実務家弁護士の法解釈のギモン

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一般社団,一般財団法人法 - 機関設計(4)

2009-10-26 11:16:56 | 一般法人
 機関設計の点でもっとも疑問に思っているのが、次の点である。
 すなわち、一般社団法人の社員総会で特徴的なのは、理事会設置一般社団法人における社員総会の権限は、法律・定款事項のみ、決議をすることができるとされたことである(35条2項)。この規律は、表面的には取締役会設置会社に関する現行株式会社法(会社法295条2項)と全く同じ規律といってもいい。そして、会社法295条2項が株式会社の所有と経営の分離を意味している規定だとすると、これと同じ規律を設けた理事会設置一般社団法人についても、取締役会設置会社と同様、理事会設置一般社団法人にも所有と経営の分離が図られたことになるのであろうか。
 この点、「試案」では、「定款で、社員総会の権限を制限し、理事の各自業務執行・代表権(……)を喪失させることにより、いわゆる理事会設置タイプと同様の規律を設けることができるものとする。」という記載があり、これに基づいた処理といえそうである。
 しかし、株式会社の場合は、株主は経営参加に関心がないことが基本的に想定されているので(株主は、何もしなくとも配当利益や株式の値上がり利益を期待しうる。こうした現象を合理的無関心(経営に無関心でいることがもっとも経済合理的な株主の態度という意味)と言うことがある。)、取締役会設置会社における株主総会の権限を、法律・定款事項に限るのは合理性を有する。しかし、非営利法人である一般社団法人に社員として参加するものは、株主のように、ただ単に社員であるという一事から即何らかの利益を得られるというわけではない。そのため、一般社団法人の社員は、何らかの形で積極的に法人の事業にかかわるつもりで参加する場合が多いのではないだろうか。そうだとすれば、理事会設置一般社団法人であっても、社員は法人経営に多少でも関心をもつ場合が多いのではないだろうか。そうだとすれば、たとえ理事会設置一般社団法人であっても、一律に社員総会の権限を縮小するのが、正しかったかどうかは、私は疑問に思っている。
 もちろん、新法でも定款で社員総会の権限を増やすことは可能ではある。しかし、本来は発想をむしろ逆にすべきで、仮に理事会設置一般社団法人の場合に社員総会の権限を縮小するとしても、社員総会の権限を縮小する部分について定款自治に任せるという発想の方がよかったのではないかという気もする。もっとも、そうだとしても具体的にどのように定款に記載すれば縮小できるのか、技術的な難しさはありそうではあるが……。
 新法のとおりだとしても、社員総会の決議事項を定款で増やすことは出来るので、それで問題ないという立法趣旨かもしれないが、定款変更は社員総会の特別決議が必要で、定款変更も簡単ではない。そのため、35条2項は会社法295条2項と全く同じとして考えていいものかどうか、極めて疑問に思っており、取締役会設置会社の株主よりも,理事会設置一般社団法人の社員の方が、法人に対する意見が通りやすいような解釈が必要なのではないかと思っている。

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