消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

民営化される戦争とグローバル企業(10) 広島講演より(9月24日)

2006-11-04 23:04:29 | 世界と日本の今
6、戦争が民営化する要因

自衛隊を軍隊化

 アメリカは世界で戦争していることを知っておいて下さい。イラクでだけではないのです。次はイランです。北朝鮮もちょっと危ない。そういう状況下では、東アジアでアメリカ軍は手薄なのです。手薄な時に日本に対して次はお前達行けということになる。そして結局は自衛隊が軍隊とならざるを得ないのです。自衛隊と軍隊の違いが分かるでしょうか。自衛隊だったら戦争に負けても国民は批判しないのです。あの装備だからしかたないと納得し、軍隊なら絶対勝たないといけないと考える。戦争に負ける恐怖よりも、帰って来て上官からビンタを食らう方が恐いのです。軍隊は勝たないといけない。先制攻撃が軍隊なのです。憲法改正で軍隊化していくことの意味は、アメリカの命令で日本は世界各地に展開するということです。原爆で苦しめられた広島の人こそ最も敏感に反応して頂きたいものです。広島に落とされた原爆のリトルボーイはアメリカで実験済みです。アメリカでも放射能汚染はあるのです。皆さんが怒らなければいけないのは長崎に落とされた原爆のファットマンです。ファットマンは実験せずにいきなり落とした。私はナショナリストではないのですが、東京裁判で責められるべきは原爆を落としたアメリカです。

冷戦崩壊が大きな要因

 なぜ戦争の民営化が行なわれるようになったかの理由を話したいと思います。1つ目はアメリカも含めてですが冷戦体制が終わったのが大きいのではないでしょうか。少なくとも対ソビエト、対アメリカという理由で共に膨大な軍隊を維持し両陣営が対していた。そして、その他の国々を自分の陣営に巻き込むために、軍事顧問団を派遣したり軍事同盟を結んだりすることにより力の均衡を保つという時代があった。しかしご存知のようにソビエトが自己崩壊した。その結果軍隊がいらなくなった。真っ先にソビエトはロシアになるし、各国がばらばらになり、膨大な軍隊の失業群が生まれた。その連中が部隊ごとに就職活動をせざるを得なくなり、その連中の受け皿として多国籍企業、およびソビエトとアメリカの重石が取れて国内がバラバラになってしまった第3世界の指導者達が元軍人達を雇う。こういう方向になっているのだと思います。私達は冷戦体制の終結を非常に喜んだのですけれども、結果的には紛争を世界中に撒き散らすことになったのです。要するに冷戦体制の崩壊は諸刃の剣であったということです。ちなみに私も学生時代は反スターリニズムという立場からソビエトに批判的だったのですが、皆さんがあまりソビエトの悪口を言うものだからちょっと擁護したくなりました。ソビエトはUSSRつまりソビエト社会主義共和国連邦のことです。すごいネーミングだと思いませんか。この中にはどの民族の名前もないのです。どの国の名前もない地域名もない非常に抽象的な言葉です。ソビエトというのはご存知のように労働者評議会のことです。社会主義とは定義しますと社会的な利益は社会に還元するという考え方です。一方、利益を自分のものにしていくものが私有財産的な資本主義です。一つの政治体制の理念系が描かれたネーミングなのでありましたが、たった70年間しかもたなかった。せっかく人類の歴史上はじめて特定の民族名を付けなかった政治体制ができたのに、もったいないなあと正直思います。

シビリアン・コントロールの欠如

 繰り返しますと、1つ目は少なくとも冷戦体制の崩壊がいわゆる戦争を商売とする営利団体を作り出したと言えると思います。2つ目は先ほど言いましたように、シビリアン・コントロールというものがなくなってしまった。昔はシビリアン・コントロールには、市民が軍人を支配し統制していくという意味があった。しかし、少なくとも過去ずっと平和主義者はむしろ軍人の方であったと私は逆説で説明させてもらいます。アイゼンハワー自身が言っています。実際に戦争に参加し人を殺した経験がある人間達は、少なくともいかに戦争が悲惨なものであるかをよく知っている。だから平和を望むのだ。軍隊には、軍隊の倫理があるのだと。ところが今、ラムズフェルド国防長官にしましてもチェイニー副大統領にしましても、軍人ではないものが金儲けのために軍隊を動かし平気で殺戮を命令している。実際に自分が血を流した現場を見ていないために、いくらでも残酷なことを命令することができる。このように社会的な組織のあり方が変わったのだと思います。軍人の発言力が逆に小さくなってしまったと思います。

戦争の専門主義化も原因

 3つ目の理由は戦争の専門主義化です。陸軍士官学校の話を冒頭にしましたけれども、人は殺す相手の目を見ると殺せないとほんとに教科書に書かれているのです。結局無駄な鉄砲を撃たないためにミサイルの開発をするのだという方向に進む。ミサイルは必ずコンピューターと連動します。昔のように鉄砲を与えて「軍人さん、それ行け」じゃなくて、今はコンピューターを操作しながら戦争をしなければならない。軍隊が派遣されるときには必ず民間の専門家が一緒に行かなければいけない。ハリバートンなんかはまさにそうなのです。軍隊と共に動くために元軍人や元将校達を経営者に仕立て上げ、命令系統を仕立て上げ、結局どちらが正規軍を指揮しているのか分からなくなってくる。正規軍の将軍よりも先輩が民間会社の社長である。その時に行動を常に共にするのですから、結局どこが正規軍でどこが民間人かの区別ができなくなる。そういう意味で戦争の専門主義化というか、それが民営化された戦争の土壌を作っているのだと思います。

多国籍企業が必要とする警備会社

  世界の人々がアメリカ企業の勝手な行動に対してきわめて批判的になってきた。米国に追従する企業が憎しみの対象となっている。憎しみの対象になっている中で企業が多国籍的な展開をしようとすれば、どうしても軍事的な警備が必要になる。その警備会社は最も儲かる産業になってきた。その警備会社が世界の主要な多国籍企業を主たる顧客として、営業するようになってきたのです。こうして世界的なお金の流れを、より金融的・組織的に自分の所にもってこようとする組織が生まれてくる。つまり、かつての荒くれ者を雇う傭兵ではなくて、非常に近代的な装いを凝らした科学、金融、武器そういったものすべてを駆使する専門家集団がどんどん現れてきている。これが現代の民営化された戦争の姿です。

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