実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

給付利得の返還請求権(4)

2009-09-08 14:25:36 | 債権各論
 さらにもう少し別の見方をしてみよう。
 法律行為の主体である「人」の行為能力に何か問題があれば(すなわち,制限行為能力の問題であって,言葉は悪いが,行為能力の瑕疵とも言いうると思われる),その人の法律行為を解消する方法は,「取消」である。また,法律行為そのものである「意思表示」に問題があれば(つまり,意思表示の瑕疵である詐欺・強迫の場合である),その法律行為を解消する方法も「取消」である。ところが,法律行為の客体である「物」に何か問題があった場合の規定は,民法総則には何ら規定していない。しかし,「物」に問題がある場合の規定を民法が用意していないわけではない。どこにあるかというと,瑕疵担保責任を規定した民法570条がそれである。つまり,「物」に何か問題がある場合(物の瑕疵の場合である)の法律行為の解消方法は,「解除」なのである。瑕疵ある物に関する法律行為の解消方法を取消としなかったのは,物の瑕疵が問題になるのは契約のみであり,単独行為で物の瑕疵が問題になることは想定し得ないと民法が考えていたからではないか。
 結局,契約関係しか想定し得ない法律関係を解消する場合を「解除」として,単独行為のも想定しうるような法律関係を解消する場合であれば,「取消」としたのが,民法の態度なのではないか。

 さらにいえば,解除や取消は,当該法律関係を有効としうる余地を残しておくための方技術であり,法律関係を有効としうる余地を残す必要がないと考えれば,「無効」という方技術が採用されることとなる。そして,法律行為が取り消され,あるいは契約が解除されれば,結局,当該法律関係は「無効」になるのだから,少なくとも契約関係に限っていえば,取り消された後の処理,解除された後の処理は,無効の場合の処理と同じであってもよさそうである。

 以上の議論は,私の全くの想像なので,正しいかどうかは全く分からない。が,仮に正しいとすると,「解除」と「取消」(さらには「無効」)とで,必ずしも別々の効果を意識して使い分けているわけではないという見方ができそうだ,ということなのである。そうだとすれば,「白紙に戻す」あるいは「元に戻す」というイメージが一致する解除と取消の効果を同じように考えることが可能なのではないかとも思えるのである。そして,その効果の「返還」の部分は,解除の場合のみならず,取消の場合も(さらには無効の場合も)原状回復と考えるべきではないかと思えるのである。

 もう1回つづきます。