実務家弁護士の法解釈のギモン

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空の公正証書?(4)

2017-04-07 13:33:10 | 最新判例
 別の実務的な問題点として、判例の事案について、その訴訟の流れを推測してみたい。

 今回の最高裁の判例は、あくまでも保証債務履行請求訴訟であることが当然の前提となっている上、最高裁の判決文を見る限りでは、一審からの訴訟の経過は全くわからない。
 しかし、Aから訴訟委任を受けた弁護士の立場で考えると、債権証書たる債務弁済公正証書の記載内容が貸金になっている以上、当初の訴え提起段階では、貸金請求訴訟として訴えを提起したのではないかと推測される。少なくとも、私ならそうする。ところが、訴え提起をしたところ、被告の答弁として、金銭の借り入れはしていないとして争われることも、十分に想定される。そうなると、公正証書の内容は、実際は、BのAに対する借金をCが連帯保証したものだとして、訴訟物を貸金返還請求から、保証債務履行請求に交換的に変更したという経過が、十分に考えられる。あるいは、当初から保証債務履行請求訴訟として提起したことも十分に考えられるが、いずれにしても、債権証書たる債務弁済公正証書の記載どおりの請求では訴訟に勝てないと考えて、原告側弁護士としては、保証債務履行請求訴訟を提起し、あるいはこれに交換的に変更したということが十分に想定できると思う。

 ここに一つの問題がある。つまり、実際の債権が純然たる貸金ではないとして、では、Aが構成した法律構成として、連帯保証という法律構成が本当に正しかったかという問題である。要するに、客観的な事情として、債務弁済公正証書があり、ただしそれは、本来的なCの債務の弁済ではなく、Bの債務をCが肩代わりして弁済する趣旨だと理解できるであろう。その趣旨を法的に構成し直した場合に、保証債務ではなく、Cによる債務引受けと見ることもできるのではないだろうか。そうだとすれば、引き受けた債務は貸金を引き受けたわけであるから、公正証書記載の債務と実際の債務との齟齬は、かなり小さくなる。のみならず、齟齬が小さい法律構成の方がむしろ正しい方向性だったのではないかと思うのである。
 そして、引き受けた債務の支払請求と構成すれば、公正証書との齟齬も小さいだけに、公正証書記載のとおりの内容の支払督促による権利行使も、時効中断効が認められやすかったのではないかとも推測されるのである。

 以上は、原告側の法的構成の組み立ての問題である。訴訟物の特定は、原告の責任で行われ、これと異なる法的構成で裁判をすることはできない以上、最高裁としても保証債務履行請求権の時効中断効として考えざるを得ない。実務家としては、それが結論に響いている可能性が気になる。

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