NHKスペシャル『病の起源』第2集「脳卒中 ~早すぎた進化の代償~」
初回放送=5月26日(日)午後9時00分~9時49分
音楽=羽毛田丈史 、ナビゲーター=室井滋、語り=伊東敏恵
現代人を悩ませ続ける病の起源を探り、人類進化の視点から正体に迫っていくシリーズの第2集。今回取り上げたのは、毎年世界で1500万人が発症するという脳卒中です。
2年前、脳卒中を発症して手術を受けた北海道の男性。それは、0.2㎜というごく細い血管に生じた「微小動脈瘤」という膨らみにより血管が詰まり、それが破れたことによって引き起こされたものでした。脳の血管は、心臓などの体の血管と較べると壁が薄くできていて、それゆえ破れやすいというのです。なぜ、脳の血管の壁は薄いのでしょうか。
4億年前に脊椎動物として進化した魚類は、脳の血管も体の血管も同じ壁の厚さでした。それが哺乳類へと進化を重ねていく過程で、体の血管の壁は徐々に太くなっていきます。運動による筋肉の発達が、より多くの血液を必要とし、その圧力に耐えられるために変化していったのです。しかし、脳にはそのような変化が起こらなかったことが、脳の血管の壁が薄いままとなった理由でした。
哺乳類の中でも、人類はとりわけ脳卒中になりやすいといいます。それは、共通の祖先であるチンパンジーの3~4倍の大きさという「哺乳類では異常といえる進化」を遂げた、人類の脳の巨大化が引き起こしたものだというのです。
人類の脳は、200万年前から飛躍的に大きくなっていきました。それにより毛細血管の数も劇的に増え、それは総延長600㎞(ハッブル宇宙望遠鏡の位置と同じ高度!)に達するまでになりました。これにより大量の血液が必要となった脳の血管には、幹から枝分かれする部分を中心に高い圧力がかかるようになりました。そのことが動脈瘤の原因をつくり、脳卒中になりやすくなってしまった、といいます。
脳卒中により生じる影響で代表的なのが、手足や口が動かせなくなってしまう運動麻痺。それは、人間の運動能力を司る脳の運動野に血液を送り込む「レンズ核線条体動脈」の破れや詰まりにより、運動神経ネットワークが働かなくなることにより生じる影響でした。脳卒中は、主にこの場所に集中して発症するといいます。
250万年前に初めて石器を作り、それを使うことを覚えた人類。やがて脳の運動野が発達していくにつれて、より手が動かしやすくなっていき、さらに複雑なモノを作り、使いこなすようになっていきました。
脳卒中は、そんな「ヒトの脳で最も進化し、発達したところで起こりやすい」病でもあったのです。
さらに脳卒中を引き起こす頻度を高めることになったのが、6万年前の「出アフリカ」により、人類が容易く手にできるようになった塩でした。
もともと、アフリカには限られた場所にしか塩はありませんでした。現在でも昔ながらの狩猟採集生活を営む、カメルーンのピグミーにも、脳卒中はほとんど見られないといいます。高齢になっても、血圧はあまり上がらないことがその理由でした。
血管における微小動脈瘤の原因となるのは高血圧で、それを引き起こすのが過剰な塩分の摂取です。血中のナトリウムを薄めるために、より多くの血液が必要となり、それにより高血圧になる、というわけです。
さらに、近年は首の動脈が詰まることにより起こる脳卒中も増えてきているといいます。肉や脂の摂り過ぎにより血管に溜まったコレステロールが、血流を詰まらせてしまうのです。
欲望のままに暴走気味となり、偏ってしまっている現代人の食生活が、脳卒中のリスクを飛躍的に高めてしまったのでした。
脳卒中が引き起こされるメカニズムを踏まえた対策や治療法の模索も、番組の最後に取り上げられていました。
九州大学は、福岡県の久山町で50年にわたり、8000人の町民を対象にして脳卒中の発症リスクを調査してきています。それによれば、肥満度が低い人や、週3回以上の運動をしている人は、脳卒中の発症リスクが低いといいます。
そして、アメリカでは幹細胞を脳に送って新たな毛細血管をつくることにより、神経ネットワークを再生させ、手足や口を動かせるようにしていく、という最先端医療が試みられています。
脳卒中の起源とメカニズムをたどったことで、現代における「ぜいたく」がこの病を引き起こす大きなリスク要因となることをあらためて知ることとなりました。
かく言う自分自身も、ついつい塩気と脂っこさのある食物を摂りがちなところがあるだけに、こちらも決して他人事には思えません。
美味しく、かつ体に負担をかけない食のありかたにも気を配らなければいけないな、と思ったことでありました。•••言うは易し、行うは難し、なことではあるのですが。
初回放送=5月26日(日)午後9時00分~9時49分
音楽=羽毛田丈史 、ナビゲーター=室井滋、語り=伊東敏恵
現代人を悩ませ続ける病の起源を探り、人類進化の視点から正体に迫っていくシリーズの第2集。今回取り上げたのは、毎年世界で1500万人が発症するという脳卒中です。
2年前、脳卒中を発症して手術を受けた北海道の男性。それは、0.2㎜というごく細い血管に生じた「微小動脈瘤」という膨らみにより血管が詰まり、それが破れたことによって引き起こされたものでした。脳の血管は、心臓などの体の血管と較べると壁が薄くできていて、それゆえ破れやすいというのです。なぜ、脳の血管の壁は薄いのでしょうか。
4億年前に脊椎動物として進化した魚類は、脳の血管も体の血管も同じ壁の厚さでした。それが哺乳類へと進化を重ねていく過程で、体の血管の壁は徐々に太くなっていきます。運動による筋肉の発達が、より多くの血液を必要とし、その圧力に耐えられるために変化していったのです。しかし、脳にはそのような変化が起こらなかったことが、脳の血管の壁が薄いままとなった理由でした。
哺乳類の中でも、人類はとりわけ脳卒中になりやすいといいます。それは、共通の祖先であるチンパンジーの3~4倍の大きさという「哺乳類では異常といえる進化」を遂げた、人類の脳の巨大化が引き起こしたものだというのです。
人類の脳は、200万年前から飛躍的に大きくなっていきました。それにより毛細血管の数も劇的に増え、それは総延長600㎞(ハッブル宇宙望遠鏡の位置と同じ高度!)に達するまでになりました。これにより大量の血液が必要となった脳の血管には、幹から枝分かれする部分を中心に高い圧力がかかるようになりました。そのことが動脈瘤の原因をつくり、脳卒中になりやすくなってしまった、といいます。
脳卒中により生じる影響で代表的なのが、手足や口が動かせなくなってしまう運動麻痺。それは、人間の運動能力を司る脳の運動野に血液を送り込む「レンズ核線条体動脈」の破れや詰まりにより、運動神経ネットワークが働かなくなることにより生じる影響でした。脳卒中は、主にこの場所に集中して発症するといいます。
250万年前に初めて石器を作り、それを使うことを覚えた人類。やがて脳の運動野が発達していくにつれて、より手が動かしやすくなっていき、さらに複雑なモノを作り、使いこなすようになっていきました。
脳卒中は、そんな「ヒトの脳で最も進化し、発達したところで起こりやすい」病でもあったのです。
さらに脳卒中を引き起こす頻度を高めることになったのが、6万年前の「出アフリカ」により、人類が容易く手にできるようになった塩でした。
もともと、アフリカには限られた場所にしか塩はありませんでした。現在でも昔ながらの狩猟採集生活を営む、カメルーンのピグミーにも、脳卒中はほとんど見られないといいます。高齢になっても、血圧はあまり上がらないことがその理由でした。
血管における微小動脈瘤の原因となるのは高血圧で、それを引き起こすのが過剰な塩分の摂取です。血中のナトリウムを薄めるために、より多くの血液が必要となり、それにより高血圧になる、というわけです。
さらに、近年は首の動脈が詰まることにより起こる脳卒中も増えてきているといいます。肉や脂の摂り過ぎにより血管に溜まったコレステロールが、血流を詰まらせてしまうのです。
欲望のままに暴走気味となり、偏ってしまっている現代人の食生活が、脳卒中のリスクを飛躍的に高めてしまったのでした。
脳卒中が引き起こされるメカニズムを踏まえた対策や治療法の模索も、番組の最後に取り上げられていました。
九州大学は、福岡県の久山町で50年にわたり、8000人の町民を対象にして脳卒中の発症リスクを調査してきています。それによれば、肥満度が低い人や、週3回以上の運動をしている人は、脳卒中の発症リスクが低いといいます。
そして、アメリカでは幹細胞を脳に送って新たな毛細血管をつくることにより、神経ネットワークを再生させ、手足や口を動かせるようにしていく、という最先端医療が試みられています。
脳卒中の起源とメカニズムをたどったことで、現代における「ぜいたく」がこの病を引き起こす大きなリスク要因となることをあらためて知ることとなりました。
かく言う自分自身も、ついつい塩気と脂っこさのある食物を摂りがちなところがあるだけに、こちらも決して他人事には思えません。
美味しく、かつ体に負担をかけない食のありかたにも気を配らなければいけないな、と思ったことでありました。•••言うは易し、行うは難し、なことではあるのですが。