読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

第19回宮崎映画祭観覧記(その1) 久々にスクリーンで再会した『転校生』に感涙

2013-08-25 23:49:24 | 映画のお噂


今年で第19回目となる宮崎映画祭が、昨日(24日)から宮崎市内中心部にある宮崎キネマ館を会場に開幕いたしました。9日間の会期中、新旧の名作傑作映画からドキュメンタリー、テレビ作品に至るまで、バラエティに富む16作品が上映されます。
今年のテーマは「Mのみらい。」。3年前の口蹄疫禍によって変化を余儀なくされた宮崎(miyazaki)と、デジタル化により大きな変化にさらされている映画(movie)、ふたつの「M」の過去・現在・未来を見据える、というのが、その趣旨です。
昨日のオープニングイベントでは、10月12日に公開が始まる映画版『おしん』におしん役で主演する、宮崎市在住の小学4年生、濱田ここねちゃんと冨樫森監督がゲストに招かれたとのことですが、残念ながらわたくしは昼まで仕事だったのでそれに臨むことはできませんでした。•••あー、ここねちゃんに会いたかったなあ。
初日は3本の映画を観ることができました。以下、観た作品についての紹介と感想を綴っていきたいと思います。


『転校生』(1982年、日本)
監督=大林宣彦 出演=尾美としのり、小林聡美、佐藤允、樹木希林、宍戸錠、入江若菜

舞台は広島県尾道市。斉藤一夫の通う学校に、かつての幼馴染だった斉藤一美が転校してくる。ある時、二人は神社の石段から一緒に転げ落ち、体が入れ替わってしまう。かくて、一夫は一美として、一美は一夫として、戸惑いながらも振る舞うことになるのであった•••。
と、今さらストーリーを紹介するのもなにかなあ、と思ってしまうほど多くの人たちから愛されている、大林宣彦監督による青春ファンタジーの名作であります。
やんちゃで乱暴に振る舞う小林聡美さんと、なよなよした態度と話し方の尾美としのりさん、それぞれのなり切り演技がとにかく絶品で、何度も大笑いさせられました。また、一夫の家の塀に『駅馬車』などの昔の映画のポスターが貼られていたり、一美の兄が読んでいた雑誌が、かつて発行されていたビジュアルSF雑誌『スターログ日本版』だったりといった、細かいこだわりにもニンマリさせられました。
ずいぶん前にテレビで観て以来、久々にスクリーンで再会することができた本作。テレビで観たときには、ひさすら面白い面白いと喜んで観ていただけでした。が、今回あらためて観たら大笑いさせられつつも、最後には感涙にむせんでしまいました。うーむ、これもトシのせいなのかなあ。
そして、舞台である尾道の、海に船が行き交う風景や懐かしさを覚える路地もたまらなく良かったですね。尾道には、今から20年ちょっと前に一度行ったっきりなのですが、可能であれば、また機会を見つけて出かけてみたいなあ。
映画がデジタル化されていっている昨今ですが、本作はフィルムでの上映でした。劣化が進んでいることもあり、映像は少し赤みがかっていて、ところどころでフィルムに雨が降ったりもしていましたが、それらもなんとなく映画の雰囲気に合っているように感じられました。こういうのもけっこう、悪くないと思うけどなあ•••。


『ムーンライズ・キングダム』(2012年、アメリカ)
監督=ウェス・アンダーソン 出演=ブルース・ウィリス、ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンド

1965年のニューイングランド。12歳の少年サムはボーイスカウトを脱走し、互いに惹かれあっている少女スージーとともに駆け落ちすることに。二人を連れ戻そうとする大人たちやボーイスカウトの少年たちを振り切りながら、サムとスージーは逃避行を続けるのだったが•••。
独特のユーモアと風変わりな作風でつくり上げられた、現代版『小さな恋のメロディ』といった趣きの作品。あまりパッとしない(でも後半には拍手したくなるような活躍ぶりを見せる)田舎の警察の警部を演じたブルース・ウィリスが、なかなか味があっていい感じでした。また、カメラワークの面白さにも目を見張ったほか、スージーが愛読している本のカバーアートやエンディングクレジットなどの凝りっぷりも楽しいものがありました。


『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』(2012年、日本)
監督=長谷川三郎 出演=福島菊次郎 朗読=大杉漣(ドキュメンタリー)

広島で被爆した人々を取材して以降、三里塚闘争、安保闘争、自衛隊、公害問題、ウーマンリブ、そして原発問題に至るまでを反権力の立場から記録し、追及している反骨の写真家・福島菊次郎さんを、2年間にわたって追い続けたドキュメンタリー映画です。毎日映画コンクールドキュメンタリー映画賞や、キネマ旬報文化映画ベストテン1位に選ばれるなど、作品的にも高い評価を受けています。
自分は国家を批判する仕事をしているから、と年金の受け取りを拒否するなど、徹底した「反国家」の姿勢を貫く福島さん。その姿勢には正直、理解できるところもあれば理解しがたいところもありました。ですが、年齢を感じさせないほどの素早い動きで被写体に迫る姿や、時代を射抜くことばの数々には、ただただ圧倒されるものがありました。また、福島さんの仕事の原点ともなっている、広島で被爆した一人の男性の姿を追った一連の作品にも、なんともいえない凄味が感じられました。
その一方、耐用年数ギリギリというパソコン(ワープロか)が動くように手を合わせたり、愛犬とのユーモラスな触れ合いを見せたりといった、ときおり垣間見せる福島さんのお茶目な一面も、ちょっと面白く感じられたりしました。
センシティブなテーマも含まれてはおりますが、なかなか見応えのあった人間ドキュメントでありました。
しかし、まさか本作を宮崎で観ることができるとは思っておりませんでしたね。観る機会を与えてくれた映画祭実行委とスタッフに、敬意あるのみであります。