消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

まる見えの手 02 権力者が操業する米国の投資ファンド(1)

2006-09-28 23:30:44 | 時事
 カーライル・グループ」という投資ファンドがある。1987年創設、運用資産419億ドル、670人のスタッフを擁する世界最大級の「プライベート・エクイティ・ファンド」である(2005年の同社ホームページ)。 カーライルは、設立以来、年率30%以上の脅威的な配当をおこなってきた。カーライル・グループのホームページによれば、2005年時点で、設立以来、世界15か国において、500件の投資実績をもつ。製造業、消費財、エネルギー、ヘルスケア、テレコム・メディア、運輸といった業種を中心に、買収、育成、証券化、高利回り債券の発行といった各分野において投資活動をおこなっている。グループ投資先の会社の全体の売上規模は約460億ドル以上で、18万人以上の従業員を抱えている。 ここで、「プライベート」とは、「パブリック」の対立概念で、「公」に開かれた組織ではなく、小人数の会員制の閉ざされた「私」的組織のことである。「エクイティ」とは、まだ上場されていない企業の未公開株を購入・転売することによって利益を生みだすことを指し、銀行や年金基金といった機関投資家、そして、大金持ちが会員となって、このファンドに出資する。つまり、金持ちだけの閉鎖的クラブである。プライベートな組織であり、出資者もプロ集団であるので、ファンドがよしんば損失を出しても、出資者の自己責任として処理される。したがって、公の救済措置は講じられない。公の救済を受けない約束であるので、こうしたプラーベート・ファンドは出資者の氏名も運用先の詳しい情報も金融当局に報告する義務はない。秘密裏に運営され、秘密裏に利益配当がおこなわれるのである。 カーライルの業務は、未公開企業に投資するプライベート・エクイティ・ファンドを個人富裕層や機関投資家に販売する。未公開の会社の株を買い、高額になったところで売る。未公開株を相手にしているので、証券管理法の制限も受けない。その投資対象は、航空、国防、電気通信など政府の政策に大きく影響を受ける産業が中心である。つまり、カーライルは、政治・国防・企業の鉄の三角形で張り巡らせたネットワークを形成し、国家をもその三角形のなかに取り込んでいる。 本拠地をワシントンに置くカーライルの顧問には、メージャー元英国首相)、カール・オットー・ぺール元ドイツ連邦銀行総裁(ヨーロッパ中央銀行の規約作成者)、エーバーハルト・フォン・クーエンハイムBMW取締委員会代表、フィデル・ラモス元フィリピン大統領アナン・パンヤラチュン元タイ首相)、朴泰俊(パク・テジュン)元韓国首相(韓国自民連合総裁)などがいる。 創業者は、民主党カーター政権(1977~1981年)下の大統領顧問であったデービッド・ルービンシュタインであり、会長は、フランク・カールッチである。カールッチは、子ブッシュ政権下(2001年~)の国防長官・ドナルド・ラムズフェルド、レーガン政権下の国防長官(1981~1987年)・キャスパー・ワインバーガーとは同窓であった。 カールッチは、ニクソン政権(1969~74年)が成立すると、ワインバーガー厚生・教育・福祉長官の下で次官を務めた。1974年駐在ポルトガル大使に任命され、フォード政権下(1974~1977年)まで赴任した。民主党のカーター政権下でCIA副長官(1978~81年)を勤めた。入れ替わりになるが、前年まで(1976~77年)は父ブッシュがCIA長官であった。レーガン政権の成立と同時に、ワインバーガーの下で1981年国防副長官に就任する。1986年国家安全保障担当大統領補佐官として大統領府に入る。1987年ワインバーガーの国防長官辞任に伴い、後任の国防長官に就任する。そして、父ブッシュ政権下(1989~93年)でも国防長官を務めた。国防長官引退後、彼はカーライルに正式に入社したのであるが、現役時代からカーライルとの関係があり、CIA国防省にカーライルが食い込むことに貢献したキーマンであるといわれている。 父ブッシュ政権下で国務長官を務めてたジェームズ・ベーカーも同社の上級顧問である。その他、リチャード・ダーマン(父ブッシュ政権下の行政管理予算局長官)、アーサー・レビット(クリントン政権下の証券取引委員会委員長)、ウィリアム・ケナード(クリントン政権下の連邦通信委員会委員長 )などがズラッと顧問に名を連ねる。 子ブッシュは、1989年から94年まで、カーライル・グループの理事として就職していた。 父ブッシュも大統領を辞めて後、カーライルにアジア担当の上級顧問であった。 1997年の韓国の通貨危機を経て、カーライルは、韓美銀行の支配に成功したが、当然、父ブッシュの威光が利用されたであろうと想像される。この間、父ブッシュは韓国の政財官の実力者たちと積極的に交渉していたといわれている。 米国は、IMFの救済融資を利用して、韓国投資への規制緩和を急速に推し進め、外国企業の合併・買収に関する法律を変えさせた。米国が、過去30年間、貿易政策ではなにごとも成功しなかった韓国の規制緩和が、IMFが入ったことでわずか数か月で実現した。外国企業による韓国銀行の経営権取得・株の支配も認められるようになった。待ってましたとばかり、カーライルは、韓国の大手銀行のひとつで、数少ない健全な銀行であった韓美銀行を買収したのである。カーライルの工作は大成功した。 見られるように、民主党の政治的エリートが投資ファンドを創設し、共和党政権になっって民主党が権力を失っても、創業者たちは、ブッシュ親子の政権にすりより、共和党幹部たちとの共同事業として金儲けに邁進していったのである。 そして、カーライル・グループは、普通の投資ファンドとは大きく異なる。軍事関連分野で大きな力を発揮しているからである。 インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙(2001年3月6日付)は、カーライルが、創業10年にして世界中にネットワークを築き、米国の兵器メーカーを傘下に納め、米国で有数の兵器メーカーになったと報じた。 これは、国防省の「クルセーダー計画」のことを指している。第一次子ブッシュ政権下の国務長官は、コリン・パウエルであった。このコリン・パウエルも、カーライル・グループの元顧問であった。