実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

一般社団,一般財団法人法(8)

2009-09-18 09:50:00 | 一般法人
 準則主義(2)

 一般社団法人の設立に財産拠出を必要としないことは、前回触れたとおりであるが、その立法趣旨は、必ずしもはっきりしない。考えられるのは、①従前の民法上の公益社団法人においても、設立に財産拠出が必要とされていなかったことから、それを引き継いでいるというのも一つの理由であろう。だが、民法上の法人は、あくまでも設立に監督官庁の許可が必要であり、無責任な社団法人の設立に対しては、この監督官庁の許可が歯止めになっていたから、それでもよかった。しかし、一般社団・財団法人法に基づく一般社団法人は、会社と同様に準則主義で設立され、許認可手続きは全くない。そのため、財産拠出が全くないままの社団法人の設立に対しては、無責任な設立が横行することを危惧する。財産拠出を必要としないとした理由として他に推測されるのは、②サークル活動を法人化する場合のように、まとまった財産がなくとも法人活動に支障がないような非営利団体も一般社団法人化しやすくする、という点が考えられ、また、全く別の観点からは、③やはり準則主義で設立される株式会社でさえ、最低資本金制度が廃止され、1円起業が一般的に可能となったことに合わせた、という理由も考えうる。②、③とも、それなりに一理とはなるかもしれないが、やはり財産拠出がまったく必要ないとすると、無責任設立の横行に対する歯止めが何もないということになりかねない。
 さらにいえば、私の目に狂いがなければ、一般社団・財団法人には、財産関係に関する登記事項が見当たらない(登記事項は、301条、302条)。「試案」では、拠出金の拠出を求める定款の定めがなされたときは、その拠出金等が登記事項とされることとなっていたが、「試案」でいう拠出金に当たると思われる基金が登記事項とはされていないようなのである。不可解な立法といわざるを得ないと思われる。このため、登記を見ても、当該一般社団法人の財産状況が一切何もわからないのである。
 一般社団法人・一般財団法人法では、会社法と同様に貸借対照表(大規模法人では損益計算書も含めて)の公告が義務化されたので(128条、199条)、それでよいということかもしれないが、これら計算書類の公告が求められるのは会社でも同じであるが、会社ではそれとは別に資本金の登記が必要とされるのである。
 そのため、財産関係の登記事項が何もないというのは、設立に財産拠出が求められないこととあいまって、法人債権者の保護にやや欠ける立法であるような気がする。
 「報告書」には、乱用防止のために、裁判所による解散命令の制度、休眠法人の整理の導入を求め、実際に条文化されている(解散命令は261条以下、休眠法人のみなし解散は、149条、203条)。しかし、これだけで無責任設立の歯止めとして十分とは思えない。そのため、このような無責任設立に対しては、法人格否認の法理を積極活用するなどの対応が必要になるものと思われる。

 一般財団法人の設立においては、設立者の財産拠出が必要であり(従前の寄付行為)、その最低額は300万円とされる(153条1項5号、2項)。これは、「財団」と言える程度の財産の拠出がなければならないために、最低300万円の財産拠出を必要としたと考えられる(ちなみに、300万円という数字は、旧有限会社法の最低資本金と同じ金額であると同時に、現行会社法上、株式会社が配当をなし得る最低純資産額と同じなので、300万円という金額は、これらの規定を参考にした可能性はある。)。しかし、一般財団法人においても、財産関係の登記事項が一切ないのは、一般社団法人と同じである。法人債権者の保護に欠けないかが心配である。
 もっとも、1円起業が可能となった株式会社でも、無責任設立の点は問題とされているようなので、財産関係(会社でいえば資本金)の登記事項があるか否かの点を除けば、会社法とパラレルの部分が多い問題なのかもしれない。