読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

第19回宮崎映画祭観覧記(その2) 再び談志師匠の至芸に触れる喜びに浸れた『映画 立川談志』

2013-08-26 23:46:13 | 映画のお噂
宮崎映画祭2日目となった昨日(25日)。わたくしは2本の映画を鑑賞いたしました。大林宣彦監督の最新作『この空の花 -長岡花火物語』と、立川談志師匠の一周忌追善プロジェクトとして製作された『映画 立川談志』であります。


『この空の花 -長岡花火物語』(2011年、日本)
監督=大林宣彦 出演=松雪泰子、高嶋政宏、原田夏希、猪股南、柄本明、富司純子

2011年夏。熊本県天草の地元紙の記者を務める玲子は、かつての恋人から届いた「長岡の花火と、自分の高校の女子生徒が書いた脚本で演じられる、戦争を題材にした舞台を見てほしい」との手紙に導かれ、新潟県長岡市を訪れる。行く先々でさまざまな人びとに出逢う中で不思議な体験を重ねながら、少しずつ長岡の歴史を知っていく玲子。長岡の花火は単なるお祭りではなく、過去の戦争や中越地震で亡くなった人びとを追悼し、復興を誓う祈りの花火だったのだ。
舞台当日。太平洋戦争末期に起きた、長岡大空襲の悲劇が生徒たちによって演じられていく。そして夜空には、鎮魂と祈りの花火が次々と上がっていくのであった•••。
長岡の花火と、そこに込められた歴史に惹きつけられた大林監督が、長岡の人びとともに作り上げた一大映像叙事詩です。
物語は時空と虚実を自在に往還しつつ、戊辰戦争や太平洋戦争での長岡大空襲、2004年の中越地震、そして3年前の東日本大震災の記憶とが紡ぎ合わされていきます。イメージの奔流の中に浮き彫りにされる、平和へのメッセージと祈りには胸打つものがありました。
舞台のシーンでのセリフにあった、「人間が人間にできる最も残酷なことは、想像力を奪うことだ」ということばが、強く印象に残りました。
出演者も実に多彩で、大林作品ではおなじみの面々や、地元長岡の人びとも多数出演しているほか、意外な人が意外なところで出ていたりしておりました。そんな中、本作で映画デビューを果たした女子高生役の新人・猪股南さんが鮮烈な印象を与えてくれました。


『映画 立川談志』(2012年、日本)
監督=加藤たけし 出演=立川談志、松岡弓子 ナレーション=柄本明(ドキュメンタリー)

おととしの11月に逝去した落語家・立川談志師匠。「落語は人間の業の肯定である」や「イリュージョン」といった考え方により、古典落語を現代にも通じる藝能として再生させた、まさに現代最高の落語家でありました。また、破天荒な毒舌家として喝采を浴びる一方で、数々のトラブルに事欠かない方でもありました。
本作は、2005年の「やかん」と、2006年の「芝浜」の高座映像をメインに据え、それに未公開のプライベート映像などを織り交ぜて製作されたドキュメンタリー作品です。
独演会の終盤、まだ時間があるから何かやるか、と言いつつ始められる「やかん」。八五郎にあれやこれやとモノの由来を尋ねられる知ったかぶりの長屋のご隠居が、適当な答えを連発してやり過ごしていくという「根問いもの」噺を、談志師匠が自在にアレンジ。次々と繰り出される奔放かつ馬鹿馬鹿しいイリュージョンや、「冒険家とは恐怖に対する感度が鈍い奴のこと」などの“名言”の数々に爆笑させられました。
そして、談志師匠十八番の「芝浜」。酒にだらしない魚屋の勝五郎が、芝浜での釣りで大金の入った財布を拾います。これでもう働かなくってもいい、と祝杯を上げて寝入り、翌朝目覚めると財布がありません。夢でも見たんじゃないか、という女房・おはまのコトバを信じ込み、真面目に仕事に打ち込む勝五郎。それから3年後の大晦日、勝五郎がおはまから打ち明けられた話は•••。
豊かな表情で巧みに演じられる夫婦のやりとりに大笑いさせられるとともに、ラストでの夫婦愛を際立たせる情感あふれる熱演には胸を打つものがあり、あらためて引き込まれました。噺が終わったとたん、画面の中の高座の観客のみならず、なんと映画を観ていた観客からも大きな拍手が!
没後2年足らずの間、談志師匠のいない空白感を覚えたりしていたわたくしでありましたが、本作で久々に、その至芸を堪能できる喜びに浸ることができました。
上映終了後は、談志師匠の愛弟子にして大の映画好きでもある(どころか映画監督でもある)、立川志らく師匠によるトークショーが開催されました。亡き師匠の思い出の数々を語りながらも湿っぽさは微塵もなく、それこそ落語のような語り口で大いに抱腹絶倒させられました。
この回の上映はほぼ満席状態。これ1回きりの上映ということもあったのでしょうが、やはり少なからぬ人たちが、今でも談志師匠を愛していることの証左だったのではないかと感じられ、嬉しい気持ちになりました。

終映後、物販コーナーにてこの2点を購入しました。『映画 立川談志』のパンフレットと、若き日の談志師匠が初めて出した1965年の著書『現代落語論』(三一新書)。パンフレットには、今回の宮崎映画祭で『この空の花』と『転校生』が上映されている大林宣彦監督のほか、吉川潮さんや松尾貴史さん、太田光さんなどが寄稿しておられます。