一 WTCの泥沼
もともと、府庁舎については、一九八九年に建て替えが計画されたのが、財政危機の中で凍結されていた。そして、〇六年、現庁舎の耐震診断があり、上町断層などの地震に対して、現庁舎は、「耐震性がきわめて悪く、大規模地震により倒壊する危険性が高い」と判定された。
そこで、WTCへの府庁移転が喧伝されるようになったのだが、この地もまた、大地震に関しては危険な個所である。この地は、大阪湾の埋立地であり、震災時に非常事態の役割をはたすには、現庁舎よりも不利な条件となる。この地は、大地震時には機能不全になる危険性がきわめて高い。
この埋立地に内陸から接近するには、橋と海底トンネルを使うしかない。大阪府の地域防災計画では、震度六弱以上で府職員は府庁舎に参集しなければならないことになっている。しかし、震度五以上で、「地下鉄中央線」も、「ニュートラム」も、「阪神高速」も、「咲洲海底トンネル」も、すべてが停止することになっている。これでは、新庁舎が震災の緊急時に機能をはたすことはまずできない。しかも、移転先のWTCビル自体が耐震補強に多額の費用をかけねばならないことが、移転計画発表後に明らかになった。
耐震補強費を加味した整備費支出は、現庁舎の補修費一四二億円に比べて、WTC移転では、二五〇億円前後になる見通しである。移転にさいしては、現庁舎の跡地四・三ヘクタールを坪単価、三五〇万円以上で売却する目算であるが、昨今の大不況下では、目標達成はほぼ不可能であろう。
しかし、「関西経済連合会」の下妻博会長は、〇九年一月六日の年頭記者会見で、関西圏の高速道路網整備のうち、大阪市北区と大阪府門真市をつなぐ「淀川左岸線延伸部」など、未着工区間の建設促進に向けて、地元自治体や経済界でつくる協議会を設立する考えを明らかにした。建設促進の対象は、「淀川左岸線延伸部」(延長約一〇キロメートル)のほか、「新名神」の未着工部分(延長約三五キロメートル)、「大阪湾岸道路西伸部」(延長約二一キロメートル、「名神湾岸連絡線」(延長約四キロメートル)の計四か所で、総延長は約七〇キロメートルにもなる。これらの未着工区間の建設が進捗しないのは費用負担に難色を示す自治体が多いからである(『産経新聞』二〇〇九年一月一〇日付)。
「阪神高速二号淀川左岸線」の延伸工事だけで総事業費四〇〇〇億円ほどかかると算定されている(http://www.city.osaka.jp/keieikikakushitsu/toshikeiei/s_kaigi/pdf/2007_08_29.pdf)。しかし、「阪神高速道路」は、一九九八年をピークに交通量は減少傾向をたどっている(http://www.rtp.co.jp/gyoumu/road/prediction.html)。
一九九四年、「アジア太平洋トレードセンター」(ATC)がオープンし、その翌年の九五年四月、「WTCコスモタワー」がオープンしたがいずれも失敗した。橋下知事は、これら施設が立地する「南港コスモスクエア地区」が失敗したのは、交通網などのインフラが伴わなかったからだとして、上記の高速道路網のいっそうの促進を促しているが、現実には、インフラよりも、需要予測に問題があったのである。
一九八五年、「夢洲・舞洲・咲洲を開発して定住人口六万人・就業人口四万五〇〇
〇人の新都心を作る」として策定した大阪市の「テクノポート大阪計画」について、平松邦夫・大阪市長が、〇八年九月一九日の記者会見で、この「計画を終焉させる」と明言した。この計画は、五輪誘致をにらんだ構想であったが、需要予測の完全な失敗であった。そのうえで、東アジアや南アジアとの交易拠点としての、ATCやWTCのある咲洲地区の開発に振り返ると話したが、具体策はなにも示さなかった(『産経新聞』二〇〇八年九月二〇日付)。
そして、橋下知事は、〇九年二月二四日開会の二月大阪府議会に、WTC購入費など一〇五億二〇〇〇万円を計上した二〇〇九年度一般会計補正予算案を提出した。補正予算は、大阪府と大阪市が共同で実施したWTCの建物と土地の鑑定額九九億一〇〇〇万円に、消費税や防災行政無線の再整備事業費などを加えた額である。
財源確保のために、約五一億円六八〇〇万円の府債を発行するほか、「公共施設等整備基金」(9)から五二億六二〇〇万円、「財政調整基金」(10)から九〇〇〇万円を取り崩すことになっている(『西日本新聞』二〇〇九年二月一四日付)。
移転先のWTCビルの耐震補強工事に一八億五〇〇〇万円かかる。それに、大阪市の部局の移転費用三〇億円は大阪府が負担する。WTCビルは、日本で第三番目、二五六・〇メートルの高さがある。第一番は、「横浜ランドマーク」(二九五・八メートル)、第二番は、「りんくうゲートタワー」(二五六・一メートル)である。
WTCは、大阪市が関与する第三セクターであり、これもずっと赤字であったが、大阪市が部局を入居させるなどの支援をしたり、特定調停(11)による事業継続に努力してきたが、もはや継続は困難な事態に追い込まれている。
WTCの運営会社は、「大阪ワールドトレードセンタービルディング」である。そして、ビルを売却することは、会社を解散させることを意味している。
WTCも、民間に売却されるのなら、そうした運命をたどるはずであった。その意味では、大阪市は大阪