『シン・ゴジラ』(2016年・日本)
総監督・脚本・編集=庵野秀明
監督・特技監督=樋口真嗣
准監督・特技統括=尾上克郎
ゴジライメージデザイン=前田真宏
撮影=山田康介
音楽=鷲巣詩郎・伊福部昭
出演=長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、大杉漣、柄本明、余貴美子、市川実日子、國村隼、平泉成、松尾諭、野村萬斎
(8月16日、宮崎セントラルシネマにて鑑賞)
(おことわり。これから映画をご覧になられる皆さまの楽しみを削ぐような、いわゆる “ネタバレ” 的なことは極力避けているつもりではありますが、まだご覧になっていない皆さまは、どうかこの先の拙文なんぞはお読みにならずに、まずは映画をとことんお楽しみになってくださいませ)
12年ぶりとなる国産ゴジラ映画の最新作であり、アニメ『エヴァンゲリオン』シリーズの監督としても高名な庵野秀明さんが総監督や脚本を手がけるということで、公開前から大いに話題を呼んでいた『シン・ゴジラ』。お盆休みだった16日に、遅まきながら観てまいりました。
いやー、これはマジで面白かった!!しっかりと構築された人間ドラマの充実ぶりと、大迫力の特撮場面に引き込まれ、約120分の上映時間があっという間でありました。
東京湾から突如、大量の水蒸気が噴出する事態が発生し、大河内内閣総理大臣ら閣僚が対策を協議する。海底火山の噴火が有力視される中、情報収集にあたっていた内閣官房副長官・矢口は巨大生物の可能性を示唆するが、閣僚らはそれを一笑に付す。しかし、海面から巨大な尻尾が現れたことで閣僚らは一転、巨大生物への対策に奔走することになる。
蒲田に上陸した巨大不明生物は、街を破壊しながら品川まで進むが、突如動きを止めて東京湾へと戻っていった。官邸は巨大不明生物への対策に本腰を入れるべく、「巨大不明生物特設災害対策本部」(巨災対)を設置し、矢口がその事務局長となる。そんな折、米国大統領特使のカヨコ・アン・パタースンが矢口のもとを訪れる。巨大不明生物の出現を予言していた生物学教授・牧を探してほしいという。牧が残していた資料には「呉爾羅」(ゴジラ)という文字が。
しばらく姿を消していた巨大不明生物「ゴジラ」は、より巨大な姿となって鎌倉へ上陸し、東京都心に向けて侵攻していく。自衛隊、そして在日米軍による攻撃が展開されるが、それらをものともしないゴジラの猛威で、東京、そして日本政府は大きなダメージを負ってしまった。
矢口ら巨災対のメンバーは、ゴジラを凍結させることでその動きを封じる「矢口プラン」の実現を早めようと奔走する。しかし、米国を中心とする多国籍軍は熱核兵器の使用を決定し、日本政府に通告してきた。こうして、日本を舞台にした熱核兵器による攻撃のカウントダウンが始まった・・・。
映画を観る前に接していたいくつかの情報で、今回の作品はけっこうリアルな内容になりそうだな、ということは想像していたのですが、実際に観た『シン・ゴジラ』の作品世界は、想像を上回るようなリアリティで構築されていました。
巨大生物が出現したとき、政府の意思決定はいかにしてなされるのか。自衛隊が攻撃に踏み切るには、どのようなことをクリアしていかなければならないのか。米国と日本との関係性とはいかなるものなのか・・・。細部までしっかりと構築されたリアリティ溢れる描写が、ゴジラ映画という壮大な虚構の世界に、ぐいぐいと引き込まれていくような面白さを与えていました。
「絵空事」と軽く見られがちな空想科学映画ですが、肝心な部分にはしっかりとしたリアリティを与えることで、作品は面白い良質なものとなるのです。『シン・ゴジラ』は、そのことをあらためて教えてくれました。
人智を超えた巨大不明生物の出現という困難な状況に直面し、翻弄されながらも立ち向かおうとする濃密な人間ドラマを演じ切った、長谷川博己さんや竹野内豊さん、石原さとみさんらメインキャストの熱演もまことに素晴らしいものでした。
どんな状況に置かれても、あきらめずに事態に立ち向かっていく理想家肌の矢口を演じた長谷川さんは、惚れ惚れするようなカッコよさ。そんな矢口とは対照的に、あくまでも現実的なスタンスでことにあたり、時に矢口を諌めたりもする総理大臣補佐官・赤坂を演じた竹野内さんの抑えた芝居もいいものでした。
そして、米国大統領特使のカヨコを演じた石原さん。最初はなんだか鼻持ちならない感じだったカヨコが、多国籍軍による熱核兵器攻撃の方針を知って変化していくさまを、しっかり表現していたように思います。
メインの3人以外では、女性キャラの存在感が光っておりました。防衛大臣役の余貴美子さんは、かつて防衛大臣を務めておられた現東京都知事を彷彿とさせるような役回りで、なんだかニンマリしてしまいました。・・・と思えば、長大なエンドロールの「取材協力」のクレジットにはしっかり「小池百合子」さんのお名前が。・・・ふふふ。やっぱり。
とりわけわたしが気に入ったキャラは、市川実日子さんが演じていた環境省の自然環境局野生生物課長補佐・尾頭ヒロミ。無感情な表情と声で早口に喋る尾頭のキャラは実にユニークでありながらも、妙に惹かれるところがありました。この尾頭というキャラ、けっこう人気があるようで、ツイッターでも「尾頭萌え」しているような方々の投稿(自作の尾頭イラスト入りのものも多数あり)を多々見かけました。なんか嬉しいのう。
もちろん、特撮怪獣映画には欠かせないスペクタクルなシーン、とりわけ特撮ものでは久しぶりに大々的に展開された都市破壊描写の数々も圧巻でした。
日本と人類の存亡をかけた作戦が展開される迫力のクライマックスでは、ここぞとばかりに伊福部昭さんによる過去のゴジラ映画の名音楽が(それもオリジナルの音源で)鳴り響き、もう我を忘れるくらいの高揚感がありました。作り手の特撮怪獣映画へのこだわりと愛が、しびれるくらいに伝わってきました。あと、兵器の発射音や爆発音、そしてゴジラの足音といったいくつかの効果音に、昭和のゴジラ映画の音源がそのまま使用されているところも、しみじみ嬉しくなりました。
今回のゴジラは、これまでのような着ぐるみではなくフルCGで描かれているということで(CGゴジラのもととなるモーションアクターに起用されたのは野村萬斎さん)、観る前は正直、若干の複雑な気持ちもあったのですが、観ているうちにそんな複雑な気持ちも吹っ飛んでおりました。
肝心なのはあくまでも、虚構の世界をそれらしく、かつ面白く見せようとする作り手の熱意と力量なのであり、技法の新旧が先にあるわけではないのだなあ、と感じたことでした。
人智を超えた巨大生物によりもたらされる大きな災厄と、それに立ち向かおうとする人間たちのドラマ。そこには間違いなく、あの東日本大震災や原発事故に直面した日本の状況が重ねられていたように思います(震災のときに押し寄せた津波の映像をストレートに想起させるようなシーンもありました)。庵野秀明、樋口真嗣両監督は、震災と原発事故後に作られるべきリアリティある特撮怪獣映画を、見事なまでの完成度で堂々と作り上げていたと思います。
人智を超えた存在に打ちのめされながらも、あきらめずに立ち向かおうとする人間たちのドラマは、震災後を生きるわたしたちに大いなる希望をもたらしてくれます。ただただ、悲しみや絶望に浸るのではなく、自己満足なニヒリズムに陥るのでもない希望のドラマを、怪獣映画の形で提示したことにも、大いなる感銘を受けました。
これはもうためらうことなく、特撮・怪獣映画ファンはもちろん、そのテの映画に偏見をお持ちの向きも必見の「大傑作」と言い切っておきましょう!
観終わったあと、また最初から観直したくなってきました。また時間の余裕があるようだったら観直しに行こうかなあ。