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「茶番」会見を変える

2020年03月09日 | 社会・経済

安倍総理「茶番」会見を変える 署名活動に込めた新聞労連委員長の覚悟

立岩陽一郎  | 「インファクト」編集長 3/8(日)

    新型コロナウイルス対策についての安倍総理の記者会見をきっかけに、事前にやり取りが決められた総理大臣の会見の在り方を変えるための署名活動が始まっている。呼びかけたのは新聞労連の南彰委員長。署名はオンラインで集めるもので、当初の予定だった1万を超えた。南委員長は署名の狙いは「報道機関を変えること」と明言した。

 署名を呼び掛けるオンライン・サイト
「十分な時間を確保したオープンな「首相記者会見」を求めます!」とする署名活動がオンライン上で始まっている。 

十分な時間を確保したオープンな「首相記者会見」を求めます!

    新型コロナウイルス対策に関する安倍総理の記者会見が事前に質問が提出され安倍総理が答弁書を読むだけだったことに加えて、江川紹子氏などが「まだ質問が有ります」と呼びかけても打ち切られたことで、総理大臣の記者会見への批判が高まっている。署名活動は、自由な質疑を行える首相会見を求めたもので、署名者は3月8日の昼過ぎに当初の予定だった1万人を超えた。 
    求めているのは、従来の慣行である官邸記者クラブ主催ではない形での記者会見。具体的には、日本記者クラブ主催にし、参加者の枠を広げて自由に質問できる場を作るというものだ。 
    署名活動の主体は、MIC(マスコミ文化情報労組会議)だが、その発案者は全国の新聞の労働組合で作る新聞労連の南彰委員長だ。南氏は朝日新聞の政治部記者で、官邸記者クラブに所属していたこともある。 

変わるべきは報道機関

    南氏は私の取材に、開口一番、「マスメディアが改革してこなかったつけが出ている」と話した。どういうことか? 
「安倍総理は報道の自由について否定的な姿勢が顕著です。そして、同時に、平成の30年あまりかけて進められた権力の一極集中が安倍政権で完成した。これによって、今まで慣行として行われていたものの、あまり目立って問題にならなかったものが、一挙に目に見える形で出てきている」 
そして言った。 
この署名は、官邸を動かすというより報道機関を動かすという取り組みです。その狙いは、報道機関を変えることにあります。署名のあて先は官邸が最初に来て、次が報道機関になっていますが、本当は報道機関を先にもってくるべきだと思っています」 
では、なぜそれは署名活動だったのか? 
「マスメディアへの不信感が有る中で、署名を集めることで、『変えないといけない』という意見を可視化させる必要が有ると考えたのです。それには署名活動しかないと考えました」 
そう考えたタイミングが有ったという。 
「2月29日に記者会見が行われ、その会見のことが国会でも審議された。そこで安倍総理自身が、会見にシナリオが有ると公言した。それを3月3日の朝日新聞が記事にしたが、『これは、報道機関が釈明しているだけではすまない』と思った。マスメディアが変わることが問われている時に、記者クラブ制度の中で、マスメディアには、政権に対して適切な会見を全会一致で求めるという感覚がない。これは、何かしないといけないと思ったんです」 
「可視化が必要なんです」と、南氏は強調した。 

安倍政権で変わった状況

    私はYahoo!ニュース個人で安倍総理大臣と記者との会食、そして安倍総理大臣の会見を問題にしてきた。その中で指摘したのは、これは安倍総理だから行われたことではなく、従来の慣行だという点だった。それは南氏の冒頭の、「マスメディアが改革してこなかったつけが出ている」という言葉と符合する。 
    しかし、朝日新聞で政治部記者として政治を見てきた南氏は、安倍政権で特にそれが際立った事情が有ると話した。 
「官邸記者クラブにいた時から、総理大臣の会見が儀式に近いというのは感じていた。それでも問題だと感じなかったのは、会見とは別に取材の場が有ったからなんです」 
    どういうことか? 
「歴代の総理大臣は官邸記者クラブとの間にルールを持っていて、例えば、テレビの単独インタビューは順番に行う。そして、そのタイミングで新聞、通信各社は3社を1つのグループにして取材を受ける。そこで厳しい質問も含めてやりとりをするということをしていた。だから、NHKの中継で全国に流される記者会見は儀式の様になっても、それは仕方ないという考えが有ったんです」 
それが安倍政権になって変わったという。 
「2012年に政権復帰して、先ず慣例を無視して産経とTBSの単独インタビューに応じたんです。ただ、最初はそれでも平等に応じる姿勢は見せていました。しかしそのうち、それが変わります。産経とNHKに対する取材対応が突出していきます。そして民放の情報番組にも出る」 
安倍総理は明確に、自身にとって都合の良いメディアを選ぶということを始めたということだ。しかし、「メディア側はそれをのまざるを得なかった」という。なぜか? 
「そもそもなんで(官邸)記者クラブだけで(総理大臣への取材を)独占しているのかというメディア不信を官邸側にうまく使われているんです。確かに、そう言われると弱い。そこでうまくコントロールされているわけです」 
巧妙な安倍政権ということか? 
「そう思います。ですから、マスメディアが変わらないと何も変わらない。今、取材の過程そのものが可視化されているわけです。取材の過程が不信の目で見られたら、新聞もテレビも信頼は得られない。会見できくべきことをきく。勿論、会見以外でも取材はするが、会見でしっかりと取材するというところに立たないといけない。『表』はきかなくてよいから懇談の様な『裏』できく、というのはもう通用しない」 
    集まった署名は官邸と報道機関に送る予定だ。南氏は、「既にマスメディアは共犯関係にある」と言い切った。 
「儀式としての首相会見はなぜ成り立っているかというと(官邸)記者クラブが支えるから儀式が貫徹している。そこを国民が見ている。ここを脱しないといけない」 

新たな会見のイメージとは

    実は、この署名集めには、特に私の様な主要メディアに属していないジャーナリストから批判が有る。それは、「そもそもこれは新聞、テレビが作り上げてきたものであり、その中でフリーのジャーナリストを排除してきたのは政府というよりも、新聞、テレビといった主要メディアではないか」という不信感から来る。それについて南氏に問うた。 
    「その不信感を私自身も突き付けられました。賛同者になってくれた方の中には、そうした不満を持ちつつも、今は動かすことだと賛同してくれた方もいます。それを私たちは受け止める必要が有る」 
では、署名の中で求めている日本記者クラブでの記者会見はフリーのジャーナリストも参加できる「オープンな会見」になるのだろうか? 
「日本記者クラブでやるという趣旨は、日本記者クラブは報道界全体で考える場として面々が集まっている場としてという意味です。現状は会員になっている人しか入れないが、首相会見については会見に出られる枠を広げていく必要がある。フリーランスで頑張っているジャーナリストも出てもらう必要があると考えます」 

改革のチャンス

    これまで続いてきた慣行の弊害が、安倍政権で一気に噴き出したと言った南氏。一方で、安倍政権によって改革のチャンスがもたらされたととらえている。 
「歴代の自民党政権はそれなりに民主主義を考えていた。マスメディアはそうした政治家の良識に甘えていた。それが第二次安倍政権になって新しい時代になった。マスメディアにとっては試練だが、それは良い試練だと思う。それを一つ一つ解決していかないといけない」 
    そして最後に言った。 
「今起きていることは安倍政権で終わるわけではないんです。安倍政権はいつか終わる。しかし、安倍政権によって顕在化したマスメディアと権力との関係は消えることはない。だから、今、変える必要がある」 
署名活動のサイトには、権力を憲法で縛る立憲主義を説いた本として知られる「檻のなかのライオン」の挿絵が使われている。権力をライオンに、憲法を檻に例えた事例が話題となった一冊だ。南氏が頼んで使わせてもらったという。 
    マスメディアは檻の役割を担えるのか?それとも、ライオンを野に放つために檻を壊す側にまわるのか? 
署名は3月10日にも、官邸と官邸記者クラブに加盟する報道各社に送られる。

立岩陽一郎 
調査報道とファクトチェックを専門とする「インファクト」編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクとして主に調査報道に従事。政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「ファクトチェック最前線」「トランプ報道のフェイクとファクト」「NPOメディアが切り開くジャーナリズム」「トランプ王国の素顔」など。