消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(386) 日本を仕分けする(10) ESOP(1)

2011-01-25 12:24:14 | 野崎日記(仕分け)
 Ⅲ ESOPのすすめ

①ESOPは、" Employee Stock Ownership Plan"'の頭文字。「従業員持株制度」。企業経営者が、従業員に企業所有者の一員であるとの意識をもってもらい、企業の活動に主体的に関わってくれることを意図して、自社株を従業員に供与するという一種の従業員報酬制度。従業員に自社株をもたせるために企業側が支出した費用は、米国では税務上損金扱いになるなどの税制上の優遇措置を企業側は得ることができることによって、企業側にもESOPの発展に積極的に取り組む誘因が米国では与えられている。

② 米国のESOPには2種類ある。1つは従業員による自社株の購入資金を企業が拠出するものである。給与の一定割合で従業員の個人勘定に自社株を分配するという方法を採る。もう1つは信託設定されたESOPが金融機関から融資を受け、最初にまとまった自社株を購入する借入型ESOPであり、レバレッジドESOPと呼ばれている。

③従来の退職金や年金制度に追加する形で導入されるのであれば、従業員も歓迎するのではないだろうかという判断を「みずほ銀行」がしたことがある(みずほDC News, No. 42001/2/14、「ESOP」の留意点;http://www.mizuhocbk.co.jp/pdf/kakuteI/topIcs010214.pdf)。これは、米国で生まれた制度で、世界各国で普及しているが、現在までのところ日本における大企業では、三洋電機以外には導入されていない。中小企業での採用は結構増えている。ちなみに、日本では、従業員持株会という慣習的組織が存在する。これは、企業が従業員の福利厚生の1環として導入・支援する、従業員の給与天引き(税引後)による自社株購入制度で、任意加入、株式の引出し売却が可能な自助努力型資産形成制度である。米国企業の多くでは、ESOPを通して従業員が支配権を保有する企業さえある。企業側もまた財務を改善し、従業員の忠誠を買うことによる企業統治の新たな手段としてESOPに依存する。

④ESOPを経営改善戦略に使った代表例には「1979年クライスラー復活戦略」、「1994年ユナイテッド・エアライン再生戦略」がある。厳しい経営状況を打破する経営計画の開始と同時に同社はESOPを導入した。1994年7月12日、ESOPによる新しい航空会社としてUALが再出発した。当時としては世界最大のESOP企業であった(http://www.unitedairlines.co.jp/jsp/ja/united/history/timeline_9.jsp)。ただし、これも最終的には失敗した。

⑤「1984年アムステッド非公開化戦略」は敵対的買収を防ぐ手段として発行株を回収し、それらを従業員のESOPに振り込み、株式を非公開にした。1990年代に入って、「ニュービジネス」が台頭するとともに、米国のESOPは、株式未公開の企業によって積極的に採用されるようになった。野村総研は、日本でも、それまではあり得ないと言われていた敵対的買収が始まったこと、持合が崩れ優良大企業こそ新たな株主を見いださざるを得ないこと、などからESOPと同様の制度が日本でも必要ではないかという見解を、2001年4月に公表した(http://www.nri.co.jp/opinion/shihonshIjo/01_ wInter/04-03_012s.html)。

⑥米企業では、実際には、福利厚生や企業利益還元面では米企業もかなり支出している。ESOPもその1つであるが、そうした福祉制度はベネフィット制度と呼ばれている。米企業は、ベネフィット制度を報償の一環として活用して、労働生産性を高める努力を続けているのである。

⑦日本政府もESOP推進方針。 内閣情報調査室の情報。

⑧『朝日新聞』(2008年11月12日付)。 「政府は、企業の資金拠出などで従業員による自社株の大量購入が可能になる「従業員株式所有制度」(ESOP)の指針をまとめた。企業から独立した組織を新設することで、資金を借りて株安時に自社株を一括購入することもでき、従業員が大株主として経営に参画しやすくなる。ESOPは米国が70年代に年金制度として導入。

すでに1万社以上が採り入れ、資産残高は90兆円規模とされる。日本では金融商品取引法や労働基準法などとの関係が未整備だったが、10月末に政府がまとめた新総合経済対策に「日本版の導入促進の条件整備」が盛り込まれた。経済産業省と厚生労働省などの関係省庁は新法を制定せず、現行法の枠内で導入が可能と判断。統一指針をまとめた。指針では、日本版ESOPの主体として、企業から独立した中間法人や信託といった受け皿を設置。企業が拠出した資金や金融機関からの借り入れを原資に、自社株を大量購入できる。従業員は、退職時や一定期間後に引き出せる。受け取り分が株価と連動することから、従業員の中長期的な業績向上への意欲が高まりやすくなる。主に従業員の資産形成を目的とする企業内の「従業員持ち株会」はこれまで、自社株購入時にはインサイダー取引と見なされないよう、事前の計画に沿った定期購入に限られてきた。

 ESOPでは独立した外部組織を設けるため、機動的な運用が可能となる。現経営陣に対して敵対的な買収者が現れた際に、従業員が両者から独立した大株主として賛否を表明できるほか、株価の割安時に購入する傾向があるため、株価の下支え効果を期待する声もある。ただ、現金とは違って株価が下落すれば受け取り分が減るリスクがあり、企業が経営破綻(はたん)した場合には、自社株の価値と雇用を同時に失う「二重のリスク」も指摘されている。(村山祐介)

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