実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-売主の担保責任(3)

2015-09-02 13:56:42 | 債権各論
 担保責任特有の問題は、追完請求権と代金減額請求権になる。

 追完請求権の内容は、目的物の修補、代替物の引渡または不足分の引渡による履行の追完がその内容となっている。これには若干の理論的意味がありそうである。
 まず、そもそも、通常の債務不履行の場合の効果としても、履行の強制が可能であり、債務不履行の態様が不完全履行であれば、追完履行請求権として現れる。そのため、売主の担保責任における追完請求権は、この一般的な追完履行請求権が売主の担保責任の場面でも存在することを確認した規定と理解できる。
 が、従前、瑕疵担保責任の場面での議論では、法定責任説からは追完請求権は存在しないと言われていて(ただし、特定物の売買に関する限りのことである)、最高裁の分かりにくい判例はあるのだが、それはともかく、おそらく実務もこの法定責任説に従っていたのではないかと思われる。
 しかし、改正案では契約不適合一般に追完請求権が認められ、品質不適合の場合(すなわち従前の目的物の瑕疵)でもその修補を請求することを明文で可能とした点に意味がありそうである。ここでも法定責任説ではなく契約責任説を前提とした改正であることが見て取れることになる。

 他方で、売主は、買主に不相当な負担を課すことがなければ、買主が請求した方法とは異なる方法で履行を追完することができる。例えば、一部部品が壊れていることを理由に、買主が代替品の引渡を求めてきても、壊れた部品の修理が比較的簡単で修理すれば十分に機能を発揮できるとすれば、売主からの修補による追完を認めるという趣旨であろう。
 このことにより、買主に不当な負担を課さない範囲で追完方法について売主のイニシアチブを認めたことになる。

 理論的な問題としては、この売主側のイニシアチブの規定が、追完履行請求権に関する売買における特則なのか、それとも債務不履行一般の追完履行請求権においても、この理が妥当するのか否かである。
 規定ぶりからすれば、特則と考えられそうであるが、いずれにしても、有償契約に準用される規定である以上、追完請求における売主のイニシアチブに関する規定の適用範囲は広い。

 追完請求権については、ほかに、買主の責めに帰する事由による契約不適合の場合は追完請求権は発生しないという規定も盛り込まれる。
 これは、現行法における、債権者の責めに帰する場合の危険負担の債権者主義に関する規定と同趣旨であり、現行法のような危険負担の一般的規定ではなく、個別の場面でそれぞれ規定する立法方針に基づき、その個別規定を追完請求権規定にも規定したものであろう。

債権法改正-売主の担保責任(2)

2015-08-26 11:25:37 | 債権各論
 従前の売主の担保責任の内容は、他人の権利の場合、数量不足の場合、制限物権が設定されていた場合、瑕疵がある場合等において、それぞれ個別に要件効果を規定していた。

 ところが、改正案では、要件については、「不適合」という言葉に統合され、若干の例外を除き、どのような「不適合」であっても同じ効果が発生することになっている。その効果は、買主の追完請求権、代金減額請求権、損害賠償請求権、解除権の4つとなる。
 このように、担保責任の要件効果が基本的に統一されることになるので、従前の内容よりも見通しのよい内容になりそうである。

 ここで、損害賠償請求権と解除権については、債務不履行における一般的な損害賠償と解除の規定が適用されるだけのことである。が、逆にいうと、契約不適合の場合に債務不履行に基づく損害賠償請求と解除を積極的に認める規定となっている。
 ここに、法定責任説からの決別(すなわち契約責任説の採用)が見て取れることになる。

債権法改正-売主の担保責任(1)

2015-08-19 10:44:44 | 債権各論
 債権法の改正案では、「瑕疵」という言葉がなくなる。従前の民法では、売主の瑕疵担保責任として、売買の目的物に隠れた瑕疵がある場合の売主の責任が規定されており、これが有償契約に全面的に準用される形となっていたので、売主の瑕疵担保責任の理解は重要であった。
 また、この瑕疵担保責任が普通の債務不履行責任と性質が同じなのか違うのかで議論があり、同じという説を契約責任説、違うという説を法定責任説と呼んでいた。かつて(少なくとも私が学生だったころ)は法定責任説が通説と言われていたが、近時は契約責任説の方が有力のようで、債権法の改正案は、契約責任説の立場で立法化されたと言われている。

 その上で、「瑕疵」という言葉がなくなり、これに変わって「不適合」という言葉が用いられるようになる。「不適合」と言う言葉を条文に則して定義すると、引き渡された目的物が、種類、品質、数量に関して契約内容に適合しないことをいうことになる。したがって、ここでいう「不適合」の内容は、伝統的な「瑕疵」がある場合に限らず、広く捉えることになってくる。従前の理解を前提とすると、やや面食らう改正となっているが、改正案が契約責任説を採用したことと無関係ではないであろう。しかも、売買の対象がものではなく権利の場合でもその権利が契約に適合しない場合は担保責任の規定が全面的に準用されることになるので、要は売買における不完全履行は、不特定物においても全て新たな担保責任の規定により処理されることになると理解して間違いはなさそうである。

 以上のようなことから、売主の担保責任については大幅な改正がなされることになる。

債権法改正-契約解除と危険負担(4)

2015-07-22 10:05:38 | 債権各論
 しかし、解除の要件として帰責性を要件としない改正を行ったことになっていることは間違いがないことであり、それが立法者意思だといえる。解除権一元論者からすれば、危険負担の改正規定も「反対給付の履行を拒むことができる」だけであり反対給付は消滅しないのであるから、消滅させるためには解除が必要と考えるようであり、仮に解除権一元論的に考えれば、一応条文相互間の整合性は取れているということになる。
 ただし、危険負担の規定が残ったのは、解除権一元論で本当によいのかという有力な疑問もあったからであって、解除権一元論が本当に妥当なのかどうかは、よく分からない。

 いずれにしても、改正法を前提とした解除と危険負担の関係について、若干ややこしさが残ってしまったといえるであろう。今後の解釈論が見物である。

債権法改正-契約解除と危険負担(3)

2015-07-15 10:32:41 | 債権各論
 改正案での解除の規定は、催告解除の場合と無催告解除ができる場合という整理のし直しが行われ、要件的にも多少の改正はあるが、おおざっぱには従前の解除の規定とそれほど大きい変化はない。当然、条文上、従前どおり法律要件として帰責性の必要性について言及はない。その上で、双方無責の場合の処理として危険負担の規定が残ったのである。
 債権法改正に関する経緯を知らないまま、現行法の条文と解釈を前提とした上で、以上のような改正案の解除の規定と危険負担の規定双方をにらめっこすると、現行法の解釈のように、債務者無責の場合は危険負担であり、解除はそれ以外(つまり債務者有責)の場合という棲み分けのまま改正されたようにも見えてしまうのである。

 これは、現行法でも解除の要件として債務者の帰責性が明文では記載されていないことに原因がある。それでも解釈上債務者の帰責性を要件とするとしていたものを、帰責性を要件としないように立法的に変更しようとする場合に、立法技術的にはどうするか、という問題になってくるのである。なかなかに難しいことはわかるであろう。
 それでも危険負担の規定が全面的に削除となれば、そこから読み取ることはできる。しかし、債務者無責の場合の債務者主義的な危険負担の規定が残ってしまったのである。
 だから、改正内容について、その経緯を知らないままに、現行法とその解釈を前提にそれとの比較で改正案の見た目だけを追うと、解除に帰責性を不要とする改正を行っていることが、非常に分かりにくくなってしまったのである。