読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

【わしだって絵本を読む】すごくシュールで、ちょっとヘンテコな楽しさにどハマりしてしまった『めんぼうズ』

2022-06-27 19:49:00 | 本のお噂

『めんぼうズ』
かねこまき作、アリス館、2021年


書店での仕事(といっても、外商専業で売場を持たない、特殊な形態の書店ではございますが・・・)を長いこと続けていると、お得意先から受けたご注文によって、それまで知らなかった面白い本の存在を教えていただくことが、少なからずあったりいたします。今回ご紹介する『めんぼうズ』という絵本も、まさにお得意先からのご注文を通して出会うこととなった一冊であります。

洗面台の片隅にある円筒形のケースの中に、きれいに収まっている顔のある綿棒たち。満月の夜、その綿棒たちがケースから抜け出し、列をなして「ぴょんこ ぴょんこ ぴょんこ」と外へ飛び出していく。ほかの家からも同じように、たくさんの綿棒たちが抜け出してきて、一団となって町外れに向かって行進していく。そして湖にたどり着いた綿棒たちは、いっせいに湖の中へ飛びこんでいく。すると・・・。

・・・という、なんともフシギでシュールな楽しさがいっぱいのお話であります。ケースから抜け出していく、顔のある綿棒たちが描かれた表紙だけでも、わたしの気持ちをわしづかみにするのに十分でしたが、意表を突く展開を見せていくお話の面白さに大ウケして、いっぺんでどハマりしてしまいました。読み終わったあともまた本を開き、ニヤニヤしつつ読むことを繰り返したりしております。いやほんと、こういうすごくシュールでちょっとヘンテコなテイスト、好き過ぎですよわたしは。
一本一本に無表情な顔が描かれた綿棒が、夜の闇の中でゾロゾロと動き出していく絵面は、見ようによってはちょいとブキミにも思えてしまいそう。ですが、そこにはどこか飄々とした愛嬌とユーモアが感じられて、みんな一緒になって目的の場所を目指す綿棒たちが、なんだか健気で愛おしく思えてくるのです。
そして、オドロキの展開を見せてくれたあとのラストには、とてもほっこりした気分を味わうことができました。動き出していく綿棒たちを、おっかなびっくりな感じで見ているネコがまた、いい脇役ぶりを見せてくれております。

ユニークな感性あふれるこの『めんぼうズ』によって、はじめてその存在を知ることになった、作者のかねこまきさん。本書に記されているプロフィールによれば、絵画教室で美術を教えるかたわら、ご自身も絵本の創作を学び、2019年に『ちゃのまのおざぶとん』(アリス館)で絵本作家としてデビュー。本作『めんぼうズ』は2作目の絵本だそうで、2016年から制作している彫刻作品を絵本として展開させたもの、とのこと。本書のカバー袖には、その彫刻版「めんぼうズ」の写真も載っております。なかなか、面白いことをなさっておられる方のようであります。
絵本デビュー作である『ちゃのまのおざぶとん』もなんだか面白そう。今後の活躍にも注目したくなる作家さんであります。

寺田寅彦と中谷宇吉郎・・・師弟ふたりの名随筆を、コンパクトで洒落た一冊に仕立てた『どんぐり』

2022-06-26 17:06:00 | 本のお噂

『どんぐり』
寺田寅彦・中谷宇吉郎著、山本善行撰、灯光舎(灯光舎 本のともしび)、2021年


5月の連休を使っての、2年半ぶりの倉敷旅行。そのご報告は、先月(5月)から今月はじめにかけて、当ブログで5回にわたり綴ってまいりました(長ったらしいそのご報告を、最初から最後までお読みいただいた皆さま、本当にありがとうございます)。
その倉敷旅行の初日、昔ながらの町屋が立ち並ぶ本町通りのはずれにある古本屋「蟲(むし)文庫」さんに立ち寄りました(そのときのことは、倉敷旅行のご報告「その2」の冒頭にてお伝えしております)。そこで購入した本の一冊が、今回取り上げる『どんぐり』であります。
身近な現象から地球規模の物理現象までを探究し続けた寺田寅彦と、雪の結晶や人工雪の研究で大きな業績を上げた中谷宇吉郎。科学の世界における師弟関係にあり、ともに名随筆家でもあった2人の作品から3篇を選び、一冊にまとめたものです。撰者である山本善行さんは、京都の古書店「古書善行堂」の店主であり、古本と書物に関するエッセイストでもある方です。

本書の書名にもなっている寺田の作品「どんぐり」は、肺の病のために19歳という若さで亡くなった寺田の最初の妻・夏子と、その忘れ形見である娘の「みつ坊」への思いを綴った、初期の寺田随筆の代表作といえる名篇です。初出は、雑誌『ホトトギス』の明治38年4月号(師であった夏目漱石の『吾輩は猫である』の連載が始まった号でもありました)。
初産をひかえていた年の暮れ、夏子が吐血。しばらくの間、「よいとも悪いともつかぬ」容体が続いたものの、翌年になると少しずつ好転。ある日医者の許可を得た寺田は、夏子を伴い植物園に出かけることに・・・。その植物園へ出かけた日のことを、寺田は思い返します。
出かける前に時間をかけて髪をすき、じれったくなった寺田が「早くしないか」とせき立てると、年がいもなく泣き伏して「一人でどこへでもいらっしゃい」と拗ねたこと。植物園にあった凍った池で遊ぶ小さい女の子を見ながら発した、「あんな女の子がほしいわねえ」という「いつにない」ことば。そして、「おもしろそうに笑いながら」自分のハンカチだけでなく寺田のハンカチまでいっぱいにするくらいのどんぐりを拾ったこと・・・。そんな夏子の姿を綴った文章からは、寺田の愛惜の思いが伝わってきます。
そして夏子が亡くなったあと、六つになった娘の「みつ坊」を同じ植物園に連れて行くと、彼女も夢中になっておもしろそうにどんぐりを拾います。そこに「争われぬ母の面影」を見た寺田が語る、「始めと終わりの悲惨であった母の運命だけは、この子に繰り返させたくないものだ」という切なる思いが、読む者の胸に響いてきます。
寺田の随筆では、どちらかといえば寺田ならではのものの見方や批評精神を、明晰かつこなれた語り口で綴った大正以降の作品群が好みのわたしですが、この「どんぐり」は明治期に書かれた初期の作品の中でも、やはり別格といっていい輝きを持った、哀しくも魅力的な名篇だと思うのです。

本書の後半に置かれているのは、中谷宇吉郎の「『団栗』のことなど」。寺田の「どんぐり」の背景にはどのようなことがあったのかを、寺田の日記や書簡などをもとにしながら丹念に読み解いた作品です。
明治33年の暮れに吐血した夏子でしたが、年明け以降は順調に回復していたことが、寺田の日記からは読み取れます。ところが、ここで「「寺田寅彦」の生涯とその性格とに、重大な影響を残すような事件の発端が起った」ことを中谷は明らかにします。
夏子の病気を極端に恐れた寺田の父親が、夏子を寺田から引き離して療養させるという案を立て、夏子は東京から高知へと移され、孤独な療養生活を余儀なくさせられることとなったのです。のみならず、しばらくして生まれた「みつ坊」こと長女の貞子からも引き離されてしまいました。
さらに寺田自身も肺尖カタルと診断され、また別の土地での転地療養をする羽目となってしまいます。とはいえ、それは「とり立てて病気というほどでもなかったらしく」「気ままな保養をする程度」だったといい、「床に就ききりというのならばまだ諦めもゆくが、この程度の症状であったのに、「肺病」という文字だけのために、引き離されて暮さねばならなかった」と中谷は記します。「肺病」に対する過剰な恐れのために、最愛の家族が引き離されて療養生活を余儀なくさせられる状況・・・それはなにやら、昨今の新型コロナに対する過剰な反応が引き起こした、さまざまな悲喜劇と似ているように思われてなりませんでした。
中谷はさらに、病状が悪化していく中でさらに別の土地への転地療養をかさねることとなった夏子の悲劇や、寺田が「あまりに悲しい二人の生涯に、批判の眼を開」き、家族制度の弊害を論じるようになったこと、そして「どんぐり」の最後で「母の運命は繰り返させたくない」と寺田が望んだ「みつ坊」こと貞子の辿った境遇についても触れていきます。
亡妻に対する愛惜の念と、その忘れ形見である娘への切なる望みを綴った、寺田の「どんぐり」。その背後にあった悲しい事実を中谷の「『団栗』のことなど」で初めて知り、なんとも辛い気持ちになりました。

2つの作品のあいだに配されているのは、寺田の随筆「コーヒー哲学序説」。撰者の山本さんが「まさしくコーヒーブレイク」のために置いたというこの随筆は、亡くなる2年前の昭和8年に発表された晩年の作品です。
子どもの頃、薬用として飲まされた牛乳に入れたコーヒーの香味に心酔した思い出にはじまり、留学や旅行で滞在したヨーロッパ各地でのコーヒーとの出会い、そして銀座の喫茶店へコーヒーを飲みに行ったことといった、自身とコーヒーとの関わりが前半で語られます。
そして後半では、飲むと精神を高揚させる「興奮剤」としてのコーヒーについての話へと移ります。そして、人間の肉体と精神に影響を及ぼす点において、コーヒーは芸術や哲学、宗教とよく似たところがあると指摘した上で、以下のように語るのです。

「芸術でも哲学でも宗教でも、それが人間の人間としての顕在的実践的な活動の原動力としてはたらくときにはじめて現実的の意義があり価値があるのではないかと思うが、そういう意味から言えば自分にとってはマーブルの卓上におかれた一杯のコーヒーは自分のための哲学であり宗教であり芸術であると言ってもいいかもしれない」

寺田ならではの洞察と批評精神、そして文末で見せるさりげないユーモアとがあいまった「コーヒー哲学序説」は、後期の寺田随筆の傑作のひとつであり、わたしのお気に入りの一篇でもあります。

本書『どんぐり』は、撰者である山本さんが企画した「灯光舎 本のともしび」というシリーズの第一弾です。
「読んだあとに誰かに伝えたくなるような随筆、代表作とはまた違った一面が見られる小説、何度も読み返したくなる美しい文章、そのような作品をシンプルな装幀で本読み人に届けたい」(「撰者あとがき」より)という思いから企画されたシリーズ「本のともしび」。その第一弾である『どんぐり』は、70ページほどのコンパクトな内容ながら、とても丁寧で洒落た本作りがなされていて、紙の本を読むことの愉しみと喜びを与えてくれます。
表紙をめくると、シリーズのマークとなっている燭台のイラストが左上にあって、さらにそれをめくると、「ともしび」の部分が切り抜かれていて、そこが書名や著者名が記された扉の色となっている趣向に、にんまりといたしました。



『どんぐり』のあと、田畑修一郎『石ころ路』と中島敦『かめれおん日記』の2冊が「本のともしび」として刊行されております。その2冊も読んでみようかなあ、などと思っております。

『THE MAKING』を(ほぼ)コンプリートで観てみた。 【その9】第96回〜第110回

2022-06-23 23:10:00 | ドキュメンタリーのお噂
さまざまな製品が製造されていく過程を、余分な要素を排したシンプルな構成で辿っていく科学技術教育番組シリーズ『THE MAKING』。300回を越えるそのレギュラー回(+スペシャル版)のうち、現在見ることができるすべての回を観た上で、ごくごく簡単な見どころ紹介と感想を綴っていくという続きもの記事、今回は9回目をお届けいたします。


シリーズの詳しいご説明などは【その1】に譲ることにして、今回は第96回から第110回までを紹介していくことにいたします。サブタイトルに続いて「サイエンスチャンネル」の公式YouTubeチャンネルにアップされている該当回の画面を貼っております。ご覧になる際の参考にでもなれば幸いであります。
諸事情により、現在配信されていない回については、サブタイトルに続き「欠番」と記しておきます。また、現在配信されている回についても、配信元の都合により動画の公開がなされなくなる場合もあるかと思われますので、その節はどうぞご容赦くださいませ。


(96)パン粉ができるまで

パン粉のもとになるパンを焼く方法には2種類あり、ひとつはオーブンで焼く「焙焼(ばいしょう)式」、そしてもうひとつは電気を通して水の分子を振動させることで生じる摩擦熱を利用する「通電式」があるのだとか。チタン製の電極板をつけた焼き箱を使う「通電式」によって焼き上がったパンは、焦げ目のない真っ白な仕上がりに。
焼き上がったあとすぐに真空冷却機で冷却。真空にすると沸点が低くなって水分が早く蒸発し、その気化熱でパンが冷える・・・といったことなど、いろいろと教えられることの多い回でありました。

(97)魔法瓶ができるまで

電気ポット・・・ではなく魔法瓶の製造工程。魔法瓶の内部構造は内瓶と外瓶の二重構造になっていて、その間が真空となっていることで熱を逃さない仕組みになっている上、瓶の内側になされた銀メッキにより、外へ向かう熱が反射して戻る(輻射熱)仕組みになっているとか。中身の温度を保つ「魔法」のような働きは、科学を活かした知恵と技術の賜物、ということがよくわかりました。

(98)パスタができるまで

金型からむにゅっと押し出された生地がマカロニに成形されたり(使用される金型によってさまざまな形のパスタができる)、細長く伸びた棒状となって上から降りてくるスパゲティ生地がカットされ、左から右に向かって流れるように落ちていったり・・・と、けっこう面白い絵面の多い回でございました。

(99)割りばしができるまで

材料となる木材を裁断したり削ったりと、機械が行う作業が多いものの、ところどころで見られる熟練した職人さんたちの活躍にも注目です。
回転するカッターで薄くカットされていく木をきれいに丸めていく職人さんたちも見事なのですが、さらにすごかったのは山のように積み上げられた割りばしを、手分けしながら一本一本チェックしていく工員さんたち(あの山ひとつに何本の割りばしが積み重なってるのか?)。面取り加工の方法によって、主に3つの種類があるということもわかって、勉強になりました。

(100)レコードができるまで

CDや音楽配信が主力となった現在でも、なお根強い人気のあるアナログレコードの製造工程。冒頭で、レコードは人の耳には聞こえない「高い音」が出ることで、CDよりも「音にうるおいがある」などの効果が生まれることが説明されていて、なるほどなあと思いました。製造工程では、しっかりとした手間をかけて作られる、レコードのプレスに使う原盤の製作過程が見どころであります。

(101)マッチができるまで

マッチの製造工程もですが、冒頭でマッチに火がついて燃えていく仕組み、特にマッチの頭薬とマッチ箱の側薬それぞれに配合された薬品類が果たすはたらきが詳しく、わかりやすく解説されていて、とても勉強になりました。点火したあと軸木に燃え移りやすくなるように、パラフィン油を染み込ませるという工夫がされていることも初めて知りました。何の気なしに使っているちっぽけなマッチも、使いやすくするための細かな工夫の賜物なんですねえ。

(102)リコーダーができるまで

材料となる木材を乾燥させるのに、かなり長い時間をかけていることに驚かされました。数年かけて自然乾燥させた原料木を、切り分けたあとさらに2年以上かけて乾燥させるとは。大きさと角度が違う指穴を、それぞれに異なった刃を持つドリルで開けていったり、穴を少しずつ削りながら音を調節したりと、随所に光る熟練の職人技も見応えがありました。息の漏れを電球の光でチェックするのも面白かったな。

(103)かつお節ができるまで

身が崩れないように煮て骨を抜いたカツオを、薪を燃やした熱と煙での「焙乾」と自然乾燥を繰り返すこと4〜6ヶ月。さらに3週間かけてカビつけを重ね、時間をかけて作られるかつお節は、まさしく日本が誇るべき食文化の結晶であることが実感できました。最初の焙乾で生じた破損を、すり身で補修する工程もあるのが驚きでした。

(104)ワイングラスができるまで

パイプ状の吹き竿を坩堝の中に入れ、溶けたガラスをカンと経験に基づいた一定の決まった量で巻きつけ、少しずつ形を整えながら、吹き竿から吹きこむ息で膨らませることで形となっていく・・・。そんなガラス職人の技で生み出されるワイングラスは、まさしく立派な工芸品といってもいいくらいだと思いました。こういうのでワインを飲んだら、さぞかし美味しいだろうなあ。

(105)そろばんができるまで

原料木の木目を見極めながらくり抜いた珠の一個一個や、それを通す軸の一本一本を、細かな手作業できれいに仕上げていく職人技に圧倒されました。とりわけ、珠の高さを揃えるための「口取り」から、ロクロ式の削り器でなされる仕上げ削りまでの過程には見入ってしまいました。
日常において使われなくなったそろばんですが(わたしも高校時代には必需品だったのですが、それ以来もう30年以上触れていません・・・)、こういう技術が失われていくとすればあまりに惜しい、と思うことしきりでありました。

(106)かい中電灯ができるまで

これからの時期は特に、いざという時のために備えておきたい、懐中電灯の製造工程。ポリプロピレンに顔料を混ぜて作られるボディの成形こそ自動化されているものの、基板の組み立てなどでけっこう、作業員さんたちによる細かい手作業が多いところが意外でありました。電球が点滅する仕組みの解説にも「へぇ〜」でありました。

(107)紙コップができるまで

水分が滲まないよう、ラミネート加工によって紙に貼られるポリエチレンの膜の薄さは20ミクロン。この加工がしやすいように、紙の表面に4万ボルトという高電圧をかける加工の名前が「コロナ放電」(笑)。底紙を打ち抜き、それに本体部分を巻きつけて接着、固定させたりする過程を、目にも止まらぬ速さでこなしていく「紙コップ成型機」もスゴいなあ。

(108)とび箱ができるまで

運動が苦手なわたしが子どものときは意外に得意だった(余計な情報ですね。苦笑)、とび箱の製造工程です。横板のほうは、定規で刃の角度を合わせつつ慎重に切っているのに対し、2段目以降の妻板(正面の部分の板)は、縦に並べて一気にカットしているのが面白かったですねえ。

(109)粒ガムができるまで(欠番)

(110)毛布ができるまで

原料となるポリエステルの糸を芯にしながら、それに綿やアクリルの糸を組み合わせて編み込んでいく自動編み機の動きの美しいこと。仕上げ段階で、表面の毛をローラーで毛羽立たせたり寝かせたり・・・を何度も繰り返すことで、毛布の柔らかな手触りが生まれるんだなあ。糸をきれいに揃えて巻き取る工程を「整経」ということも、これで覚えました。


これまでご紹介した回については、以下のページにリンク集と内容のもくじをまとめておきました。新しくアップした内容を追加しながら更新していきますので、気になる回をお探しになるときにお役立ていただければ幸いであります。

「『THE MAKING』を(ほぼ)コンプリートで観てみた。」 全記事リンク集&内容もくじ

【わしだって絵本を読む】 意表を突く見立てとミニチュアが生み出す、シュールでどこかリアルな世界が楽しい『くみたて』

2022-06-19 23:22:00 | 本のお噂

『くみたて』
田中達也作、福音館書店(日本傑作絵本シリーズ)、2022年


日常生活でお馴染みのモノとミニチュアを組み合わせ、アッと驚くような「見立て」による風景ジオラマ世界を創り上げる、ミニチュア写真家&見立て作家の田中達也さん。
国内外での展覧会を多数開催するほか、2017年に放送されたNHK連続テレビ小説『ひよっこ』のタイトルバックを手がけるなどの活躍で多くの人びとを魅了し、作品をまとめた写真集も何冊か出版。350万人を超えるフォロワーを持つInstagramのアカウントでも、毎日のように作品を発表し続けておられます。その田中さんがはじめて出した絵本が、この『くみたて』です。

ミニチュアで作られた、揃いのつなぎを身につけた4人の人たちが、分解された洗濯ばさみを組み立てていきます。完成すると、はさみを繋ぎ止める金属のリングがブランコになっていて、女の子が楽しそうに遊んでいます。その前には、順番を待っている子どもたちがズラッと並んでいて、「わたしもー!」「次はぼくねー!」みたいな声が聞こえてきそう。そんな様子を、どこか満足げに眺めているつなぎの4人組・・・。
本書『くみたて』はこんな具合に、分解された身近なモノを組み立てながら、意表を突いた「見立て」によるさまざまなジオラマ世界を展開させていきます。タイトルの『くみたて』には、「組み立て」と「見立て」という、2つの意味が掛け合わされているというわけです。

身近にあるモノを意外な存在に変身させる、田中さんの「見立て」のセンスはまことに素晴らしく、驚きの連続でありました。ありふれていて何の気もなく使っているテープカッターが、リゾートホテルのプールの飛び込み台や立食式のレストランに生まれ変わったり、リコーダーや鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)などの楽器が組み合わさって、楽しそうなテーマパークが完成したり・・・。
日常でお馴染みのモノが、スケールの大きな風景へと組み込まれることによって生まれる驚きとシュールさ、そして軽やかなユーモアにあふれた世界が、ここにはあります。しまいには、あっと驚くようなモノまでが「見立て」の対象となっていて、「やるなあ」と唸らされました。
そんな「見立て」世界の楽しさを引き立ててくれるのが、田中さんの高度なミニチュア制作の技術です。それぞれの場面に登場する人物たちのフィギュアや、彼ら彼女らが使うさまざまな道具類、木々などのミニチュアがしっかりと作られ、巧みに配置されることで、シュールでありながらもどこかリアル感もある、田中さん独特の世界が展開されています。

もともと、ミニチュアやジオラマ的なものが好きなわたしとしては、実に楽しい一冊でありました。同時に、ああそういえばオレも子どもの頃、いろんなモノを何かに見立てて遊んでたなあ・・・なんてことを思い出したりして、ちょっと童心に戻ったような気分も味わえました。
本書のカバーの袖部分には、登場したつなぎの「くみたて」スタッフたちの紙製フィギュア8人分が印刷されていて、「きりとって、つかってね」と記されております(その下には、インスタで、読者による「見立て」写真を募集する告知も)。

これを見て、オレも何かの身近なモノや手持ちのミニカーと組み合わせて「見立て」遊びでもやってみようかなあ・・・などと一瞬思った50ウン歳のわたしでありました。

『THE MAKING』を(ほぼ)コンプリートで観てみた。 【その8】第81回〜第95回

2022-06-17 23:48:00 | ドキュメンタリーのお噂
さまざまな製品が製造されていく過程を、余分な要素を排したシンプルな構成で辿っていく科学技術教育番組シリーズ『THE MAKING』。その全317回(+スペシャル版)のうち、現在見ることができるすべての回を観た上で、ごくごく簡単な見どころ紹介と感想を綴っていくという続きもの記事、今回は8回目をお届けいたします。


シリーズの詳しいご説明などは【その1】に譲ることにして、今回は第81回から第95回までを紹介していくことにいたします。サブタイトルに続いて「サイエンスチャンネル」の公式YouTubeチャンネルにアップされている該当回の画面を貼っております。ご覧になる際の参考にでもなれば幸いであります。
諸事情により、現在配信されていない回については、サブタイトルに続き「欠番」と記しておきます。また、現在配信されている回についても、配信元の都合により動画の公開がなされなくなる場合もあるかと思われますので、その節はどうぞご容赦くださいませ。

なお、およそ8年ぶりとなるシリーズの最新作が、本日(6月18日)「サイエンスチャンネル」の公式サイト、およびYouTubeチャンネルにてめでたく公開されました(第318回「ミルクレープができるまで」)。どうやらこの一回だけでなく、今後も継続して製作されるようですので、それらがまとまったらここでも紹介したいと考えております。


(81)鍵盤ハーモニカができるまで

小学校のとき「ピアニカ」という名前で親しんでいた懐かしいアイテム、鍵盤ハーモニカ(懐かしいとはいっても、わたしはまるっきり演奏するのはヘタでしたけど)。外見こそ鍵盤がついているものの、内部構造や音を出す原理(「リード」という金属でできた小さな弁が鳴ることによって音を出す)は名称どおりにハーモニカとまったく同じであることが、この動画でよくわかりました。まさしく、「ピアノのようなハーモニカ」ってわけなんだなあ。リード弁が正しく鳴るかどうかを検査するくだりは賑やかでいいねえ。

(82)グミキャンディーができるまで

ゼラチンをベースとしたシロップから、グミの独特な食感が生み出されていく過程。型に直接、原液を流しこんで成型するかと思いきや、型によってプレスされて固められたスターチ(粉)の窪みにシロップを注ぎこむことによって、キャンディの形に成形するんだねえ。流しこんだシロップを冷却・乾燥させるのには24〜48時間と、意外に時間がかかるんですねえ。

(83)釣竿(ロッド)ができるまで

カーボンシートにアイロンで熱を加えて芯に固定して仮止めしたり、「ガイド」と呼ばれる部品を糸で巻いて固定するなど、意外と細かな手作業が多い釣竿の製造工程。穴を開けたゴムに釣竿を突き通して行う塗装法の名称が「シゴキゴム」というのもなかなかスゴいですな(この動画のコメント欄にも、それに反応するものが多く見られて笑えます)。

(84)卓球ラケットができるまで

材料となる木材の質(木目が均一であるかどうか)によってクラス分けがなされるということを、これで初めて知りました。ラケットの側面をきれいに削って仕上げをする機械の名前が「ナライサンダー」という、なにかのヒーローみたいなネーミングなのがイイねえ。

(85)メガネフレームができるまで

わたしも日々お世話になっているメガネフレームの製造工程(撮影地はもちろん、メガネフレームの特産地として有名な福井県鯖江市)。細かな部品を精密な技術で加工する工程の中で、とりわけ金型と電極の間で放電を繰り返し、金属を溶かしながらの金型を作る放電加工機や、コンピュータに入力された形状通りにチタンを巧みに折り曲げて裁断する、リム成形のくだりには見入りました。

(86)野球グラブができるまで

材料となる牛革を、高圧の水による「ウォーターカッター」で裁断するということを知って驚きました。牛革は繊維が複雑なため、ナイフなどよりも高圧の水のほうが素早くきれいに裁断できるとか。いやー、このシリーズはほんと、勉強になります。同じく裁断のとき、それぞれのパーツを皮の大きさに合わせて配置して、牛革をムダなく使うという工夫もいいですねえ。

(87)手袋ができるまで

寒い時期にはまことに重宝する手袋の製造過程。染色に使う染料の計算・調合から糸の染色、コンピュータのデータをもとにした自動編み上げに至るまで、かなりの部分が機械化されている毛織り手袋。それに対して、革の裁断からミシンを駆使しての丁寧な編み上げなど、ほとんどを手作業で行っている革手袋。なかなか対照的な製造風景でありました。

(88)ボウリングの球ができるまで

球の中心に入れる核(ウェイトブロック)の形状によって、球の重心や曲がりかたが違ってきたり、曲がりかたに個性を出すこともできるということを、これを見てはじめて知りました。また、そのウェイトブロックを包み込む「中球」の樹脂の種類によって、球の重さが決まるのだとか。精度を高めるために、さまざまな調整やテストの数々が行われていることにも感心させられます。

(89)金属バットができるまで

外径自体はおんなじでも、打撃部分は厚く、握り(グリップ)の部分は薄くなるように、原材料のアルミパイプを成型するということを、これで初めて知りました。その違いを出すための肉厚調整や、丈夫さを生み出す熱処理工程など、一見シンプルな金属バットにも独自の工夫がされていることもよくわかりました。

(90)硬式野球ボールができるまで

芯となる丸いゴムに、ムラなく均一に糸(羊毛)を自動で巻いていく機械の動きに、まず驚かされました。裁断したあと、接着剤を塗って乾燥させた革をアームでつかんで芯に包み込む機械の動きもまた見事。でも、自動化できない縫い合わせ工程はひとつひとつが手作業。108ヶ所もの孔に、しかも革によって糸を締める力を変えながら(牛が育った場所などで、革の質がそれぞれ違うため)縫い合わせていく方々の根気と手技は、さらにお見事なのでありました。

(91)しょう油ができるまで

しょう油の発祥地といわれる、和歌山県湯浅町での伝統的なしょう油造りの現場。長いあいだ使いこまれた桶が並んだ仕込み蔵で、約1年半かけて発酵、熟成させて醸し出されるしょう油が美味しそうです。とりわけ、熱処理をせずに麹菌や酵母を生かす「濁り醤」(にごりひしお)は色合いからしていかにもコクがありそう。一度賞味してみたいものですねえ。

(92)プラモデルができるまで

大手プラモデルメーカー、ハセガワでの製造風景。コンピュータを使って行われる設計では、一部分を誇張することによって本物らしく見えるようにするのがポイント、なのだとか。
でもこの回で一番楽しいのは、現場で働く皆さんの姿そのもの。資料を前にした企画会議の場に参加した人たちの笑顔混じりの表情といい、パッケージ用の完成モデルを組み立てる方の姿といい、仕事でありながらも実に楽しそうで、見ていて気持ちが和みますねえ。金型を手作業で磨き上げる係の男性のヘアスタイルも、バッチリ磨きがかかっていて最高ですねえ。

(93)電球ができるまで

部品の製造から梱包に至るまで、まったく人を介さず流れるようにこなしていく、製造ラインの機械の巧みな動きがまことに圧巻でした。とりわけ、加熱して口の部分を広げたガラスチューブに導入線やガラス排気管を挿入し、さらにワイヤーやフィラメントをつけていく一連の動きには感嘆するばかり。電極をつくって塗料を引きつけることで、ムラなく均一な塗装ができる「静電塗装」という塗装法についても勉強になりました。


(94)スピーカができるまで(欠番)


(95)ビデオテープができるまで

今ではすっかり過去のものとなってしまったビデオテープの、ある意味では貴重な製造工程の記録であります。中身の磁気テープって、先に外側のカセットを組み立てた後で巻きこんでいたんだねえ。細かい部品を正確に配置していく機械の動きもなかなかのものでした。製造工程を撮影しているスタッフが映っている珍しい回でもあります。


これまでご紹介した回については、以下のページにリンク集と内容のもくじをまとめておきました。以後、新しくアップした内容を追加しながら更新していきますので、気になる回をお探しになるときにお役立ていただければ幸いであります。