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実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(5)

2016-03-23 09:58:37 | 民事訴訟法
 もっとも、それでは仮に和解の内容と一部勝訴判決を比較して、どちらが被告に不利益なのか、ひいては、それによって和解成立による訴訟終了宣言判決に対する控訴審における不利益変更の有無を考えようと思っても、これまた困難なことに直面しかねない。
 なぜなら、和解の内容は千差万別であるから、一義的に比較できる場合もあるだろうが、和解内容によっては、一部勝訴判決とどちらが不利益なのか判断しかねるような場合も十分に想定されるからである。

 例えば、一定額の無条件の支払いを求める訴えに対し、全額の支払義務を認めるものの引換給付を内容とする和解が成立した場合と、無条件の支払ではあるが金額的に一部を認容する判決とは、どちらが不利益であろうか。
 おそらく、比較のしようがないだろうと思う。和解条項の内容は千差万別なので、いろいろな条件がついたもっと複雑な和解も十分にあり得る。その様な和解と一部認容判決とどちらが不利益かなど、比較できない場合も十分にあり得るのである。

 なので、第1の問題点は、実はクリアしようのない問題のように思うのである。

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(4)

2016-03-16 10:03:28 | 民事訴訟法
 少し事案を変えて、例えば、請求の認諾の無効を争って被告が期日指定の申立があったが、結局は請求の認諾を有効だとして、請求認諾による訴訟終了宣言判決をした一審に対して被告が控訴した事案で考えた場合はどうか。状況は、和解か認諾かの違いだけで、判例の場合とよく似ているようだが、はたしてこの場合、控訴審において請求の認諾は無効として一部認容の本案判決をすることは、被告に不利益だろうか。
 仮に、今回の判例と同じ理屈を持ち出せば、請求認諾による訴訟終了宣言判決は訴訟判決でありその既判力は訴訟が終了したことだけを既判力を持って確定するに過ぎないので、一部認容判決は請求認諾による訴訟終了宣言判決よりも被告に不利益である。だから控訴審で一部認容の本案判決をすることは不利益変更禁止に抵触する、ということになる。

 しかし、以上の発想は、直感的におかしく思えることは明らかだと思う。なぜなら、請求認諾による訴訟終了が宣言されてしまえば、請求認諾の効力が残ってしまうが、その効力よりも一部認容判決のほうが被告の有利であることは明らかだからである。

 仮に、以上のように考えて請求認諾の場合は不利益変更禁止に抵触するという考え方が正しいとして、請求認諾は和解とは異なるから今回の判例と同様に考えることはできず、判例は判例、請求認諾の場合はそれとは別に考えるということでいいのだ、と言いきれるのだろうか。
 論理構造は同じような気がするのだが……。

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(3)

2016-03-09 09:54:59 | 民事訴訟法
 まず第1の問題点として、和解成立による訴訟終了宣言判決の判決の効力の問題である。確かに、当該判決の主文だけを取り上げて既判力云々をするのであれば、最高裁がいうように、訴訟が終了したことだけを既判力をもって確定するに過ぎない。これは一種の訴訟判決であろう。しかし、問題はそれだけではないと思うのである。なぜなら、訴訟が有効に終了するには、和解が有効に存在することが前提のはずだからである。その和解の効力は何も考えなくていいのだろうか。
 和解も判決と同一の効力があるのだから、少なくとも形成力は執行力はあるわけで、しかも、過去の判例からすれば、和解に無効原因がなければ既判力も生じるというのが判例のようである。
 そうだとすると、仮に、和解成立による訴訟終了宣言判決が確定した場合には、必然的にその和解にも判決と同じ既判力も生じるわけで、その場合に、和解の効力を抜きにして当該訴訟終了宣言判決の既判力のみの問題として考えることが妥当なのかどうかについて、疑問が生じるのである。

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(2)

2016-03-02 10:12:43 | 民事訴訟法
 最高裁の理屈は、和解成立による訴訟終了宣言の終局判決は、訴訟が終了したことだけを既判力を持って確定する訴訟判決であると理解していること、及び不利益変更禁止原則について、形式的不服説を採用していることにある。つまり、訴訟が終了したことを宣言する訴訟判決よりも一部認容の本案判決の方が形式的に被告に不利だというのである。

 この最高裁の理屈は、訴え却下判決に対して被告だけが控訴した場合に、控訴審において原判決を取り消して一部認容の本案判決をなし得るかという問題とパラレル性がありそうで、確かに却下判決よりも一部認容判決の方が被告に不利に感じる。
 しかし、そもそもこのような問題設定そのものにも問題がありそうなのである。

和解成立による訴訟終了宣言の無効主張と不利益変更(1)

2016-02-18 10:24:00 | 民事訴訟法
 つい最近の判例で、やや不思議に感じる最高裁判例を目にした。

 最高裁のホームページに公表されている判決書のみから読み取れる事案を説明すると、次のとおりのようである。
 建物明渡請求訴訟において、一審の段階で、訴訟上の和解が成立したものの、被告が和解の無効を主張して期日指定の申立をした事案である。
 一審判決は、和解は有効として、和解成立による訴訟終了宣言の判決を言い渡した。これに対し、被告のみが控訴し、原告は控訴も附帯控訴もしなかった。控訴審は、和解の無効を確認した上で、原告からいくらかの支払を受けるのと引換に建物を明け渡すことを命じる、本案についての一部認容判決をした。これに対して被告(控訴人)が上告したというものである。
 上告審の判旨からは、被告(控訴人、上告人)側の上告理由は全く分からないのだが、最高裁は、以上の経過において、和解成立による訴訟終了宣言よりも一部認容判決の方が被告にとって不利であるから、和解内容如何に関わらず、一部認容判決をすることは不利益変更禁止の原則に反し許されないというのである。そして、そうだとすると、結局、控訴審は控訴を棄却するしかないと言って、原判決を破棄し、控訴棄却の自判をしたのである。
 つまり、この結論によると、実質的には和解は無効かもしれないが、結局のところは、和解成立による訴訟終了宣言判決が既判力をもって確定してしまうことになる。そして、そうなると、結果的に訴訟上の和解が実質的に有効と扱われることになってしまうはずである。

 私は、実質的には無効な和解が結果的に有効と扱われてしまうという、この結論に不思議さを感じてしまうのである。