消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(222) 新しい金融秩序への期待(167) 日本のゆくえ(6)

2009-09-18 08:45:30 | 野崎日記(新しい世界秩序)


 危機に瀕するアメリカ

 不思議なことに去年の一〇月ぐらいから、アメリカの新規国債発行額が減っています。月額三〇〇億ドルから一〇〇〇億ドルの規模でどんどん減ってきています。
ニューヨーク市長にブルームバーグという人がおります。じつは、私もほとんどの経済情報のインプットはブルームバーグのテレビ放送から得ているのです。そのブルームバーグはニューヨーク市長ですが、市長の給料をもらっていません。自分の情報誌で儲けているのです。このブルームバーグが、『ニューヨーク・タイムズ』に、「誰がアメリカ国債を買うのか」という問題提起をしました。

 アメリカ人は誰も買わない。少なくとも、一ヶ月に一〇兆ドル規模の国債をどんどん新規発行しなければオバマ政権はやっていけません。かつての借金の借り替えも含めてです。それだけの国債を誰が買うのか。先日、麻生総理がこそこそとオバマに耳打ちをしていました。何を言ったのでしょうか。考えられるのは国債購入話しでしょうね。

 しかし、日本だけでは持ち切れません。当然、中国を巻き込まなければならない。中国は大体二二%のアメリカの国債を持っているのです。日本が二〇%です。合わせて四二%です。これをとにかくいまよりももっと増やしてくれという交渉をオバマ政権はしなければならない。オバマ政権は、日本にまず頭を下げてきて、肩をぽんぽんと叩いておいて、いまから本格的な交渉を中国とやるはずです。

 基軸通貨ドルとアジアの位置

  日本は、国内需要を上回る生産をしてしまっています。売らないかん。売る時には、借金まみれでサラ金地獄に陥っているアメリカが一番いいお客さんである。だからアメリカに売る。トヨタなどでも少なくとも三〇%は国内需要を上回って生産しました。アメリカがバブルにあおられているから買ってくれていました。

 奇妙なことですが、世界中にドルをばらまいたが故に、アメリカに最もたくさんの需要があるという、転倒した社会ができているのです。ドルが基軸通貨であり続けるのは、世界からモノを買ってくれるからに尽きるのです。バブルに依存しなくてもすむような経済体制を作る必要があります。日本一国だけ作るのは無理ですから、東アジア諸国、ASEANといったものと連携プレーをとるしかないでしょう。

 とにかく連携をしながらアジアとタイアップしていき、草の根的人脈を一刻も早く作って、アメリカは、その他大勢の一つであるというところまで日本社会を変えていかなければいけないと思うのです。その時に初めて、ドル体制からの脱却ができるであろうと思います。いまは、ドルが潰れたら日本経済も潰れるのだという、そんなことばかりが言われています。しかし、アル中地獄でそれを避けるために迎え酒をするのと同じ論理でのアメリカへの依存症は、断固やめるべきです。

 どれだけの人脈を私たちは持っているのでしょうか。中国、ロシア、インドなどとの人脈作りに失敗してきたのです。とにかく私たちは、世界にいろいろな人脈を作っていかねばならないのです。アメリカは、アフガニスタンでカルザイを大統領にしました。カルザイはユノカルというアメリカの石油会社の一社員でした。その一社員を大統領に仕立て上げるアメリカの政治力はすごいです。

 私たちには、それができない。特定の親分だけを頼って、それこそいろいろな分野における活動ができていないというのが現状です。そのために大学があるのだと私は思います。大学をもっと活用してください。大学というものは、そういったところに人材を派遣していくための養成機関なのだと、是非思っていただきたいのであります。

 とにかく、日本はそれこそ明治維新以降、初めて、国際社会に向き合ってくる時代に入ったのだと思います。

 アメリカへのノスタルジアはあります。私もアメリカは好きです。けれども、このまま行ったら日本の将来はありえません。やはり、せめてドイツ並みになりましょう。ドイツはアメリカの国債を全然買っていません。でもアメリカから苛められていません。このように私たちは、他の国はどう動いたのだろうかという勉強もしなければならないのであります。

 そういう意味で今回の苦しみは、アメリカもその他大勢の一国なのだということを多くの人たちに分からせました。アジアの文化とか、中央アジアの文化とか、そういうものに対してわれわれの目が見開かれることを私は願っています。苦しいけれども、脱アメリカとまでは言い過ぎですが、せめて距離を置く政策プランを作っていくべきだと思います。そういう機運ができていると思います。

 巨額な欧米の不良債権処理とアジア

 第二のIMFというものをアメリカは作るかもしれません。いろいろな債権・債務をそこに全部集約する。モラトリアムという金融の棚上げです。これをやるためにG二〇が最大限利用されていくと思います。そしてアメリカ自身は、断言できませんが、ルの五〇%切り下げを断行するであろうと思います。そういう、もの凄く劇的な劇薬を注入するはずです。

 その時に何の心の準備も政策的準備もなければ、私たちは右往左往しますから、その可能性を考え、中国とのつき合いをこれから真剣に考える必要があると思います。やはり、アメリカの国債を大量に買っており、お互いに被害者なのですから、どうするかということをお互いに考えていくしかないのであります。

 そういう意味で、私は、アジア共通通貨はかなり早期にできると思っています。この金融危機がアジア共通通貨を具体化させていくだろうと思います。日本だけで孤立し、円だけで話をしていることは出来ません。ヨーロッパにはユーロがあり、少なくともチャベスを代表とする南米でも創ろうとしています。我が日本だけがローカル・マネーです。

 少なくともアジア共通通貨を考え、経済的なお互いの原則というものを確認し合い、輸出入を常に均衡させ、絶対に圧倒的輸出をやらないという、今後のアジアは、そういう方向で動くだろうと思っています。その意味での人脈作りが重要です。

 これからのアジアはもの凄いブームになるはずです。しばらく苦しみますが、アメリカになくてアジアにあるのは鉄道です。新幹線やリニアモーターです。これは日本の技術です。フランスやドイツに比しても、日本は優位にあります。

 この技術で、少なくとも東アジアからヨーロッパまで大陸横断鉄道が、ほぼ出来かけているのですから、そこに私たちが参入しなければいけません。うまくいけばカリフォルニアの大鉄道計画にも参入できます。私たちの財産は、先人が一所懸命作ってくれた技術の蓄積です。この蓄積を活かしていかなければいけません。

 私はその最大の蓄積は農業だと思っています。二千年間連作の稲作をして、塩害が一つもないのです。この技術は世界最高の技術です。アメリカはとにかく地下水を汲み上げるので、すぐに塩害が出てしまい、その土地を捨てて、また別のところに行くけれど、日本はこの狭い国土に農業を二千年間も維持してきたのです。これを発展させていくべきだと私は思います。

 日本は、農業を再生し、コシヒカリやフジリンゴのように世界に誇れるものを作る日本の農民の方々に、私たちはもっと力になってあげることが一番大事なのであると考えます。そして、日本の経済のあり方へとにかく、モラルとは何なのだという基本的なところに、われわれはもう一度戻ってきているのです。その時に日本が生きていくのは何か。

 日本の一番の強さは金型産業にあると思っています。地域の、東大阪の、福井の、東京の大田の、この金型産業にあると思います。ところが、いまや金型産業が危ないのです。

 創業者はほとんどがもう七〇歳前後です。彼らが相次いで廃業してしまったら、日本はどうなるのでしょうか。トヨタやホンダといえども、部下の金型産業なしにはやっていけないのです。ジャスト・イン・タイムと言うけれど、全部これは関連会社が部品を持っているのであって、トヨタは組み立てるだけなのです。ですから、関連産業が潰れたら、日本の親分産業も潰れます。

 いま一番大事なのは、大手企業の赤字を救済するためではなくて、日本人の八〇%が就業している中小企業に公的資金は注いでいくことだし、そしてその創業者の営業を新しい人たちに禅譲していくことだと思います。

 そこで、私はESOPということを提案しているのです。従業員、地域の人間たちが、その企業の株を買い支える。株とは、企業の参加証なのです。この原点に戻ろうと。いま、若者たちは、地場産業で働きたいというようにもなってきています。この時に、私たち大人たちがそういう流れを作り出していくことが必要です。

 地域通貨を発行したり、地域商品券を発行したり、いろいろな地域の足腰を鍛えていくことです。

 こういったことをやっていれば、つまり結とか連とか、そういう日本的な文化の再発掘ができれば、私たちは生きていけるのではないかなと思います。反グローバリズムになる必要はないけれども、あまりにも地域を軽視し過ぎたつけが回ってきたのだと思います。

 ですから、私たちのお金は地域銀行に預けよう。地域の銀行が地域の雇用を守るという約束で、私たちはお金をそこに預けていこう。こういう運動を展開すれば良いと思います。そうすると、巨大な日本の貯蓄率が地域金融を復活できます。私は本当に、そういうことだと思っています。

 いろいろなやり方があるのでしょうけれど、とにかく経営陣の給料を高くすればするほど、給料はコスト計算していって、結局赤字になって法人税を払わなくてすむという、この会計原則をたたきつぶさなければいけません。企業は税金を払いたくないために経営者に高い給料を払い、従業員は削っていくのです。

 これはおかしいのです。取引額に応じて、少なくとも税金はとるというようなシステムを作りながら、地域の足腰を鍛えていくこと。

 自給率が低下していると言いますが、日本で廃棄され農産物の額は、日本の新規生産額と同じ額なのです。ですから、自給率が四〇%というけれど、あの廃棄率がなくなったら八〇%にぽんと上がるのです。如何に私たちが無駄な生活をしているかということです。

 いまの状況は、もう私たち全員が被害者なのです。大学関係者までも、市場で価値をつけられない金融商品を売りつけられたのです。こんなものが認可されるのが不思議なのであって、そういう意味では大学経営陣の方も、私たち従業員も、どうすればいいかということをみんなで話し合って、この苦難を乗り切るということが大事なのだろうと思います。それを契機として、金融の在り方の基本形をもう一度、私たちの身近なものに持っていくというようになっていけばと思います。


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