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実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

再度の取得時効の完成と抵当権の消長(6)

2017-09-05 10:30:10 | 民法総則
 ところで、債権法が改正されて、改めて現行法と改正法を見比べているうちに、この問題の解決に役立ちそうな現行法のある条文の存在に気づいた。それが民法166条2項や168条2項である。

 166条は、その1項で消滅時効の起算点を定め、権利を行使することができる時から進行するとする。もっとも、2項本文で、1項の規定は、始期付き権利又は停止条件付き権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げないと規定し、但し書きで、「ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。」と規定している。
 168条2項も趣旨は似ており、1項では定期金債権の時効期間を定め、2項で、「定期金の債権者は、時効の中断の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。」と規定している。

 平成24年判例が、取得時効に負けてしまう権利に関する場面だとすると、取得時効との関係を規律する166条2項但し書きが類推できるのではないかという気がしたのである。つまり、占有者に抵当権の存在の「承認」を求めればよいということである。

再度の取得時効の完成と抵当権の消長(5)

2017-08-30 10:19:10 | 民法総則
 では、抵当権者Cの対抗手段はどのように考えるべきか。
 補足意見では「抵当権の実行以外に、占有者に抵当権を容認させる手段など、…」と述べているので、たとえば、抵当権の存在を認めさせるために、CがBに対して抵当権存在確認訴訟を提起するのはどうか。
 しかし、この確認訴訟では、性質上、「請求」にはなっていない。そこでさらに、抵当権の「容認」を求める訴訟として構成したらどうか。「抵当権の存在を容認せよ」という給付型の請求の趣旨にして「裁判上の請求」ととらえるのである。が、かなり技巧的であることは否めず、権利の実現を目指すことが想定されている中断事由としての本来の「請求」とは大分趣旨が異なるといえよう。
 いずれにしても、補足意見が以上のような訴訟を想定しているのかどうかは、全く想像の域を出ない。

 以上のようなことから、実務では平成24年判例に従わざるを得ないとしても、その理論上の当否については、考えあぐねていた。

再度の取得時効の完成と抵当権の消長(4)

2017-08-22 13:32:17 | 民法総則
 この点の問題点について、平成24年判例では、本文である法廷意見では全く触れていないが、補足意見において若干の問題意識を持った記述があるにはある。つまり、補足意見では「抵当権の実行以外に、占有者に抵当権を容認させる手段など、取得時効期間の経過による抵当権の消滅を防止する何らかの法的な手段があることが必要と考える。」と述べている。
 つまり、法廷意見の結論を正当化するには、抵当権の消滅を防止する手段があることが必要だというのである。
 ところが、その補足意見の結論は、「法廷意見はこの点について明示的に触れるところがないが、抵当権者において抵当権の消滅を防止する手段があることを前提としているものと解され、その理解の下で法廷意見に与するものである。」というにすぎない。では、実際にどのような手段があるのか、という点については、補足意見も沈黙を貫いているのである。

 以上の意味において、平成24年判例は、消滅する抵当権を有していたCの対抗手段を明示しないまま、これがあるという前提で占有者であるBを勝たせたわけであり、無責任な判例だと言いたくなる。

再度の取得時効の完成と抵当権の消長(3)

2017-08-08 09:31:42 | 民法総則
 二重譲渡に関する過去の判例の事案で考えれば、登記を備えた第二譲受人であるCは第一譲受人Bに対して不動産の明け渡しを求める訴訟を提起すれば、それが「裁判上の請求」としての時効中断事由になる。そのために再度の取得時効を認めても、バランス上は何の問題もないといえる。

 では、抵当権の事案ではどうか。考えるまでもなく、不動産を譲り受けたBは元所有者Aから適法に不動産の譲渡を受け、占有している以上、A名義のその不動産に適法に第三者Cが抵当権を設定したとしても、Cには土地引渡請求権はなく、Bの占有権原が奪われることはない以上、抵当権者CがBに対して明け渡しを求めることなどできるはずがない。
 つまり、抵当権の事案では、「請求」としての時効中断措置が考えにくいのである。

 一つの方法としては、抵当権が実行されれば、買受人からの明け渡し請求が可能なので、その時点で時効が中断される。しかし、抵当権はいつでも実行できるわけではなく、あくまでも被担保債権が債務不履行に陥っていることが、抵当権実行の当然の前提である。そうすると、この手段は常にとれるわけではない。

再度の取得時効の完成と抵当権の消長(2)

2017-08-01 09:45:13 | 民法総則
 典型的な二重譲渡と取得時効に関する事案、つまり、AがBに譲渡して引き渡し不動産の占有をし、さらにその後AがCに譲渡してC名義の登記をしたという事案では、登記時からBが取得時効に必要な期間占有を継続すれば、取得時効の効力を認めてBはCに勝てるというのが過去の判例である。さらに、A名義の不動産をBによる取得時効が完成した後、A名義不動産がCに売却された場合も、それからさらに取得時効に必要な期間占有を継続すれば、再度の取得時効が完成するというのも判例である。
 なので、これら判例との比較で考えれば、上記判例の事案も、Cへの譲渡をCへの抵当権設定と置き換えれば、大きな違いではなく、Bは抵当権者Cに勝てるという結論にさほどの問題はなさそうにも思える。

 が、問題なのは、ではCはBの取得時効を中断させる方法があり得るか、という点なのである。もし、時効中断措置を執りようがないとすると、Cにとって酷となりかねないことになる。