実務家弁護士の法解釈のギモン

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破産管財人の法的地位(5)

2014-04-03 10:57:16 | その他の法律
 限定責任信託とは、受託者が当該信託のすべての信託財産責任負担債務について信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託をいう。現行信託法2条12項である。
 ここでいう信託財産責任負担債務とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいう。現行信託法2条9項である。そして、信託財産のためにした行為であって受託者の権限に属するものによって生じた権利は基本的に信託財産責任負担債務とされる。現行信託法21条1項5号である。その他にも、同項1号から9号まで信託財産責任負担債務とされる権利が列挙されているが、信託財産責任負担債務とされるものは、基本的に信託財産に関係して発生した債務であり、そのような債務は信託財産責任負担債務とされるのである。また、念押しのように、信託財産責任負担債務のうち、限定責任信託の定めがあり、その旨の登記がされた信託債権については、受託者は、信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負うとされる規定がある。現行信託法21条2項2号である。
 要するに、現行信託法では、信託財産のみが信託債権の責任財産となる類型である限定責任信託という法理を認めているということである。

 これを破産法に引き直して考えた場合、財団債権が破産財団から弁済されるものとされ(破産法2条7項)、破産財団のみのみが責任財産とされることと同じように考えられるような気がするのである。
 つまり、破産財団に関する法理は、限定責任信託の特別規定であり、財産債権の発生根拠となる破産法148条1項等は、信託財産責任負担債務の発生根拠たる現行信託法21条1項の特別規定と言えるのではないかと思うのである。
 また、限定責任信託は登記をしないと効力を生じないが(現行信託法216条、232条)、破産の場合は法定信託であり当然に限定責任信託であること、さらに信託財産と言いうる破産財団の範囲は破産法において明確に規律されており(ここでの問題は、破産者の自由財産との区別ではなく、受託者たる破産管財人の個人財産との区別の問題である)財団債権者が破産管財人の個人財産を責任財産として混同する恐れは全くないと言っていいから、登記の必要がないものという位置づけでよいのではないか。

 以上が、現行信託法と破産法との接点であり、破産管財人の法的地位を限定責任信託の受託者と理解すると、非常に説明しやすいのではないかと思うのである。

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