消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(307) オバマ現象の解剖(52) サブリミナル(3)

2010-04-10 16:21:21 | 野崎日記(新しい世界秩序)


 二 ウィンドスターとガーベイ・センターのピラミッド


 先述の、国民的人気歌手、ジョン・デンバーが、景勝地のコロラド州アスペン(Aspen)のスターウッド(Starwood)に移り住んだのは、一九七一年であった。歌手デンバーは、気に入って自らの芸名としたデンバーの山地(ロッキー山脈)の湖畔でキャンプをしていたとき、二時間以上もの長時間に亘る流星群に出逢った。彼は、琴座(Lyra)の中の小さな煙の輪のように見える、環状星雲からこの地球に送り込まれた力が自分に乗り移った(憑依、ひょうい)ことによって、自分は生まれ変わり、新しい存在になったと信じた。彼が、終生そのことを信じ通したとは思われないが、この流星事件による啓示をきっかけに、ミリオンセラーになった「ロッキー・マウンテン・ハイ」(Rocky Mountain High)を作成し、その成功によって、NAMに突き進んだことは確かである。彼が語ったところによると、彼に憑依した「力」は、この流星を送り出した星雲に住む異星人であったという(5)。この流星に乗って聖霊が自分に憑依し、自分を「スターシード」(Starseed)の一人に変身させたと、彼は信じたがっていた(6)。

  一九七六年、デンバーは、ジャック・ローゼンバーグ(Jack Rosenberg、別名、ウェルナー・エアハルト、Werner Erhard)が主催するEST(Erhart Seminar Training)を終了した。このESTは、「ニューエイジに向かう洗脳」(new age conversion brainwashing)と称するもので、集団を瞑想と興奮状態に導き、参加者に新たな創造的な覚醒を得させることを目指すものである(7)。デンバーは、このESTに強く惹かれ、この年、エアハルトや彼の支持者たちとともに、「ニューエイジ村」(New Age Commune)をコロラド州スノーマス(Snowmass)近郊に設立した。それは、一〇〇〇エーカー(約四平方キロメートル)もの広大な敷地を持つものであった。

 村には、「ウィンドスター」(Windstar)という瞑想道場が建設された。デンバーとともに、ESTの訓練を終えた、デンバーのボディーガードにして右腕であった、合気道(Aikido)の名人、トーマス・クラム(Thomas Crum)が、この道場の基本訓練の一つに、合気道を採用した。合気道こそが、単なる武術を超えた「宇宙精神と合体する道」(road to a union with the universal spirit)であると称揚されたのである。瞑想道場に隣接して、巨大な合気道の道場が建てられた。クラムはこの道場の中で生活していた。

 デンバー自身は、道場の外の、移動可能なピラミッドの中で起居していた。これは、銅製の柱でピラミッドの形状が作られ、ピラミッドの下部に九本の足を持つ屋根が葺かれ、その下でデンバーは瞑想をしていたのである。このピラミッド下の瞑想によって、彼は「力」(the power)を得、その力が自分を将来、米国大統領に押し立てるであろうと信じていた。彼の母も同じ信念を持っていたという(Aho, Barbara,"The Council for National Policy," http://watch.pair.com/cnp.html)。

 重要なことは、このウィンドスターの理事の一人に、先述のジオデジック・ドームの発明者、バックミンスター・フラー(Buckminster Fuller、一八九五~一九八九年)がいたことである。

 一九七〇年代末のNAMの象徴としてピラミッドを建設したのは、ジョン・デンバーだけではなかった。

 デンバーの道場、ウィンドスターに近い地に、デンバーよりも持続的、かつ政治的に大きな影響力を示した、ウィラード・ガーベイ(Willard Garvey)が、もっと大規模にピラミッド施設を建設したのである。ガーベイは、旧来型のピラミッドだけでなく、フラー型のピラミッド(ジオデジック・ドーム)を多数、自己の施設内に建設した。

 その施設は、カンザス州(Kansas)ウィチタ(Wichita)の肥沃な農業地帯にある「ガーベイ・センター」(Garvey Center)である。この施設は、代表者のウィラード・ガーベイの名にちなんで呼ばれているが、正式には、「人間能力の国際的改善センター」(Center for the improvement of Human Functioning International, Inc.)である。ガーベイは、このガーベイ・センターの他に、多数のセンターを設立している。いずれも、米国の市民に大きな影響力を持つ機関である。「民営化全国センター」(National Center for Privatization)、「国際管理サービス会」(International Executive Service Corp)、「公共利益全国法制センター」(National Legal Center for the Public Interest)等々である。とくに、「民営化全国センター」は、一九八三年に設立されたものであるが、米国における民営化路線の旗手になった重要な機関である。さらに、彼は、「国家政策評議会」(Council for National Policy)を一九八三年に設立した。これは、のちに、米国におけるキリスト教右派のもっとも影響力のある機関となり、一九九一年に「政府改革評議会」(Council for Government Reform)に発展的に改組された。

 このセンターの建造物は、「ニューエイジ」(New Age)の精神を体現すべく設計されたものである。まず、巨大な白亜のピラミッドが建造されている。その横には、キラキラと光を反射する「ピラドーム」(pyradome)と呼ばれている、ジオデジック・ドームの輪が作られている。この輪は、八つのピラドームから成る。真ん中に一つのピラドームを配置し、七つのピラドームがそれを囲い込んでいる。これが、「ニューエイジの基本的シンボル」(basic New Age symbols)である「ハディトとヌイト」(Hadit & Nuit)を表現しているとされる。「ヌイト」と「ハディト」は、いずれも、古代エジプトの神話と関連づけられた神である。

 ここに、NAMの持つ基本的性格が顕わされている。「新」時代とは、「古代」に復帰することである。というよりも、古代の智恵を発見するために、近代の人間が忘れてきた人間の潜在的能力を現代に再生させることなのである。「対抗文化」運動として出発したはずのNAMが、最終的にキリスト教的右派に吸収され、それが、既成勢力打破のスローガンの下に、より右寄りの政治運動に利用されるようになったのも、復古運動がいき過ぎたからである。