消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(393) 日本を仕分けする(17) オバマ(1)

2011-01-31 13:02:11 | 野崎日記(新しい世界秩序)
 金融、経済に関する限り、オバマ氏の演説内容はあまりに具体性に乏しく、がっくりきたというのが本音だ。政策を論じる前に、まず現状認識として反省が足りない。世界的な金融危機の根本を作ったのは、ブッシュ政権ではなく、民主党のクリントン政権の時代だ。同政権で、財務長官を務めたロバート・ルービン氏が中心になり、金融規制緩和を進めたためだ。演説では、そうした経緯には一切触れず、「一部の人々の貪欲さと無責任さにある」などという表現でごまかしてしまった。

 オバマ政権が既に指名した閣僚には多様な面々がいるが、経済関係閣僚には「ルービン派」が多く、「規制反対」の声に押し切られている印象だ。最大の問題は金融市場をどうするか。金融危機を受け、投資銀行は消滅させたが、今も商業銀行は大変な状況だ。今後、新しい金融監督機関を作り、どうコントロールしていくのかも全く示されていない。不良債権の確定も進まない中、気前よく国家が救済しているだけだ。

 オバマ氏はレトリックは確かにうまいが、経済政策はそんな甘いものではない。100年に1度の危機に立ち向かうためには、大胆な取り組みが必要で、きちんとした方針を示すべきだ。就任式直後、ニューヨーク株式市場でダウ平均が急落したのも、投資家たちが危惧を持ったためだろう。この政府は何もできないと判断したのではないか。

 グリーンニューディールで雇用を生み出していくなど、オバマ氏の政策で期待する部分もある。演説でも、クリーンエネルギーの重要性に触れ、就任式前に鉄道で移動したのもいいメッセージになった。また、対外投資より国内投資を重視し、「イノベーションの必要性」などに触れいている点も好感が持てる。経済政策の転換という意味では、新古典派、新自由主義を反省し、財政出動を重視するケインズ主義の復権に触れた意味も大きい。演説では「大きい政府」という表現を避け、「国家の大小ではなく、機能しているかどうかだ」という巧みな表現を使った。現在の試練を打開するために「労働と誠実さ」などを挙げた点も国民へのメッセージにはなるだろう。

 一方で、イラクやアフガニスタンへの戦争の反省がないのも不満だ。莫大な軍事支出は米国経済の悪化にもつながった。批判的な視点を持たず、あれだけ多くの人が集まることにも怖さも感じ、間違った全体主義につながらないことを願いたい。
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