と現行法の「見直し」を要求した。派遣法では、派遣労働者を三年間(製造業では一年)続けて使ったら使用者側が労働者に直接雇用を申し入れる義務を負う。

 偽装請負で行政処分を受けた会社が属する人材派遣グループ「クリスタル」から一〇〇人以上の労働者供給を受けているのは全国一〇一事業所、もっとも多かったのが、キヤノングループの三〇三三人であった(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-10-20/2006102001_01_0.html)。

 キヤノンは、偽装請負の常習犯だった問題企業クリスタルと、九〇年代から業務委託契約を結んでいた。クリスタルは、〇六年十一月にグッドウィル・グループに買収された(http://facta.co.jp/article/note/200711.shtml)。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。