消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(316) オバマ現象の解剖(61) レフトビハンド(3)

2010-04-20 21:07:27 | 野崎日記(新しい世界秩序)


二 福音主義者たち


 米国の「福音派キリスト者」(Evangelical Christianity)は、イスラム過激派集団「ハマス」(Hamas)の指導者アハメド・ヤシン(Sheikh Ahmed Yassin)をイスラエルが殺害したことを、イスラエル人自身より強く支持していることが、世論調査で明らかになった。

 ヤシンは、イスラエル人側に死者三七五人、負傷者約二一〇〇人を出させたテロ攻撃を四二五回にわたって指揮したとされている。

 調査は福音派のIFCJ(キリスト者とユダヤ人国際フェローシップ=International Fellowship of Christians and Jews)によって、二〇〇四年三月二二、二三の両日、福音主義者を対象に、インターネットを通じておこなわれたものである。回答者一六三〇人のうち、八九%の一四五七人が、ヤシンを殺すというイスラエルの決定を支持した。反対は四一人(二.五%)、「どちらともいえない」が一三二人(八.一%)であった。

 一方、イスラエル人側への調査は、イスラエル紙『マアリヴ』(Ma'ariv)が受け持った。その結果は、ヤシン殺害支持が六一%、反対が二一%であった。結果は、両者ともに二〇〇四年三月二三日に発表された(「世界キリスト教情報」、第六九三信、二〇〇四年四月五日、http://cjcskj.exblog.jp/m2004-04-05/)。

 EP通信によると、こうした雰囲気を敏感に察知した子ブッシュ大統領は、「全世界反ユダヤ主義認識法」(Global Anti-Semitism Awareness Act)に署名した。この法案は、米議会ではただひとりのホロコーストの経験者、民主党のトム・ラントス(Tom Lantos)議員が提出していたものである。この法律は、国務省が特別コミッショナーを任命して、世界中で反ユダヤ主義の動向を調査させ、年次報告をおこなうというものである(「世界キリスト教情報」、第七二二信、二〇〇四年一〇月二五日、http://cjcskj.exblog.jp/m2004-10-25/)。

 二〇〇四年の大統領選挙ではっきりしたのは、キリスト教のとり込み、とくに福音主義者をとり込めた子ブッシュが、米大統領に再選されたということである。主要な宗教グループのほとんどが共和党を支持した。それまでは民主党の強力な支持層だった黒人プロテスタントにまで共和党は食い込んだ。

 PBSテレビの「週刊・宗教と倫理ニュース」番組(Religion & Ethics NewsWeekly)がおこなった出口調査によると、教会に通う人ほど、子ブッシュに投票し、無宗教の人はほとんどがジョン・ケリー(John Kelly)に投票した。これは前回二〇〇〇年の選挙でも示されていた傾向である。

 「宗教ギャップが一層明確になった。これは今後数年間の米政治の特色になろう」と、アクロン大学(University of Akron)のジョン・C・グリーン(John C. Green)教授が同番組で語った。二〇〇四年の選挙でのブッシュの勝利は、福音派とカトリック信徒を中心にした広範な「宗教連合」(Coalition Religion)の支持をとり付けたことにある。

 さらにブッシュは、福音派だけでなく、主流プロテスタントのとり込みにも成功した。プロテスタントの過半数がブッシュに票を投じた。これも二〇〇〇年のときと同じであった。しかし、実数としては、二〇〇〇年のときよりは微減した。

 大きな変化が起こったのは「黒人プロテスタント」(black Protestant)の動きであった。これまでは、この層には、圧倒的に民主党支持の伝統があった。黒人プロテスタントの一六%がブッシュ支持に回った。これは、二〇〇〇年のときの倍である。

 カトリック票を見ると、二〇〇四年、ブッシュが五二%を獲得、自身がカトリック教徒のケリーは四八%であった。二〇〇〇年の選挙では、カトリック教徒ではない、バプテスト(Baptist)のアル・ゴア(Albert Arnold Gore, Jr.)ですら、カトリック票の半分を獲得し、子ブッシュが四六%であったことからも、二〇〇四年には、カトリックを味方につけたこともブッシュに勝利をもたらした。一週間に一度以上教会に通うカトリック信徒の五八%はブッシュに投票した。ケリーを支持したのは、年間数回しかミサにいかないカトリック教徒だけであった。

 伝統的に民主党支持のスペイン系カトリック信徒の票の五八%はケリーが獲得した。しかし、ブッシュは、ここでも二〇〇〇年の三〇%から二〇〇四年には三九%へと大きく得票を伸ばした。

 同様に民主党の有力基盤であるユダヤ人社会にも共和党が食い込んだ。二〇〇〇年、ブッシュの得票は二〇%であったが、二〇〇四年には二四%に上昇した。

 当然だが、もっとも劇的に変化したのは、イスラム教徒の動向であった。九二%がケリーに投票、ブッシュはわずか六%であった。二〇〇〇年の選挙では、イスラム教徒の大部分がブッシュに投票していたのである。

 「ロナルド・レーガン大統領(Ronald Reagan)が始めた福音派プロテスタントの政治的動員は、この四半世紀に米国の選挙戦に起きたもっとも重要な変化である。信仰者の多くが、自分たちの要求や関心を受け止めてくれる唯一の党は共和党だと見なすようになった」と、クレムソン大学(Clemson University)のローラ・オルソン(Lora Olson)准教授は断言した。

 多くのアナリストが、民主党と宗教界の大グループとの間の溝の大きさを指摘する。

 「米国人の約四〇%が、毎週教会に通うことからすれば、民主党は、その人たちの関心にもっと敏感にならなければ、大統領の選出に苦労することだろう」と、カルバン大学(Calvin University)ヘンリー研究所(Henry Institute)「政治学におけるキリスト教徒」(Christians in Political Science )部門でペッパーダイン大学(Pepperdine University)において、スティーブン・モンスマ(Stephen V. Monsma)が講演した。