読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

12月刊行予定新書新刊、個人的注目本12冊

2013-11-29 07:27:55 | 本のお噂
12月に刊行される予定の新書新刊から、例によってわたくし個人が興味を惹かれた書目をピックアップしてみました。12月の刊行分には興味を惹かれる書目が多く、今回は12冊であります。
•••それにしても、2013年もとうとう、12月を残すのみとなったんだなあ。ほんと、月日の経つのは早いものですねえ。こうしてあっという間に月日が経ち、あっという間に歳をとって、そしてあっという間に死•••って、別にそこまで考えるこたないか(笑)。何はともあれ、今回も何か引っかかるような本があれば幸いに存じます。
刊行データや内容紹介のソースは、書店向けに取次会社が発行している情報誌『日販速報』の11月25日号、12月2日号とその付録である12月刊行の新書新刊ラインナップ一覧です。発売日は首都圏基準ですので、地方では1~2日程度のタイムラグがあります。また、書名や発売予定は変更になることもあります。

『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』 (速水健朗著、朝日新書、13日発売)
一瞬ギクっとするような書名であります。「食の安全のためにお金を使うことを厭わない人々と、安全よりも安さと量を重視する人々。食べ物、政治意識を導き出す」とのこと。食の傾向から、果たしていかなる政治意識などが見えてくるのか、気になるところであります。

『イギリス史10講』 (近藤和彦著、岩波新書、20日発売)
「ストーンヘンジの先史時代から、ビートルズの現代まで、複合社会イギリスを、繊細かつダイナミックに描く」と。なかなか奥深いところのあるイギリスという国を、長い歴史的スパンから捉えた内容のようで、興味を惹かれます。

『「道徳」を疑え! 自分の頭で考えるための哲学講義』 (小川仁志著、NHK出版新書、10日発売)
「多発するいじめや虐待、社会マナーの低下などを背景に、道徳の教科化の議論が持ち上がっている。現代人のモラル崩壊という問題の核心へと切り込む」とのこと。確かになんだか、地に落ちた感のある現代人のモラルやマナーですが、それを単純な感情論に流されることなく考えることができる本になっているかどうか、注目してみたいと思います。

『ビジネスを蝕む 思考停止ワード44』 (博報堂ブランドデザイン著、アスキー新書、10日発売)
「ビジネスには『思考を止める言葉』がある。例えば『成功例』『成長』『ニーズ』。それらがなぜ問題を起こすのかを局面ごとに解説」と。これもけっこう気になりますが、「アテンド、ガバナンス、リスケ、ブランディング」などの言葉の「単語の意味と成り立ち、正しい言い換えを示す」という『バカに見えるビジネス語』(井上逸兵著、青春新書インテリジェンス、2日発売)も、内容的にはつながるものがありそうで、こちらも気になります。

『東西「駅そば」探訪 和製ファストフードに見る日本の食文化』 (鈴木弘毅著、交通新聞社新書、16日発売)
12月刊行分の新書では、個人的に一番興味をそそられる書目であります。「『駅そば』研究の第一人者が『目と耳と舌』を駆使し、綿密な現地調査をもとに書き上げた『和製ファストフードに見る東西食文化史』」と。駅そばから見えてくる日本食文化の様相とはいかなるものなのか、すごく楽しみであります。

『古代世界の超技術』 (志村史夫著、講談社ブルーバックス、19日発売)
倒れない五重塔や、奈良の大仏建立の謎に迫った『古代日本の超技術』に姉妹編が登場。「最先端の材料工学の観点から『古代史の技術ミステリー』を読み解く」とのこと。今度はどんなすごい知恵が発掘されるのか、こちらにも期待したいですねえ。

『色彩がわかれば絵画がわかる(仮)』 (布施英利著、光文社新書、13日発売)
「ゴッホ、ラファエロ、ダ・ヴィンチ。絵画に秘められた芸術家たちの驚くべき技巧を紹介し、新たな視点で美術鑑賞を楽しむ」。美術のみならず解剖学にも精通した著者が、名画の技巧をどのように解剖してくれるのでありましょうか。

『日本ウイスキー 世界一への道』 (嶋谷幸雄・輿水精一著、集英社新書、17日発売)
「世界のウイスキー賞で最高賞が相次ぐ日本のウイスキー。世界一のウイスキーはどうやって造られたのか。至高の味わいの秘密を明かす」とか。普段、行きつけのバーでは海外のウイスキーばかり飲んでいるわたくしですが、日本のウイスキーの実力を見直すためにも、ちょっと読んでみたいなと思います。

『維新の後始末 明治めちゃくちゃ物語』 (野口武彦著、新潮新書、14日発売)
「侍たちの失業対策、幕府が残した借金返済、はじめての国際問題。国作りに励む明治新政府の苦闘を描きながら、近代国家日本の原点を探る」とのこと。今また、さまざまな局面で転機を迎えている日本。明治の「めちゃくちゃ」ぶりから、何かのヒントが見えてくるかもしれませんね。

『40歳からの会社に頼らない生き方』 (柳川範之著、ちくま新書、4日発売)
「先行きが見えない時代を生き抜くには、どうするべきか。『40歳定年制』で話題の経済学者が、新しい働き方を提案する」と。すでに40ン歳になっている不肖わたくしとしては、なんだか書名からして気になることしきり、なのですが•••。

『日本写真史(上) 幕末維新から高度成長期まで』 (鳥原学著、中公新書、20日発売)
「19世紀半ばの導入後、写真は戦争とメディアとともに成長。敗戦後はリアリズム、広告と多彩化する。1974年までの120年を描く」と。「安定成長から3.11後まで」との副題がついた下巻も同時刊行。こちらも楽しみです。

『絶対貧困と相対貧困(仮)』 (石井光太著、PHP新書、13日発売)
「世界に12億人存在する絶対貧困層と、約1200万人にのぼる日本の相対貧困層。その実態と差異について鋭く切り込む渾身の一冊」と。世界の壮絶な「絶対貧困」の現場を見てきている著者だけに、上滑りのない話が展開されるのではと期待します。

12月刊行分で他に気になる書目は、以下の通りであります。
『青春の上方落語』 (笑福亭仁鶴・笑福亭鶴瓶著、NHK出版新書、10日発売)
『世界を標的化するイスラム過激派 「アラブの春」で増幅した脅威』 (宮田律著、角川ONEテーマ21、10日発売)
『科学vs.キリスト教 世界史の転換』 (岡崎勝世著、講談社現代新書、17日発売)
『記憶のしくみ』(上) (R・カンデルエリック、R・スクワイアラリー著、講談社ブルーバックス、19日発売)
『現場主義の競争戦略 次代への日本産業論』 (藤本隆宏著、新潮新書、14日発売)
『温泉の科学』 (佐々木信行著、サイエンス・アイ新書、16日発売)
『あの元素は何の役に立っているのか?』 (左巻健男著、宝島社新書、9日発売)
『いのちと重金属 人と地球の長い物語』 (渡邊泉著、ちくまプリマー新書、4日発売)
『鉄道会社の経営 ローカル線からエキナカまで』 (佐藤信之著、中公新書、20日発売)
『北朝鮮経済のカラクリ』 (山口真典著、日経プレミアシリーズ、11日発売)
『「東京物語」と小津安二郎 なぜ世界はベスト1に選んだのか』 (梶村啓二著、平凡社新書、13日発売)
『デジタル教科書は子どもの学びを壊す』 (宮川典子著、ポプラ新書、上旬)



NHKスペシャル “認知症800万人”時代『“助けて”と言えない 孤立する認知症高齢者』

2013-11-24 23:52:21 | ドキュメンタリーのお噂
NHKスペシャル “認知症800万人”時代『“助けて”と言えない 孤立する認知症高齢者』
初回放送=11月24日(日)午後9時00分~9時49分
キャスター=鎌田靖 語り=柴田祐規子


今年1月、NHKスペシャルとして放送された『終の住処はどこに ~老人漂流社会』。介護施設にも入ることができず、居場所のないまま「漂流」せざるを得ない高齢者の現実を伝え、反響を呼びました。
さらに深刻な状況に置かれているのが、認知症となった一人暮らしの高齢者です。認知症の進行により本人の意思確認ができなかったり、本人の強い拒否にあったりして、介護サービスを受けることができないままの人たちも少なくないといいます。
『老人漂流社会』の続編でもある、今回の『“助けて”と言えない 孤立する認知症高齢者』では、東京・墨田区の地域包括支援センターに密着。一人暮らしの認知症の高齢者が置かれた、厳しい現実の一端を追っていきます。

墨田区のアパートに住む76歳の女性。30年前に夫と別れて以来、一人暮らしを続けてきました。
その女性のもとを、包括支援センターのケアマネージャーらが訪ねます。認知症の進行を遅らせる薬を飲み忘れていないかどうか確かめさせてもらおうとしますが、強い被害妄想にとらわれてもいるその女性は「結構です」「嫌だ、帰ってもらう」の一点張り。
女性は、食事を十分に摂れなくなって栄養状態が悪い上、ものを片づけられなくなってしまっていました。部屋の天井には、クモの巣が張られたまま。
他人を強く拒絶する時もあれば、フレンドリーに接することもあった女性。ある時は、かつての夫との思い出話を笑顔とともに語り出したりもしました。「(夫から)ギターを習っていた時が一番幸せだった」といい、新婚時代に覚えた曲をギターで弾く女性。しかし、その別れ際には、またケアマネージャーに対して強い拒絶の態度を見せてしまうのでした。
「感情の起伏が激しくて•••」などとインタビューに答えるケアマネージャー
。その向こうには、自室から出てきてアパートの廊下をうろつく女性の姿がありました•••。

一人暮らしではなく、夫妻での二人暮らしであっても、片方が認知症になったことにより孤立するケースも。
73歳の夫と二人暮らしの79歳の妻。40年間駅の売店で働き続け、社交的だった妻でしたが、認知症になってからは他人を極度に避け、家事が思うようにできなくなったことに苛立つようになってからは家事もしなくなりました。夫は、そんな妻の代わりに家事をこなしながら、妻を支え続けていました。
頼る子どももいないという夫妻。ケアマネージャーは妻に介護サービスを受けさせようと説得しますが、妻は「落ち着かないし、なんか駄目」「とにかく(家を)出るのが嫌」とそれを拒否します。夫も、そういう妻を説得することができないでいました。
「もう自分が見るしかないなと思っている。本人が今のままが一番いいと言って聞かないから」という夫。ケアマネージャーも「無理矢理連れていくわけにはいかない。本人やご主人の気持ちも大切にしなければ•••」と、対応の難しさを語るのでした。
しかし、夫は自身が体調を崩しがちになる中で、将来に対する不安を抱いていました。それでも、やはり妻に介護サービスを受けさせることができないまま、一人で見続けようとする夫。
「(東京)オリンピックまで7年、それまで頑張ろうという人もいるけれど•••こういう生活をしている人もいるということを知ってほしい•••」語りながら泣き崩れる夫。その横で「なにも泣くことないじゃない」と無邪気に言う妻•••。

判断力が鈍った認知症高齢者に代わり、親族や弁護士、司法書士による「成年後見人」が、財産管理や介護施設への入所手続きなどを行う「成年後見制度」があります。しかし、その成年後見人だけで、すべてをカバーしきれるわけでもありません。
妻と離婚し、やはり高齢の弟とも離れて一人で暮らす82歳の男性。成年後見人が財産を管理し、年金から月2回、生活費を手渡されていました。かつて、証券会社などからの勧誘を受け、よくわからぬままに未公開株などに出資を続け、仕事でこつこつと貯めた蓄えを失ってしまったことがきっかけでした。
日常の動作には格別問題がないことで、「要介護1」にされていた男性は、それゆえ十分な介護サービスは受けられませんでした。しかし、認知症の進行により、脳梗塞などの持病の薬を飲み忘れるようになっていました。
男性を案じた後見人は、自宅を出て24時間介護を受けられる施設へ移るよう説得しますが、男性は「思い切って(施設に)行けない」「なかなか決心が決まらない」というばかり。かつて家族と共に住み、長年守ってきた自宅から離れたくなかったのです。
ある夜。男性は、かつて家族とともに食事を囲んでいた居間で、一人配食サービスの弁当を食べながら言いました。
「結婚してそのまま、一緒に暮らしていたほうがよかったね•••」
男性には大切にしていたものがありました。以前皆に聞かせていたという、自慢だった歌声を録音したテープでした。男性はそれを聞きながら、歌えなくなってしまった口をかすかに動かすのでした•••。
その2週間後•••男性は心臓発作で倒れ、そのまま帰らぬ人となりました。

最初に取り上げられた76歳の女性。認知症が進行し、食事もまともに摂れなくなっていく中、ケアマネージャーらは女性を病院に連れて行こうとします。しかし女性は「まだ用意ができていない」とそれを拒みます。粘り強い説得の末、ようやく女性は病院へ行くことを承諾したのでした。
検査の結果、女性の認知症は予想以上に深刻で、専門の施設で時間をかけて診ていくことになりました。その2週間後、女性の部屋は引き払われました。
命の危険を見越して取られた、自治体による緊急の措置でした•••。

ある種の軽妙さもあった前夜(23日夜)の番組から一転、今回は実に重く、辛い内容でありました。普通に生きてきたはずの人々の晩年が、こんな状況であっていいのか、との思いがするばかりでした。
国の施策によれば、認知症の人たちの介護を施設から自宅へとシフトしていこうとしていますが、このような状況で本当にいいのか、まだまだやるべきことがあるのではないのか、とあらため強く感じました。
とはいえ、ではどうすべきなのか、ということへの答えもまた、容易には出せないことのように思えます。私たちそれぞれが考えることで、とるべき方策や知恵が集まっていく方向を目指すしかないのではないか、と思ったりもしています。
とても重い問いを投げかけてきた番組でありました。


NHKスペシャル “認知症800万人”時代『母と息子 3000日の介護記録』

2013-11-24 11:07:04 | ドキュメンタリーのお噂
NHKスペシャル “認知症800万人”時代『母と息子 3000日の介護記録』
初回放送=11月23日(土)午後9時00分~10時13分
ディレクター=相田洋ほか
出演=相田洋、新田國夫、和田行男、秋山正子、上野秀樹、三宅民夫


テレビドキュメンタリスト、相田洋(ゆたか)さん。これまで、NHK特集『世界の科学者は予見する 核戦争後の地球』(1984年)や、NHKスペシャル『電子立国日本の自叙伝』(1991年)など、テレビ史に残るような優れた作品を生み出してきた方です。
その相田さん、母親が認知症になってから最期を看取るまで、介護に奮闘する過程の一部始終を、つぶさに映像として記録していました。撮影された映像は50時間にのぼります。
それらの映像から見えてくる現実と課題を、医療や福祉の専門家らが議論して、予備軍を含めて800万人が認知症という時代への処方箋を探っていこうというのが、この番組でした。

相田さんが母親の認知症に気づいたのは1998年のこと。それ以前には、料理好きだったはずの母親だったのに料理を嫌うようになったり、旅行のときに感想を訊いても「お地蔵さんのように」何も答えないことがあったといい、後から考えればそれらが認知症のサインだったのでは、と相田さんは言います。
その話を受けた、介護福祉士の和田行男さんは、「認知症はそのような目に見えることだけではなく、目に見えないところにもサインが現れるので、見えないところも見たほうがいい」とアドバイスします。

認知症になってからも、日常のことはひとまずできるように見えた母親でしたが、料理のときに腕をやけどしたり、腐ったごはんを食べてお腹をこわしたりしてしまいます。
相田さんは、自宅から製氷皿に詰めた「お弁当」を持参。それを冷蔵室で凍らせておき、レンジで解凍して食べるよう母親に指示します。しかし、それもうまくいきませんでした。そこで、母親宅と相田さん宅をテレビ電話でつなぎ、3台のカメラを母親宅の寝床と台所に設置。その映像を見ながら、朝晩2回連絡をとりながら指示を出すようにしたのです。

ある日のこと。母親宅に入った相田さんは、部屋中に漂う異様な臭いに気づきます。見ると、トイレの内と外に、便にまみれた母親の衣類が散らばっていたのです。驚いた相田さんは母親を問い詰めますが、母親は「ほんと?そう?」を繰り返すばかりで、何も覚えていなかったのです。
「何にも覚えてないよ。•••もう人間廃業だよ。もう、頭の中どうなってるのかねえ。ほんと情けないよ。もう涙も出ないよ」
そう言いながら、涙が出ない目を拭う母親•••。わたくしがこの番組の中で、一番切ない思いがしたくだりでした。
この場面について、訪問看護ステーション所長の秋山正子さんは、「認知症だからといって全てがわからなくなるのではない。自分のプライドが損なわれていくことの淋しさや不安を、ふっと訴えたりもする」と言います。
また、医師の上野秀樹さんは、「初期集中支援」の可能性に言及します。これは、まだ認知症が初期の時点で、当人の過去の病歴や、家族がどのように支援に関われるかなどを詳細かつ多角的に聴き取り、当人にしかわからない気持ちをしっかり確認した上で、チームにより支援の方針を決める、というもの。上野さんは、それにより相田さんの母親のサポートも可能だったのではないか、と言います。

認知症が進行していく中、2005年に相田さんは家族ともども母親宅で同居を始めます。それ以来、母親の顔は明るくなり安心しきった様子になった、とデイサービスでやって来る職員に言われるようになったといい、また、相田さんと軽口を言えるようにもなりました。
「そんなに食べようとしないのなら、あの世からお迎えが来るよ、おじいちゃんが」
「もうそこまで来てるよ」
そんな会話が、母親と相田さんの「朝の儀式」になっていた、とか。
認知症の現れ方には濃淡があり、記憶が鮮明なときと、さっき言われたことを思い出せないときとがまだらになっていた、と言います。母親いわく「悪いときには頭が締め付けられたみたい」だ、と。

2008年になると、排便が困難になりました。ベッドに横たわったまま排便した上、手を便まみれにしてしまった母親にパニックとなり、きつい言葉で叱りつける相田さん。その横で淡々と後始末にかかる相田さんの妻。母親は「昨日のうなぎが効いたのかねえ」などと言います。
その場面を受けた訪問看護ステーション所長の秋山さんは、「排泄をするリズムをヘルパーや訪問看護師に相談したり、食べ物に気をつけたりすること」により対処できることを指摘します。残念ながら、相田さんにはそれに関するアドバイスはなかったとか。介護福祉士の和田さんは「医療や介護はシステムではなく、そういうことに関して起こることを予測し、知恵を出すためのもの」と、相田さんに対するサポートのあり方に疑問を投げかけます。
その和田さんが示したのが「小規模多機能型居宅介護」。訪問、施設への通所、そして施設での泊まりを、それぞれの事情に応じてチョイスしたり組み合わせたりするというものです。ただ、現行の保険制度では採算がとれないなどで、認知症保険者のわずか3%しか利用されていないとか。国は、先々はこの割合を増やしていく方針、と。

2010年。食べることが大好きだったはずの99歳の母親は、ついに何も食べられないようになってしまいました。なんとかして口に流動食を与えようとする相田さんでしたが、やがて高熱を発するようになりました。
これについて、医師の新田國夫さんは「これは容体が急変したのではなくて、嚥下障害による誤飲性肺炎で、予測できる範囲」であり、無理に食べさせようとしないほうがよかったと指摘します。
2011年、母親は緊急入院します。病院のベッドで小さく縮こまり、呼びかけにも応答できない状態でしたが、それでも一度だけ、呼びかけに対して返事を返したのでした。そして、同年の8月、母親は亡くなりました。

相田さんは、介護の日々を振り返ってこう語りました。
「人間はこうやって死んでいくんだ、というのを全部見せてくれた。それが、私に残してくれた最大のプレゼント」
番組の最後、相田さんが「忘れられないカット」という場面が映し出されました。相田さんから年齢を訊かれ、96歳であることを確認した母親は、しみじみとした調子でこう言いました。
「96か•••おかげさんで長生きしたねえ」

番組を観る前は、深刻で重い内容を想像していたのですが、相田さんとさまざまな番組で組んできた三宅民夫アナウンサーや、専門家らとのやりとりは思いのほか軽妙なものがあり、時に笑いすら誘われました。何より、母親とユーモラスな会話をしながら、介護に奮闘する相田さんの姿はとても印象的でした。
認知症や介護をめぐる話は、えてして重く深刻なこととして語られがちです。それも間違いなく現実の一端ではありますが、少しでも多くの人たちに関心を共有していただくためにも、ある種の軽妙さを持ったこの番組の語り口は良かったのではないか、と感じました。
同時に、排便をめぐるトラブルや、帯状疱疹の処置を誤ってしまうなどの生々しい状況をも赤裸々に記録した映像や、そこから導き出された教訓や専門家によるアドバイスには、教えられるところも多々ありました。
65歳以上の4人に1人が認知症、という時代にあって、近親者が認知症になるという状況は他人事ではないわけであり、いろいろなことを考えさせてくれる内容でした。やはり、観ておいてよかったと思います。

【書籍】『東北の地から届いた ハートフルなさき編み』 生きがいを持つことのできる生活再建の大切さ

2013-11-19 22:29:13 | 本のお噂

『東北の地から届いた ハートフルなさき編み love for TOHOKU』
野田治美+Tsubomi著、文化出版局編、文化出版局、2013年

宮城県東松島市。日本三景のひとつ、松島の奥に位置し、航空自衛隊のアクロバット飛行隊・ブルーインパルスが在籍する松島基地がある場所としても知られています。
おととしの東日本大震災による地震と津波は、この街にも容赦なく襲いかかり、大きな被害をもたらしました。1000人を越える方々の命が奪われ、10000軒以上の家屋が倒壊したのです。
その東松島市で、仮設住宅などに住む女性たちによって結成された編み物チームがあります。どんな環境でも生命力あふれた顔を出す花のように頑張っていこう、とつけられたチームの名前は「Tsubomi」(つぼみ)。
本書は、そのTsubomiの皆さんによる「裂き編み」によって作られた編み物作品集です。

「裂き編み」とは、家庭や企業で必要とされなくなった洋服や布を、細く裂いたり切ったりしてつなげて編んでいくという手法。そこには、物を大事にすることで循環型社会を目指そう、という思いが込められています。
ブルージーンズから生まれたシャネル風デニムバッグ、チェックのワンピースから生まれたショルダーバッグ、Tシャツから生まれたルームシューズやペットボトル入れ•••などなど。
いずれも、おしゃれで気が利いていて、そして暖かみを感じるような素敵なリメークぶり。余り布も捨てることなく、チャームやコースター、ハンガーアレンジなどの形で活かしています(巻末には、それぞれの作り方を図入りで詳しく説明)。
編み物には詳しくないわたくしでありますが、いくつかの品を暮らしに取り入れてみたくなってきたくらい、それらは作品として実に魅力的でした。

「Tsubomi」プロジェクトを立ち上げたのは、本書の著者のひとりであるデザイナー、野田治美さん。震災後、支援活動に参加して現地の方々と交流する中で、「人としての希望や生きがいが感じられる自立支援の必要性を強く感じ」た、といいます。

「誰もが感じる喜びや生きがいは、自分の存在が認められ、必要とされることで得られます。そして、わずかでも収入という自立へ向けた場があることです。」

こうしてスタートした「Tsubomi」プロジェクト。全く編み物ができない方をはじめとして、技量も年齢もさまざまな人たちが集まってのスタートでしたが、丁寧な物作りが評価され、今では企業や個人からの注文をいただけるようになったとか。何より、集まった人たちが編み物を通して交流し合い、共存することのできる場ができたということは、とても大きな収穫だったのではないか、と思います。
本書に作品を寄せたメンバーの方々も家を失い、中には家族も失った方もおられます。しかし、それぞれの方のコメントからは、「Tsubomi」の活動からささやかながらも生きがいを見出すことができた喜びが伝わってきました。いくつか引いてみます。

「毎日が無気力な生活に。社会から取り残されるのではないだろうかと不安でした。そんな時にこのプロジェクトに参加しました。好きな物作りができ、仲間との交流も楽しく、試行錯誤しながらも定番で作る商品も決まりました。前進あるのみ。前向きに取り組んでいきたいと思っています。」
「部屋で一人、何もしないで考え込んでいるよりも、仕事でも、編み物でも何でも夢中になれるものがほしかった。(中略)編み物をしている時だけ地震のことや津波のことは忘れられて楽しく時間が過ごせました。」

本書を読んでいて、今月(11月)はじめにNHKの『明日へ -支えあおう-』の枠で放送されたドキュメンタリー『東北グランマ 世界へはばたく』を思い出しました。
岩手県陸前高田市の主婦たちによる縫製チーム「東北グランマ」が、スイス人ファッションデザイナーのカズ・フグラーさんと手を組み、自分たちの作ったバッグや小物などの商品をスイスへ売り出していこうと奮闘するさまを追った、まことに痛快なドキュメンタリーでした。それに登場していた「東北グランマ」の方々も、手仕事によって生きがいと誇りを取り戻していこうとしておられました。
手仕事により、生きがいと誇り、そして希望を得られるような支援。その志は、カズ・フグラーさんの「東北グランマ」との連携、野田治美さんによる「Tsubomi」プロジェクト、いずれにも共通しているように感じられました。

あの大震災から2年8ヶ月以上が経ちましたが、被災者にはまだまだ、生活再建もままならない方々も多いという悲しい現実があります。
そんな中、「Tsubomi」プロジェクトのように、一人一人が生きがいを得ることができるような生活支援が、さまざまな分野において広がっていって、それらから東北の新たな産業が生まれていけたら•••と思います。
そして、そこから生み出された産品を少しでも多く購入していくこと。それが、東北から離れた地に住む我々にできるせめてもの支援なのではないか、とも思うのです。

これからも「Tsubomi」がぐんぐんと成長して、大輪の花を咲かせていくことを、願ってやみません。


12月刊行予定文庫新刊、超個人的注目本8冊(プラス、11月刊行分から2冊)

2013-11-14 22:56:46 | 本のお噂
来月12月に刊行予定の文庫新刊の中から、わたくしの興味に引っかかった書目をピックアップしてみたいと思います。•••それにしても、2013年も残すところあと1ヶ月ちょっとしかないのかあ。ついこないだ年が明けたばかりだと思ってたのに、ほんと月日の経つのは早いもんだなあ。そりゃオレも歳とるわなあ、ったくよう。•••って、そんなことはどうでもいいですね。
とにかく、今回もわたくしの興味関心だけでピックアップしたものですので、皆さまのお役に立てるものかどうかは心もとないのですが、少しでも引っかかりのある書目があれば幸いであります。
刊行データのソースは、出版取次会社が書店向けに発行している情報誌『日販速報』11月11日号付録の12月刊行文庫新刊ラインナップ一覧です。発売日は首都圏基準で、地方では1~2日程度のタイムラグがあります。また、発売予定や書名は変更されることもあります。

『アンパンマンの遺書』 (やなせたかし著、岩波現代文庫、17日発売)
せんだって亡くなられたアンパンマンの生みの親、やなせたかしさんが1995年に出した単行本を文庫化。銀座モダンボーイの修業時代から焼け跡からの出発,長かった無名時代•••。画業人生の歩みを振り返るとともに、手塚治虫、永六輔、宮城まり子といった人びととの交流も語ります。

『岩波茂雄と出版文化 近代日本の教養主義』 (村上一郎・竹内洋著、講談社学術文庫、10日発売)
岩波茂雄はいかにして出版社を起こし、出版界に君臨していったのか。その過程で何を利用し、何を切り捨てたのか? 岩波茂雄と岩波書店の歩みを通して、近代日本のアカデミズムと教養主義のあり方を問い直すとともに、文化産業としての出版業を考察した一冊。これはなんだか気になりますね。

『パンの文化史』 (舟田詠子著、講談社学術文庫、10日発売)
講談社学術文庫からもう一冊。世界各地・諸民族・各家庭で多種多様に継承されたパンの姿と歴史と文化を、貴重な写真も交えつつ、膨大な資料と調査に基づいて一望したパンの文化人類学。食文化ものには関心のあるわたくしとしては、これは見逃せない一冊であります。

『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』 (朱川湊人著、光文社文庫、5日発売)
2006年から1年間テレビ放送された『ウルトラマンメビウス』。その脚本を3回分手がけた直木賞作家が、テレビ版を元にしつつ新たなウルトラマン像を小説の形で描き出したという作品。『メビウス』は熱心に観ておりましたが、この小説版はまだ未読でありました。こちらも気になります。

『ケプラー予想 四百年の難問が解けるまで』 (ジョージ・G・スピーロ著、青木薫訳、新潮文庫、25日発売)
「フェルマーの最終定理」に並ぶ超難問といわれていた「ケプラー予想」。それが400年もの歳月をかけて解かれるまでに繰り広げられた、天才数学者たちの栄光と苦闘を描く感動の数学ドラマ。数学はからきしダメダメなわたくしでありますが、数学者たちのドラマにはなんだか興味があります。

『生命40億年全史』上・下 (リチャード・フォーティ著、渡辺政隆訳、草思社文庫、5日発売)
隕石衝突、地殻変動、気候激変、絶滅と進化──。謎とドラマに満ちた壮大な進化劇を巧みな語り口で一気に読ませる生命史。こういうスケール感の大きな内容にはとにかく惹きつけられるものがあります。12月刊行分の中では一番読んでみたい本であります。

『ぼくは本屋のおやじさん』 (早川義夫著、ちくま文庫、10日発売)
つのだ☆ひろ等が所属していたバンド「ジャックス」のリーダーであった著者が、一時引退後に営んでいた本屋での仕事の日々を綴った一冊。多くの書店員にも影響を与えたという名著が、ついに文庫で登場。

『映画を作りながら考えたこと』 (高畑勲著、文春ジブリ文庫、4日発売)
最新作『かぐや姫の物語』の公開を控える高畑勲監督が、1991年に出版した単行本を文庫化。アニメ製作の舞台裏から、アニメ史における貴重な証言などを収めた、高畑作品のサブテキストともなりそうな一冊。

そして、以下の2冊は今月、11月刊行分であります。11月は個人的にはあまりビビっとくる書目がありませんでしたので(あくまでもわたくし個人の興味では、ということであります)、この2冊のみピックアップしておきます。

『雪男は向こうからやって来た』 (角幡唯介著、集英社文庫、11月20日発売)
ヒマラヤ山中に棲むという謎の雪男を探索しようとする捜索隊に誘われた著者。捜索の日々の中で、雪男を探す彼らの奇妙な体験談に引き込まれてゆく。果たして、60日間にわたる捜索行の結末は•••。探検ノンフィクションの旗手が贈る力作。

『馬の世界史』 (本村凌二著、中公文庫、11月22日発売)
古代の戦車から、騎馬遊牧民の世界帝国、アラブ馬の伝説、最強の競走馬まで。人間社会の中でさまざまな役割を負ってきた馬を通して歴史を見つめ直した一冊。これも興味津々であります。