読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

第28回宮崎映画祭観覧記(後篇)塚本晋也、三宅唱、深田隆之・・・日本映画の俊才3監督、それぞれの個性を楽しむ

2023-01-22 21:22:00 | 映画のお噂
第28回宮崎映画祭の観覧記、後篇であります。1月15日(日曜日)は、朝から4作品を立て続けに鑑賞してまいりました。
まず1本目は、前日から続いていた塚本晋也監督の特集上映のラストを飾った『鉄男』であります。


『鉄男』(1989年 日本)
監督・製作・脚本=塚本晋也
撮影=塚本晋也、藤原京
音楽=石川忠
出演=田口トモロヲ、藤原京、叶岡伸、塚本晋也、石橋蓮司

平凡なサラリーマンである「男」は、ある朝自分の頬に奇妙な金属片が生えているのに気づく。その日を境に、「男」の身体は少しずつ金属によって浸食されていく。すべては、自分の運転する車に轢かれた「やつ」の仕業であることを知った「男」は、廃工場で「やつ」との壮絶な戦いに身を投じていく・・・。
身体が徐々に金属によって侵食されていく男の恐怖を描き、海外からも高く評価された、塚本監督の出世作にして代表作です。昨日上映された塚本監督の前作『電柱小僧の冒険』にも顔を出していた田口トモロヲさんが、身体が鉄になっていく主人公を熱演しているほか、石橋蓮司さんも謎の浮浪者役で登場しています。
(ちなみに、今回の映画祭のメインビジュアルのモチーフも『鉄男』であります)
今回、かなり久しぶりに観たのですが、強烈にしてグロテスクでありながらも、独特の美学も感じられる映像の迫力に、あらためて圧倒されっぱなしでした。身体が鉄の塊へと変貌した主人公と、彼を鉄へと変えていく「やつ」(演じているのは塚本監督ご自身)との戦いの果てに迎える驚愕のラストには、なんだか妙な爽快感すら覚えました。やはり人間の肉体と金属(あるいはテクノロジー)との融合をテーマとした作品である、デイヴィッド・クローネンバーグ監督の『ヴィデオドローム』(1983年)とも比肩しうる傑作だと思います。
終映後のトークショーでは、音楽的な側面から本作の面白さが語られました。なるほど、本作の疾走感とパンクな感覚は、たしかにロックミュージックとも相性が良さそうであります。

2本目は、若き俊英である深田隆之監督の『ナナメのろうか』。この回も、深田監督をお招きしてのトークショーがありました。

『ナナメのろうか』(2022年 日本)
監督・脚本=深田隆之
撮影=山田遼
音楽=本田真之
出演=吉見茉莉奈、笠島智

リノベーションする祖母の家の整理にやってきた二人の姉妹。家の中から見つかったおもちゃを手に、童心に帰って遊びに興じたりしていた二人だったが、ふとしたことをきっかけに、二人の間には不穏な影が差していく・・・。
上映時間44分という中篇ですが、一見仲が良いように見えながらも、それぞれがどこか相手に対して含むところがあるという姉妹の微妙な心理が、演じている二人の役者さんの好演と相まって巧みに描写されておりました。そんな二人の心の動きが、映画の雰囲気をガラリと変えてしまうという趣向も面白いものでした。モノクロのスタンダード画面という、古い時代の映画を彷彿とさせるフォーマットで捉えられた映像にも、印象的なカットがさまざまに散りばめられておりました。
深田監督のことは初めて知りましたが、本作によって才能の煌めきを十分感じることができました。上映後のトークショーで、まだ次回作の予定はない、とおっしゃっていましたが、これからさらに活躍してくれることを願いたいところです。

3本目と4本目は、公開中の最新作『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)が、毎日映画コンクールで日本映画大賞や監督賞を含む5冠に輝くなど、注目度がうなぎ登りになっている三宅唱監督の特集上映でした。三宅監督の作品も、今回初めての鑑賞であります。

『やくたたず』(2010年 日本)
監督・脚本・撮影=三宅唱
製作=間瀬英一郎、三宅唱
出演=柴田貴哉、玉井英棋、山段智昭、櫛野剛一、足立智充、南利雄、片方一予、須田紗妃

真冬の札幌。高校卒業を間近にした3人の男子高校生は、先輩が務めるセキュリティ設備の会社に出入りすることに。先輩らの手ほどきで車の運転を覚え、仕事も順調に進んでいくかと思われたのだったが・・・。卒業を控えた3人の主人公の不安と焦燥感を、三宅監督の出身地である北海道を舞台に描いた作品で、三宅監督の長篇デビュー作でもあります。
3人の主人公を軸にした青春映画ではありますが、彼らを取り巻く人びととの関係性がいまいち見えにくかったこともあり、いささか作品に入り込めないところがありました。上映後の三宅監督を迎えてのトークショーによれば、当初の脚本ではそれぞれの登場人物(いささか謎めいた雰囲気をまとった、セキュリティ設備会社の社長や、そこに出入りする若い女性といった人たち)をもっと掘り下げて描くはずだったが、撮りきれないということで変更することになった・・・とのことで、もしそれらが撮れていればかなり面白い映画となったのでは、と惜しまれます。
ですが、主人公たちの心象風景を映すかのような、モノクロによる冬の雪景色の映像は美しく、印象に残るものでありました。

『THE COCKPIT』(2014年 日本)
監督=三宅唱
撮影=鈴木淳哉、三宅唱
出演=OMSB、Bim、Hi’Spec、VaVa、Heiyuu

三宅唱監督の特集、2本目は『THE COCKPIT』。どこかの集合住宅の一室に集まったヒップホップのアーティストたちが、試行錯誤しながらひとつの曲をつくり上げるまでを捉えたドキュメンタリー映画。こちらはけっこう楽しめました。
ヒップホップのことにはほとんど無知なわたしですが、ときおり冗談を飛ばしたりふざけ合ったりしながらも(手書きのボードゲームのようなモノで、曲の方向性を決めようとする場面は傑作)、自分の納得のいく曲を生み出すために、ああでもないこうでもないと苦心する姿には、とても共感できるものがありました。
中でも目を見張ったのが、後半のレコーディング場面です。本作に登場するアーティストの一人である「OMSB」(オムスビ)が、ヒップホップならではの長くて饒舌なリリック(歌詞)を、何度も何度も失敗を重ねながらも見事に歌い上げたくだりには、不思議な感動すら覚えました。
ものをつくることの楽しさと喜びに満ちた、実に素敵な一本でありました。

今回の宮崎映画祭で鑑賞した作品は、全部で7本。ほかにも、ジョン・フォード監督の3作品(とりわけ『周遊する蒸気船』)や台湾のホラー映画『怪怪怪怪物!』、さらに昨年逝去された青山真治監督の『EUREKA ユリイカ』なども観たかったのですが、時間が取れなかったのは残念でありました。
とはいえ、塚本晋也監督に深田隆之監督、そして三宅唱監督と、それぞれに個性のある3人の俊才監督の作品をまとめて観るのは刺激的でしたし、映画の見方を拡げてくれました。そのような得難い経験ができるのも、宮崎映画祭の功徳というものでしょう。
次回の宮崎映画祭を、また楽しみに待つことにしたいと思います。

第28回宮崎映画祭観覧記(前篇)塚本晋也監督のパワフルな映像世界を堪能

2023-01-15 21:17:00 | 映画のお噂
第28回目となる宮崎映画祭が、宮崎市中心部にある宮崎キネマ館を会場に1月13日から7日間にわたって開催されています。
第28回宮崎映画祭ホームページ→ http://www.bunkahonpo.or.jp/mff/

今回上映されているのは15作品。以下、その作品名を列記しておきます。

『電柱小僧の冒険』(塚本晋也監督、1987年)
『鉄男』(塚本晋也監督、1989年)
『六月の蛇』(塚本晋也監督、2002年)
『野火』(塚本晋也監督、2014年)
『斬、』(塚本晋也監督、2018年)
『EUREKA ユリイカ』(青山真治監督、2000年)
『やくたたず』(三宅唱監督、2010年)
『THE COCKPIT』(三宅唱監督、2014年)
『ナナメのろうか』(深田隆之監督、2022年)
『ドクター・ブル』(ジョン・フォード監督、1933年)
『プリースト判事』(ジョン・フォード監督、1934年)
『周遊する蒸気船』(ジョン・フォード監督、1935年)
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(ジム・ジャームッシュ監督、1984年)
『怪怪怪怪物!』(ギデンズ・コー監督、2017年)
『音楽』(岩井澤健治監督、2019年)

このうちわたしは、14日の土曜日から翌日の日曜日にかけて7作品を観賞いたしました。これから2回にわけて、そのご報告をしたいと存じます。
まずは14日。この日の午後からのプログラムは、鬼才・塚本晋也監督をお迎えしての特集上映ということで、3本立て続けに観賞。塚本監督のパワフルな映像世界を堪能いたしました。

(塚本監督のお写真は、トークショー終了後の“撮影タイム”のときに撮らせていただきました)

『野火』(2014年 日本)
監督・製作・脚本・撮影=塚本晋也
原作=大岡昇平
音楽=石川忠
出演=塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作、中村優子

太平洋戦争末期、フィリピン戦線での極限状況をテーマにした大岡昇平の名作小説を映画化した作品です。高校のときに原作を読んで以来、ずっと映画化を考えていたという塚本監督。それだけに、ズシリとした見応えのある入魂の一作に仕上がっておりました。
とりわけ圧倒されたのが、日本兵たちが敵の攻撃によってバタバタと死んでいく作品中盤のシークエンスでした。兵士たちが手足を吹き飛ばされ、頭部を破壊され、内臓をえぐられ、単なる肉塊と化していくさまがリアルに描き出されていて、まことに凄絶極まるものがありました。スティーヴン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(1998年)の冒頭20分も凄絶なものでしたが、本作はそれを凌駕しております。
出演陣の演技も圧巻でした。主人公の田村一等兵役の塚本監督ご自身の演技は、勇ましさやきれいごとなど一切の意味を持たない、戦場の残酷さと狂気に直面することの恐怖を、ダイレクトに感じることができました。また、狡猾で油断ならない兵士を演じた、リリー・フランキーさんの鬼気迫る演技も素晴らしいものでした。
上映後のトークショーで塚本監督がおっしゃっていた、「戦争という状況下では権力を持つ者だけでなく、普通の人たちも残虐になる」という話には、とても頷けるものがありました。戦争はもちろんのこと、ここ3年にわたるコロナヒステリー禍においてもまた、「普通の人」が冷酷かつ卑劣な振る舞いに及ぶことが少なからずありましたから。戦争に限らず、異常な状況のもとでは人間は簡単に狂ってしまうということを、わたしたちはもっと心して受け止めなければならないのではないか・・・と思うのです。
さまざまな意味で、まさしく「いま」観るべき一本という気がいたしました。

『斬、』(2018年 日本)
監督・製作・脚本・撮影=塚本晋也
音楽=石川忠
出演=池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也

風雲急を告げる幕末。若き浪人・杢之進は農家の手伝いをしながら、農家の息子である市助に剣の稽古をつける日々を過ごしていた。ある日、村にやってきた剣豪・澤村は杢之進の剣の腕前に惚れ込み、江戸を守るための集団の一員となって戦わないかと誘う。誘いを受けて江戸に立とうとする杢之進であったが、出立の日になって急に体調を崩して寝込んでしまう。実は杢之進はまだ一度も人を斬ったことがなく、そのことへの葛藤から体調を崩したのだった・・・。
侍でありながら、人を斬ることができずに苦悩する主人公を通して、「人を斬り殺す」ことの意味と重みを問うた、塚本監督初の時代劇映画であります。苦悩する主人公の侍・杢之進を演じた池松壮亮さん、主人公と惹かれ合う村娘を演じた蒼井優さん、そして主人公とは対照的に、必要とあらば人を斬ることを躊躇わない剣豪を演じた塚本監督ご自身と、本作もまた演技陣に魅せられました。
本作を観ていて唸らされたのは、「刀」の持つ質感のリアルな表現です。視覚的な面はもちろんのこと、刀と鞘が擦れあう時の音もしっかりと表現されていて、そういった刀の質感の表現が、作品のテーマをより際立たせていたように思いました。

『電柱小僧の冒険』(1987年)
監督・製作・脚本・撮影=塚本晋也
音楽=ばちかぶり
出演=仙波成明、叶岡伸、藤原京、田口トモロヲ、塚本晋也

背中に電柱が生えている少年がタイムスリップして、世界の危機と立ち向かうハメになってしまうさまを描いた、塚本監督の自主映画時代の短篇ファンタジー映画です。1988年のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワードのグランプリに輝き、その後のキャリアを開くきっかけとなった作品でもあります。
8ミリフィルムの粗い映像や、手作り感たっぷりの特殊効果に微笑ましさも感じるものの、それらが醸し出すキッチュな楽しさに加えて、出世作となった『鉄男』(1989年)とも共通するような、人間と「もの」との融合といった要素や、疾走感のある映像表現に目を見張りました。その『鉄男』で主演をつとめることになる田口トモロヲさんも顔を出しているほか、田口さんが属していたバンド「ばちかぶり」が音楽を手がけているのも、いかにも80年代っていう感じでいいですねえ。

                             (後篇につづく)

【きまぐれ名画座スペシャル】閑古堂の年またぎ映画祭(その3) 『2001年宇宙の旅』『2010年』

2023-01-02 15:50:00 | 映画のお噂

年またぎ映画祭6本目『2001年宇宙の旅』2001 A SPACE ODYSSEY(1968年 イギリス・アメリカ)
監督・製作=スタンリー・キューブリック
脚本=スタンリー・キューブリック、アーサー・C・クラーク
撮影=ジェフリー・アンスワース、ジョン・オルコット
音楽家アラム・ハチャトゥリアン、ジェルジュ・リゲティ、ヨハン・シュトラウス、リヒャルト・シュトラウス
出演=キア・デュリア、ゲイリー・ロックウッド、ウィリアム・シルベスター、ダニエル・リクター、ダグラス・レイン
Blu-ray発売元=ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

言わずと知れた、スタンリー・キューブリック監督によるSF映画史、いや世界映画史に(まさに作中の「モノリス」のごとく)屹立する金字塔的作品であります。
のちに『スター・ウォーズ』シリーズのチューバッカを手がける、スチュアート・フリーボーンによる冒頭の猿人のメイクといい、『未知との遭遇』(1977年)や『ブレードランナー』(1982年)などのVFXで知られるダグラス・トランブルらが手がけた、宇宙空間やラストの光の奔流を表現する視覚効果といい、すべてが50年前とは思えない完成度で驚かされます。
とりわけ、ヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」の旋律に乗せて、漆黒の宇宙空間を進む宇宙船や、ゆったりと回転する宇宙ステーションを捉えた映像のリアルさと素晴らしさは、CG全盛の現在においてもまったく色褪せていません。まだまだ技術的な制約も大きかったであろうことを思えば、視覚効果スタッフの創意工夫につくづく感心させられます。
説明や物語性を排除した本作の語り口は、たしかに観念的でとっつきにくいものがありますが、そのぶん観る側がそれぞれに想像し、考えを巡らせることができます。そのことで本作は今もまったく古びることなく、評価され続けているように思えます。
3年におよぶコロナ莫迦騒ぎの混乱ぶりや、いまだ終わる気配もないウクライナ戦争といった、現在の人類の愚行の数々を思うにつけ、映画のラストに登場した「スターチャイルド」のように、人類が真の意味で「進化」できるまで、まだまだ道は遠いと言わざるを得ないようで・・・。


年またぎ映画祭7本目『2010年』2010(1984年 アメリカ)
監督・脚本・製作・撮影=ピーター・ハイアムズ
原作=アーサー・C・クラーク
音楽=デイヴィッド・シャイア
出演=ロイ・シャイダー、ジョン・リスゴー、ボブ・バラバン、ヘレン・ミレン、キア・デュリア、ダグラス・レイン
Blu-ray発売元=ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

前作『2001年宇宙の旅』から9年後。木星の上を漂い続けるディスカバリー号をめぐる事件と、黒石板「モノリス」をめぐる謎の解明に向かう米ソ両国の合同調査隊が遭遇するものは・・・。
16年後に製作された『2001年〜』の続篇で、アクションからSFまで幅広くこなす職人監督ピーター・ハイアムズが、監督のみならず脚本や製作、撮影までをこなして作り上げた力作であります。原作者であるアーサー・C・クラークとは、インターネット出現前のパソコン通信を利用しながら意見交換を行い、脚本をまとめ上げました。
映画史上の傑作として神格化されている前作と何かにつけては比較され、低い評価を受けている感がありますが、前作の繰り返しになるようなことを避け、誰もが楽しめるしっかりした娯楽映画としてまとめ上げたハイアムズ監督の手腕は、もっと肯定的に評価されてもいいように思います。『スター・ウォーズ』旧3部作(1977〜1983年)や『ゴーストバスターズ』(1984年)などにも関わったリチャード・エドランドによるVFXもなかなかいい出来であります。
本作における米ソ両国は、中米をめぐって交戦寸前の緊張状態にあるという設定で、木星に向かう合同調査隊の関係も良好とは言えないのですが、物語が進むにつれて両者の結束が強まり、最後には素晴らしい奇跡が起こります。その展開はたしかに、あまりにも理想主義的に過ぎるかもしれません。
とはいえ、ソビエトの消滅後にできたロシアによって引き起こされた、いまだ続くウクライナ戦争のことを思えば、この映画のような「すばらしいこと」が現実にも起こってくれればなあ・・・と願いたくなったのでありました。


【きまぐれ名画座スペシャル】閑古堂の年またぎ映画祭(その2) 『ライトスタッフ』『ミッドナイト・ラン』

2023-01-01 11:56:00 | 映画のお噂

年またぎ映画祭4本目『ライトスタッフ』THE RIGHT STUFF(1983年 アメリカ)
監督・脚本=フィリップ・カウフマン
製作=アーウィン・ウィンクラー、ロバート・チャートフ
製作総指揮=ジェームズ・D・ブルベイカー
原作=トム・ウルフ
撮影=キャレブ・デシャネル
音楽=ビル・コンティ
出演=サム・シェパード、スコット・グレン、エド・ハリス、デニス・クエイド、フレッド・ウォード、バーバラ・ハーシー、キム・スタンリー、ヴェロニカ・カートライト
Blu-ray発売元=ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント


アメリカ初の有人宇宙飛行プロジェクト「マーキュリー計画」に抜擢された7人の宇宙飛行士たちと彼らの妻たち、そして音速の壁を超えるために孤独な挑戦を続けた航空機パイロットの姿を描いた、フィリップ・カウフマン監督入魂の3時間超におよぶ大作ドラマです。
原作となったのは、トム・ウルフによるドキュメンタリー小説『ザ・ライト・スタッフ』。プロデューサーは『ロッキー』シリーズを生み出したロバート・チャートフとアーウィン・ウィンクラーのコンビ。

実は今回初めて鑑賞したのですが、いやもう素晴らしいの一言!
国家の重圧を背負いながらも、徐々に結束を強めていく7人の宇宙飛行士たち、孤独な挑戦を続けるチャック・イェーガー、それぞれ見応えがある双方のドラマが交差することで、この上ない高揚感と感動を生み出しています。本作でアカデミー作曲賞を受賞したビル・コンティ(こちらも『ロッキー』シリーズの音楽で有名)の音楽も最高で、高揚感と感動をいやが上にも高めてくれます。一方で、男たちのドラマに隠れがちな宇宙飛行士たちとパイロットの妻たちの葛藤のドラマもしっかり描かれていて、物語に広がりを与えています。

登場人物でとりわけ印象的なのが、サム・シェパードが演じる初めて音速の壁を超えた男、チャック・イェーガー。宇宙開発の喧騒に背を向け、孤独な挑戦を続けながらも、同じように命をかけた挑戦に臨む宇宙飛行士たちへのリスペクトを示す姿が本当にカッコいいのです。
宇宙飛行士役も、スコット・グレンやデニス・クエイドなどといった個性豊かな俳優揃い。その中の一人であるジョン・グレン役のエド・ハリスは、やはり宇宙飛行がテーマである『アポロ13』(1995年)や『ゼロ・グラビティ』(2013年)にも出たりしております。またランス・ヘンリクセンは『エイリアン2』(1986年)のアンドロイド、ビショップ役でも有名ですね。
そのほかにも、ガス・グリソム役が『トレマーズ』(1990年)のフレッド・ウォード、その妻ベティ役が『エイリアン』(1979年)のヴェロニカ・カートライト、またチョイ役ながら宇宙飛行士のリクルーター役で『ザ・フライ』(1986年)や『ジュラシック・パーク』(1993年)などのジェフ・ゴールドブラムが出ていたりと、SF映画好きにはたまらないキャスティングも魅力なのであります。

ライトスタッフ(正しい資質)を活かして、未知への挑戦に向かうことの大切さを讃える本作は、観るものに感動と勇気を与えてくれます。

年またぎ映画祭5本目『ミッドナイト・ラン』Midnight Run(1988年 アメリカ)
監督・製作=マーティン・ブレスト
製作総指揮=ウィリアム・S・ギルモア
脚本=ジョージ・ギャロ
撮影=ドナルド・ソーリン
音楽=ダニー・エルフマン
出演=ロバート・デ・ニーロ、チャールズ・グローディン、ヤフェット・コットー、ジョン・アシュトン、デニス・ファリーナ、ジョー・パントリアーノ
Blu-ray発売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント

年またぎ映画祭の5本目、そして昨年最後に観た作品は、わたしの大のお気に入りである『ミッドナイト・ラン』。ギャングの金を横領した会計士と、彼をNYからロスへと移送する賞金稼ぎが、逃避行を続けるうちに不思議な友情で結ばれていくさまを描いたアクション・コメディです。監督は『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)などで知られるマーティン・ブレスト。
主演のロバート・デ・ニーロとチャールズ・グローディンのコンビがとにかく最高!いつも徹底した役づくりで卓越した演技を見せるデ・ニーロも、この作品ではコメディに強いグローディン相手に、肩の力を抜いた軽妙でのびのびした芝居を披露して楽しませてくれます。
主演コンビはもちろんのこと、どこか憎めないFBI捜査官を演じた『007/死ぬのは奴らだ』(1973年)や『エイリアン』(1979年)のヤフェット・コットーや、主人公のライバルである賞金稼ぎ役のジョン・アシュトンなどの共演陣も魅力的です。
アクションと軽妙な笑いを巧みに組み合わせたストーリーの末に迎える痛快なラストには、思わずジーンとさせられます。また、主人公が9年ぶりに娘と再開する場面も、また忘れられない余韻を残してくれます。
ロードムービーとしても、あるいはバディムービーとしても大いに楽しめる快作です。これからまた、何度でも観ていきたいとあらためて思える大事な作品であります。

今年は意識的に、映画をたくさん観ることを(本を読むことよりも。笑)あえて優先させていきたいと考えております。2023年も、どうかよろしくお願い申し上げます!