読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

3月刊行予定新書新刊、個人的注目本10冊

2014-02-27 21:29:51 | 本のお噂
2月というのは本当に過ぎていくのが早い。もう明日で終わりになりますね、2月が。
厳しい寒波に襲われ、各地で大雪による災害にも見舞われた今年の2月。しかしここにきて、だいぶ暖かくなってきつつありますね。早く桜咲く春になることを楽しみに待つとともに、大雪災害に遭われた地域とそこに住む皆さんの暮らしと産業が再建されていくことを、切に切に願いたいと思います。
この2月はわたくしにとって、インプットもアウトプットも低調な月となってしまいました(その低調ぶりは2月のブログ更新履歴を見ても歴然で•••)。来月は、低調ぶりを打破して上昇基調に乗せていきたいな、と考えております。まずは、つまらないコトには関わらないようにして、いらん雑念をすべて一掃してしまうことから始めたいな、と。

さて、来月3月に刊行される予定の新刊新書のラインナップが出揃ってまいりました。というわけでいつものように、3月に刊行予定の新刊新書の中から、わたくしの興味を惹いた書目を10冊選んでピックアップしてみました。皆さまにとっても、この中に引っかかる書目が何かあれば幸いに存じます。
刊行データや内容紹介については、書店向けに取次会社が発行している情報誌『日販速報』の2月24日号、3月3日号とその付録である3月刊行の新書新刊ラインナップ一覧に準拠いたしました。発売日は首都圏基準ですので、地方では1~2日程度のタイムラグがあります。また、書名や発売予定は変更になることもあります。


『ほろ酔い文学辞典 作家が描いた酒の情景』 (重金敦之著、朝日新書、13日発売)
「美酒に酔い、名文に酔う。作家が愛する酒の文学をひもとき、豊饒な世界を味わう好エッセイ。夏目漱石、ヘミングウェイほか」という内容紹介文を見るだけで、食指をそそられるものがある一冊。著者の重金さんはこれまで、文学と食、酒とのおいしい関係についての本をいろいろ出されている方ですので、この本にも期待してしまうのであります。

『唐物の文化史 舶来品からみた日本』 (河添房江著、岩波新書、20日発売)
「正倉院の宝物から毛皮、香料、書、茶、珍獣まで、モノを通じて日本文化の変遷を追う」と。それぞれの舶来品がどこから来て、どのような形で日本の文化に影響をもたらしたのか、けっこう興味が湧きますね。中でも特に「珍獣」てのが気になるな。

『辞書から消えたことわざ(仮)』 (時田昌瑞著、角川SSC新書、10日発売)
「『ことわざ研究』の第一人者によることわざの本。消えるには惜しいことわざをピックアップし、全800語以上を収録」とのこと。確かに時の流れでやむを得ず消えていくものもあるとはいえ、ことわざに凝縮された昔からの知恵には、まだまだ活かせるものもあるはず。それをしっかりと発掘するような一冊になってくれていることを願いつつピックアップ。

『量子的世界像 101の基礎知識』 (フォード・ケネス著、青木薫・塩原通緒訳、講談社ブルーバックス、19日発売)
「素粒子から『場の量子論』まで、量子の世界の物理学を網羅。明快な解説で基本概念から最前線までを一気に学べる決定版入門書」。相対性理論はまだしも(いや、相対論もキチンと理解しているかどうかアヤシイもんなのですが•••)、なかなか量子論なるものを理解できずにいるわたくしでも、わかるような内容になっているのか、ちょっと期待したいところであります。青木薫さんも訳者の一人のようですし。

『日本の居酒屋文化 赤提灯の魅力を探る(仮)』 (マイク・モラスキー著、光文社新書、18日発売)
またもお酒がらみの本をピックアップしてしまいました(ほんとすみませんねえ、個人的好みまるだしのラインナップで)。「世界に類のない日本の居酒屋文化を、日本人には当たり前の情景を『こんなふうに見えるのか。』という驚きをもって考察した」とか。外国人の目からは“IZAKAYA”とはいかなる場所に映るのか、これは興味が湧きますねえ。

『文豪たちの「?」な言葉』 (馬上駿兵著、新典社新書、2月27日発売)
3月の新刊ピックアップといいつつ、1点だけ2月発売分を挙げさせてくださいませ。「漱石・芥川ほか、名作の中から現代の基準では『?』と思われるような言葉を拾い上げ、その表現に籠められた文豪たちの息遣いを知る」という内容紹介に、なんだか惹かれるものがありましたので。確かに近代文学の中には、今では見聞きしないようなコトバや表現がままありますからね。そのようなコトバから文学を味わうというのも面白そうですな。

『超美麗イラスト図解 世界の深海魚 最強50』 (北村雄一著、サイエンス・アイ新書、14日発売)
「深海の世界では、深海魚たちも異形の進化を遂げている。彼らの驚くべき特長を超美麗イラストとともに解説していく」。ほかの生物の常識では測れないような、深海魚の姿形や生態にも興味津々なのですが、イラストの「超美麗」ぶりをぜひ見てみたいのでありますよ。

『乙女の美術案内(仮)』 (和田彩花著、PHP新書、14日発売)
「絵画は乙女が変えてきた。人気アイドルグループ『スマイレージ』の和田彩花が、大好きなアートについて画期的な美術論を展開」とか。ザンネンながら、わたくしめは「スマイレージ」も和田さんのこともまったく存じ上げないのですが(苦笑)、なんだか毛色の変わった趣向の美術本のようなのでちょっと見てみたいなあ、という野次馬根性だけでピックアップしてしまいました。さあ、どのように「画期的」な美術論になっているのでありましょうか。

『作家の決断』 (阿刀田高著、文春新書、20日発売)
「警官殺し容疑で逮捕された佐木隆三氏、給料日本一の社を辞した津本陽氏ほか渡辺淳一、田辺聖子、瀬戸内寂聴各氏ら19人の転機とは」。うむむ。それぞれの作家の方々はいかなる転機と決断を経験し、それがどのような形で作品に反映されたのでしょうか。

『桜は本当に美しいか 日本人の歌と欲望』 (水原紫苑著、平凡社新書、14日発売)
「桜は本当に美しいのか。気鋭の歌人が語る桜の文学。人々が桜に肩代わりさせてきた欲望を解明する日本文化論でもある」と。これから桜の咲くのが待ち遠しい時期にこういう本を出すなんて•••イケズな平凡社さんだこと(笑)。でも、これはなんだか面白そう。


そのほか、3月新刊で気になる書目は以下の通りであります。

『〈老いがい〉の時代 日本映画に読む』 (天野正子著、岩波新書、20日発売)
『元気が出る俳句』 (倉阪鬼一郎著、幻冬舎新書、28日発売)
『社会保障亡国論』 (鈴木亘著、講談社現代新書、18日発売)
『世界の読者に伝えるということ』 (河野至恩著、講談社現代新書、18日発売)
『宇宙最大の爆発天体ガンマ線バースト』 (村上敏夫著、講談社ブルーバックス、19日発売)
『日本のアニメは何がすごいのか 世界が惹かれた理由』 (津堅信之著、祥伝社新書、3日発売)
『西洋美術史入門・実践編』 (池上秀洋著、ちくまプリマー新書、5日発売)
『日本漁業の真実』 (濱田武士著、ちくま新書、5日発売)
『人体にあぶない微生物のはなし(仮)』 (小林一寛著、PHPサイエンス・ワールド新書、18日発売)
『こだわり鉄道旅のススメ ツウならこう乗る』 (野田隆著、平凡社新書、14日発売)


最後に、内容はともかくとして、書名にインパクトを感じた本を1点挙げておきましょう。

『その物言い、バカ丸出しです 「軽く見られない」話し方』 (梶原しげる著、角川SSC新書、10日発売)

口ベタ人間の一人としては、なんか思いっきりヘコみそうな書名なんすけど•••(笑)。もっとも(仮)なので、実際にこの書名で出るかどうかはまだわからないのですが。



耳に刺さった「将来の夢」

2014-02-24 22:54:24 | よもやまのお噂
それほどテレビを観ないわたくしですが、NHKのほかに宮崎市を中心とした県中部をカバーしているケーブルテレビ局、宮崎ケーブルテレビ(MCN)の地域向け番組などは時々視聴しております。
そのMCNの番組に、保育園や幼稚園の子どもたちを登場させる番組があります。夕方の情報番組の1コーナーですが、そのコーナーのみを抜き出して放送されてもいます。
その番組では、それぞれの子どもたちが好きな食べものや遊び、いま頑張っていること、そして将来の夢をカメラに向かって発表します。
「大きくなったら、アイスクリーム屋さんになりたいです」
「大きくなったら、(仮面ライダー)ガイムになりたいです!」
女の子だと、「ケーキ屋さん」や「アイスクリーム屋さん」あたりが一番人気のようですね。「アイドル」「AKB」というのもよく耳にします。
男の子では、サッカーや野球の選手、そして仮面ライダーや戦隊ものといったヒーローになりたいという子が多いですね。ウルトラマン大好きオジサンのわたくしとしては、近ごろ「ウルトラマンになりたい」という子があまりいなくなっているのがいささか寂しいのでありますが•••。まあ、今はレギュラーのテレビシリーズの放送がないからなあ。
それはともかく、そうやってそれぞれが子どもらしい夢を語っているなか、ある一人の男の子が語った将来の夢が、深々と耳に刺さってきたのであります。


「大きくなったら、人間になりたいです」


に、人間に•••。そ、そうなのか。
オトナの人間として、あまりキチンとした生き方をしていないナサケナイわたくしは、そのあまりに深い答えに、
「オレはいま、ちゃんとした人間らしい生き方ができておるのかなあ。もっと人間らしい生き方をしないといけないなあ•••」
と、ちょっとばかり立ち止まって考えてしまったのでありました•••。いやー、子どもというのはしばしば、オトナをタジタジにするような発想をするのでありますなあ。

何はともあれ、みんなそれぞれの夢をガンバって叶えて欲しいなあ、と願ったりするのであります。

来月3月、宮崎キネマ館で東日本大震災をテーマにしたドキュメンタリー映画4本を特集上映

2014-02-16 21:42:24 | ドキュメンタリーのお噂
宮崎市中心街のビルの一角にある映画館、宮崎キネマ館。小さいながらも、シネコンではなかなか上映されない通好みの佳作を中心にして上映しているこの映画館。ドキュメンタリー映画も積極的に上映してくれていて、ドキュメンタリー好きにとっても誠にありがたい映画館です。
東日本大震災から3年となる来月、その宮崎キネマ館で震災をテーマにしたドキュメンタリー映画4本が、1週間限定で特集上映されます。作品のラインナップは、以下の通りです。なお内容紹介は、チラシの記述をもとにして記しております。


『逃げ遅れる人々 東日本大震災と障害者』(2012年、飯田基晴監督)
障害を持つゆえに地震や津波から身を守ることができず、必要な情報も得られずに逃げ遅れた人びと。「周囲に迷惑をかけるから」と、多くの障害者が避難をあきらめざるを得なかった事実。それら障害者の実態調査や支援に奔走する人びとの困難•••。震災に翻弄された障害者と、そこに関わった人びとの証言を、話題作『犬と猫と人間と』(2009年)の飯田基晴監督が福島県を中心に取材し、まとめた作品。


『犬と猫と人間と2 動物たちの大震災』(2013年、宍戸大裕監督)
津波で愛犬を失った夫婦が、その喪失を受け止めてゆく長い道のり。津波を生き延び、野良猫を家族にして歩もうとする男性。原発事故で取り残された犬や猫、そして牛たち•••。前作『犬と猫と人間と』の飯田基晴監督がプロデュースに回り、宮城県出身の宍戸大裕監督が、被災しながらもその実態が把握しきれていない動物たちと人との関わりを見つめ、「いのち」の意味を問いかける。


『先祖になる』(2012年、池谷薫監督)
岩手県陸前高田市で農林業を営む男性。大津波によって自宅を壊され、消防団員だった長男も波にのまれた。生きがいを失った男性は一つの決断をくだす。仮設住宅には入らず、山で伐った木を使って元の場所に家を建てようというのだ•••。秀作『蟻の兵隊』(2006年)の池谷薫監督が、孤軍奮闘しながらも立ち上がり、生きていこうとする“ガンコ老人”の底力を通して、人が生きていくとはどういうことなのかを問いかける。


『祭の馬』(2013年、松林要樹監督)
競走馬を引退し、「相馬野馬追」が行われる福島県南相馬市で余生をおくることになった馬、ミラーズクエスト。東日本大震災で押し寄せた大津波から辛くも生き延びたものの、原発事故により水と食料を絶たれ、さらにケガをしたおちんちんが腫れて元に戻らなくなってしまう•••。『311』(2011年、共同監督)や『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』(2012年)で、被災した土地に目を向け続けている松林要樹監督が、とんでもない時代に生まれてしまった馬の運命を可笑しく、優しく見つめる。

いずれの作品も、その存在は知っていたものの、これまで宮崎では観る機会がありませんでした(とりわけ『先祖になる』はかなり観てみたかった作品でした)。それだけに、このたびの特集上映は実にありがたい機会です。
被災した地域の復興にはまだまだ程遠い現実があるにもかかわらず、早くも震災の記憶が風化し、忘れられつつあるという情けない現実がある中で、このような機会を設けてくれる宮崎キネマ館の志に、深甚なる敬意と賞賛を送りたい気持ちです。
その志に応え、4作品すべてを観るべく昨日(15日)、前売り券を4本分購入いたしました(前売り券は4作品共通です)。期間中にスケジュールを組んで、すべてをしっかり観たいと思っております。

4作品共通の前売り券は1枚1000円。上映期間は3月8日から14日までの1週間です。ぜひとも、多くの人に観ていただけたらと願います。
なお、『逃げ遅れる人々』は映画館のみならず、施設などでの上映会も受け付けるとのことです。ご希望の団体はキネマ館へご相談を。
宮崎キネマ館 (電話) 0985-28-1162
(HP) http://www.bunkahonpo.or.jp/cinema/

「生賴範義展 THE ILLUSTRATOR」を観に行く

2014-02-16 21:41:55 | 宮崎のお噂
『スター・ウォーズ』やゴジラシリーズなどの映画ポスターや、小松左京さんや平井和正さんの本の装画など、これまでに数千点もの作品を手がけ、海外でも広く認知されている画家、生賴範義さん。
緻密にして奔放なイマジネーション溢れる作風で、さまざまなSF映画やSF小説、雑誌の装画を数多く手がけた生賴さんは、特にSF好きにとっては雲の上のような存在です。そんな雲の上のような存在の生賴さん、なんと宮崎市の在住(出身は兵庫県)なのであります。
宮崎の地から、日本はおろか世界を驚嘆させた作品を生み出してきた巨匠の、50年間にわたる画業を集大成した展覧会「生賴範義展 THE ILLUSTRATOR」が、宮崎市内にある「みやざきアートセンター」にて今月8日から開催されております。昨日(15日)、わたくしもじっくり鑑賞してまいりました。

わたくしにとって、生賴さんといえばなんといっても、ゴジラシリーズのポスターアート。さまざまな画家が描いたゴジラの中でも、生物感と荒々しさに満ちた生賴さん描くところのゴジラが特に好きなのです。なので、展示スペースがゴジラシリーズのポスター原画から始まっていたのには大いに興奮いたしました(以下、画像は写真撮影可のスペースにて撮ったものです)。

新宿の超高層ビル群の向こうで仁王立ちになり咆哮するゴジラを描いた、1984年版『ゴジラ』のポスターアートは、当時中学生だったわたくしをワクワクさせてくれました。その原画を目の前にすることができて、ゾクゾクするほどの興奮と感激を覚えました。そして、その後の平成ゴジラシリーズや、ゴジラ関係の書籍や雑誌に描かれた作品の一つ一つに、ずっとゾクゾクさせられっぱなしでありました。
ポスターでは、メインヴィジュアルであるゴジラや他の怪獣たちに目が行きがちだったのですが、原画をじっくり鑑賞すると、あまり目立ってはいなかった部分(建造物やメカなど)も細かく描かれていたことに気づかされ、その仕事ぶりにあらためて魅了されました。

次に魅了されたのが、小松左京さんと平井和正さんの本の装画を展示したスペースでした。

本の装画は、想像していた以上に小さな画面でありながら、その中によくぞここまで、というほど緻密な描き込みがなされていました。そして、日本人ばなれしている奔放なイマジネーションによって構築されたSF世界に目を奪われました。小松さんと平井さん、それぞれから絶大なる信頼を得ていたというのも納得でありました。このスペースも、一つ一つを鑑賞するのにえらく時間がかかり、気づけばゴジラと小松・平井作品の装画のスペースだけで、鑑賞時間の半分足らずを使っておりました。

生賴さんの名声を一気に高めたのが、『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』の国際版ポスターの仕事です。日本の出版物に掲載されていた生賴さんの絵に感嘆したジョージ・ルーカスが、映画会社を通して依頼したとか。それらの原画にも、ワクワクしていた当時の記憶を思い起こすことができました。
そして、『日本沈没』(2006年版。ちなみに、1973年の映画化のときも、生賴さんがポスターを手がけています)や『メテオ』『暴走機関車』などのポスター画や、『復活の日』のイメージイラストからは、映画の世界観を広げ、時には凌駕するような仕事ぶりがひしひしと伝わってきました。

本の装画や挿絵、新聞広告のためのイラストに見られる、恐ろしいほどの緻密さで描き出された線描画や点描画をまとめて鑑賞することができたのも、この展覧会の大きな収穫であります。

1970年、吉川英治『宮本武蔵』のために描かれた装画と挿絵は、細かな線をびっしりと重ねることによって、人物や情景を浮かび上がらせたもの。また、『人物現代史』(大森実著)の装画として描かれた、ヒトラーや毛沢東、ケネディなどの肖像画は、執拗なまでの点描によって、人物の内面にまで迫るようなドラマティックなものを感じさせました。そして、大平正芳や野村克也などを描いた雑誌『月刊現代』の表紙絵は、言われなければ絵とはわからないくらいのリアルさ。たばこ「HOPE」の広告「HOPE MY WAY」シリーズもまた、写真としか思えないような仕上がりぶりでした。
写真を超えたともいえるこれらの肖像画には、観覧していた方々からしきりに、感嘆の唸りやため息が聞こえてきました。これらの作品を仕上げるのに、どれだけの時間と手間がかかっていたのか。余人には容易に窺い知れないものがあります。

生賴さんといえば想像力豊かなSF世界のイメージが強いのですが、雑誌『丸』や戦記本、プラモデルの箱絵のために描かれた、軍艦や戦闘機を描いた戦記イラストも、生賴さんの大きな仕事の一つです。

華々しさや勇ましさがほとんど感じられない、重々しく暗いタッチで描かれた戦争・戦記画の数々。それは、子どもの頃に兵庫県明石市で大空襲を体験し、以来反戦の意識を持ち続けているという、生賴さんの戦争観が反映されたものなのかもしれません。が、軍艦の細かなディテールに至るまで調べ上げられた描写からは、メカに対する飽くなき興味や探究心も、同時にひしひしと伝わってきました。

約2時間半にわたった鑑賞。重厚・骨太にして緻密・繊細な生賴ワールドに大いに興奮し、堪能いたしました。これは本当に「奇跡」に満ちた体験でありました。
そして、この宮崎の地で、日本はおろか世界を驚嘆させたイマジネーション豊かな作品群が生み出されていたということに、あらためて感慨深いものがありました。
正直なところ、宮崎と大都市圏とでは、情報や住んでいる人たちの文化的な意識の面で、少なからずギャップを感じるのは否めません。しかし、そういう地方においても、人を得ることで日本だけでなく、世界に通じる発信ができるということは、示唆するものが多くあるように思います。
2011年に脳梗塞で倒れて以降、療養生活が続き、創作からは遠ざかっている生賴さん。いつの日か回復を遂げ、また創作の現場に戻る「奇跡」を、心から願いたいと思います。
展覧会は来月(3月)の23日まで開催されます。会期中にもう一度、観に行こうかなあと考えております。

事前に数量限定の前売り券を買っておいたおかげで、特製カレンダーを手に入れることができました。徳間書店から発行されていた雑誌『SFアドベンチャー』の表紙を飾っていた、歴史上・伝説上の女性たちとSF世界のイメージを重ね合わせた、惚れ惚れするようなミューズたちのイラストから抜粋して作られたカレンダーであります。

今年1年、殺風景なオノレの部屋を彩りあるものにしてくれることでありましょう。

3月刊行予定文庫新刊、超個人的注目本5冊(ちょっと少なめですが・・・)

2014-02-12 22:39:20 | 本のお噂
来月、3月に刊行予定の文庫新刊から、例によってわたくしが気になる書目をピックアップしてご紹介したいと思います。
ただし、3月は個人的に気になる本があまりございませんでしたので、いつもよりだいぶ少なく5冊のみピックアップいたしました。とはいえ、あくまでもわたくし目線では気になる本が少なかった、というだけのことでありまして、3月も各文庫からはさまざまな本が出される予定であります。詳しいラインナップをお知りになりたい方はぜひ、版元のホームページや本屋さんの店頭にてチェックしていただけたら、と思います。
刊行データについては、書店向けに取次会社が発行している情報誌『日販速報』の2月10日号の付録である、3月刊行の文庫新刊ラインナップ一覧に準拠いたしました。発売日は首都圏基準ですので、地方では1~2日程度のタイムラグがあります。また、書名や発売予定は変更になることもあります。
なお、2月刊行予定としてお伝えしていた『フェルメールになれなかった男 20世紀最大の贋作事件』(フランク・ウイン著、小林頼子ほか訳、ちくま文庫)は発売が延期になり、3月10日の発売となりましたので、あらためてここでお知らせしておきます。

『私の記録映画人生』 (羽田澄子著、岩波現代文庫、14日発売)
日本における女性の記録映画監督の草分け的存在といえる著者が、少女時代の思い出から記録映画とともに歩んだ人生までを振り返った一冊。『薄墨の桜』や『痴呆性老人の世界』『歌舞伎役者片岡仁左衛門』など、数多くの秀作を生み出してきた羽田さん。その人生は、おそらく戦後日本の記録映画史としても貴重なものがあるはず。とても楽しみな一冊であります。

『超発明 創造力への挑戦』 (真鍋博著、ちくま文庫、10日発売)
星新一さんの挿絵や装画を手がけてきたことでも知られる真鍋さんが、1971年に講談社から出した著書の文庫化。残念ながら、まだ内容については詳しいことはわからないのですが、星さんのショートショートとともに真鍋さんの絵にもワクワクさせられていた人間の一人としては、ちょっと楽しみな一冊です。

『兵器と戦術の日本史』 (金子常規著、中公文庫、下旬)
古代から現代までの日本史における名高い戦争で使われた兵器を殺傷力・移動力・防護力の三要素に分類、その戦闘力とそれらを用いた戦術を豊富な図解で分析した本。同じ著者による『兵器と戦術の世界史』の姉妹編でありますが、そちらのほうもまだ未読でありましたので、これはまとめて見てみたいですね。

『河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙』 (河北新報社著、文春文庫、7日発売)
宮城県最大の地元紙である河北新報。3年前の3月11日、未曾有の巨大地震の直撃を受け、自ら被災しながら、それでも新聞を送り届けるべく不眠不休で動き続けた同社の人々の壮絶な記録。こちらもまだ未読でしたので、3年前のことを忘れないためにも、ぜひ読んでおかなければ、と思っております。

『コンニャク屋漂流記』 (星野博美著、文春文庫、7日発売)
文春文庫からもう一冊を。江戸時代に紀州から房総半島へと渡った「コンニャク屋」なる屋号をもっていた漁師を先祖にもつ著者。祖父が残した手記を手がかりにそのルーツを探ろうと、著者の珍道中が始まった•••。家族と血族の意味を笑いと涙とともに問い直すノンフィクション。なんで漁師なのに「コンニャク屋」などと名乗っていたのか?ということを含めて、なんだか面白く読めそうな一冊でありますね。

そのほか、書名のみで気になっている書目は以下の通りであります。

『芥川龍之介随筆集』 (石割透編、岩波文庫、14日発売)
『茨木のり子詩集』 (谷川俊太郎編、岩波文庫、14日発売)
『落語名作200席』上・下 (京須偕充著、角川ソフィア文庫、25日発売)
『藤子不二雄論』 (米沢嘉博著、河出文庫、6日発売)
『全線開通版 線路のない時刻表』 (宮脇俊三著、講談社学術文庫、10日発売)
『日焼け読書の旅かばん』 (椎名誠著、ちくま文庫、10日発売)
『クマにあったらどうするか アイヌ民族最後の狩人 姉崎等』 (姉崎等ほか著、ちくま文庫、10日発売)
『アダム・スミスの誤算 幻想のグローバル資本主義(上)』『ケインズの予言 幻想のグローバル資本主義(下)』 (佐伯啓思著、中公文庫、下旬)