読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【閑古堂アーカイブス】 ちょっとユニークで楽しめる「虫の本」5冊

2018-06-04 22:04:48 | 本のお噂
本日6月4日は、語呂合わせで「虫の日」であります。ということで、わたしの手元にある虫本から、ちょっとユニークで面白い物件を5冊選んでご紹介することにいたします。


『へんな虫はすごい虫 もう“虫けら”とは呼ばせない!』
安富和男著、講談社(ブルーバックス)、1995年

100年生きるシロアリの女王、極限の環境に耐えられるクマムシ、母親を食べて育つクモ、酒好きな虫・・・などなど「へんだけどすごい」虫たちをたっぷりと紹介したこの本は、1995年の初刊以来、現在も販売が続いているロングセラーであります。虫たちの小さな体に秘められている、すごい能力の数々にびっくりさせられるうちに、虫への見かたがガラリと変わること間違いなしです。
それぞれの項目が2〜3ページと短くまとめられているので、気軽に読めて楽しめる一冊となっております。


『わっ!ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』
西田賢司著、徳間書店、2012年

ド派手なチョウやすごい形のツノを持つセミ、寄生した相手を操る寄生バチ、美しい緑色をしたゴキブリ・・・。南米コスタリカを拠点に活動している探検昆虫学者が、コスタリカに生息する変わりダネの虫たちを紹介する児童向けの本です。
熱帯雨林でジャガーに遭遇したり、ヒトの皮膚に寄生して育つハエの幼虫を自分の体で「飼育」したり・・・といった、珍種発見にまつわるさまざまなエピソードとともに、豊かな生物多様性を保つことの大切さを学ぶことができる一冊です。


『邪惡な虫 ナポレオンの部隊壊滅!虫たちの惡魔的犯行』
エイミー・スチュワート著、山形浩生監訳、守岡桜訳、朝日出版社、2012年

ペストを媒介して人を死に至らしめるノミ、強力な毒を持つ世界最大のムカデ、ハリケーン「カトリーナ」による被害を拡大させたシロアリ・・・など、人々に苦痛を負わせ、時には歴史も変えてしまう「邪悪な」力を持った虫たちを、豊富なエピソードとエスプリの効いた語り口で紹介していきます。
禍々しさと美しさを兼ね備えた、虫たちの精緻な挿絵も必見であります。同じ著者と版元による姉妹篇『邪惡な植物 リンカーンの母殺し!植物のさまざまな蛮行』も面白いです。


『昆虫食入門』
内山昭一著、平凡社(平凡社新書)、2012年

世界各地と日本における昆虫食の実例を幅広く辿りつつ、昆虫食の社会的、心理的な面からの考察、食料資源や「食育」教材といった側面から見た、これからの昆虫食の可能性・・・など、昆虫食についてとことん探究した一冊です。キワモノ扱いされがちな昆虫食も、れっきとした文化であることが、この本を読むとよくわかります。
とはいえ、いざ「食べなさい!」と目の前に差し出されても、やっぱり食べるのには躊躇してしまいそうな・・・。カメムシとか「G」あたりは特に。


『ぞわぞわした生きものたち 古生代の巨大節足動物』
金子隆一著、SBクリエイティブ(サイエンス・アイ新書)、2012年

信じられないほど複雑な形状のツノを持っていた三葉虫や、人間を超える大きさの巨大な多足類や海サソリなど、驚きの古生代節足動物たちを多数の復元図とともに紹介した一冊です。
今は存在しない、それも昆虫以外の節足動物が多くを占める本なのですが、驚きと好奇心を刺激してくれる一冊ということで、あえてご紹介を。それにしても大昔の節足動物のスケールのでかさといったら・・・。

『絶景本棚』 本棚という小宇宙を眺める愉悦を、たっぷりと味わえる愉しい一冊

2018-06-03 22:35:09 | 「本」についての本

『絶景本棚』
本の雑誌編集部編、本の雑誌社、2018年


読書家、探書家として知られる名士たちの本棚を、写真でじっくりと眺めていく『本の雑誌』の巻頭連載を一冊にまとめたのが、本書『絶景本棚』です。
取り上げられた34人は、なんらかの形で本と関わっておられる方々、という大きな共通項こそあるものの、作家や漫画家、評論家、ブックデザイナー、編集者、書店員など、職種や趣味、好みは実にさまざま。それだけに、本棚に収まっている本の傾向や、その収納法に現れているそれぞれの個性を、背表紙のタイトルや著者名とともに味わうことができる、実に愉しい一冊となっております。

のっけから圧倒されるのが、社会経済学者である松原隆一郎さんの本棚。2013年に建てられた地下1階、地上2階建ての書庫は、なんと螺旋状。そこにはマクロ経済学やミクロ経済学など、専門である経済学の関連書や、岩波や中公、ちくま、PHPなどの教養系新書がズラリ。でもそんな中に、永井荷風や司馬遼太郎、筒井康隆、伊丹十三などの小説やエッセイ、『ギャグ漫画傑作選』などのビジュアル文庫、さらには『VOW全書①』なんてのもあったりして、けっこう幅広くお読みになっている様子です。
実業界きっての読書家であり、ノンフィクション系書評サイト「HONZ」代表でもある成毛眞さんの本棚には、歴史・社会・科学・芸術といったさまざまなジャンルのノンフィクションが並んでいて、こちらも唸らされました。でもそこには、横向きにした本をタワーのように積み上げた一角があり、タワーのてっぺんにはヘルメットが。崩れたときに身を守るため・・・でしょうか。

作家・京極夏彦さんの書斎は、壁一面にしつらえられた本棚に、古典文学や民俗学関係の重々しそうな全集ものがズラリと並ぶという光景。それはまるでどこかの大学の図書館のようで、思わずため息が。その一方で、昔の『少年ジャンプ』『少年サンデー』『少年マガジン』などの漫画雑誌が並ぶ一角には、目玉おやじやねずみ男といった「ゲゲゲの鬼太郎」のグッズが飾られていたりしていて、ちょっとニンマリさせられました。
図書館のよう・・・といえば、29畳のスペースに天井までの作り付けの本棚が十数列並んでいるという、SF作家の新井素子さんの書庫もまた図書館そのもの。そこには、小松左京、筒井康隆、星新一、眉村卓といった面々の代表作を収めていた早川書房の「日本SFシリーズ」や、ハインライン『人形つかい』ブラッドベリ『華氏四五一度』などの名作を集めながらも、版元の倒産により未完に終わった元々社の「最新科学小説全集」といった昔のSF叢書シリーズが並んでいるのはさすが、という感じです。ほかにも、創元社の「世界推理小説全集」などのミステリ叢書や、山岡荘八、山手樹一郎といった歴史・時代小説作家の著作、さらには『ヒカルの碁』『神の雫』などのコミック単行本も並んでいたりしていて、なかなかバラエティに富んでおります。
新井さんの本棚には、「本を借りる人は、このノートに日付、タイトル、名前を記入して下さい」と記された「貸し出しノート」なるモノも。これはますます、図書館そのものじゃありませぬか。

特定のテーマに沿って本を集め続けている方々の本棚も、また魅力的です。フリーの校正者で辞書研究家の境田稔信さんの本棚で目立つのは、もちろん辞書・事典類。とりわけ、大槻文彦の『言海』だけでも260冊以上はあるそうで、装幀や版が違う『言海』がズラッと棚に並ぶ光景は実に壮観です。
翻訳家で古書マニアでもある森英俊さんの書庫もスゴいものが。その本棚に並ぶ本は激レア本の宝庫で、昔の少年向け探偵・冒険小説の叢書シリーズをはじめ、栗田信、三橋一夫、宮下幻一郎といった、今ではほとんど知る人もいないような、名前自体がレア化している作家たち(わたしもまったく、これらの作家たちのことは存じませんでした・・・)の著作などは、おそらく愛好者には垂涎モノでありましょう。
プロインタビュアー・吉田豪さんの本棚には、なんと5000冊以上にのぼるタレント本が、タレント名の五十音順にズラリと並べられていて、これはこれで実に壮観。しかも、同じ本であってもバージョンが違うものが何冊も並んでいたりもいたします。軽く見られがちなタレント本を、かくも心血を注いで集めている方がいるということに、妙に感動したわたしでありました。

本の収納や管理の仕方にも、それぞれの個性が現れております。ファンタジー研究家・中野善夫さんは、大切な本を白い扉のついた本棚に収納しているほか、ガラスの扉にはUVカットのフィルムを貼って日焼けしないようにするという、徹底した愛書ぶりです。
一方、ミステリー・SF研究家の日下三蔵さんの書庫は、本棚に収めきれない本が山どころか山脈を築いていて、一部はそれが崩壊して雪崩をうったままになっているというありさま。その壮絶さはまさに「魔窟」という呼び名に相応しいものがありました。
猛烈な勢いで本を増やし続ける方もいれば、逆に本を減らしていこうとしている方も。アート関係の出版物の編集を手がけるかたわら、自らも『TOKYO STYLE』などのユニークな著作を出しておられる編集者・ライターの都築響一さんの本棚には、内外のアート関連書や、小沢昭一『放浪芸雑録』などの芸能に関する本、『萩原朔太郎全集』や『日本農民詩史』『近代庶民生活誌』といった全集ものなど、こちらもなかなかの充実ぶり。
ですが、都築さんご本人には本への執着はないそうで、電子書籍の登場以降は紙の本を買う量が劇的に減ったとか。また、蔵書ゼロを目標に蔵書の整理も開始。そのこころは「自分にとって大事なのは蔵書じゃなくてフットワーク」とのこと。本を溜め込みがちなわたしには、なかなかそのように割り切るのは難しそうなのですが、そういうお考えも「アリ」かなあ、とは思いました。

本書に登場している34人の本棚。それらは間違いなく、それぞれの方が歩んできた知的営為の歴史の積み重ねを反映した「小宇宙」といえるものでしょう。その小宇宙を、本棚に並んだ本の背表紙とともにじっくりと辿ることは、この上なく愉しいことでありました。本書の帯には「人の魂、本棚に宿る」ということばが記されているのですが、それはほんとにその通りだなあ、ということを、つくづく実感いたしました。
同時に、たとえ「絶景本棚」の持ち主たちには遠く及ばないにしても、本棚という小宇宙を自分で持つことは、とても豊かなことなのだということを、本書を読んで感じました。
わたしたち凡人にとっては、経済的にも物理的にも本を増やし続けることは至難のこと。でも、「自分」という存在を知り、これからどう歩んでいくべきなのかを考えるためにも、たとえささやかであっても、自分のライブラリーを持つことは大切なのではないか・・・。
34人の「絶景本棚」は、わたしにそんなことを語りかけてくれたように思います。


【関連オススメ本】

『立花隆の書棚』
立花隆著、薈田純一写真、中央公論新社、2013年

わたしが尊敬する「知の巨人」のお一人である立花隆さん。その仕事場兼書庫である地下2階、地上3階建ての通称「ネコビル」をはじめとする立花さんの全書棚を写真で収録、それぞれの書棚に収まっている書物を立花さん自身が解説した一冊。650ページという分量もさることながら、さまざまな分野にまたがって展開されていくお話もボリューム満点で圧倒されます。拙ブログの紹介記事はこちら。→ 【読了本】『立花隆の書棚』 膨大な知的蓄積と書物愛にひたすら圧倒